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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第二章:紅蓮迷宮
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010 ありとあらゆる魔術を破戒する幻想殺しの魔剣と知れ


 「お前に殺されて良かったなんて、あんまりじゃないか!」


 天音の慟哭が──怒号が廊下中に響き渡る。

 それはまさに、混じり混ざった負の感情が爆発した瞬間だった。


 「──っ!」


 それを合図に僕は息を吐く間もなく駆け出すと、殺気に呼応するよう天音の背後に灰色の大蜥蜴が現れる。


 「やぁあああ!」


 無視して、一直線に魔剣を振るう。

 天音との距離は十メートルも離れちゃいないし、全力で走れば数秒も掛からず魔術破戒(タイプ・ソード)は彼女を斬ることが可能な筈。


 ブゥン!


 ──けれど、それは天音の背後の()()が邪魔をしなければの話。


 「がっ、ぁアア!」


 圧縮された空気が容赦なく腹に叩き込まれてしまう。

 その予備動作のない、巨大な蜥蜴が尾を振るうだけの単純な攻撃を前に僕はなす術もなく振り回されたのだった。


 「──っ」


 そう、現れたと同時に怪物は攻撃を転じたのだ。


 「グルルルゥ!」


 耳を引き裂くような咆哮が校舎を瓦礫と化していく。

 これだけ騒音を立ててるというのに、まだ誰も部屋から出てこないのは、何者かが現実に干渉している証拠だ。


 関係ない。

 考えるな。


 「ぐぅ、──がっ」


 痛みを堪え、直ぐ体勢を立て直せ。

 そうしないと次が来る。


 「ぶっ倒れろ!」


 天音が叫ぶと蜥蜴から第二の攻撃が繰り出される。


 「──っ!」


 手に握られた輝く剣を支えにし、脚に力を込め右へジャンプする。

 瞬間、窓ガラスが割れ破片を撒き散らすの横目に廊下の壁が拉げたことを理解する。


 「グゥルゥアアア!」


 そのままジャンプした鈍間を仕留めようと蜥蜴が尻尾を床に叩きつけた。


 「────!」


 瞬く間に地響きが起き、振動ご僕の足元を拐おうとする。

 いや──違う。


 「……しまった」


 今の攻撃で天音との距離は三メートルも離れてしまったと気づく。

 これでは、圧倒的な力の差に近づくことも出来ない。


 「いや、まだだ」


 光輝く剣を構える。

 すると目映い光を纏わせる刀身が、そんな僕の心情を跋扈するように輝きを放った。


 「まだ、──やれる!」


 駆け出す。

 離れた間合いを詰めようと足掻く僕を嘲笑う灰色の蜥蜴は舌を巻く。


 「グゥルルルルル!」


 三度目の正直だと言わんばかりに尻尾が僕へ叩きつけられる。


 「ぐがっ!」


 吹き飛ばされると脳が実力差を理解する。

 全身の骨が折れたように感じ、尚も起き上がって距離を詰めようともそれを灰色の怪物が許さない。


 「グゥルルルルルル!」


 耳障りな咆哮が、聞くに堪えない雑音が校舎を破壊していく。


 「……だった、ら」


 そうか。馬鹿正直に真っすぐ向かうから、動きを捉えられたんだ。

 なら今度はジグザグと変化をつけて走れば問題ない。


 「ハア、ハア」


 直ぐ息を調え、一メートルの距離をジグザグ走る。


 「これなら──」


 それでも天音に魔術破戒(タイプ・ソード)は届かない。

 幾度も尻尾が叩きつけられ、無様にも攻撃を諸に食らう僕。


 爆ぜる世界。

 一度でも立ち止まったら、そこで僕は殺される。

 息する暇もないから、愚直に距離を縮めるしか道はない。


 「──っち! いい加減、くたばれ!」


 罵声。基、苛立ち。

 数秒という攻防に対し、焦りだす天音。

 もしかしたら蜥蜴を現実化(リアルブート)させるのにも時間制限があるのだろうか?


 それならこっちに勝機がある。

 逃げに徹していれば、いつか天音にこの魔剣を突き立てることが出来る。


 そう希望を見出だしていると、ふと背筋にゾクリと汗が伝う。


 「だったらこれで、どうだ!」


 諦めず近づいてきてるのに焦った彼女が腕を振るう。


 ドクン。

 蜥蜴任せにしていたスタイルから一変し、空気が重たくなるのを感じた。


 「──っな!?」


 全身に得体のしれない重みが掛かる。

 そして当然、その突然の負荷に僕が耐えられる筈はなく。


 「や、やばい」 


 バランスを崩し、僕はそのまま動きを止める。


 「良し、──捉えた」


 それは、天音にとってまさに絶好のチャンス。

 この隙を逃す敵ではない。


 「グゥウウウルルルル!」


 永遠に思える瞬間。

 一秒ともないそれが背筋を凍らせて、やがて訪れる死が感じさせた。


 だが──。


 同時に眩しく魔剣が輝く。


 「──あ」


 そこで気づく。

 瞬時に、その感覚に身を任せるよう僕は間抜けにも横凪へ得物を振るった。


 「────!」


 見えない刃が死を誘うのと同じように、言い換えればキリのないそれに構わず僕は自嘲する。


 ドクン。

 さあ、怪物よ目を見張れ。その一撃こそありとあらゆる幻想を殺す一撃だと知るが良い。


 「──な、に?」


 天音が目を見開く。

 当然だ。

 彼女にとっての必殺が振り落とされたのだから、驚くのも無理はない。

 けれど、それすら凌駕する最強のチートがこの手には握られているのだからこれは必然だった。


 繰り返す。

 その光り輝く剣こそ、ありとあらゆる魔術を破戒する幻想殺しの魔剣と知れ。


 「グゥルルル!?」


 交差する。

 横凪ぎへ振るわれた一撃によって蜥蜴の尻尾は切り裂かれ、光の粒子となって散っていく。


 「あり得ない」


 ぺしゃんこ。死。今までの記録では圧倒的な殺戮の異能であった彼女の中の最強のチート。

 でも、それは僕が持ってる最強のチートには敵わなかった。


 「あり得ないでしょ。そんな能力(チカラ)、アタシ知らない!」


 そう、知らない。

 彼女は僕の繰り返しを見てはいない。

 何せこの天音は、この夢の中での繰り返しをしているだけに過ぎないのだ。


 だから外の世界へまだ辿り着けてない、天音が見たかった、もしもの天音は瑞希ちゃんの最期を知らないんだ。


 ブン、と魔剣を振るう。


 「──っ」


 空気が変わる。

 世界が変わる。

 嘘まみれのそれを終わらせようと僕は(あまね)を見据える。


 「知らなくて結構。──さあ、終わりにしよう」


 三メートルは切った。

 一撃が届くにはまだ先は長いが、けれどそれも時間の問題だ。


 だって、この一撃が天音に届くと確信したんだから。


 「ふ、ふざ、けるな」


 駆け出すと背後のそれが暴れだす。

 もう崩壊間近かもしれない校舎に関係なく先を目指す。


 「く、来るな」


 天音は恐怖する。

 自身が誇る最強をものともしない怪物を前に足が震えてる。


 ──そう、未来を夢見た少女は消滅を恐れているのだ。


 「来るな。来るな来るな来るな来るな、」


 吸って、吐く。

 ジグザグ、ジグザグ駆け出して剣を振るう動作を少しでも軽減させては残り二メートルの間合いを詰めていく。


 「こいつで──!」


 縦横無尽に僕目掛け、天音は蜥蜴による見えない攻撃を繰り出すも何度も魔術破戒(タイプ・ソード)で往なす。


 「グゥルルルルゥラァアア!!!」


 もう蜥蜴の咆哮なんぞ怖くない。

 怯えるようなそいつ目掛けて一撃を繰り出せば何もかもが終わるんだ。


 だから、駆け出せ。

 そんなもの願われてないとお前は気づいているんだろう。


 「──っ来るなぁあああ!!!」


 一瞬。

 脳に誰かの笑顔が掠める。

 ついに僕をヒーローだなんて言い出した少女の姿が朧気に見えた。


 幻想の断末魔のを前に圧縮された死が乱雑に放たれるのを魔術破戒(タイプ・ソード)で搔き消し、残り一メートルの間合いへ足を踏み入れる。


 そうして──、


 ────「だからですよ。貴方の傍に居たいだなんて思えるんです」


 いつか見た真弓さんの言葉と共に、手にした魔剣で天音を切り裂いた。


 血は出なかった。

 数秒後にやって来る粒子が塵となるだけだった。


 「あ、ぁあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 裂かれた天音は視線を自身の胸元へと向けると、そのどうしようもない傷を見て、今度こそ己の死を理解した。


 酷い断末魔だ。

 雑音染みた悲鳴が鼓膜を震わせ、彼女は舞台を降りるのだった。


 ◇


 「──ッハ!」


 意識が覚める。

 悍ましい殺意に身を委ねていた気がする。

 汗が止まらない。

 脳に先ほど見た夢がこびり付いて離れない。


 「ぅううう」


 酷い悪夢。

 出来の悪い死を夢として見ていた気がする。


 ジジジと幻聴が聞こえる。


 「ゆ、夢?」


 震える身体を抱きしめて、冷静になろうと起き上がる。

 静寂が包まれた部屋。

 上を見上げれば知らない白い天井が出迎えていた。


 「というより、ここは何処?」


 それより、アタシは誰なんだと自身の名前が思い出せない。

 どうしてこの部屋にいるのかも。

 そして、何でアタシは記憶を失くしてこの部屋に眠っているのかさえ解らない。


 「暗い? 夜なの?」


 白いベッドから身を起こし、近くにある窓から外を見る。


 「──あ、綺麗な星様だこと」


 何故か知らないが、そんな言葉が口から出ていた。

 先ほど見ていた夢のことなど、この時のアタシはもう忘れていたんだ。


 ◇


 パラパラと崩れそうな校舎を後にした僕。

 先ほどの戦闘で身体が無理をしていたらしく、所々が痛くて仕方ない。


 「っつぅ」


 目指す先など知っている。

 コントロールルームと呼ばれている場所はあの不思議なオブジェの先にある。

 日が昇っているというのに人っ子一人見かけない。

 全身の痛みを堪えて、兎に角、中庭へと足を運んだ。


 ピーガガガ。ピー、ピーピー!


 ノイズ。雑音。それは、警告音(アラート)

 全身に汗が吹き出し、後数歩で中庭にたどり着くというのに足を止めた。


 ザザザ! ザー、ザー。

 相変わらず電波が乱れた幻聴。

 世界は一瞬たりともバグを見逃さない。

 異常を感知したプログラムが補修しようと矛盾を排除しようと躍起になる。


 ウー、ウー、ウー。

 ピーポー、パーポー。

 稚拙でチープな効果音(サイレン)が鳴り響く。

 どうやら、バグとして僕は認知されたらしい。

 エラーは最も許されないバグだと決めている。


 瞬きする。

 その一瞬を突いて校正プログラムを主張するそれが出現した。


 「エラー発見! エラー発見! 早急な対処を求めます。迅速な排除を優先します。エラーです。エラーです。繰り返します。エラー発見! エラー発見! 早急な対処を求めます。迅速な排除を優先します。エラーです。エラーです」


 目の前に見知らぬ男子生徒が現れる。

 声を出して叫ぶ姿が酷くチープに見えて仕方ない。

 繰り返す暇があるなら、お前が対処しろと一々文句を言いたくなる。


 「エラー発見! エラー発見! 早急な対処を求め、」


 すぐさま、魔術破戒(タイプ・ソード)で喚き散らす男子生徒を切り倒す。

 とても耳障りで仕方なかったから別に気にしなくても良いよね。


 ウー、ウー、ウー!

 ピーポー、パーポー!

 喧しく幻聴が鳴り響く。

 どうやら悠長にしてる時間はないらしい。


 中庭のオブジェに走り込む。

 一秒と時間を掛けないようにしても一般生徒(モブ)が邪魔をしようとやって来る。

 チートを持っていようとも、一個人の力に数の暴力はあまりにも無力だ。

 キリがない。

 どうやら、神様にとって僕って存在は気に入られてないようで、やることなすことケチがつく。

 実に憎たらしいことこの上ない。

 死ねばいいのに。


 「じゃ、ま、だ!」


 オブジェに向かって走って、後数歩だと言うのにバランスが崩れて足がもたつく。

 何かに足首を掴まれて、思わず転倒しそうになる。


 「嘘、だろ!?」


 ワラワラとモザイクな顔の生徒が現れては邪魔をする。

 後、もう少しで交信の杖へとたどり着けるというのにこれでは、もうどうしようもない。


 ガシ、ガシと徐々にそいつらに埋もれていっては揉みくちゃにされて動けない。

 嗚呼、どうしていつもこうなんだと泣き崩れてしまいたくなる。

 自分の意志も持てない癖に邪魔しないで欲しい。

 徐々に意識が闇に埋もれていく。

 まだだ、まだだと奮起しても状況は何も変わらない。

 寧ろ、悪化していく。


 ──だと言うのに。


 「邪魔すんなよ。この先に行くんだ。行かなきゃ、いけないんだよ! この先に──」


 この手にまだ希望を握りしめている。

 腕が振るえなくても、それを手放すことは頑なに拒んでる。

 耳障りな誰かのガイダンスが聞こえる中で現状の打破を諦めない。


 「この先に待ってる奴に会いに行くんだ!!!」


 暗闇となる視界。

 沼に浸かっていく錯覚。

 藻掻き苦しむ中で、それはついに訪れる。


 「ウオラァア!!!」


 唐突に声が聞こえる。

 僕を友達だと言った男の声が響き渡る中、一瞬にして視界が晴れていく。


 温かな光。焼き付く生徒たち。

 自身の身体に何の熱量も感じさせない、幻の焔。


 「よぉし! ──今だ、ルイ!」


 ガシっと身体を支える誰か。

 その叫びと共に僕の身体を押し上げる、いつの間にか居なくなっていた友達。


 「任されたぁあ!!!」


 真弓さんを助ける時と同じように何故か動き出す鉄塔。

 開かれる門。

 そこへ、ヒョイッと放り込まれる僕。


 「頑張りなよ、僕の親友(ユーキ)


 その声を聴くのは酷く懐かしく感じた。


 数秒も経たず、ゴゴゴと門は閉じられた。

 二人の友達の頑張りは見れなかったけど、けどそこにある確かな絆は感じられた。



 面白い、続きが気になる、応援してると思ったらと少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!


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