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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第三章:終結螺旋
46/154

一章プロトタイプ


 ユニークアクセス1000記念。


 カチカチカチ。

 打ち込まれるテキスト。

 ぐるぐる回るあり得たかもしれない物語。

 誰もが知らない、もしもの世界がそこにある。

 運命の歯車は廻る。


 カチカチカチ。

 目を覚ませ、ドン・キホーテ。

 お前の物語を語る時間だ。


 ◇


 夢を見た。

 誰かを殺す夢。誰かに殺される夢。

 継ぎ接ぎの記憶が隠される。

 三人の少女たちはそんな僕を囲んで何かを話してた。

 傷だらけの僕。

 いや、殺されたのだから傷を負っているのは当たり前の話だった。

 少女たちの姿が消える。

 ジジジ。

 ノイズが走って、目の前が真っ暗になり何も見えなくなる。

 底なし沼に堕ちていく。

 ズブズブと助けを求めるも、誰も僕を救わない。


 「誰か! 誰か、助けて!」


 クスクス。

 少女たちの嗤う声が聞こえるだけでそんな僕を誰も助けない。

 堕ちる。

 意識が堕ちる。

 そうして、僕はこの地獄が悪夢なのだと理解する。


 目が覚める。

 汗が止まらない。

 震える肩を抱きしめる。

 先ほど見た夢が悪夢なのだということを思い出す。

 鳥の囀りが聞こえる。

 心地よい日差しで、今いる現実こそが現実なのだと自分に言い聞かせる。

 見渡してもベッド周り以外、物が散乱して足の踏み場のない部屋。


 「夢、か」


 今日も変わらぬ平凡な朝が来た。


 「何だって、言うんだよ」


 言葉にして毒づくと、もう何の夢を見ていたのか忘れてしまった。


 ◇


 カチカチカチ。

 打ち込まれていく愚者の始まり。

 ジョキジョキと切られて縫い付けられる忘却の彼方。

 夢を見ましょう。

 この愚か者の物語はまだ始まったばかりなのです。


 ◇

 目覚めた時の日差しが嘘のように圧倒言う間に日が雲に覆われた曇り空。

 何故か人が込んでいる食堂。

 まるで、世界中の人間が此処に押しかけてきたかのような混雑具合だ。


 「ほう。これはこれは、奇特なことだ。君が此処に来ているとは、いやはや何とも言えないなぁ」


 老人のような、随分と活気のなくした男の声が食堂の前に呆然と立つ僕に掛けられた。

 此処に着てからは聞いたことの無い男の声だ。


 「誰です?」


 突然ということもあって、そう聞き返す。

 声を掛けてきた男の姿を見ようと後ろを振り返る。


 ――が。


 「いや、私の名前などどうでも良いことだ。気にしたところで、詰まらないものだ」


 ノイズが走ったような幻聴。

 冷汗が全身に吹き出す。

 見てはいけないモノを見てしまったかのような錯覚をする。

 でも、後ろには誰もいない。

 なのに、僕に言葉を投げかける男の声だけは止まらなかった。

 実に気味が悪い。


 「何処に居るかはなぞ、然して重要なことではないが、敢えて教えてあげるとするなら、私は君の背後に常に存在しているとしか言えないな」


 呆れたような口調。

 けれど確かに男の声は聞こえる。

 その嗄れた声を聞いている内に僕は、ある事実に気づく。


 「どうして、誰も見ていないんだ?」


 何もない場所から男の声が聞こえるというのに。

 まるで何も起こっていない。

 いや、僕という存在と男の声なんて現実に存在してないかのようだ。


 「簡単なことだ。私という存在自体が無いモノにされているだけに過ぎないのさ」


 姿の無いは、わけの分からない理屈を告げる。

 それしか説明出来ないとしても。

 現実に起こるはずの無い現象を語られても、誰も信じる人間なんていない。


 「おや? 此処がありとあらゆる魔術を学ぶ魔術学園なのだと言うことを忘れてしまったのかい?」


 男の言葉は確かに理解したくもないが理解しなければいけないなんてことは知っている。

 だが、僕は素直に信じれるほど頭が柔らかくないのだ。


 「まあ、別に私は君の頭のことなど欠片ほども興味ないのだがね。まあ、こんな機会は二度とない好機だ。そんなどうでも良いことは放っておくか。忠告をしておいてあげよう。今夜、屋上にて君にとって大事なモノを失う。覚悟しておくことだ」


 在りもしない身体を存在させる奇怪な存在。

 この時、この男の声が重大なことを伝えていたことを僕は知らなかった。

 

 「僕は此処に来るまでの記憶が無い。けれど、そんなことで今さらそんな脅しをされるほど罪深いことはしてないですよ」


 姿の見えない男にそう言う。


 「有無、それもそうだ。だが如何せん、君はあの七瀬勇貴だ。記憶が無くなったなんて言われても、己の存在意義は失われることはない」


 何となくだが、この嗄れた声の男は僕を知っているような気がした。

 僕という存在を知っている。

 僕の過去を知っている。

 思い出したくても思い出せない真実を姿も見せない男が握っている。


 「知っているんですか、僕のこと?」


 自然と声が大きくなる。

 周りが見えなくなるほど、僕は酷くその声に縋るように質問した。


 「――嗚呼、知っている。君という存在を、君という過去を、君の全てを知っている」


 活気の無い男が少しだけ活気を取り戻したかのように声が少し大きくなる。

 笑うように、老人のような男の声は告げる。


 「だが、私は今の君にそれを教えてあげる事は無い」


 冷たく、けれど、見守るような口調で僕の問いの答えをはぐらかす。

 僕は何が出来て、何を過去にしたのか。

 昔の僕が何を求め、絶望して壊れたのか。

 それを問うのは、常に自分だけだ。


 「何れ君は理解するだろう。記憶が無いが故に、記憶を求めたことに後悔するであろう。忘れておけば良かったと嘆くであろう」


 それでも、僕は知らなければいけない。

 自分自身の、記憶を知らなければ  たちの傷の痛みを共に背負ってやれない。


 「では、私は行くとするよ。今夜、屋上に君がやって来ないことを祈るよ」


 優雅に立ち去る、老いた男の声。

 呆然とする僕。

 この出会いに意味がある。

 何れ、渇いた男の声の主を探すことになるであろうか。


 声が立ち去るというのは少々不気味で不自然な描写であるが仕方ない。

 そう描写するしか僕には表現能力が無かった。

 立ち去ると同時に止まっていたかのように、食堂の券売機に僕は足を進めた。

 そうだ、僕は朝食を食べに来たのだ。

 遅すぎる朝食になるが、それでも僕はこれを食べなければ僕の朝が始まらない。

 出来るだけいつも通りに、いつも頼むようなメニューを頼む。

 目玉焼きとトースト、絞りたてかどうか怪しい自称絞りたて牛乳のりんごゼリーのデザートのお手軽メニューだ。


 「お早う御座います、勇貴さん」


 同じく朝食を食べに来た真弓さんが僕に挨拶する。


 「嗚呼、おはよう、真弓さん」


 挨拶を返すと、


 「今日もケーキワンホールは変わらないんだね」


 僕は彼女の朝食を見て、思ったことを吐き出した。


 「ええ、そういう勇貴さんも言えないぐらいパン食ですけどね」


 「まあ、ねー」


 僕も人のことが言えないぐらいのルーチンワークらしい。

 

 ◇


 跳躍。

 視点の切り替え。

 目に映る、幻。

 夢に見る、もう一人の自分。

 誰かと喋る。

 女。

 一人の女と話してる。

 僕は謎の女と何かを話してる。

 会話の内容はよく分からないが。

 それでも僕はその女の人とは親しかったことだけは分かる。

 何故かは分からないが、それを見ていた僕の頬には熱い雫が伝うのが感じられたからだ。


 「忘れてんじゃねーぞ」


 凛とした女の声が世界に響く。

 響くと同時に僕の意識が何処かに引っ張られる感覚に陥る。

 これは、記憶。

 僕の忘れてしまった記憶の断片。

 また、意識が何処かに跳んでしまう。

 嫌だ、嫌だと心の中で叫びながら。

 僕は、また違う僕の記憶を見るのだった。


 ◇


 暗い。

 薄気味悪くて、薄ら寒くて。

 どうしようもない孤独が僕を苛ませる。

 押しつぶされそうになるぐらい、身体が痛い。

 今の状態がとても気持ち悪く、吐き気が催してしまうのが止められない。

 嗚呼、僕は独りなんだなって思えて仕方なかった。

 両親は物心がついたとき居なかった。

 無くなってしまった事さえ僕は何も憶えてない。


 「痛い、寒い、辛いよぉ」


 僕はまだ、子供だ。

 これは、忘れてはいけない、大切な記憶だ。

 誰かに縋りたい時がある。

 親を知らずに、誰かの温もりを求めた。

 魔導。

 昔、悪い魔法使いが僕に呪いを掛けた。

 掛けたんだと思う。

 その悪い魔法使いが何処の誰かなんて全然分からない。

 憶えちゃいないけれど。

 それでも、その誰かの顔は今でも頭の片隅に残ってた。

 残ってたっていうのは、僕がその記憶さえも忘れてしまってたから。

 この過去を僕は、記憶を失くしてたんだ。

 繰り返しの夜。

 この世界に囚われるまでは、僕はずっと忘れ続けてきたんだ。

 そんな頃、僕は彼女と出会った。


 「お前、何やってるの?」


 力強く、まるで何処かの誰かみたいに大体不敵な女の声。

 野球帽を被って、不敵な笑みを浮かべて、同道不敵に仁王立つ。

 唯我独尊、彼女を四文字熟語に例えるとその言葉こそが相応しい。

 そんな彼女こそ。

 そんな彼女と僕が出会ったのは、こんな寂れた夜。

 深く、深すぎる闇。

 埋まらない孤独感に苛まれる僕を助けてくれた。

 「おいおい、幾らなんでもいきなり攻撃とかそりゃ世話ねーよ」

 黒い、不気味な風の刃が野球帽の彼女に向けられる。

 一太刀、二太刀、三太刀ともいえる数の刃を前にしても臆しない女。

 手にしていた得物は、目映い銀の短刀。

 野球帽が彼女の頭から舞い落ちる。

 ひらひら、と。

 けれど、彼女の舞はそれ以上に魅力的で。

 それ以上に、彼女の踊るような剣捌きに僕は魅了されていた。


 「残念だけど、お前じゃアタシを倒せないよ」


 ギラギラと敵を射るその瞳の先に映るのは、僕で。

 彼女と死闘を繰り広げ、僕は殺された。

 何にも無い、空虚な人形が死んで生きてるかどうかあやふやな僕が息を吹き返した。

 沢山のものをこれからも壊していくけれど。

 それでも、彼女と過ごしていれば僕が救われるんじゃないかって僕は思えたんだ。


 跳躍。

 また記憶が断片的であるが、僕という人格を取り戻すために僕は記憶を思い出す。

 この世界に、僕が幾ら拒絶しても僕を思い出させてくれる。

 嫌な記憶だ。

 化け物の過去だ。

 魔法なんてものを使える、本の我侭な子供だった。

 

 ◇


 真夜中。午前零時を告げるチャイム。

 皆が寝静まる世界にて、僕と男が学園の屋上で邂逅する。


 手を伸ばす。

 もう少しで届きそうな距離。

 嘗ての自分は諦めた。

 僕にはどうせ無理だと諦めた。

 魔導も、異能も、権能チートさえも持っていたとしても無意味なことだと告げている。

 全てを失った自分に出来る筈がない。

 

 「ククク。謳う、謳う、嗤う。繰り返しを、循環を、無間螺旋を続けよう。あの日々を、あの夢のような過去をもう一度。罪と凶弾されようと、私は止まらぬ! 続けよう、続けよう。繰り返しの夜を始めよう、再現の夜を起動しよう!」


 僕と仮面を着けた道化師は始める。

 つまらないと称した日常を取り戻すため。

 彼は過去に固執する。

 大切な人を救う為。

 恩人の罪を変える為。

 変えたかった過去を無かったことにする為に。

 自身の在り方さえも否定する。

 泣いているのだろうか。

 念願の術式を発動出来る事を。

 いや、本当は違うのだろう。

 自身の在り方が間違いであることに気づいたためだろう。

 綴られた術式が起動する。

 嘆きの門は開かれる。

 立ち上がれない身体を立ち上げる。

 動かない足を、棒のように固まった足を進める。

 ズルズルと屍のように這ってでも前に突き進む。

 芋虫のようにみっともないかもしれない。

 三流道化のように惨めなのかもしれない。

 けれど、構わない。

 喉の奥から出てくる、苦悶。

 全身から発せられる痛みに、思わず足を止めそうになる。

 最早、この身体は死んでいる。

 だからどうしたというのだろう。

 元より、この心は、在り方は死んだ同然であったのだ。

 そんなことで一々足を止められない。


 「始めよ、始めよ、始めよ。杯は満たした、書を用いた、贄も揃った! 主演が、主役が、監督並び神が告げる!」


 仮面を被ったペルソナは唱えるのを止めない。

 同じくらい、僕は止まらない。

 死にかけだからって、僕は倒れない。

 意識のある人間がいたら発動出来ない術式に、僕という存在は邪魔である。

 白衣の魔術師は漸く、僕に気づくであろう。


 ジジジ。

 諦めない。

 そんな目で僕を見ようとも、いつか僕は彼女のヒーローになるって約束したのだ。


 ――――「そんな私にとって勇貴さんは、希望みたいなものなんです」


 忘れてしまった記憶の断片が蘇る。

 その記憶の断片で、僕を希望と言った少女の姿が浮かんでくる。

 彼女にそう言われたのなら、彼女の希望を目指さないわけにいかない。


 「何故だ、何故だ、何故だ! 幾ら意識体であろうとも痛みはあるのだぞ! 何故、倒れないのだ、七瀬勇貴!」


 わからないと傷だらけの僕に向かって叫ぶ愚か者。

 言葉を返してやる義理もなければ余力も残っていない。

 故に、その叫喚を無視した。

 一歩。

 魔術師の背後から這い出てくる鉄杭が僕に向かって叩きつけられる。

 吹き飛ばされそうになるのを堪える。

 ボロボロの身体が更に損傷する。

 痛みは感じない。

 二歩。

 糾弾され、叫喚され、吐き出される呪詛を諸に浴びる。

 痛いを通り越した快楽よりも、麻痺された身体は動きにくい。

 三歩。

 再び鉄杭が、今度は突き刺す勢いで伸ばされた。

 無数のそれが僕の四肢を貫くが近づくのに問題はない。

 四歩。

 狂気乱舞、無意味で無価値な行動だと我ながら思う。

 けれど、曲げるつもりも後悔するつもりもない。

 動きが鈍くなってくる自分に毒づきながらも敵を見据える。


 「止まれ、止まれ、止まれよ。わかるだろう、分かるだろうよ。本当に死んでしまうぞ、貴様。 何故、そうまでして自分を犠牲にする? 何故、それほどまでに私の邪魔をする!」


 目が見えない。

 視界はもう閉ざされ、感覚が無くなっていた。

 ポケットに隠し持たされていた、一本の剣を手に持つ。

 ズシリと重い、その短い刀身は自分の血で真っ赤に濡れているであろう。

 刃先から熱い液体が、手の指先に伝わるのが分かる。

 だが、その剣の特性を僕は理解している。

 魔術師は問いかけを止めない。

 後少しのところの距離しか離れていない。

 もう数歩で、彼にたどり着くことが叶う。

 後、少しの辛抱だ、我慢してくれ。

 自分の身体に言い聞かせながら、僕は歩むのを止めない。

 声が聞こえない。

 音が聞こえない。

 視界ゼロの状況下。

 それ故に、僕は口元が歪むのを抑えられない。

 だって、あんなにも死に絶えていた自分がこんなにも生きている現実があるだなんて。

 そんなこと夢にも思わなかった。

 もう、目の前な筈だ。

 感覚がなくなり倒れてしまいそうになるが。

 この一撃だけは、振るえるって信じてる。

 自分の願いなんていい。

 彼女の願いだけは叶えたい。

 そう思える自分に漸く、学園に入るだけの異常性を見つけた。


 「彼女を、真弓を、救いたすけたいからだよ!」


 声が出せない筈だったが、そんなことを言えた気がする。

 ありったけの力を込めて振るった一撃はきっと届いたのであろう。

 意識がなくなる寸前に、硝子の割る音が響いたのだから。


 ◇


 ――――「なあ、■■。何を目指したい?」


 大切な誰かは僕を抱きしめながらそう聞いた。

 僕は答えた。

 少年だった僕にはこれ以上思いつかないぐらいの夢を語った。

 愚直に、純粋に、真っ直ぐに。

 バカ正直な僕が将来の夢を告げたのだ。

 大人になるにつれ、それが叶わない願いだと知らずに。


 ◇


 割る、結界。

 壊れた、世界。

 欠落した魔術結界は最早、再現は不可能だった。

 希望が絶望に変わるとき。

 かの魔術師は恨む。

 この結果に貶めた青年を。


 「貴様、貴様、貴様! よくも、よくも、よくも! やってくれたな、子供の癖に!」


 倒れた青年に魔術師は力を振るおうと身構える。

 唱える外道の術式は醜く。

 それ故に救いはなかった。


 「そうだな、七瀬はよくやってくれたよ。本当に、無茶をしてくれた」


 だからこそ、気づかなかった。

 魔術師の上を行く魔導に堕ちた異常者の接近に声を聞いて漸く気づいた。


 「嗚呼! 嗚呼! 嗚呼!」


 恐怖し、畏怖し、慄き戦慄する愚者。

 何と愚かな罪人だ。

 今更になって自身の矛盾に気づこうとは。


 「止してくれよ、鈴手。これもお前が望んだ事なんだぜ」


 見えない怪物が襲う。

 音もなく、堕ちた人間を喰らうのだ。

 粗食の音が聞こえる。

 音速のような疾さを以て行われる惨殺。

 醜いのはどちらだろう。

 穢れた人間はどちらだろう。

 本物はそれに近い偽物は嘆く事を忘れて夢を見る。

 何時だって現実は不条理だ。

 名城真弓を救うなんて自分には有り得ない選択だ。

 けれど、まあ一度くらいはこんなことも在ってもいいかもしれないなんて思えたんだ。

 なら、この選択はきっと間違いじゃない。


 ◇


 激痛が身体を走る。

 駆け巡ってきた痛覚が全身に伝わる。

 声にもならない悲鳴を、苦悶を上げる。

 辺りは暗闇に支配されている。

 もう、深夜に近い時刻なのであろう。

 部屋に備えられた窓から、冷たい夜風が吹き込んでくるのが分かる。


 「保健室?」


 傷ついた時に、倒れた時に助けになる治療部屋。

 癒すことに特化した能力者のいる場所。

 つまり、此処に寝かしつけられているということは自分は助かったということであり、仮面の男の目論見は潰えたということになる。

 身体中が痛くて仕方がないが我慢して立ち上がろうと身体を起こす。

 近くに誰かが寝そべっているのに気づかず。

 僕は、真弓の無事を見に行こうとしている。


 「アレ、もう起きたんだ?」


 身体を動かそうとしている自分に向かって、声が掛けられる。

 声は、自分が寝ているベットの隣から、カーテン越しに発せられた。

 少女のように無邪気な子供のような、幼い女の声だった。


 「ええ、今さっき起きました」


 僕もカーテン越しであるが、質問の返事を返した。


 「ええ。それなら、どうか行ってらっしゃい」


 姿が見えなかったけど、その少女が誰であるかは何となく解った。

 声を聴いても名前が思い出せないというのに、奇妙な話だ。


 カチカチカチ。

 テキストが打ち込まれていく。

 あり得たかもしれない、けれどあり得なかった物語。

 ズブズブと沼に堕ちていく感覚がやって来る。

 もしもの話で、描かれることのなかった戦い。

 没となってお蔵入りになったそれを少女たちは嗤います。

 だって、その継ぎ接ぎだらけで意味が解らないのは、本当のことなんですから。




 作品が面白い、続きが気になる、応援して下さると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けるととても嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでこれからもよろしくお願いします!


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