008 さあ、楽しい時間はこれでおしまい
投稿期間が開いてしまい、スゲー申し訳ないです。また続きが書けない病、スランプに陥りました。
それでは、前回のあらすじを説明します。
● 名前を知らない少女の名前判明。真弓さん(?)は影の権能を使う。よく解らないけど、不穏な空気を漂わせてるになります!
私は屍姦の少女であり、同時にルールの恩恵を持つ幻想でもあった。
ジジジ。
誰もが■見る理想郷を見渡せど、そこは目を覆いたくなる地獄だった。
「──っ」
思わず息を呑んだは、あちこちに積まれた死体の山がその惨状の酷さを物語っていたから。
ザク、ザク。
亀裂の入る音がする。
錆びた鉄の臭いが鼻を燻らせ、死屍累々が真っ赤な海を垂れ流す。
キーンコーン、カーンコーン。
すると、死者を弔う鎮魂歌が鳴り響いた。
数秒後に、何かを引き摺る音もやって来た。
ズリズリ。
ズリズリ。
「────」
ああ、なんてことだ。
地獄の中心に色白の少女が一人いたことに漸く気づく。
ザシュ。
「クス、クスクス」
微笑む顔は可憐。
返り血に染まる姿は不気味。
死体を啄み、愛しそうに肉を剥ぐ姿は、出来の悪いスプラッター映画の怪物そのもので気味が悪い。
ズリズリ。
ズリズリ。
「ウフフ──アハッ!」
場に似つかわしくないほど規則正しい足音。
鮮血が跳ねるのもお構い無しに死者たちを弄ぶ少女は一言でたとえるなら、古い西洋人形。
特に短く切り揃えた癖のある紫色の髪は、歴史に埋もれた骨董品のような気品を感じさせた。
ピタリ、と少女の足取りが止まる。
同時に、真っ赤なダイアが死体の山を捉える。
何をするのだろう?
そう疑問に思えど、口を持たない私は眺めることしか出来ず──
「────!」
遂に口元を三日月に歪ませ、古い西洋人形はその華奢な腕を振るった。
ザシュ。
ザシュ。
ザシュ。
何度も、何度も。
無邪気な子供が蛙の尊い命を弄ぶみたいに。
そうすると、地べたへ落ちたトマトみたいに死体が音を立てて潰れていく。
バシャア!
ついに、ザクロが弾けるよう肉片が飛び散った。
それを少女は全身で浴びるといっそう愉しげに嗤い出した。
「アハハハハ!」
頬を赤らめ、死肉で喉を潤す姿は扇情的だった。
妖艶な笑みで物言わぬ代弁者を相手に欲情のはけ口にしてる光景はとても恐ろしかった。
「……ア、ハハ、ハ」
■■の口から乾いた笑いが溢れた。
どうやら、惨殺パーティをするにはまだ血が足りなかったらしい。
まるで、飢えた野獣のように少女は無我夢中で地べたへ落ちた屍を喰らった。
普通の人間を震え上がらせるには、それで十分。
これなら彼も地獄絵図と表現するだろう。
四肢を捥がれていく男子生徒も、喉元を一噛みにされ血を吸い尽くされる女子生徒も哀れな犠牲者となったがこれと仕方のないことだ。
故に、阿鼻叫喚の悲鳴は止まらないし、止められる筈もない。
「────!」
■■は叫んだ。
その声は『声』として出なかったけど、確かに■■は力の限りに叫んだ。
私は何処にも居ない。
誰も救いの手を差し伸べない。
何故と問うもそれを答える人間は一人も居ないのはどうすることも出来ない。
だから、ひたすら悲鳴の嵐を■■は徘徊するしかないのだ。
「オマエなんて死ネば良いンダ!」
「消エロ、消エロ!」
「イヤァアアア! 返して。返してよ!!!」
耳を塞げど聞こえる断末魔。
どうしようもない地獄は、何をする間もなく続けられる。
ゴウ、ゴウ。
ゴウ、ゴウ。
悪■は終わらない。
頭が、痛くなる。
同時に少女と■■の意識は混濁する。
「何処に、いるの?」
どれだけ探そうと貴方は見つからない。
幾度問いかけようと電波が私の脳をかき回す。
ジジジ。
改竄/改竄/グチャグチャ頭をかき回せ、と誰かが訴える。
そうして、私は■■■■へ切り替わる。
そうだ。
きっと死体の数が足りないから、貴方に会えないんだ。
「そっかぁ。……なら、もっと頑張らないといけないなぁ」
少女がそう口にすると、■■■■は死体の山を築くのに専念する。
声は届かない。
願いは叶わない。
螺旋渦巻く■の中、愚者は偽りの言葉に耳を傾ける。
続け、続けと何処かで這い寄る影が囁いた。
「──、■を■■して!」
届くことのない声がする。
誰も味方しないのに、彼を助けようと手を伸ばしてる。
それに私は安堵した。
──さあ、道は開かれ、意志は託された。後は終わりへと向かうだけ。
ザー、ザー。
ザー、ザー。
戯れ言の嵐は止まない。
眠りへ誘う微睡みが、再び愚者を泥沼へと沈ませるだろう。
ザー、ザー。
ザー、ザー。
堕ちる。
堕ちる。
堕ちていく。
奈落の底へ彼は飲まれていく。
────「フィリア! フィリアなんてどうでしょう!?」
そうして堕ちていく彼に手を伸ばす。
でも、届かない。
さらに奥底へと彼は堕ちていくのに。
「勇貴さん、──く、■を■まし、て!」
どれだけ名のない私が叫ぼうと彼の耳には届かない。
夜が来る。
嗚呼、あの無慈悲な夜が来てしまう。
たとえどんな姿でも彼を助ける為ならば、喜んでこの身を捧げる自信があるけど。
二つの■が混じり合う。
そうすることで、計画の最終フェーズへまた一段階進んでいく。
ゴポゴポ、ゴポゴポ。
ゴポゴポ、ゴポゴポ。
泡沫の幻と知りながら、少女たちは■へ溺れていく。
そんな必死さに目が眩む。
だが、今はそれも尊くも思えるそれの邪魔でしかなかった。
「キキキ」
ブツリと誰かがモニターの電源を落とす。
こうして■■■■の視る景色は、再び真っ暗闇となるのだ。
◇
「フィリア! フィリアなんてどうでしょう!?」
少女は真っ赤な顔をして、そう名乗った。
「────」
不思議とその響きが似合うと思った。
カチリ。
パズルの欠片が填まる音も幻聴と共に聞こえた。
────「私の名前? ああ、そういえば教えてなかったっけ」
それは、失われた夜だと思う。
けれど、その輪郭さえまだ僕は朧気だ。
ただ、少女との思い出だけがいつまでも胸に残ってる。
忘れてたまるものかと。
自分の手で勝ち取った小さな感謝なんだと、必死で意地を張るように。
「どうでしょうって、そんなの私たちが決める謂われはないだろうに。……まあ、私は良いと思うよ」
呆れたような二胡さんの声と共に、先ほどまで霞んでいた記録が消える。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
フィリアが、何か言いたげにモジモジし出す。
栗色の髪をイジる仕草とか、とても可愛らしく思える。
──あれ?
今、フィリアの姿がちょっと前までの真弓さんと重なって見えた気がする。
「……貴方は、どう思います、か?」
甘酸っぱい空気に当てられ、頬が熱くなる。
きっと、目の前の彼女と同じくらい僕の顔も真っ赤になってるんだろうな。
だから、そんな彼女の顔を恥ずかしくて見れなかった。
……同時に、ぽっかりと胸に穴が開いてるような、虚無感が支配されていく気もした。
「どう、と言われても。そんなの何だって良いんじゃない、としか言えないよ」
煮えきれない反応しか返せない。
でも、それが青春してるって気持ちになる。
「あー! もう、イチャイチャしない! 突っ込まないとイチャつくの止めてくれないかな! ゲロ甘過ぎて、こっちは胸焼けするんだけど!」
話が進まないからと、二胡さんが僕とフィリアの間に強引に割って入った。
「イ、イチャイチャなんてしてないよ!?」
「イ、イチャイチャなんてとんでもないです!?」
反論しようと声を出したら、フィリアと声が重なった。
「……ふーん」
二胡さんが訝しげに眉を細める。
偶然にしろ、仲良しと思わせるには充分なタイミングだった。
「はぁー」
ついには、呆れて溜息まで吐かれてしまう始末だ。
「あ、いや、その」
「え、えと、その、です、ね」
それを見て、僕たちはさらに焦る。
何故か取り返しがつかないことをした気分になった。
二胡さんを見る。
ジジジ。
憎悪の籠もった目じゃない/呆れたような目をしてる。
虚ろな目もしてない/焦ってるような顔をしてる。
暗闇なんか見えない/見ているものは全て都合のいい幻想だと理解している。
ザー、ザー。
底の見えない闇の中で独り、沈んでいく僕なんて居なかった。
「──どうしたんですか?」
ノイズに紛れ、誰かが声を掛ける。
それだけで見ている世界が元に戻る。
少女が居るから、僕が保てる。
僕が異常なのを誰もそれに気づかないのは、そう言うことだ。
現実は刻一刻と取り返しがつかなくなってる。
誰かの不安げな顔がちらついて、意識が混濁する。
不可避な絶望が押し寄せ、現実を逃避していく。
逃げてはいけない。
目を逸らしてはいけない。
このまま逃げて良い筈がないのに……。
「──何でも、」
何でもないと言えば、それでこれは終わる。終わってしまう。
ドクン。
心臓が高鳴る。
けど、それは駄目だと自分の中で誰かが叫んでる。
それだと、今までと変わらないんだと強く言ってる。
「────」
夢を見た。
真弓さんと挨拶を交わし、教室に着くと累や火鳥が僕たちをからかい、天音がそれを後ろでぼやく。
そんな誰しもが普通で、とても幸せな──何処か歪な日常を見た気がする。
だけど。
叶うことならずっと見てみたいそれは、叶わない夢だと分かってるんだ。
ズキリ。
「──っ」
泥沼の向こう側。
ケラケラと嗤う客人。
悲劇を鑑賞するそいつらを僕は知っている/どいつもこいつも嗤いやがって腹立たしい。
きっと今の僕では、青春を謳歌するなんて夢の話なんだろうな。
ズキリ、ズキリ。
身体が震えて寒い。
誰でもない僕を見つめる二人。
誰かが信じて下さい、と僕に言った/けれど目の前にいる少女は彼女じゃない。
でも、誰でもない少女の、いつか見た笑顔を重ねてる。
憧れの人と同じだと告げたのなら。
自分をヒーローのようだと言ってくれたのなら。
──こんなところで僕は道草食ってる場合じゃないんだ!
「……そうだね。うん。どうしたかって言われたら、うまく説明出来ないだけどさ」
つっかえる言葉。
説明がうまく出来ない。
でも、何かが可笑しいことは分かる。
フィリアは黙って続きを促した。
全て解ってるとでも言いたげに見えたけど、そんなのは関係なかった。
そんな僕らを二胡さんも何も言わない。
僕以外は現状を理解しているようだけど、それは錯覚なんだって思いこむ。
「今朝から、──いや、ずっと前からなんだろうけどね。頭が痛くなるとさ、記憶が曖昧になって目の前の現実が何処か可笑しくなって見えるんだ。どうしてそうなるとか、自分でもよく解ってないんだけど──」
拙い言葉で要領の得ない説明だ。
でも、言わなきゃいけない。
伝えなきゃいけない。
誰でもない自分自身が、そうしなくちゃいけないって思ってる。
「今、こうしてる時間が夢なんじゃないかって思えるんだ」
よく、解らない。
自分で言ってて、わけが分からないにもほどがある。
馬鹿馬鹿しい。
誇大妄想だ。
今、見てる現実がマト■クスか何かかよって言いたくなる。
僕は救世主ネ■気取りと言われても養護できない。
「どうして、そう思えるんですか?」
でも。
「──え?」
そんな僕の言葉をフィリアは信じた。
「今見てる現実が夢だって、勇貴さんはどうして思えるんです?」
静かな口調でフィリアは問う。
侮蔑する目をしてると思うと怖くて彼女の顔が見れない/でも、見なくては始まらない。
どうして、二人にそんなことを言いたくなったか解らない。
解らない。
解らない。
何もかも解らないっていうのに、ただ漠然と何かをやらなくちゃいけないって思うんだ。
「勇貴さん」
ドクン。
心臓の鼓動が早くなる。
それでも、真っ直ぐな目でフィリアは見つめてる。
「────」
息が出来ない/言葉がつまる。
理性と感情が現実に追いつかない。
でも、彼女は止まらない。
フィリアが何かを喋ろうとしてる。
ズキリ。
ズキリ。
ズキリ。
頭が痛い。
まるでその言葉を聞いてはならないと本能が告げているようだ。
「夢って何だと思います?」
何でもない問いかけから逃げるように、頭が痛くなる。
ジジジ。
戯れ言、ノイズ、幻聴、禁止用語、エトセトラの文字列が頭の中を駆け回って気持ち悪い。
痛い。
痛い。
痛い。
頭が割れるように痛い。
煩わしくて、吐き気がする。
同時に救いようがないと自嘲する。
痛い!
目の前のそれが何でもないことを言っている。
少女は何も知らないようで全部知っている/妄想だ。彼女にそんな考えはない。
「──何って?」
フィリアが喋ってるのは、決して理不尽なことじゃない/けれど、救いがないって思ってる。
取り繕った言葉でもないが、的外れな内容は僕が伝えたかったことじゃない。
幻聴がそうじゃないと訴えるも、頭の中がこんがらがってグチャグチャになっていく。
「私は、やりたかったことなんだって思うんです」
──どうしてか、フィリアの言葉を聞いてると前へ進みたいと思える。
「……やりたかったこと?」
言葉を口にすると、亀裂の入る幻聴がした。
けれど、目の前の光景は変わらない。
フィリアに後光が差してる感じが、暗闇に一筋の光が入るみたいに思えた。
「はい、そうです。私たちが見る夢って、寝ている間に脳が行う記憶の整理なんだそうです。でもそれだと、何だか夢がない言い方だって私は思うんです」
辿々しい言い方は僕と似ている。
でも、何処かで違うものだと認識してる。
「もし、勇貴さんが今この現実を夢のようだって思うんだったら。きっと、この現実は勇貴さんがやりたかったことを見ているに過ぎないんです」
硝子の砕ける幻聴がした。
目の前に光がなくなって、見ているモノは嘘っぱちだったんだと脳が認識した。
ダン、ダン、ダン。
教室のドアを乱暴に叩く音がする。
ガチャガチャと誰かが無理矢理に開こうとしてるのが解る。
「時間切れのようね」
二胡さんが口を開く。
教室の窓から見える空は、いつの間にか真っ暗になっていた。
「ええ、そうらしいですね」
痛みは引いていた。
少女たちの声が重くなってるのを感じ、ドアの向こう側に背筋が凍るような気配がした。
「そうそう、忘れるところでした」
唐突にフィリアがそんなことを言い出し、僕の手を握って来る。
「……え」
ドクン。
心臓が跳ねて、握られた手から彼女の温もりが伝わる。
そうしてると、身体の何処から力が湧いてきた。
「はい、これで大丈夫です。直ぐではありませんが、貴方の権能の枷は無くなることでしょう」
寂しげな目をするフィリアがドアを指し、そんな僕らを二胡さんは黙って見てる。
きっと、その先には見たくないモノがあるのだろう。
辛くて、辛くて。
逃げ出したくなることが待っているに違いない。
「私たちはその先に行けませんが、どうかお気をつけて」
意味が分からないことだらけだ。
唐突過ぎて、何が可笑しいのか理解するのに頭が追いついてくれない。
それでも。
ダン、ダン、ダン。
閉められた先を僕が見なくてはいけない気がした。
意を決し、ガラガラと教室のドアを開く。
「──っう!」
むせ返るような血の臭いに鼻が曲がりそうになった。
そんな僕を二人は無言で見送った。
ビチャリ。
ビチャリ。
所々に積まれた死体の山が見えた。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
そう呼ぶに相応しい、酷い光景。
「嫌だ! 嫌だ、嫌だ、死にたくない! 頼むから、殺さないでくれ!」
片腕のない男子生徒が、死にたくないと懇願する。
だが、泣き叫ぶ男子生徒の身体は無情にも捩れていく。
「──グゥ、ウ。……ガァアアア!!!」
赤い何かが顔に掛かると、直ぐに男子生徒の断末魔がこの場を支配した。
「──っぐぅ」
悲鳴が出そうになり、思わず口元を抑えた。
ズリズリと何処からか引き摺る気配。
この場から離れた方が良い筈なのに、自然とそちらに視線が向く。
「何だよ、これ。一体、何がどうして──」
引き摺る気配が強くなる。
それと同時にビチャビチャと真っ赤な絨毯が濃くなっていく。
「アハハハ!」
知らない少女の笑い声が聞こえ出す。
その声に連れられるように身体が勝手に動いて教室から出てしまう。
ドクン。
心臓が鼓動する。
冷汗が止まらず、ピチャリ、ピチャリと血の絨毯を歩いていく。
「アハハハハハハハハ!!!」
その笑い声を聞いてると、月夜を背に対面する紅い目をした少女を思い出す/なのに、少女が何て名前なのか思い出せない。
「誰、なの?」
押し殺した声が出る。
真っ暗闇の向こう側から少女の姿が見えた。
記憶の少女と面影が重なる。
忘れもしない記憶なのに知らない記憶だと勘違いする。
「ワた死、だよ。零でぃい苦ダヨ。ワズレ、ちゃッ多ノ?」
掠れているのか、何かを引き摺る少女の声がよく聞き取れない。
月明かりが差し、そこで少女の全貌が窺えた。
短く切り揃えた紫色の髪はくすみ。
死体のような透き通った白い肌は返り血に染まり。
こちらを見つめる真っ赤な紅いダイアはかつての輝きを喪い──そんな変わり果てた少女と邂逅を果たすのだった。
ジジジ。
ピー、ガガガ。
ピー、ガガガ。
さあ、楽しい時間はこれでおしまい。
ズキリ。
ズキリ。
これから始まるのは、目を背けたくなる悪夢の時間。
ゴポゴポ/ゴポゴポ。
ゴポゴポ/ゴポゴポ。
ようやく、この息がつまる退屈な時間が終わるのだ。
次回の投稿は今年の大晦日に予定しています。作品が面白い、続きが気になる、応援して下さると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けるととても嬉しいです!
批評、アンチ何でも励みになりますのでこれからもよろしくお願いします!




