001 Hello,New_World!
投稿期間が空いてしまい、大変申し訳ございません。
毎日投稿ではありませんが、投稿を再開しようと思います。
「──憎い」
暴力。
殴打、撲殺、感情の暴発。
それら全てが詰め込まれた赤黒い憎悪が地べたにブチマケられる。
「憎い。憎い、わ」
痛い。
イタい。
とても痛くて仕方ない。
ズキリと脳が悲鳴を上げ、数時間前に受けた傷も疼き出す。
そうした痛みに耐えてると、これまでの自分が馬鹿みたいに思えてしまう。
あれか。才能のないワタシには足掻く権利さえないってか?
これじゃあ、神様に死ねと言われてるみたいじゃないか!
「アハ、ハ」
身に余る自分への報いなのか、地に伏せる愚か者には相応しい末路なのか。
それが、チッポケなワタシにはお似合いだと言われてるみたいで腹立たしい。
「アハハハハ! ……ぅう! ぃくい。にくい。憎い、憎い憎い憎い。憎い憎い憎い憎い憎い! 憎くて憎くて、堪らないわ!」
蝶のように羽ばたくこともない哀れな蛾。
醜い害虫風情には、お似合いの最期だってか!?
けれど。
けれど。
「ふざ、け、んな」
ドレスを着飾り舞踏会を楽しみたかった。
家畜たちの悲鳴をもっと聞きたかった。
城主であるワタシを魔女と告発した、あの愚か者共を八つ裂きにしてやりたかった。
まだやりたいことがあったんだ。
それなのに少ない時間を駆使してまで消費した結果が、こんな無様だなんて笑えない。
認めたくない。
認めてなんかやるものか。
だって死にたくない。
ワタシ、まだ死にたくない。
死にたくないから、立ち上がったというのに。
なのに。
──ドクン。
そんな人並みの願いすら許されないと言うのか?
「フム。そんなところでどうしたのかね、ミス・ウェザリウス?」
残り僅かな灯火。
猶予のないワタシを見下ろす誰か。
二メートルを越える長身の男がワタシに手を差し伸べる。
「ア、アハハ。無様なワタシを嗤いにでも来たのかしら、ナイ神父」
男のことはよく知っていた。
何せ、魔導魔術においては彼の右を出るものは居ないとされており、今は亡き魔導魔術王もそれを認めていた。
司祭長などという肩書きもその実力に付いて回った地位に他ならない。
誰よりも孤高で、人脈の多い謎の男。
そんな存在がワタシを見下ろしている。
否、見下している。
有象無象のムシケラだと神父はワタシを嘲笑っているのだ。
屈辱だ。
今にもその激情に身を任せその首を落としてしまいたいが、それは出来ない。
今のワタシにはそんな余力はなく、せいぜい傷の痛みに顔を歪ませるしかないのだ。
「ふむ。それも大変魅力的ではあるが、今回は違うとも。そんなツマラナいことよりも、もっと面白いモノを持ってきた」
神父の言葉に地べたを這いずるワタシは見上げた。
ドクン。
すると、神父の手にある黒い箱が脈打つのが解った。
箱の所々には罅のような模様が入っており、禍々しい力を感じた。
「何よ、それ?」
生きているようなそれが、とても怖く感じる。
人間の心臓のようなそれが、とても良い。
この世の条理を覆すそれにワタシは魅入られた。
「解るかね? 解るだろうさ。君ならば理解すると信じていたよ。どうかね、ミス・ウェザリウス。取引をしようじゃないか?」
せせら笑う神父の姿に、悪魔の契約を思い浮かべる。
否、悪魔は己の利己を求める分まだ分かりやすく、神父のそれとは雲泥の差だ。
黒い箱は綺麗なようで、汚く。
穢れてるようで、何よりも純粋なオモイが込められた魔導兵器でしかなくて。
何よりもそれの正体をワタシは知っていた。
──ドクン。
黒い箱の鼓動は止まらない。
魔へと誘う悪魔の箱を手にしたら、きっとワタシは引き返せない。
それを手にしたらワタシの望みは叶うだろうけど、それ以上に大切な何かを失ってしまいそうで恐ろしい。
ドクン。
ドクン。
「ハア、ハア」
息が苦しい。
喉が渇いて仕方ない。
ハヤク、ハヤク。
それを手に入れればワタシはこの窮地を脱することが出来るんだから。
エゴが騒ぎ、脳内が麻痺して理性が崩壊する。
──ドクン!
嗚呼、もう完全にワタシは黒い箱の虜となった。
でも仕方ない。
だって、生きたいと願ったワタシがこんな酷い目に遭っているんだ。
今更、禁忌の一つ手にしたところで何も変わらないでしょう。
「アハハハハハ!!!」
そんな思考が脳内を駆け回る中、神父は愉しそうにワタシを見ていた。
ジジジ。
それがこの■の始まりであり、計画の通過点。
目覚まし時計のベルが鳴る。
鳴り響くベルが『■■』を■から覚まそうとするが、大丈夫だ。
ワタシは永遠に■を見る。
■を見続けてる間は永遠の命が確約されているのだ。
だからどんな無様を晒そうと、この■だけは終わらせてなんかやらない。
どんな手を尽くそうとそのルールは絶対だ。
視点が切り替わる。
崇高なワタシから愚者たちの思考へと変わっていく。
ジグザグ、ジグザグ。
さあ、■を見ましょう。
永遠に覚めることのない■を見るのです、ドンキ・ホーテよ。
◇
暗闇/底なし沼。
ひたすら手を伸ばすが、救いは訪れず、肩まで沼のような闇へ堕ちていく夢を見る。
一つ解決しては逆戻る循環に意識が芽生え、今日も胡蝶の夢に溺れる日々が続く。
「■を■ば、し、て」
少女の雑音はノイズ混じりでよく聞き取れない。
空を見上げようとも視界には何も映らない。
どうにもならない現実に僕は酷く胸を痛くした。
Hello,New_World!
頭の中にそんな文章が打ち込まれる。
だが一テキストデータでしかない僕に誰も期待しないだから、不要な産物だ。
ザー、ザー。
夢から覚めるみたいに暗闇から意識が変わっていく。
ザー、ザー。
ザー、ザー。
目を覚ます。
陽気な小鳥たちのさえずりが聞こえる。
温かな日差しが冷たい体に熱を安らぎを与えては、ノドカな朝を伝えてくれる。
「──っむぅ」
いつもの朝。
お決まりのルーチンで何の変哲もない日常が幕を開ける。
「────」
昨日何をしていたかを考えたが思い出せない。
どうやら、僕はまた何か大切なことを忘れてしまったみたいだ。
ジジジ。
頭が痛くなり、額を押さえる。
少しでも痛みに気を紛らわせようと周りを見渡す。
けれど、いつも通り足の踏み場が困る部屋にこちらを顔を伺う真弓さんが座っているだけだった。
「──あれ?」
寝ぼけ眼を擦る。
可笑しい。
何か場違いな存在が居たような気がする。
「そうですね。とても気持ちの良い朝ですよね」
幻覚に頭を悩ませてると、目を擦っていた手が不意に掴まれる。
唐突な温もりに頭の痛みが少し和らいだ。
「──え?」
そうして数秒の間、呆然としているとこの状況に似つかわしくない声にハッとする。
錆び付いたブリキを動かすように首を曲げた。
まさか、こんな朝早くに真弓さんが僕の部屋に来るわけないと思ったんだけど──。
「よく眠れました?」
そんな僕の想いを裏切って、ベッド横に満面の笑みを浮かべる少女がいた。
ドクン。
真弓さんに手を握られていると思うと胸が高鳴り、直視することが叶わない。
少女の髪から女子特有のシャンプーの香りがして鼻をくすぐる。
前かがみとなってる所為か胸元が強調され、思いの外大胆な彼女に見惚れてしまう。
「お、おはよう、真弓さん」
「ええ、おはようございます、勇貴さん」
こっちの心情を知ってか知らずか、真弓さんは未だ僕の手を握ったまま向日葵のような笑顔を向ける。
その愛くるしい表情にさっきまで思ってたことが馬鹿らしくなってきた。
「しっかし、こんな朝早くからどうしたの?」
言外に此処が男子寮だよと注意するが、枝毛のない髪を弄りながら挑発的に真弓さんは目を細めた。
「──っ!?」
その仕草に一瞬、■■イ■先輩みたいな妖艶な雰囲気を被らせる。
──が。
「えへへ。ちょっと冒険してみました」
どうですだなんて言ってウィンクするあどけなさに、思わず頬が火照ってしまう。
「──っつぅあ」
ヤバい。
今朝の真弓さんの姿に、思わず悩殺されてしまいそうだ。
どうしよう!?
この小悪魔じみた笑顔に僕の理性がヒトタマリもないのだが!?
心臓の鼓動が速まり、何故か互いの唇が重なりそうな距離になる。
「ま、真弓さん?」
いつの間にか真弓さんの瞼が閉じていて、何処と無く彼女がキスを求めてるように見えた。
えーい、覚悟を決めろ、七瀬勇貴!
据えぬ存ぜぬは男の恥だし、何よりそんなムードとやらそこらに放っておけば良いのさ!
頭の中で悪魔が叫ぶ。
その隣の天使も頷いてる。
そうだよねと僕は決心し、彼女の肩を掴んだ瞬間。
「──おはよう、お二人さん! 今日は一段と清々しい朝だねぇ! ……それはそうとボクの存在を真弓は忘れてはしないかい?」
もう少しで唇が重なるといったところで、ゴツンと眉間に衝撃が加わった。
「イタッ!」
あまりの痛みにもだえてると、熱に浮かされた僕の正気が戻っていく。
懐かしいボクっ子口調。
ペラペラと風もないのに捲れる頁。
「──あ?」
宙に浮かぶ黒の外装のそれに目を丸くする。
その何とも言えない小生意気な感じが憎めなかった。
「……君は!?」
うむ、と頷くようにブルブルと震える黒い魔導書。
聡明な少女のような声の懐かしさに思わず涙がコボレそうになる。
「久方ぶりと言うべきか。それとももう会えないと思っていたけどこうして合間見えることが出来て嬉しいよと感謝するべきか悩ましいところだね、愚者七号」
今日は驚くことばかりだ。
けれど今は、かつて死闘を共にした黒の魔導書、藤岡飛鳥との再会を喜ぶべきだろうか?
──クスクス。
何処かで少女の嘲りが聞こえる。
それは鳥のさえずりのように融けては消えていった。
◇
「データ改竄。記憶修正。記録の解析開始。ダーレスの黒箱より術式凍結を申請。バグの削除。ルールの少女への介入に成功。仮初めの平和、『続かないユートピア』を進行いたします」
コントロールルームに、ある少女を模した機械的なガイダンスが響き渡る。
ピピピ。
電子音のアラームが鳴り、モニターから愚者の動向が事細かく伝えられた。
「本当、馬鹿な男ですこと」
鼠が鳴いて、回し車をひたすら廻す。
男の姿をその例えが適切で、それ以外の何もない。
──クスクス。
そんな様子をモニター越しに燈色の髪の少女は嘲ります。
「しかし。どうして、ナイ神父はこんな男を器にしたのかしら?」
椅子に背もたれる少女。
だが誰も少女の問いに答えない。
「──しばらく掛かりそうね」
画面越しの男を魔女はしばらく見つめるのであった。
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