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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第三章:終結螺旋
31/154

001 目覚める


 屋上へ星を見に階段を登る。


 「────」


 大切な人がまた死んだ。

 やはりアクセス権限がないと『彼が死ぬ』という事実は確定されるらしい。


 「────」


 今回の夢で、外なる神を自称する男と会った。

 その男が■■(アイツ)の元となる人物なのだと言われるとアタシは衝撃が隠せなかった。


 「何でだよ」


 救いがない現実に涙が出そうで、階段を登る足が折れそうになる。


 嗚呼、雨も降らないこんな世界でアタシはどうしてこんな必死になっているのだろう?

 現実がクソッタレだなんて解ってるというのに──。


 「畜生。……どうもこうもありゃしない」


 ギギギ。

 錆び付いたドアを開け、屋上へたどり着く。


 そこには──


 「あら? 貴女は──」


 肩まで届く紫の髪。

 透き通るほどの白い肌。

 月明かりさえあれば絵になる、美しい少女がそこに居た。


 「──っ」


 リテイク、リテイク・ラヴィブロンツ。

 吸血姫と呼ばれるその少女は、アタシなんかよりも古参の■■だ。

 あの『廃騎士』とどちらが強いか迷ってしまうほどの実力を持っており、その小柄な体格からは想像できない能力を秘めている。


 そんな少女が涙を流しながら星へ手を伸ばすのだから、この場所が彼女にとって掛け替えのない拠り所なのだと悟ってしまった。


 「あ。ああ、ごめんなさい」


 反射的に謝罪する。

 というか泣いてるところを見たら、誰だってそう言ってしまうに決まってる。

 少なくともアタシは自分が泣いてるところなんて見られたくないんだから。


 「気にしなくて良いわ」


 だが、謝罪(それ)は不要だと少女は切り捨てる。


 「……そう」


 強がりだ。

 明らかにその身体が震えているのが見て取れた。

 その証拠にまだ涙が頬を伝ってるし、ね。


 「隣、失礼するよ」


 彼女のそんな強がりを見て、アタシはフェンスに近づき空を眺める。


 「────」


 相変わらず真っ暗でどうしようもない現実が広がっている。


 「……何だ、あれ?」


 不意に、暗闇だと思われた夜空に五つの光が煌めいた。

 アタシには光の正体が解らない。

 けれど、何となくアタシたち二人を励ましてるような気がした。


 ◇


 手を伸ばし、足掻こうにも暗闇へと身体が堕ちていく。


 「──う、ぐぅ」


 空しさが、誰も助けに来ない絶望感がヒシヒシと心を支配する。


 「これ、は、夢、じゃ、な、い!」


 だけど、これこそが僕の現実だと認めると──。


 ジジジ。

 ザー! ザー!

 聞くに堪えない懇願(ノイズ)がやって来て、他の声が僕に届かなくする。


 「ハア、ハア」


 見渡せど、暗闇は晴れない。

 そんな現状に息が荒くなる。


 「──っらぁ」


 手を掲げる。

 その手に握るそれが何なのか理解しろ。


 ドクン。

 心臓が鼓動する。


 「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


 目を見張れ。

 イメージするのは、いつだってあらゆる幻想を断つ僕だけの権能(チート)だ。


 「■■(ゆうき)さん、手を伸ばして!」


 聞こえる。

 大切な人の声が聞こえる。

 幻想殺しの魔剣が現実化(リアルブート)した。


 さて、おはようの時間だ。

 待ち人に会うのに、この暗闇はいらない──。


 「──っ!」


 光輝く魔剣を振るう。

 瞬く間も暗闇が搔き消され、よく知る教室が目に映ると時計を確認。


 昼の二時を回っている。


 「さーて、吉と出るか。凶と出るか」


 自分の未来は、自分の力で切り開く。

 そう決意すると休息を終えるチャイムが校舎中に響き渡った。


 すると。


 「キキキィイイ!!!」


 耳障りな雑音が生徒の格好をしてやって来る。

 そう、グチャグチャなB級映画に出てきそうなゾンビとなって僕の前に現れたんだ。


 「コントロールルームへ行こう」


 さて、アズマとやらに文句を言おう。

 何となく、そこにいる気がする。


 言いたいこと全部、そいつにぶちまけてやれば良いんだ。


 ◇


 カチカチカチ。


 再び夢が始まる。

 実験体の意識が戻るのを理解した私は世界を再構築していく。


 「愚者は愚者らしく寝ていれば良いのだ」


 そうだ。あのお方を復活させなくては我らが悲願が成就しない。


 邪魔だ。

 あの男の意識に割くリソースは、あのお方復活に必要ない。


 「──っ」


 ズキン。

 頭が痛い。

 不必要な情報が一斉に脳を駆け回る。


 オートマンが殺された。

 シェリア・ウェ■リウスと■■瑞希(みずき)がこっちを見下ろし何か喋っている。


 殺した。

 殺した。

 あの三人が私たちを殺した。


 「これは、──なん、だ?」


 不必要な情報だ。

 あのお方が復活なされたら、この記憶は消去して貰おう。


 「あ、ぐぅ」


 そうだ。

 そうだ。

 私の王国を築こう。

 私だけの平和な楽園を作り上げれば、きっと上手くいく。


 ジジジ。


 「がぁ、あ、ああ、あああ」


 争いのない、誰も恨まないユートピアを望めば何だって、この夢の世界は実現してくれる。


 望もう。

 望もう。

 その為には邪魔者を排除しなくては。


 「そうすれば、そうすれば──」


 再現の夜を構築し、現実化(リアルブート)すればそれは実現されるんだ。


 「……そう、だ」


 死体の山が詰まれていく。

 幾つもの骸を築いては屍の山に意思が埋もれてく。


 理性が。

 理性が。

 理性が邪魔だ。

 本能で生きろ、七瀬勇貴。

 そうすれば、お前の望む夢も手に入るのだぞ。


 「──その為には、邪魔だ」


 脳裏を霞む、グルグル回るメモリーを無視して私は愚者を待つ。


 此処は、コントロールルーム。

 私一人だけの城塞。

 さあ、来るが良い、ドンキ・ホーテ。

 お前の意志(コード)さえ奪ってしまえば、『再現の夜』は完成するのだから。


 ◇


 理性を失った学生たちが廊下をガタガタ揺らす。


 「キ、ィキキキイ!」


 理性を追いやった腐乱死体(ゾンビ)の中心に僕はいる。


 「邪魔、だ!」


 脳汁が飛び散り、モザイクだらけの四肢が千切れる。

 呻くような断末魔を上げるそいつらに向かって、魔術破戒(タイプ・ソード)を振り下ろす。


 「ギギギ!!!」


 迷ってる暇はない。

 有ったらそれこそ、今度はこっちがゾンビの仲間入りになってしまう──!


 「──っ、キリがないね!」


 だというのに。

 化け物に襲われるという窮地に、諦める気がまるで起きない。


 それは以前の僕なら考えもしないことだった。


 「キィイ、ィキキキ!!!」


 キーキーしか喋れないゾンビが一瞬の隙を突こうとする。


 「うおっ、ラアアア!!!」


 それを一歩下がって、叩きつけるように刃を振り落とし往なす。

 血飛沫は舞わず、聞くに堪えない断末魔を放つゾンビたちを切り倒し前へ進んでいく。


 「……何、あれ?」


 すると、その先に何か光が見えた。


 目を凝らす。

 眩い光を放つそれが初め何なのか解らなかった。


 ガシャン。

 唐突に、廊下中に鉄の擦れる悲鳴が響く。


 「あれは──」


 重い何かを引き摺って来るそれに目が慣れると、辛うじて全身を西洋の鎧で着飾った女騎士なのだと解った。


 ガシャン。

 それがこちらへ近づく姿を見たゾンビたちは一目散に逃げていく。


 「────」


 その光景に僕は足を止めて見るしか出来ない。


 ガシャン。

 顔を覆う兜、重量感のある全身鎧が異様な空気を纏わせた両刃の剣を構えてる。


 「……あれ?」


 ガシャン。

 騎士が一歩進む度、可笑しなことに気づく。

 顔が見えない筈なのに、その騎士が女性なのだと自分が決めつけている。


 「何で?」


 可笑しい。

 だって、その鎧姿だけでは女性を象徴するものは何もないんだから。


 なのに、僕はどうして──。


 ガシャン!

 騎士の足がピタリと止まった。

 互いの得物が届かない間合い、換算したら十メートルはない距離だ。


 ──だというのに、それが相手の間合いなのだと空気を通して伝わってくる。


 「──っ」


 息を呑む。

 蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来ない。


 「────」


 無意識に剣の柄を強く握る。


 次に動いたらそれが合図で襲ってくると直感したからか。

 騎士と呼ばれるものに対しての敬意だからか解らないが、本能がそうするべきだと告げている。


 「仕掛けないのですか?」


 凛とした女の声が騎士から発せられる。

 イメージしていた声色と同じだったので、益々驚きが隠せない。


 「……貴女は誰ですか?」


 漸く口に出来た疑問が、やっとのことで絞り出せた僕の言葉を噛みしめるように騎士は返答していく。


 「誰か、か。名前など捨てた身だが、──そうだな。敢えて名乗るのであれば、こう名乗るのが筋であろう」


 一瞬、両刃の剣を虹色に輝かせる騎士。

 その隙のない姿に、騎士が自分より遥かに格上なのだと理解する。


 「──あ」


 殺される。

 それだけで自分が無様に生き恥を晒すのだと気付いてしまう。


 何故なら、構える刀身に写るこちらの姿が──不安げな僕の顔が見えてしまったんだから。


 でも、それは生き物として仕方ないことだった。

 これから自分が殺されるってのにそれを理解出来ないヤツはどうかしてるって話なんだ。


 「廃騎士(はいきし)。人は(わたし)のことをそう呼んでいる」


 全身フルプレートの鎧の騎士がそう名乗ると、大気が歪む。


 「あ、ぐぅ」


 頭が痛くなる。

 ズキズキと痛みを訴え、平衡感覚が狂っていく。


 そして、そんな隙を待っていたかのように廃騎士がほくそ笑む。


 「──では、参る」


 静寂を破る女の、その無慈悲な殺人予告と共に廃騎士は僕へと跳躍する。


 「──っな!?」


 ──ガシャン!


 戦慄する。

 走り幅跳びでも高く跳ぶには助走が必要なのは生物として常識だ。

 だが、そんな常識をモノともせず廃騎士の一歩は四メートルの間合いを縮めたのだ。


 「が、ぐぅ」


 目の前がショートする。

 火花の幻覚が起こり、神経がスパークし息がつまる。

 深呼吸する余裕はない。


 ブゥンと虹色の刃が振るわれる。

 そう。僕を仕留める猶予は三秒、否、その刀身が僕の首をはねるまで一秒を切った。


 タイムロス。

 臆病な僕に許されない瞬間()に、それは唐突にやってきた。


 「なーに、やってるんだか」


 懐かしい声と共に首が掴まれ、在らぬ方向へと投げ飛ばされる中でそれを見る。


 「──っ」


 おとぎ話に出てきそうなお姫様がスカートを翻し、颯爽と僕と廃騎士の間に入る光景を。


 「────!」


 サラサラと紫の髪が風に靡き、少女の爪が断頭の刃を弾き飛ばす。


 「っぐぅ!」


 廊下の柱にぶつかる全身。

 衝撃に苦悶の声を出したが、それよりも窮地に駆けつけてくれた彼女の姿に目が離せない。


 「やはり来たか、──吸血姫」


 「ええ、来てあげたわよ、廃騎士さん」


 廃騎士の膨れ上がる殺気を前に少女は怯まない。

 そんな、嘗て真祖と畏れられた吸血姫──リテイク・ラヴィブロンツはその紅いダイヤのような瞳を輝かせ、人差し指を突きだしては微笑んだのだった。



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