010 都合の良いツギハギ
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「ユーキじゃないか! どうしたんだい? おーい、こっち、こっち!」
ハイテンションな累と食堂で遭遇、一度目と同じ展開に安堵する。
「……何やらテンション高いけど、どうしたの?」
それを累に悟られないよう、出来るだけ平静を装う。
「アハハ! そーんなの決まってるじゃないか! 今、此処にあの名高いアストラル戦隊の二胡さんが食堂にいるんだぞ!? そのお姿を一目見ないで何がファンと言えるのさ? 嗚呼、ボクはついてるぞ!」
累はあの時と変わらず、二胡さんに会いたいとはしゃぐ姿を見せている。
今のところ、可笑しな行動はない。
「そうなんだぁ」
確か、二人で騒いでたら二胡さんが来たんだよね?
「そーだよ! サイン貰えると良いなぁ……」
子供みたいに目を輝かせる累を見て、思った。
累は脳天気そうに見えて、実はそうでもなかったりする。
時折何か知っていそうな物言いをしたり、僕がピンチになった時に颯爽と助けに来たりと、中々目敏いところがそうだ。
そして、彼とどうやって仲良くなったのかさえ僕は覚えてなかったりする。
「おや、こんなところでどうされましたか?」
そんなことを考えていると、目的の少女が声を掛けてきた。
赤い髪を靡かせ、少女は不敵な笑みを浮かべてる。
爛々と煌めかせる碧眼が気品ある者のようで、見つめられると何だか照れくさく感じてしまう。
早熟そうで、しかし引き締まった体つきをしてる彼女は天音の姿とよく似ている。
生き写しのようで。
まるで、天音の本人と対峙してるような錯覚がした。
でもそんなのはマヤカシに過ぎない。
だって、彼女は僕が倒した。
僕の魔術破戒で斬ったんだ。
それが解ってると言うのに、天音が僕を殺そうとした記憶が頭の中で霞むのだ。
「あ、あの! 二胡さん! ボク、如月累って言います! そのぉ、宜しければこちらにサイン下さい!」
累が大声を出しながら、色紙を二胡さんに手渡す。
「──え? ええ、良いですわよ。書いて差し上げましょう」
手渡された色紙に二胡さんは戸惑いを見せるものの、いそいそと色紙にサインをする。
女優さんがするような振る舞いで、そこが面倒臭がりな天音と明確な違いを示した。
「ありがとうございます! 家宝にさせて頂きます!」
大げさに累が礼を言う。
声の大きさがいつもの三倍増しだ。
累のそんなハイテンション振りを見ると、本当に二胡さんのファンなんだなと思った。
「では、ご機嫌よう」
二胡さんがその場を去ろうとする。
……どうやら、無駄な考えをする暇はないみたいだ。
「す、すみません!」
二胡さんを引き留める/キキキ。
「はい? なんでしょう?」
二胡さんが僕の方を向いた途端、言いしれぬ悪寒がした。
質の悪い風邪でも引いたしまったような感覚で、空気が変わったことを悟る。
「あの。いきなりで失礼なんですが、貴女は二胡さんで間違いないですか?」
この時まで、僕は彼女のことを知らなかった。
だから、この問いかけは意味がある。
僕が気づいてないっていう証拠になる。
だけど。
「ええ、そうですわよ。それだけでしょうか?」
少女は微笑んだ。
何処も間違ってないと言いたげな顔/まだ解らないのかと苛立ってそうだった。
「いや、それだけじゃないですけど。その。風の噂で、この学園には吸血鬼を退治する為に来たのだとか聞いたんですが、それは本当なんですか?」
慎重に言葉を選んだ。
何故か知らないが、そうした方が良いと思った。
「勿論。ワタクシはその為だけにこの学園に訪れたのですもの」
──そういえば、教室での二胡さんはこんなにもお上品な言葉遣いをしていただろうか。
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
「それが、どうかされましたの?」
ニコニコ。
赤い髪は作り笑いをしている。
そんな気がしてならない。
「実はですね、この後、僕は吸血姫に殺されるかもしれないって言ったらどうします?」
でも、それを聞いたところで何が変わる訳でもなかった。
だから、これで良い。
「それは、とても興味深いお話ですわね」
相づちを打つ少女はこちらを見ていなかった。
見ているけど、何処か遠いモノを見てるようだった。
綺麗な碧眼だと言うのに、ドロドロとした深淵を覗いてるように思えたんだ。
「でも、今は止めておきますわ。ほら、今は朝食時です。こんなにも周りに人がいらっしゃるのにそんな迂闊な真似は出来ませんのよ」
此処から逃げ出すように会話を切り上げる。
可笑しい。
何かが可笑しい。
確かに二胡さんである。
天音にそっくりな姿の二胡さんなのは間違いない。
けど。
────「私としても君の質問に答えてあげたいところだけど、生憎そうも言ってられないのですよ」
教室でフィリアと喋っていた二胡さんとは違うのも、また事実だ。
「……そういえば、二胡さん」
確定的なモノを思い出したんだ。
言い逃れ出来ない矛盾が露呈しているんだ。
だってのに、少女は何事も無かった風を装っている。
否、取り繕っている。
「何ですの?」
片言しか話せない人形のようだった。
哀れに見えた。
だが、それを言ってしまえば今の関係は崩壊する。
そんなことは分かりきってるというのに──。
「二胡さんは食堂には一人で来られたんですよね?」
「また、随分と話が変わるのですね。……まあ、そういうことになりますわね」
これは、余計なことだ。
これは、余計なことだ。
これは、彼女に聞くことじゃない。
「すみません。ちょっと気になったんですが、どうして二胡さんは、同行されてる人たちと一緒に朝食をしないんですか?」
ピシリ。
笑顔が張り付いたものに変わった。
空気が更に重くなったともいえる。
累はこう言っていた。
────「その吸血鬼退治に彼女らが派遣されたって話だよ」
累の話が全て本当なら、二胡さんが今してる行動はちょっと腑に落ちない。
だって、そうだろ?
もし、累の情報が正しいのなら、敵の根城に同じ仕事を引き受けるメンバーと行動を共にしない理由がない。
そして、累の情報が間違いがあるなら、それは彼が何かしら嘘をついたとしか思えない。
累にとって二胡さんは、サインを貰おうとするほどに関心を持った人だ。
そんな人の情報をたとえ勘違いだとしても言い間違えるなんて、彼らしくないしあり得ない。
「僕はね。何処からが本当で。何処からが夢なのかは分からない。けど、今、こうして貴女と話しているこの状況が夢のようなモノだってのは分かったよ。目の前にいる二胡さんが何なのかも分かっちゃいないけど、」
見ない振りは沢山だ。
逃げて何もかも失うのは、もう嫌なんだ。
傷つくことが分かっても前に進まなければ、きっとより後悔するのは目に見えてる。
だから──。
「敵の根城に、わざわざチームで来た人が単独で自由行動することが、どれだけ致命的なミスをしてるかなんて、流石の僕にでも分かりますよ」
目の前の真実から背けてはいけない。
それをしたら、僕はいつまでも前に進めない。
今だって同じことの繰り返しなんだ。
これ以上は、こんなところでモタモタなんてしてられない。
「────」
息を呑む少女。
キキキ、と誰かが嗤った。
後ろに下がる少女、それを黙って見つめる僕。
どうしてだろう。
罪悪感が湧いてくる。
いや、これもそう思わされてるだけで、きっと気のせいなんだ。
夢を見る僕に誰かが、そう思わせてるだけの都合の良い幻に過ぎない。
「……そこまで、分かってらっしゃるというのに。そこまで分かっていられるのなら、ワタクシが誰なのかも検討付いてるのではなくて?」
少女が口を歪ませる。
笑ってる。
けれど、悲しそうに泣いてもいた。
「さあ? それは、まだ分からない。貴女が誰で。この後、教室に来る貴女が誰なのかなんて僕はまだ分かっちゃいない」
欠けた記憶が訴える。
少女の名前が思い出せない。
都合の良いツギハギが思考を乱す。
それでも、何かをしなくてはこの無意味なルーチンを壊せないのは明らかだ。
「いつか。いつか、全部取り戻す。失った記憶も。目を背けたくなる現実も。この手に掴まなければいけない絶望も全部! 僕は絶対、諦めない!」
頭が痛くなる。
どうやら、都合の悪いことだと決められたようだ。
キキキ。
キキキ。
カチカチカチ。
カチカチカチ。
それでも、これ以上は嫌なんだ。
僕の知らないところで、大切な人が苦しむのを見てるのは辛いんだ。
雑音が聞こえる。
二胡さんの姿が霞んでく。
直ぐ近くにいた累のことなんか頭に消えていた。
全部、偽り。
全部、虚構。
僕がいるこの現実はいつだって、本当のことなんか何一つない。
後付けされた世界が歪んでく。
体が動かない。
また、だ。
これと同じようなことを僕は何処かで体験した。
霞む視界。
欠けた記憶。
断裂しては、継ぎ足される矛盾。
ふらふらと足下がオボツカナいのを無理をする。
パリン、何処かで卵の割れる音がした。
それは、世界が再構築される瞬間だった。
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