表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第二章:紅蓮迷宮
24/154

005 差し伸べられた手


 「大丈夫、大丈夫。コイツはそーいうのしないから」


 ガヤガヤと騒ぎ立てる生徒たち。

 安らぎのない日常の一幕。

 見たくもなかった、昔の自分。


 「そうそう! だーかーらー、こうするのは正しいんだよぉお!」


 地に伏せていたら腹を蹴られる。

 痛い。

 頭がくらくらしてるのか、意識がはっきりしない。


 「ぐぅえ!」


 毎日のように暴力を振るわれ、身体が痛くて仕方ない。


 「ギャハハハ! ぐぅえ、だって! 口をパクパクさせてやんの、金魚かってーの!」


 ゲラゲラ、ゲラゲラ。


 誰も庇ってなんかくれない。

 誰も助けてなんかくれない。


 このイジメは彼らのご機嫌次第で終わるのだ。


 「おいおい、止めてやれよー。イテェんだってさ、このグズ言ってるよー」


 首根っこを掴まれて強要される返事。

 何処にでもあるような陰湿な風景がそこにはあった。


 男子生徒たちは笑い合う。

 僕のそんな心情が可笑しいのか汚い嗤いで騒ぎ合うのがどうやら彼らの趣味らしい。


 二度と見たくもない記憶がそこにはあった。


 キキキ。

 キキキ!


 視界が歪む。見たくないモノに蓋をする。

 回る、回る。グルグル回れ。


 ぐにゃぐにゃとした映像がノイズを交えて再生を中断する。


 終われ。

 終われ。

 終われ、よぉ。

 誰かの声を聴きながら、胡蝶の夢に僕は溺れて目が覚める。


 ザー、ザー。

 ノイズが遠くなっては、そこで気がつく。

 渡り廊下にいた筈なのに、散乱した自分の部屋にいる。


 さっきまで、真弓さんと話していたというのに彼女が近くにはいなかった。


 「何、だよ」


 思わず口がでる。

 無性に腹が立ってしまい、近くにあった椅子を八つ当たりに蹴飛ばす。


 「……何なんだよぉ!」


 グルン、と椅子が音を立て転がり出す。

 見てる現実が夢の世界だと言われ、自分が今見た光景に反吐が出る。

 この痛みさえ夢と理解してしまうことが辛かった。


 「今、何時だろう?」


 部屋の時計を見ると、時刻は八時を指している。

 誰かに聞くぐらいしかこの学園で日付を確かめる方法がない。

 そう言えば、自分もこの世界の人たちもスマホなどの通信機器を持ち合わせちゃいなかったなと思った。


 「どうしよう」


 正確な日時を確かめる術がない。

 昼間ならば周囲の人間にそれとなく聞けば良いのだが、時計の針は八時を指しているのだ。

 部屋の窓を見たところ、空は明るくはない。

 従って午後八時なのだろうと推測が立てられたのだった。


 「うん、迷ってても仕方ない」


 情報を求めるために夜の学園を探索するのも悪くない筈だ。

 僕はそう決めると、ドアを開ける。


 ギィッと音を立てて軋むドアを尻目に先を目指す。

 部屋から出る。

 たったそれだけのことだが、大したことも出来ない僕にとっては野犬一匹を相手するのも死活問題だ。


 カツン、カツン。


 まだ午後八時だというのに、何故だか廊下には人の気配がない。

 まるで真夜中の静寂が辺りを包んでる。

 虫の鳴き声さえ響かない雰囲気に何かとてつもない不穏さを感じた。


 「まだ、八時だよね?」


 誰かに話が聞ければ幸いだと思ったのに、これでは無駄足だったかなと少し後悔した。


 カツン、カツン。


 本来は八時という時刻は飯時が終わり、学生たちが風呂やら何やらでもう少し人が居ても可笑しくない時間帯。

 考えもなしに廊下を歩いては、普段と違う不気味さに不安が隠せない。


 「可笑しい」


 一通り先へ進んでから、その異常さに立ち止まる。

 ドアを開けてから何となく気づいていた違和感がここにきてピークに達した。


 「人が一人もいないなんてあり得ないでしょ」


 ビュー、ビューと冷たい夜風が吹く。

 ガタガタと廊下の窓が軋む。


 無音の世界に僕は意を決して外へ出たことを後悔した。


 「戻ろう」


 そう独り言を言い、(きびす)を返そうとしてそれはやって来た。


 「キキキ! キキキキキィ!!!」


 何処かで耳にした奇声。

 倒した筈だと、心のどこかで油断していたのは事実だ。


 時間が巻き戻ったのではないかと一番に疑っていたのは僕自身の筈なのに。


 それは、やって来た。

 気配もなく、愚かな僕を仕留めに来たのだろう。


 極上の獲物。

 この場で仕留めてしまえば、後は邪魔な僕の記憶とその原因の『ダーレスの黒箱』を回収すれば良い。


 恐る恐る、奇声が発声した方へ首を回して向く。


 だが、想像していた影ではないモノがそこには居た。


 「キキキ、キキキキィ!」


 どの器官から発声させているか分からない。

 それが普段、小さい個体として認知されているだけで、実際には発声する器官というものを持ち合わせていたのかもしれない。

 重ねていうが、本来それは数センチにも満たない大きさをしていた生物の筈なのだ。


 呆然とする僕をニタニタと嗤うように、奇声を上げ続けるそいつの姿に驚きを隠せない。


 よくファンタジーでこういう大きさのモンスターと戦うことがあるなと思っていても、実際、それに遭遇したら目を丸くするに決まっている。


 「蜘蛛?」


 廊下に備え付けられた電灯がまだ点いていたから、それの姿を目視することが出来た。

 もし点いていなかったら、暗がりで見過ごしていたかもしれないという事実にゾッとせずにはいられない。


 「キキキ、──キッシャアアア!!!」


 赤ん坊ほどの大きさの、血を浴びたような真っ赤な蜘蛛が一匹、廊下の壁に張り付いていたのだ。


 「う、うわわわぁあ!!!」


 その蜘蛛から一目散に逃げる。

 嫌な予感がした。

 ゾクリと誰かに舐めまわされているかのような悪寒もした。


 逃げ出す僕。

 けれど、その判断は間違いだった。


 カサカサ、カサカサ!


 そんな蜘蛛の這う音と耳を(つんざ)く奇声が、夜の校舎中に響き渡る。


 いつの間にか校舎の廊下に来てしまった自分のバカさ加減に憤りながらも蜘蛛から逃げようと走った。


 カサカサカサ! カサカサカサ!


 大きい蜘蛛と表現しておきながら、自分の体格を上回る訳じゃないのならそこまで恐怖することじゃなくないかと思うだろうが、大して心構えもしていない状態でそれに向かい合ってみると良い。

 そんな考えは一瞬もしないから。


 そんなことを思いながら逃げていると、思いっきり転んでしまった。


 「ぐわぁ!」


 ドテンとか、バタンとかそんな衝撃が身体を襲う。

 足に何かが巻き付いて離さなかった。

 目を向ける。

 よく足元を凝らして見ると、粘々とした糸が絡みついてることに気づく。


 「キキキ、キキキキキキ!」


 周囲を見渡す。


 「うわぁ」


 いつの間にか僕を囲う追ってきた蜘蛛と同じ無数の蜘蛛たちが居る。

 ワラワラとひしめくそいつらは、獲物を物色するように口元から涎を垂らしてた。


 そうして。

 一匹の蜘蛛が綺麗な放物線を描き、飛びつく。


 ガブリ。


 体中のいたるところに噛みつく蜘蛛。

 やっぱり、こいつら肉食だったんだなと場違いなこと感想を抱きながら、噛まれた部位を元に言いようのない激痛が身体を襲った。


 ガブリガブリ。


 数秒もたたずして僕の体中を蜘蛛が食い荒らす。

 当然、視界は一気に真っ黒になっては意識がフェードアウトしていく。


 「ザマァねーなぁ! ワッラエルー!」


 最期に、耳を劈く名前も知らない女の罵声が聞こえたのだった。


 チクタク、チクタク。

 逆さまに時計の針が回りだす。


 ◇


 ワラワラ、赤ん坊ぐらいの大きさの蜘蛛に埋もれる僕。

 グチャグチャ、ムシャムシャしてゴックンされる僕の身体。

 その血肉を食べて、蜘蛛たちは奇声を上げた。


 「キキキィイ! キキキキキキキィイイイイ!!!」


 止めどなく押し寄せる食欲に身を任せ、蜘蛛の怪物は獲物を骨の髄まで頂いた。


 「ザマァねーなぁ! ワッラエルー!」


 聞いたことのない女の嗤い声。


 そこで途絶える僕の意識。


 ────「ダーレスの黒箱を探しなさい、勇貴さん」


 しなくてはならないことが頭の中に木霊してた。


 ◇


 「これ、飛鳥ちゃんが君に渡しておいてって頼まれたの」


 ──ッハ!?


 気がつくと、リテイク先輩からダーレスの黒箱を貰っていた。

 手のひらに収まるほどの蓋が開けられない箱を凝視する。

 その中に入っているであろう何かも解らない。

 今のところそれが与える恩恵によって、助かりもしてる。


 だが。

 これから先、それが僕を苦しめるモノになるかもしれないと思うと恐ろしくなった。


 そこまで考えていると、不意に先ほどまで体験していたことが頭の中に甦る。


 死んだ。

 今度こそ、はっきりと自分が殺された。



 「ぅう、あ?」


 無数の蜘蛛に体中を齧られ死ぬ。

 その事実に鳥肌が立って気持ち悪い。


 ダーレスの黒箱を手に呆然と突っ立てる僕をリテイク先輩は目を丸くして見つめてる。


 生きてる?

 僕、生きてる?


 あまりの恐怖に身を震わせ、思わず自分の身体を抱きしめる。


 「あー。兎に角、ちゃんと渡したから。まあ、頑張って」


 リテイク先輩がそんなことを言って、森の奥に立ち去る。

 僕の心配をする素振りも見せない。

 寧ろ、関わり合うの避けるような態度だった。


 へなへなと、腰が抜けて座り込む。

 そうしていると、何だかやるせなさで頭がいっぱいになった。


 まるで、そんな僕の姿を嘲り嗤うかのように森の奥底から鳥たちのさえずりが聞こえた。


 カチカチカチ、そんな幻聴も聞こえてきそうな一度目の死に戻りであった。


 ◇


 ザー、ザーとノイズが掛かり電波が入り組む。

 それは、彼が知らない出来事。

 それは、彼女も知らない夢の記憶。


 「ウェサリウス、それは本当なんだろうな?」


 眼鏡の少女。

 存在自体が偽物の彼女は、オレンジの髪の少女に問いかけます。


 「勿論。お約束しますわ」


 簡潔にその問いに答える様子に何の動揺も見せない姿は、魔女を連想されるほどに妖しく見えた。


 大樹のように伸びた鉄の柱を中心に六つの細い柱がグニャグニャと歪み交わった魔導兵器。

 それが無ければ、アタシは生まれなかった。

 これが無ければ、そもそもこの夢の世界は創れなかった。


 「私が外なる神を取り込んだ彼女を誘導する。そして貴女は今からお渡します秘策で誘導された彼女から『ダーレスの黒箱』の『強奪』の疑似粒子を回収して頂きたいのですわ。そうして頂けましたら、後は私が貴女のお兄さんのアストラルコードを『創造』し適当な下位幻想に定着させて差し上げますわ」


 童話に出てくるような真っ黒いローブから少女は何かを取り出して渡します。

 手のひらサイズの羽の生えた人間。

 目元が安っぽい緑のジュエリーの色をしており、汚い葉っぱのようなグリーンの毛だった髪。

 特に装飾のない純白のワンピースがその可憐さを引き立たせていた。

 キャッキャッと人懐っこく、陽気な少女の笑い声を出すイタズラ好きの妖精がアタシの手のひらにやってきました。


 「コイツが?」


 渡された一匹の妖精が自由にアタシの周りを飛び回ります。

 妖精らしい陽気さで、だからこそ、魔女の言う秘策というイメージには合わなかった。


 「ええ。それは、『欺瞞』の妖精(コード)。怠惰を司る『ダーレスの黒箱』による権能(チート)ですわ。モノがモノなだけに胡散臭く見えるでしょうけど、大丈夫。それの能力は保証致しますわね」


 飛び回る妖精はやがて、その行為に飽きたのかアタシの肩にちょこんと座るように腰を落とした。

 精霊の一種なのか、それはあまりにも軽く感じてしまい拍子抜けだった。

 そうして肩に座り込んだその『欺瞞』の妖精(コード)は目元を拭いながら、欠伸をした。

 その様子は、まるで誰かの手のひらで踊るに疲れた道化役者ジミていて何処か気味が悪かった。


 「最早、彼女は外なる神に逆に取り込まれようとしている。殺すには惜しい駒ですわ。私たちは、彼との再会を約束した仲なんですもの。そのまま意志を剥奪されるのなら、利用出来るところまでは利用するまでなのですから」


 夕刻が夜の始まりを告げようとしていた。

 魔女は悦んだ貌で空を見上げるものだから、アタシもそれに習うように見上げた。


 ◇


 「こうしていても始まらないか」


 もし僕が死に戻りをしているという仮定を前提にするのであれば、きっと彼は今も僕を心配して着いてきてる。


 「なあ、もしかして火鳥、近くに居るの!?」


 近くで見ているだろう火鳥を大きな声で呼びかけた。


 「あん? お前、何でオレが此処に居るって解ったんだよ?」


 驚いた火鳥が直ぐ近くの茂みからこっちに近づいてきた。


 「それは──」


 正直に答えるかどうか、一瞬、考える。

 もし、火鳥も僕が知らないこの世界の真実とやらを知っていて、それを伝えたら真弓さんと同じように自分の身に何かが起きてしまったらどうしよう?


 そう思ったら、本当のことを言うのは止めておこうと躊躇った。


 「ただの感さ」


 その時の火鳥の表情はこっちからは茂みに隠れてて見えなかった。


 「ハ? また、珍しいな、そんな感がお前さんに働くとはよ。いつも地雷に足を突っ込みに行くぐらい察しが悪いのによぉ」


 ハハハと乾いた笑いをしながら、駆け寄ってくる。

 良かった、いつも通りの火鳥だ。


 「さっき、リテイク先輩に何言われたか知らねーけどよ。多分、あの人も悪気があって言った訳じゃねーと思うぜ。あんま気にすんな」


 僕の姿を見た火鳥は何かを悟ったように気遣ってきた。


 「──気にするも何も、これと言って何か言われたりしてないよ……。どうしたの?」


 「お前、今、自分の顔がどうなってるのか解ってんの?」


 不機嫌そうに喋る火鳥。


 「どうなってるも何もどうもしちゃいないよ?」


 少しでも虚勢を。

 僕は自分の抱えてる現状をこれ以上、最悪なモノにしたくはなかった。

 何故か、彼には相談したくないなと思えてきた。


 「顔、真っ青だぞ」


 解らない。

 顔が真っ青になってるから何だって言うんだ。

 体調が優れなくなる時とか人間にはあるだろう?


 「あのな、勇貴。オレは人間が嫌いだ」


 黙って見ていた火鳥が不意に口を開いた。

 突然、何を言っているんだという自分語りを始めた。


 それは、いきなりで何したいんだって思えたけど、悪い気はしなかった。


 「誰かから聞いてるかもしれないが、オレはちょいと特殊な魔術の家系でよ。ある特殊な条件で自分の身体を炎に変える能力を持ってんだ」


 遠い目をした火鳥。

 それは、何を思い出してなのかは解らない。

 記憶のない僕にしてみれば、その過去を思い返すという行為が羨ましくも思う。


 「条件さえ当てはまっていれば、燃え尽きなければそれこそ不死身の身体だ。そりゃあ、他の魔術師のヤツラからしてみれば喉から手が出るほど欲しい能力だ」


 人間の醜さを知ってる。人間の愚かさを知っている。

 人間が人間に行う度を超した悪逆を知っている。


 「中には何でお前なんかがそんなご大層な能力を持っているんだ、と言いがかりをつけては妬むヤツらがオレを虐めて来たよ。毎日のように暴力を振るわれたし、オレの使ったモノは片っ端から壊されて親に怒られたことも有る。両親はそんな虐められているオレのことを一族の恥さらしだなんて邪険に扱う始末さ。オレはさ、世界には苦しむオレを嘲う連中しか存在しないんだって思っちまってたんだぜ」


 幼少期にそんな経験をしたのだろうか。

 それとも、それは今も続いてるのだろうか。

 もし、この夢の世界の中でもそれが続いてるのだとすれば──。


 「だからオレは誰も信用なんてしなかった。善意な振りしてオレを虐げるヤツも居たから。でも、そんな暗い日々を生きてる時にある日、ヒョイとバカがやって来たんだ」


 懐かしむような顔。

 もしかしたら、今、こうして誰かと笑っていられるのも、そのバカな人のお陰かもしれない。


 「そいつはよ、誇りある騎士がどうたらこうたらと宣いながら、虐められているオレを助けたんだよ。後から理由を聞いても、誇りある騎士がーの一点張りで、そいつがオレを助けたのも騎士道がどうとかの訳の解らないことの一点張りだ」


 ん? 騎士?


 「……言っとくけど、累じゃないぞ。累よりももっと騎士バカだ」


 「え? あー、そうなんだ」


 累のような人も居たのは驚きだ。


 「まあ、累のヤツもそいつに憧れてたのは事実だがな。……って、そんな話はどうでも良いんだ。話が脱線しちまったけどよ、つまり、世の中にはそんな善意の塊みたいな連中もいるってことなんだわ」


 火鳥は自前の赤髪を搔きながら、手を差し出してはこう言った。


 「え?」


 その差し伸べられた手を見つめる。


 「つまりなー。あー、ックソ! こういう時にどう言うのか分からねーけど、友達ってのは困ってるダチを助けるモノなんだろ?」


 少し恥ずかし気に頬を赤く染めながら、それでも僕を真っすぐに見つめてそんなことを言ったのだ。


 「……あ、──アハハハハハハ!」


 思わず、腹を抱えて笑ってしまう。

 お腹が痛くなるぐらいに笑えてしまい、どうしようもない。


 「な、何だよ、お前!」


 何が可笑しいとムキになる火鳥。


 「ごめん! ごめんってば!」


 笑いながらも、必死で謝る。

 謝りながらも差し伸べられた手を掴んで、


 「そうだよね! あー、そうだった。友達ってそういうもんだったね!」


 不器用な優しさに目元の涙を拭うのだった。


 ◇


 ジジジ、ジジジジジジ。


 友達。

 勤務、学校あるいは志などを共にして、同等の相手として交わっている人。友人。


 友情。

 共感や信頼の情を抱き合って互いを肯定し合う人間関係、もしくはそういった感情のこと。友達同士の間に生まれる情愛。しかし、それはすべての友達にあるものではなく、自己犠牲ができるほどの友達関係の中に存在する。


 ジジジ、ザー、ザー。


 反吐が出る妄想。

 何度もそうしては、同じことを繰り返す愚者を見つめる男。

 乱雑に切りそろえた青い髪を掻きながら、モニター越しに映る二人を眺めてはそんな感想を抱いた。


 「懲りない連中だ。何度そうしたところで貴様はあのお方への供物なのだと何故、理解が出来ないのか。つくづく理解に苦しむ」


 カタカタカタ。


 白衣の男は取り戻したアクセス権を駆使して、分散していたオートマンに埋め込んだ疑似粒子を向かわせる。


 エラー、エラー。

 対象への干渉を受け付けません。

 レン高原より来たりて終焉を待つ蜘蛛より伝言を受信しました。

 確認なされますか?


 突如、機械的なガイダンスがコントロールルームに流れた。


 「ぐぬぬ。何だと? あの女め、さては気づいてたな」


 すぐさま、先ほどまで来訪していた少女の意図に気づいたが、毒を吐くぐらいしか男には出来なかった。


 「ふん、まあ良い」


 カタカタカタカタ。


 レン高原より来たりて終焉を待つ蜘蛛からの伝言を再生します。


 モニター一面に広がる、蜘蛛の群。

 その蜘蛛たちの中心に玉座に座る黒いスーツの女。


 「ハロォウ、エブリデイ! アズマボーイ、お元気でちゅかー? アタクシ様は元気にやってまーす!」


 相変わらずこちらの空気を読まないその態度に、呆れと通り越して関心してしまう振る舞いをしている。


 「アズマボーイとしては、テメェは引っ込んでろよー、ナチャ様ってカンジーなんだろぉうけどさ。こっちもこっちの事情があるンデェスよぉう」


 口調の所々に語尾を長ったらしい巻き舌は相手にすれば相手にするだけ、癪に障るのだった。


 「まあ、それもそれもアタクシに譲ってチョーダイなぁあ」


 ワガママで、痛々しい言動の女は嗤う。


 「っつーことで、ヨロシクゥウ! じゃあーバイバァアイ!!!」


 頼みごとという名の一方的な要求。

 完全に自身を格下と見ている女に対し、男は苛立ちながらも何もしない。

 何をするにも自分には何の干渉も出来ないということは外なる神が容認した事実なのだと言い聞かせた。


 それが、何も出来ないことへの逃避なのだと悟りながらも彼にはそうすることでしか自己を保管することが出来ないのだ。


 ピーガガガ、ピーガガガ!


 電波が視聴領域を越えました。


 「アトラク=ナクアの権能(チート)の使用を確認。──これより、静かなるディストピアから悠久なるアポカリプスへと移行致します」


 いつか聞いた少女の、機械的なアナウンスがコントロールルーム中に響きわたった。


 ◇


 それは、宇宙より彼方より来たモノ。

 それは、全ての文明を築く何か。

 それは、自由気ままに世界を滅ぼす存在。


 果ての世界に寡黙な男がいる。

 その男は世の中というものが心底嫌いだった。

 思い通りにいかない人生に嫌気がさしていたと言っても過言じゃない。


 生きていても良いことがないなんてよくみんな言うけど、それでも彼は割り切って生きてきたつもりだ。


 でも、誰も彼を見ちゃいない。

 彼もまた誰も見ちゃいない。


 いや、本当は誰もが彼を見ていたし、彼もまた誰もがを見ていた。


 ただ、それが一方通行で気づかなかっただけだったのだ。


 物語は綴られる。

 後のない自分の気を少しでも晴らす為に。

 八つ当たりでしかない、それでも誰もが好意を以て接してくれるんじゃないかと期待して。


 でも、それは果たされない。


 何故なら人は見たいものしか見ないのだから。


 ◇


 不器用に手を差し伸べられた火鳥の手を掴む。

 インテリを思い浮かべる魔術師の手にしてはゴツゴツとした分厚いモノだった。

 温かい、人間の熱が篭ったそれに触れると何だか勇気が湧いてきそうな気持ちになる。


 「応よ。つっても、オレも友達は累のヤツぐらいしかいねーんだけどな」


 頼りになりそうでならなさそうな言葉。

 それでも場を和まそうと告げられた火鳥の優しさだ。


 「僕も。僕も男友達って言えるのは火鳥と累ぐらいしか居ないかな」


 「ガハハハッ。知ってる」


 他のクラスメイトたちとは、喋っていても何処か溝がある感じがして友達と呼べる間柄でないのはどうやら火鳥から見ても明らかだったらしい。


 そんな僕らの不器用さをハリネズミのジレンマという話を思い浮かべた。

 いや、ハリネズミじゃなくヤマアラシが正しい言い方だったかもしれない。

 有名な心理学用語で、ドイツの哲学者が執筆した本の逸話が元になったのだとされている。


 冬の寒い日に、ヤマアラシの群れが互いの体をくっつけて温め合おうとしたけど、双方の針毛が刺さり痛くてすぐに離れてしまう。離れると寒いからまた体を寄せ合うけど、やはり針毛が痛くてくっついていられない。ヤマアラシたちはくっついたり離れたりを繰り返し、いい距離を見つけることができた。


 確か、そんな内容だった筈だ。


 だから、互いに距離を置いてた。

 けれど、距離を詰めなくては分からないこともある。


 そして、その距離を詰めなくてはいけない時は、きっと今なんだ。


 「多分、信じてくれるか分かんないんだけどさ」


 全部は信じてくれないかもしれない。

 自分自身でさえ信じられない状況なのに、他人はもっと疑うことだろう。

 けれど、友達ってのは頼り頼られるものだと、何処かの書物に書いてあった。

 幻想でしかないそれを信じてみるのも、きっと悪くない。


 「先ず、リテイク先輩にはこの黒い箱を貰ったんだ」


 人間嫌いの彼がここまで言ってくれたのだから、寧ろ、今ここで信じなかったら何時、誰かを信じるというのだ。


 ◇


 「ふーん。この世界が造られた夢の世界ねー」


 「信じて、くれるの?」


 カチカチ、カチ。

 自分でも話していて荒唐無稽な話だと思った。

 というより、話が飛び飛びで自分でも訳が分からないと思う。


 意思がどうとか、自分という存在がみんなとは違う世界から来た人間だとかそんなことを言ってきたら、迷わず病院を勧める自信がある。


 「全部を信じられるかと言ったら、信じるなんて出来ねー。だが、お前が何かヤバいことになってるっていうのは伝わった」


 火鳥は、友達の話だしな、と言うとケラケラと笑った。


 「先ず、世界がどうとか人の意志が操られているとかの話は置いておく。正直、名城の嬢ちゃんが厨二病を発症してるって与太話にしか聞こえねー。問題はお前を襲ったとされてる人食い蜘蛛だろう」


 やはり、全部を信じてくれる訳じゃない。

 それでも、少しは信じてくれるっていうのだから有難い話だ。


 「うん」


 「ここ最近、夜に生徒が数名、行方不明となってる話が出てる。お前を襲ったってさせるのは、この噂の怪物と見て間違いはなさそうだ。オレたちのクラスにはそういう揉め事に関しての相談窓口みてぇなことをしている嬢ちゃんがいるし、上手くいけばそいつが何とかしてくれるかもしれねーしな」


 火鳥はそう矢継ぎ早に喋ると、行くぞと言って森から出ようと先に進む。


 しかし、相談窓口みたいなことをしている人なんか僕のクラスに居たっけ?


 そう疑問に思っても、心当たりが思いつかなかった。



 面白い、続きが気になる、応援してると思ったらと少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ