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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第三章:終結螺旋
36/154

006 対価を払えばどんなものでも具現する


 カタカタカタと歴史を語ろう。

 カチカチカチと記憶をねじ曲げ、時間を超越する。


 何処までも救われない男がいる。

 誰かに愛されることを願う奴もいる。

 空想の世界しか己を肯定出来ない男は、まさに愚か者と言えた。


 「──っ!」


 奇跡を願った。

 愛されることに固執し、ハーレムじゃなくても自分だけを肯定するパートナーを求めた。


 愛とは、誰かを思いやる心。

 それが一番に欠けている男は、愛される権利を持たないというのに。


 「ウルサイ! ウルサイウルサイウルサァイ! 僕は神様だぞ! いや、オレがお前らの創造主様なんだぞ!」


 創作のキャラに八つ当たる姿は、酷く無様で、哀れで、滑稽だった。


 ──反吐が出る。


 「お前なんか! お前なんかなぁあ!」


 本気になれば何だって出来る、と。

 だって僕は神様なんだからと言いたげだ。


 「そうさ。そうだ。そうです。そうだよ。そうだとも! この権能(チート)さえ持ってれば、何だって出来る!」


 全く、不細工な男の喚く姿は、みっともないにも程がある。

 暗闇の世界に一人で王国を築いて、寂しくないのだろうか?


 「キィイイイ!!!」


 誰よりも孤独を嫌う■■は見ない振りして取り乱す。

 その光景に盤上の駒は倒れて使いモノにならなくなっており、誰かに愛されたいと願った男は、誰かを愛することが出来なかった。


 これは、それだけの話だ。


 ◇


 ゴウッ!

 闇を搔き消す焔が廃騎士の幻影から僕を助ける。


 「オレのダチに手ぇ、出してんじゃねぇえ!!!」


 その不死鳥の如く現れる姿は、まさにヒーローのように見えた。


 「久しいな、火鳥」


 一触即発の空気の中、アズマが口を開く。

 それは火鳥に和解を求め、手を差し伸べながら何でもないように取り繕ってるように見えた。


 「そーだな」


 仏頂面ながらもアズマの言葉に返事する火鳥。

 それだけで、彼らが古い付き合いなのだと察した。


 「まさか君が()()に執着するとは思っても見なかったよ」


 続けざまに言葉を交わすアズマ。

 ククク、と笑いがこみ上げてるのか口元が歪んでる。


 「確かにな」


 ケラケラと笑う火鳥。

 だが、その視線は鋭く、迎撃準備は万端だ。


 「旧友のよしみだ、今なら手違いでヘマをした。そう私が勘違いしたことにしてやろう」


 道化役者のように白衣を翻す。

 その一連の動作はありふれた貴族のような振る舞いだった。


 「面白い冗談だ。腹が捩れるほど笑えるんだが、笑っても良いか?」


 さも面白いと言わんばかりに彼が皮肉を返す。


 目が笑わない、本気で怒ってる火鳥の顔。


 「ふむ。笑いたければどうぞ笑い給え。もし笑えないのなら、──そうだな。何なら私が笑ってやろうか?」


 空気が重くなる。

 殺気が充満し、再び、無数の(コード)が宙に現実化(リアルブート)されていく。


 「そいつは良いぜ、アズマ。──笑えよ。腹が捩れるほど笑ったら、後は地獄に堕ちるのが悪党の運命(さだめ)ってもんだろ」


 一斉に火の粉を巻き上げ、幻の焔が唸る。


 「……後悔するなよ」


 ジャリリリと、怨嗟の声が響く。


 (コード)の鎖が引きずられ、先ほど見たような醜悪な夢が頭に過る。


 「──がっ!」


 いつもより激しい頭痛が襲う。

 その痛みが僕の心を壊そうとしていると思うと、身体が震え出して止まらない。


 「大丈夫だ、勇貴」


 そんな僕に、前にいる火鳥が言う。


 「テメェのそれは、もしもの話だ。現実に起こるかもしれなくても、そいつはまだ起きてない。なら、そんなもんを気にしたところで前には、進めねーぞ」


 未来が怖い。

 そうなったら嫌だ。

 だからいつも■■は後ろばかりを見てしまっていた。


 けれど。


 「テメェの持ってるそれは、その為のもんだ。その為だけにオレたちが魂を注いだ意志(コード)であり、オレたちが連中に対する意地の証だ」


 ブレザーの袖をめくり、指をポキポキ鳴らす。

 その姿に目を奪われる。

 その誰かを想う強さに畏敬の念さえ芽生えた。


 「それに、よ。なんか偉そうに御託を並べてるが、そいつの言ってることは辻褄が合ってねぇんだ。そんなのは良い描写でも何でもない、只の下手くそな文字の羅列だ。──全く、そんなもん読まされてるこっちの身になってみろってもんだ」


 ピキ。

 何かが崩れる音。

 それは、憤慨したかのようにやってくる。

 地団太を踏むみたいに地が揺れる。

 未だに魔術破戒(タイプ・ソード)現実化(リアルブート)が出来ない。

 どうやら、鈴手アズマの権能(チート)にはこちらの意志(コード)を封じる能力が備わっているとみた。


 「余裕だな、火鳥。外なる神へ挑発か。大きく出たな」


 魔術師は声を荒げる。


 「あぁん? ……本当のことだろうがよ。いい加減、読みにくいったらありゃしないんだよ、テメェの言い回しの何もかも全部がな!」


 バキン!

 見えない何かが音を立て、宙に浮かんだ鉄杭が容赦なく放たれる。


 「──ッハ! 煽り耐性無さ過ぎだぞ!」


 瞬く間に焔が解き放たれると、火鳥の姿が消える。

 それが、火鳥真一の戦闘スタイル。

 自身を幻の焔へと変える彼ならではの攻撃手段。


 ゴウッ!

 火の手が鈴手アズマへと伸びる。

 どんな魔を燃やすとされるその異能はどんな特異性さえ打ち勝つ。

 小学生が考えつくような無敵の能力が(コード)をすり抜け、魔術師の懐へと突き進む。


 ──が。


 ピシリ。

 それを赦さない何かが阻む。


 「だから言っただろう。今なら勘違いにさせてやるとな。人の忠告はきちんと聞くことだぞ、火鳥」


 ──パキン!

 見えない壁にぶち当たったように、焔があらぬ方向へと散っていく。


 「────」


 焔が消える。

 すると、そこに火鳥の姿が現れた。


 火鳥が如何に優れた能力を持っていようとも、外なる神がもたらす権能(チート)はこの世界において絶対な力を誇る。

 ルールに定められた、その絶対的な力を前に『異能』を持ったキャラ如きでは相手にもならないのは明白だった。


 「そーだな。全く以てその通りだ」


 ジャリリリ!

 四方八方に(コード)が向けられ、逃げ場を封じられた状況だというのに火鳥は余裕の笑みを浮かべる。


 「人の話はちゃんと()()()おくもんだよなぁ」


 火鳥が笑う。

 まるで勝利を確信したかのような態度だ。


 「何が可笑しい?」


 そんな彼の様子にアズマは問う。


 「ああ、可笑しいに決まってる。何だ、まだ気付かねーのか? ──良いぜ、教えてやる。お前、アクセス権限持ってた連中が今、何やってんのか知らねぇだろ?」


 火鳥が何を言いたいのか僕には分からなかった。

 アズマも何のことだと首を傾げてる。


 「ダーレスの黒箱がもたらす『外なる神』の権能(チート)を前には、この世界の魔術やら異能は太刀打ちできないのは知ってるよ。権能(チート)持ちを倒すには、同じ権能(チート)持ちじゃなきゃいけねーってことは誰もが考えつくことだ」


 頭の悪い子に教えるように火鳥は言う。

 権能(チート)持ち。

 それは、例えばアズマの(コード)や僕の魔術破戒(タイプ・ソード)のことを指すのだろう。


 「何が、言いたい?」


 魔術師(アズマ)は苛つきを見せる。


 「まだ分からないのか? つまり、テメェはシクジったってことだよ!」


 火鳥が叫ぶと同時に、それは現れた。


 ──キキキ。


 「キ、キキキィイ! ィキキキキィイイイ!!!」


 赤子ほどの大きさの蜘蛛の群れ。

 真っ赤な血のような体毛がその凶悪性を物語り、無数の怪物が地下聖堂中にひしめき合っている。


 「──っ!?」


 その中心に何か赤黒いモノが蠢く。


 「キキキキ、キキキキッキキキィイ!!!」


 それは蜘蛛から人の塊へと形成していく。

 蠢いて、囁き合うよう産声を上げ──、


 「ハロォウ、エブリデイ! 先ほど振りでちゅねー、アズマボーイ! 騙し討ちするなら、息の根は確認しとけってオートマンから習わなかったかニャア?」


 ──空気をぶち壊す狂気の女が顕れた。


 真っ赤な髪を掻き上げ、淫靡なオーラを纏う女を僕はよく知っている。

 上位幻想にして権能(チート)による異能で僕を殺した存在が腰をクネらせ、叫び出す。


 「それにしてもダメだな。全く以てなっちゃいない! 狂気も、オーラも、役作りの何もかもが中途半端で、なっちゃいねぇえ! 駄作。ソウ、こいつは駄作だ! B級映画よりもチープな出来映えにブラウザバック必須だなァア、オイ!!!」


 嗤う。

 死に損ないの狂人が監督気取りのダメ出しをする。


 「な、何故? 何故、お前が──」


 アズマは驚愕の顔が隠せない。

 声を聞いても、姿を見ても、それが天音であると奴も確信する。


 「お前が生きているのだ!?」


 アズマは狼狽を隠せない。

 動揺して現実を認めることが出来なかった。


 「そんなの決まってるでしょうが! そいつはテメェ様が仕留め損ねた、──それだけのハナシ・デェスよぉお!!!」


 殺戮せよ、と。

 恐怖しろ、と。


 滲み出る狂気を隠さず、かつての敵がしっちゃかめっちゃかに舞台をかき回す。


 「キキキキキキキキキキキキキ!!!」


 アズマ目掛け、蜘蛛たちが一斉に襲いかかる。


 「デェスが! それもこれで! ──オシマイ、デェス!」


 ぐるぐる。

 ぐるぐる。


 大量の鉄杭が蜘蛛たちを抹殺しようと放たれる。


 ──が。


 数十という数ではない。

 数万に近い数え切れない程の蜘蛛の大群。

 圧倒的な数の暴力を前にしては、アズマの(コード)は意味をなさない。


 蜘蛛の群れを仕留めるより先に女が魔術師の懐に入るのが速かった。


 「く、来るな」


 後ろに下がるアズマには、もう先ほどまでの余裕はなく。


 「来るな、来るな来るな来るなっ!」


 悲鳴。慟哭。嘆き。悲痛。

 それら全てを入り交じった言葉が吐き出され、


 「来るなぁあ!!!」


 数秒後に、間合いを詰められた魔術師は天音の一撃を赦すだろう。


 「ザァンネェン! アタクシもそんな台詞を吐いて逝っちまったってもんデェスよぉお!」


 そうして、無慈悲な鉄槌が下されるのだ。


 「イヒヒヒヒィイイ!!!」


 女の嘲いが地下聖堂中に響き渡る。

 僕を殺した時のように、その腕でアズマの心臓を貫こうとした瞬間、──それは起こった。


 ピシリ。


 時が止まる。

 思考だけが加速する静寂に包まれる。


 ドクン。

 心臓が鼓動する。

 ドクン、ドクン。

 役割を果たそうと、ポンプが駆動する。


 「──っ!」


 ジジジ。

 ノイズが掛かり、テキストの記憶が頭に過った。


 熊みたいな巨体の男が倒れてる。

 その男は死に掛けで、直ぐにでもその命の灯火が散ってしまいそうだ。


 一人の男の子が泣きじゃくる。

 血塗れの男を見て、大粒の涙を流しては何かを叫んでる。


 「泣くな、アズマ」


 瀕死の男は最後の力を振り絞って、言葉を吐いた。


 「お前さんが生きていて、良かった」


 達者でなと、最期の言葉を贈って男は旅立った。


 男の子は泣きじゃくる。

 その尊い死を泣きじゃくって、倒れ伏した男の亡骸を抱きしめる。

 小さな身体で片腕しか持ち上げれなかったけど、精一杯の力で亡骸を抱きしめたのが分かった。


 雨が降る。

 砂嵐が巻き起こって、その濁流に飲まれていく。


 「そんな、嫌だよぉ──」


 必死に泣きじゃくり、そして──。


 「死なないでよぉ、カヲルさん!!!」


 死なないでと懇願するも、世界は残酷にその願いを切り捨てる。

 そうだ。現実がそんなものだってことは、彼にはよく分かってた。

 しかし、それでも男のことが本当に好きだったから諦めきれなかった。

 それは、まだ彼が子供だったから──。


                   ──ピシリ!


 ノイズが走る。

 誰かの記憶に亀裂が入る。


 何かを得るには相応の何かを払わなければならない。

 それこそが、等価交換の基本法則。


 バクバク、バクバク。


 消失(ロスト)していく記憶が音を立て、喰われ始める。


 バクバク、バクバク。

 ジュルジュル、ジュルジュル。


 喰らい、啜り、奪われる。

 食い破られたその記憶が、意思が、彼のありとあらゆるモノが異能となって顕現する。


 「……だから、貴様は甘いのだ」


 詰めが甘いのは互い様だと言わんばかりに、魔術師は嗤う。

 ククク、と押し殺した笑みがこの場の全員の耳にこびり付く。


 止まった時間の中で、それが現れるのを視認する。


 「アァン!? ──ソイツは、何デェスか!?」


 驚愕の連続。

 後出しじゃんけんみたいな怒涛の展開。

 勘違いしていた、互いの認識。


 それは、間違いなく魔術師の秘策であり、アズマにとっての切り札だった。


 「幻想(アトラク=ナクア)よ、私がそれを捨てられないと思ったか?」


 魔術師の持つ権能(チート)がどういった(コード)なのかは知らなかった。

 てっきり、僕はトラウマ等の精神を破壊するだけの異能なのだと勘違いしていた。

 でも、実際は違った。

 精神を破壊するのではなく。


 ザザザ! ザザザ!

 聞こえる筈のないノイズは止まない。

 見える筈のない亀裂が視界に入り、それを認識することの邪魔をする。


 見るな、見るな、見るな。

 本能が訴える。

 見てはいけないモノを見てしまった。

 理性が崩壊を迎える。

 蜘蛛なんかよりも狂った怪物が現れる。


 気配なんかなかった。

 予備動作なんて必要なかった。

 それは、自身の大切な記憶を対価にすれば何処だろうと具現する。


 「宣言した筈だ、再現の夜を始めるとな!」


 鎖に縛られてたソレが目を覚ます。

 封じられていた何かが歓声を上げる。


 ──幻想たちの頂点に達する原点が君臨する。


 カタカタ。

 ギーコ、ギーコ。

 カタカタ。


 空気を切り裂き、光速を超えて今度こそ、権能(チート)を持った幻想(アトラク=ナクア)の脳を木っ端微塵に砕く。


 ケタケタと(マネキン)が背中のゼンマイを回し、ギチギチに縛られた拘束を外してる。


 「──っ、──!」


 断末魔を発することもなく、今度こそ、天音の姿は塵となって消えていく。


 ガタッ!

 ゆっくりと確実にそれが次なる標的(えもの)を探し出す。


 息が出来ない。

 頭が割れるように痛い。


 ──死ぬ。

 今度こそ、自分の死を覚悟する。


 だって、それを見てしまった。

 それを視認してしまったら、後はもう死ぬしかない。

 背筋が凍ったように、身体が動かせない。

 同時に、心臓が役割をボイコットし、僕はその場に倒れこむ。


 「ア、アハハハ! アハハハハハハハハハ!!!」


 男は狂喜し、それの誕生を愛しそうに対価を払った。


 「そうだ! そうしろ! こうすれば良かった! 最初からこうしておけば良かったんだ!!!」


 鎖がビュンビュン跳ね回る。

 次々と倒れる僕たちに向かって、鉄杭が撃ち込まれていく。


 ザシュ!

 意識が飛びそうになる。

 何度もそれが撃ち込まれ、耐え難い激痛が襲う。


 「さあ、再現の夜を始めよう」


 頭の中に誰か(■■)の呟きが聞こえだす。

 聞いたことのない男の声なのに、その声が誰の声であるのかを理解する。


 醜悪な男は、みっともないダメ男。

 不細工極まりない男の声に観客が騒ぎ出す。

 再び、僕の心を壊そうとする役者の登場に、舞台は大いに盛り上がる。


 「始めよう。始めよう。理性なんて捨てて、永遠を繰り返せ! 本能さえも受け入れて、夢の世界に溺れるのだ!」


 独りよがりの愛に魔術師は独裁を始める。

 アズマではない不細工な男が泣き笑いをして、倒れてる僕に歩き出す。


 もう、駄目だ。

 今度こそ、僕の意識がそこで途絶える。


 「目を覚まして、■■さん!」


 ■■さんの悲鳴が聞こえても、それは叶わない。


 堕ちる。

 堕ちる。

 今度は誰も助けない。

 そうして、僕の意識は深い闇へと堕ちていった。



 面白い、続きが気になる、応援してると思ったらと少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでこれからもよろしくお願いします!


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