表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第三章:終結螺旋
40/154

010 騎士に打ち勝つ方法


 大人になれば、何だって出来る。

 子供の頃、僕はそう思ってた。


 何をするにも夢見てたし、大人というものにキラキラとした眼差しをしていた。

 そうなりたいと憧れていたと言えた。


 「────」


 振り返る。

 そこには、無数の僕の屍が山のように積まれている。


 助けて。

 助けてと怨嗟の声で手を伸ばすそれを見続けるしか出来なかった。


 所詮、僕は膨大なテキストデータでしかない。

 そんな存在に意志ある感情など不要だと理解していた。


 「──っ」


 誰かを犠牲で成り立った願いが手招きする。

 そいつを力一杯振りほどくと、塵となって■■の死体は消えていく。


 どうしてだろう。

 僕だけがこんな仕打ちを受けるのか、理解出来ない。


 どうしてだろう。

 選ばれなかった可能性が虚空の世界を彷徨って、星屑さえも成れず散っていく。


 「……あ」


 ある日、自分の姿を鏡越しに見たことがある。

 酷い面だと思った。

 生まれながらにして、酷い不恰好な顔をしていた。

 モテたいなど考えなかった。

 それより他人と関わるのが嫌で仕方なかった。


 「まあ、……良いか」


 いつしか鏡を見るのが嫌になり、世界の果てで独り、空を見上げた。

 継ぎ接ぎ(ノイズ)だらけで何も映らない視界。

 何も映らない僕の目は、ビー玉か何かが詰められてるみたい。


 ジジジ。


 誰もいない。

 後ろを見ても、前を向いても、暗闇の中には僕一人の姿しかいない。


 「永遠を夢見よう。そうだ。永久の彼方にある可能性を手に入れるのだ」


 そうすれば、きっと見てくれる。

 存在理由があやふやな、目的すらすり替えられた自分は、地の底にいる。


 名前を忘れた僕。

 名前だけの僕。


 ズブズブ沼へ沈んでく■■を見て、それは、ほくそ笑む。


 誰か助けて、と地の底で僕は叫びます。

 ですがどんなに懇願しても、誰も救ってくれません。


 助けて助けて助けて助けて。

 殺される。殺される。

 助けて、死にたくない。

 まだやりたいことがたくさん有るんだ。


 手を伸ばしても意味はなかった。

 何もない、空っぽの僕は迷い続けると心が死んでいく。


 願いは一生、叶わないのだと悟ってしまう。


 「──っ!」


 なら、世界の果て──テキストの中でしか生きられない僕はどうしたら良いの?


 その問いに誰も答えてくれない。


 ◇


 校舎の廊下を駆けていく。

 息を切らすと、心臓の鼓動を速くなる。


 ドクン、と脈打つそれに痛みはない。

 ゾンビたちの猛攻を潜り抜け、中庭が見える渡り廊下へと辿り浮いた瞬間。


 ガシャン。


 重量感溢れる鉄の音が聞こえた。

 思わず足を止め、前方を見つめる。

 圧を放つそれが日の光を鎧に反射させ、目を眩ませる。


 「────」


 肌寒い。

 明確な殺気が肌を通して伝わる。

 今も尚禍々しいオーラを放つ鎧の騎士に一人で打倒しなければならないと思うと、プレッシャーに押しつぶされそうになる。


 「貴殿にしては珍しく切り替えが早かったな」


 ガシャン!


 相対する強さに心が折れそうになる。

 握った魔剣が熱を帯び、光が更に集っていくと同時にふつふつと自信が湧いてきた。


 「降伏せよ。(わたし)の速さがその魔剣の力を凌駕しているのは明白である」


 澄んだ女の声が降伏を求めた。

 一瞬、殺意が緩むのも感じた。

 もしかしたら解り会えたかも知れないと思った。


 「戯れ言は良い。先を急いでるんだ、そこを退いて貰う」


 ──だが、その提案を僕は切り捨てる。


 それが、この騎士への返礼であると思ったから、僕はそうした。


 「そうか。貴殿にも猶予の短さが解るか。──ならば、(わたし)も相応の応えを返さねばならないな」


 ──ガシャン!

 廃騎士が剣を構える。

 圧倒的な威圧感を溢れさせ、緩ませた殺意を研ぎ澄ます。


 言葉は不要。

 事、殺し合いにおいてそんなモノは必要としなかった。


 「うん」


 見据える幻想(ヒト)は知らない。

 先ほどの僕を見ていない。

 それだけ、あの幻影疾風(タイプ・ファントム)の覚醒は唐突で、ご都合主義な展開だった。


 「そう、だね」


 けれど、関係ない。

 たとえ誰かの思惑でこの権能(チート)を得たとしても、その力を奮うのは僕自身の意思なのだから。


 そう返事をして、魔術破戒(タイプ・ソード)現実化(リアルブート)する。


 「では、──参る」


 静かに、けれど、はっきりと告げられた開戦の合図。

 一秒。

 廃騎士が跳躍する。


 「────」


 間合い、目測十メートル。

 一度、廃騎士と対峙した時はその速さに成す術もなかったけど、今回は違う。

 同じ速さ、否、それ以上の速さを以てそれを凌駕する返し手がある。


 ドクン。


 脈打つ心臓、スローモーションとなる世界。

 秒速の世界において一歩がコンマ六十秒の集合体で繰り出される。


 「──っつぅ、」


 グンと距離が縮まる。

 廃騎士の一撃に応える為、迷うことなく魔術破戒(タイプ・ソード)を構え備えた。


 廊下に火花が走る。

 最凶の騎士が助走もなく跳んだ。

 凄まじい速さで織り成す、コンマ七秒の跳躍を以て僕と廃騎士の間合いは零となった。


 ……ああ、幻影疾風(タイプ・ファントム)がなかったら、此処で敗れてた。

 何もかもが理不尽だと嘆き、地に伏せる未来(ビジョン)が見えただろう。


 剣と剣が交じり合う。

 喉元から引き裂こうと放たれた縦一閃は、鮮やかで、数ミリのズレのない神がかりな一撃と言えた。


 「ぐぅ、……ぅううう!」


 目が眩む一撃に全身の神経が悲鳴を上げる。

 その重みを受け止めると脳が揺れ、三半規管を狂わせる。


 「ほう」


 短く吐き捨てられた賞賛。

 その神がかりな一撃を受け止める僕を見て廃騎士は次なる一手を繰り出そうとして──。


 「──らぁあああ!!!」


 ドクン!


 一秒よりも速く剣を届かせるため、全身に力を籠めた。

 呼応するように魔術破戒(タイプ・ソード)が光輝く。


 音速を越えた光速の世界は、二秒しか経過してない攻防。

 コンマ数秒で繰り出される次の一手に瞼を閉じる暇もなく加速する。


 「──っ!」


 大振りな横一閃を右へ走り抜け、真っ白になる視界を無視して、そのがら空きな懐へ容赦なく魔術破戒(タイプ・ソード)を斬り付けた。


 「────」


 一刻を争う殺し合い。

 互いの目的がかち合うことなく行われた果たし合いは、閃光と共に終わりを告げる。


 ガシャン。


 地に膝を屈するのは誰だったか。

 光速の世界で殺し合いを制したのは僕だったか。


 「見事でした」


 賞賛が短く告げられた。

 勝者が決まり、真っ白な視界が元に戻る。


 廃騎士が何をしたかったのか解らないが、一つだけ理解出来ることがある。

 それは、一つの難関を僕が自力で突破したと言うことだ。


 騎士の幻影が散る。

 一瞬、最期に廃騎士が笑ったような気がして、それに何故か僕は誇らしく思った。


 ◇


 カタカタカタ。


 文字を打つキーボード。

 嘘みたいに上がるパラメータを前に■■は戦慄する。


 「嘘だろ?」


 無精ひげの、腹回りが出た男はコントロールルームに独り驚愕する。

 モニター越しに廃騎士の敗北を見て、もう持てる手札の無さに焦燥もした。


 「どうする? どうする、どうする!?」


 愚者(りそう)が此処へとやって来る。

 何度も意思を改竄したというのに、それを跳ね除けて立ち上がる姿に嫉妬もする。


 どうしてだ?

 どうして、ヤツは屈しない。

 七回もキャラクリエイトしても尚、その理想は立ち向かうことを諦めない。


 「クソ! クソクソクソ! お前なんか。お前なんかにやられてたまるか!」


 何としてもそれに勝たなければならない。

 この世界で神を自負する自分こそ最強でなくてはならないのだ。


 なのに。

 どうして思い通りにならないんだと嘆いてる。


 交信の杖の前に立つ愚者(ヤツ)は知らない。

 此処へたどり着くにはアクセス権が必要なのことを知らない。

 この門を開かなければ、此処には到達出来ない。


 「そうだ」


 此処が最期の砦だ。

 アクセス権を持たない幻想たちは所詮、主役を盛り上げる為に用意されたガヤの一つにしか過ぎないんだ。


 「そうさ」


 此処さえ突破されなければ、幾らでも男を改竄する機会などある。

 自分としたことが想定外の事態に焦ってしまった。


 ヤツには、門を開く権限がないのだから焦る必要などなかったのだ。


 キキキ。

 キキキ。


 しかし、それはコントロールルームから門を開かなければの話だ。


 「ねえ、もう十分楽しんだでしょ、■■さん」


 だから気づかなかった。

 背後に潜む少女の不意打ちに、何も警戒などしていなかった。


 「──え?」


 ドスン、と背中を斬りつけられる衝撃。

 鮮血がモニターに掛かり、備え付けられた椅子が転げ落ちる。


 痛みは無かった。

 ただ、斬りつけられたところが熱くて仕方なかった。


 倒れ伏す男は、背後に居た少女の姿を捉える。


 「ど、どうして?」


 今まで何もしてこなかったのに、と男は呟いた。


 「以前から、貴方のことは気に食わなかったんです」


 少女の影がキキキと嗤う。

 何処までも純粋に死者を追い求める亡者は、倒れ伏す男を無様に嘲る。


 「ふ、ふざけ、」


 未だ痛みに苦しむ男は、怒りに任せ少女に文句を言おうと立ち上がろうとした。


 「我慢したんですよ。計画には貴方の存在は必須でしたから」


 コントロールルームに影絵の猿が集まり、宴の始まりに舞を踊った。

 嬉しそうに、地に伏せる獲物を(なぶ)る。

 仲良く取り分けるように、立ち上がろうとしたそれを自慢の爪で斬りつけたんだ。


 「ッヒギャ!? ッグゥ。や、止めて。い、イタ、い。痛い!」


 痛い、痛いと男は転げまわる。

 それを面白がって、影絵の猿たちは愉しんだ。


 「それも、もうお終いです。貴方の夢は私たちが有効活用させて頂きますね」


 アイドルは微笑む。

 そんな男を滑稽だと罵り、この状況を楽しんだ。


 「さて、漸く目的も達成出来たことです。この世界も崩れることでしょうし、折角ですので今まで好き勝手にしてきたツケを支払うと良いでしょう」


 カタカタカタ。


 直接のアクセス権限をアズマを介して少女は奪う。

 それは、少女にとっては容易だった。


 「や、止め、て」


 倒れ伏した男がべそをかく。

 何も出来ないと言うのに虫の息のそれは必死で懇願した。


 「では、残り少ない神様気分を味わって下さい」


 じゃあ、と手を振って夢を少女は後にする。


 交信の杖の門が開かれた。

 画面越しの光り輝く剣が相も変わらず眩く見える。

 奇跡は起きない。

 ドン・キホーテ同士が邂逅するのは時間の問題だった。




 どうか面白い、続きが気になる、応援して下さると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでこれからもよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ