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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第三章:終結螺旋
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012 再現の夜


 夜が来ると思い出す。

 凍えそうなぐらい寒い冬の夜にあの人と出会ったことが頭に過ぎる。

 今でも彼の死に際は鮮烈に思い出すことが出来る。

 どちらも真冬のことだったから覚えてる。


 「どうしてだ」


 絶望する。

 この世界は夢の世界である筈なのに、いざそれを自分に応用しようとしては残酷な現実に打ちのめされる。

 失敗する。

 ルールも設定も概念も思うように変更することが出来ない。

 繰り返す。

 何度もトライアンドエラーを繰り返しては、その不条理さに嘆く。

 実験して、実験して、実験を重ねてもそれは見えてこない。

 鈴手アズマの願いは叶うことなく、その過去は繰り返される。

 ありとあらゆる可能性に手を伸ばしてもカヲルさんが死ぬ過去は変えられない。

 いや、本来の死よりグロテスクな未来しかそこには再現されなかった。


 「どうして、なんだ?」


 惨めに死んだ。絶望して死んだ。叫んで死んだ。喉が枯れるまで嗚咽した。舌を噛んで死んだ。綺麗な死に顔を拝んだ。また死んだ。戯れ言をホザいて死んで、死んだ死んだ死んだ。

 エトセトラの再現。

 無限地獄で死を繰り返す。


 その惨状はあまりにも醜悪な出来で、私は膝を屈しなければいられなかった。


 ダンプに挽かれてミンチにされた。

 魔獣に食われて糞となって死んだ。

 誰彼構わず殺し回って、警察官に撃ち殺された。

 死んだ。

 死んだ。

 ありとあらゆる可能性が私の心を壊してく。

 希望が希望でなくなった。

 パンドラの箱は開けてはならなかった。


 それは絶望以外の何者でもない結果を引き起こす厄災となっただけだ。


 「ええ、なんて惨めなことでしょう」


 だが、それは唐突に終わりを迎えた。

 つまりゲームオーバーを意味した。


 「──な、に?」


 ガシャコン!

 弾倉に込められた弾丸が装填される。

 そして引き金を引くだけで魔弾が対象に向かって弾け飛ぶ未来が見えた。


 幻想たち以外に生きてる人間はいない筈だと魔術師は戸惑った。

 けれど、現に彼女はそこに居る。

 道化師の仮面を被った自分の背後を取っているのは事実だった。


 「何故、お前が此処にいる?」


 理解出来ない現状がそれに拍車を掛ける。

 バカな、古瀬瑞希はまだこちらの上位世界へシフトしていない筈だ。

 それなのに、一度、外なる神を取り込んだ瑞希に取り込まれた彼女がいる筈がないのだと現実逃避する。

 そこで理解しなければならなかった。

 自身もまた古瀬瑞希に取り込まれた幻想の一部だということに気づかなければならなかった。

 だが、気づかなかった。

 それに気づくには、自分が取り込んだ外なる神の男との同調を解除しなければそれを推察することは不可能だからだ。


 「貴方、まだ解らないの?」


 それは嗤う。

 知能の足りない道化役者を嘲り嗤う。


 「お前は幻想へと堕ちた筈だ。それなのにこの上位世界へとシフトすることは事実上不可能な筈だ! それは、外なる神の男でさえも実現が出来なかった術式。どんな権能(チート)を使ったとしてもそれが書き換えられることは叶わない筈なのに!?」


 一体、どんな絡繰りを使ったと叫ぶ。

 それはそうだ。

 下位の人間が上位になることはあり得ても、上位の人間が下位へと転落してそこから戻るルールは創られていない。

 それは、彼の有名な少女でさえも実現不可能なルール改定だ。


 「だから子供なんですよ、貴方」


 クスリと微笑む燈色の髪の少女。

 その二つに結んだ髪が地に着いた魔法陣の煌めきに呼応するように靡かせる。

 瞳に映る確かな殺意が自分の喉元へと向かっていき。


 「……まさか?」


 そして、その少女が行った抜け道を悟ってしまった。

 でも、それに気づいたからと言ってこの現状を打破することはなく。

 魔術師である自分の死は確定したのだった。


 一つの銃声が木霊する。

 心臓を穿った魔弾は確かに自分の命を刈り取るに相応な一撃であった。


 「──ぅぐう!」


 地に膝を屈し、血反吐を吐けどもそれは遅く。

 自分が願った奇跡は叶うことはなかった。


 ──だが。


 「──ほう。やはり足掻きますか」


 それでも自分には討伐隊へと選抜された意地がある。

 自分には少女たちが持たない誇りがある。

 何をするにもそれが無ければ自分は今、この場に立てなかったのだという自負がある。


 「あ、た、り、ま、え、だ。き、さ、ま、ら、の、お、も、い、ど、お、り、に、さ、せ、て、な、るもの、か」


 (コード)を展開。

 再現の夜の再構築。

 形成される結界魔術がこの場の世界を変質させる。

 ルールの少女の異能を使う。

 たとえ、この少女の一撃によって死に絶えることになろうともこの(コード)だけは渡してなるものかと抵抗する。

 どうせ奪われるのなら、あの青年にくれてやる。

 そんな討伐隊のプライドが彼を突き動かした。


 「いけませんね。これではしばらく近づけそうもありません」


 少女は舌打ちをして、その場を見送ることにしたのだった。


 ◇


 時間は巻き戻る。

 見たくないモノを見た誰かの視点をもう一度再生する。


 ◇


 モニターに映る無数のテキストデータ。

 概念情報の設定が集められ、私は嗤う。

 それの情報を調べ上げ、現状を打破しようと目論む。


 カタカタカタ。

 必要な情報体を検索し、表示することにした。


 再現の夜。

 それは、この夢の世界にて下位世界の■■のイ=スの種族の時間干渉の魔術を術者へとすり替える結界魔術。

 ありとあらゆる可能性をシミレーションすることが出来る夢の世界を構築することが出来るとされたまさに奇跡の体現である。

 何度でもトライアンドエラーを重ねることが可能な上、時間制限さえもないとある思考実験の産物。

 そんな夢のような世界を構築する。

 それこそが鈴手アズマが討伐隊としての義務さえも投げ出して少女たちの目論見に加算した理由であった。


 名城真弓。

 イ=スの種族とのコンタクトに成功した唯一の魔導魔術師。

 彼女とシェリア・ウェザリウスの複製人間(クローン)が当時の魔導討伐隊リーダー古瀬■■と力を合わさったからこそ、彼の魔導魔術王(グランド・マスター)を討伐出来たとされている。


 シェリア・ウェザリウス。

 あのお方と揶揄される魔導魔術王(グランド・マスター)と協力関係にあったとされる魔術師。自身に魔導生物シュブラ=ニクスの隷属の呪いを複製人間(クローン)に自身の魂のデータをインプットさせることによって回避しようとしたがその野望半ばに魔導魔術王(グランド・マスター)が討伐されたことにより頓挫することになる。

 魔導生物などの魔獣や悪魔を召喚する召喚魔術に長けていたとされている。


 外なる神。


 全ての魔導魔術において異能を与える全知全能とされる異星から来訪した知識生命体。

 その全貌は謎に包まれており、契約した人間は口を揃えてその存在を『外なる神』と呼称した為、そう呼ばれることになる。

 外なる神が与える魔術は主に二種に分けられ、自身の力を分け与える恩恵(ギフト)と自身の力を貸し与える権能(チート)となる。

 恩恵(ギフト)は外なる神が許可することで無制限に異能を使役することが出来るが、権能(チート)は外なる神が与えただけの異能を自身の魔力を酷使させることによって制限された能力を行使することが出来るというもの。


 恩恵(ギフト)


 外なる神が与える異能。恩恵と呼ばれる所以は外なる神の意思に従いさえすれば、個人の保有する魔力量と関係なく無尽蔵に使役することが出来る故にその名が定着したとされている。

 ギフトという呼び方も外なる神からの贈り物という意味合いで合っているのだから皮肉な話である。


 権能(チート)


 外なる神が与える異能。権能と呼ばれる所以は外なる神からある程度の異能の能力を付与されるものの、それを行使する際にはその異能を付与された契約者の保有する魔力然り生命力などの何らかの対価を支払わなければ使役することが出来ないとされる。外なる神から下さった権利を個人の主張によって行使するという意味合いで権能と呼ばれる由来になったと思われる。

 チートという呼び方は、旧魔術と比較し、その使役できる能力に大きな差があり、その膨大な力を不平に思った者たちがそう呼んだことから定着したものと思われる。

 また、こちらの方は外なる神と契約さえしていればある程度の個人の自由が与えられているらしい。


 交信の杖。


 魔導魔術王(グランド・マスター)が生前の頃に外なる神を召喚させようとして建てられた魔導兵器。

 上へと続く階段と下へと続く階段があるとされ、上には召喚する為の供物の祭壇。下には魔導魔術師の工房が備えられている。


 幻想。


 仮想世界においてある権能(チート)によって創られた人間のことを指す。

 基本、名前を持たされる幻想を上位幻想、名を与えられない幻想を下位幻想として扱う。

 上位幻想を作成するに当たって、他の人間の魂の概念情報が使われる為、その名残が残ることがある。

 主にその名残が見られるのが、現存する■■の権能(チート)によって造られた転生者の魂を使用した幻想、火鳥真一や久留里四葉が最もその性格を引き継いでるとされている。

 また、上位幻想で魂の一部が完全に別物、もしくは一から外なる神によって造られた幻想などの例外の特殊個体(エクストラ)も存在しているとされている。


 特殊個体(エクストラ)


 幻想の項目でも一通り説明されていたが、上位幻想でありながらそのルールに反した幻想のことを特殊個体(エクストラ)と呼称している。

 主に上げられる代表例は、外なる神が古瀬瑞希の力によって取り込まれた際に作り出したとされる、如月累が代表的である。

 その外なる神を解放させる為に恩恵(ギフト)の異能を剣という媒体を以て解放することが出来る彼はまさに他の上位幻想には持たない特別と言えよう。


 如月累(きさらぎるい)


 外なる神が創り出した仮想世界上でしか生きられない幻想。ある程度の意思を与えることによって、目的を付与させ、外なる神を解放させることで自身の幻想として存在を現実世界で生きられる人間としての存在に強く憧れることを先導させることに成功させた。

 故に、彼は意思を持ちながら意思を持たない外なる神の傀儡でしかなく。その運命から脱却しようとする様もまさに外なる神の思惑通りと言える。


 不意に目に留まった項目。

 特殊個体(エクストラ)の項目が改竄されていることに気が付いた私は思わず声を出した。


 「なーるほど。これが私の影絵の猿(エイプ)を突破したイレギュラーね」


 如月累。

 もし、この項目が本当なら、外なる神を取り込んだ際の違和感の正体もこれで分かった。

 ならば早い段階で手を打っておくに限る。

 彼も下位世界へと堕ちている訳だし丁度いい。


 カタカタカタ。


 打ち込まれる新規データ。

 悪魔の召喚キーとそれを召喚する術者の情報を七瀬勇貴のアストラルコードに刷り込ませる。

 これぐらいの改竄はアクセス権限を持たなくても行使できるのだからお手の物だ。


 「さーて、どうなることやら」


 すぐそこにいるアズマはきっとシェリアがやってくれることでしょう。

 そろそろ、彼女にも表舞台に出て貰わなきゃこっちが割に合わないもの。

 そう思いながら、私は影絵の猿(エイプ)を行使することにした。




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