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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第二章:紅蓮迷宮
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001 騒がしい朝


 誰も居ない暗闇に僕は居る。


 「またか」


 それは、何度も見た夢だった。

 時間が経てばいつか醒めるのなら、何か別のことでも考えていた方が良い。

 そうだ、そうしよう。

 名城さんの名前をどうして忘れてしまったのかとか、結局あの男が何者なのかとか、あの黒い魔導書──藤岡飛鳥の目的が何なのかとか。


 ズブズブ。


 僕を離さないと言いたげに身体が暗闇に呑まれていく。

 もう何度目のことか、この暗闇に慣れる自分が此処に居た。


 「速く覚めないかなー」


 だから気づかない。

 この不確かな白昼夢こそが現実なのだと気づかない。


 ◇


 「ハア、ハア」


 夢から醒め、ベッドから起きあがる。

 鳥の(さえず)りが温かな日差しと共にやってくる。

 こんなにも気持ちいい朝だと、つい二度寝をしてしまいそうになるものだ。


 「おはよう。無事に目が覚めたようで安心したよ、愚者七号」


 パタパタと頁を耳元ではためかせ、そんなことを誰かが囁く。


 「……うん、おはよぉー」


 女の子に起こして貰うとか夢だったけど、叶ってしまうとは僕も致し方ないなぁ。


 「──ん?」


 待て。

 この部屋には僕一人しか居ない筈だ。

 それなのにどうして僕は挨拶なんてしているんだ?


 「それはね。魔導書であるこの()()が寝ているキミを起こしに来てあげたのだよ」


 いやいや!

 昨日寝る時に魔導書(きみ)は無かった筈だし、部屋には鍵掛けてた筈だよ!?


 「そんなものボクのチカラを以てすればちょちょいのちょいさ」


 いやいやいやいや!?


 「うぇえええ!?」


 驚きのあまり、手元に転がる何かを思い切り投げ付ける。


 「アイタ!」


 魔導書にクリティカルヒット。

 黒の魔導書、藤岡飛鳥はその場に落ちた!


 「ぅううう。ちょっとお茶目なジョークじゃないか。その反応は流石のボクでも傷つくぜ」


 いや! だから!


 「どうやって入って来たんだよぉ!?」


 挑発するよう眼前を飛び回る魔導書に対し、僕は声を荒げた。


 「フフフ。プライバシーの侵害とかそういう類はキミに無いって話しただろう」


 調子に乗る魔導書。


 「それとこれとじゃ全然違うんですけど! プライバシー以前に人としての恥じらいというかマナーをですね! って、はぐらかさないでよ!」


 「ッハハハ! はぐらかす? 何を言ってるのだ、愚者七号。そいつぁー企業秘密というものだよ。何せそいつをバラしたらこちらは不利になるってものだ。なーに、気にしないことだ。それを気にしたところでキミの現状は何も変わらないし、変えられないのだ」


 近い、近い近い近い!

 顔に頁が当たりかけてる!


 「有無。それはそうと、愚者七号」


 急に魔導書の声のトーンが下がった。

 それに僕は身構える。


 「な、なんだよぉ?」


 もしや寝起きドッキリじゃなく、何か重大なことを伝えようとしているのか?


 「ボクが言うのも何だけど、キミは寝るときいつも下着しか着ないのかい?」


 ……。


 「やっぱ、出てけぇえええ!!!」


 バカなことを言い出した魔導書を僕は部屋から叩き出すことに決めた。


 「ま、待ちたまえ! ボクの知的好奇心がこの光景を焼き付けて置かなければならないと、──って、水は止めて! フヤケちゃう! フヤケちゃうから!」


 出てけ! この発禁魔導書が!


 ◇


 部屋に侵入した変態を追い出し、急いで服を着ること数分。


 「一応、聞くんだけどさぁ。君の中身って僕とそう変わらない歳なんでしょ?」


 「そうとも。キミと変わらない年齢だとも」


 それなら思春期を迎えた男の子に配慮して貰いたいものなんだけど……。


 「先ほども言ったがそれは有って無いようなモノだよ、愚者七号。実験台であるキミの考えなど常に筒抜けだ。そんなことを考えたとしても、彼女らはそんなことを配慮しないのだ。だからそんなことを悩む必要はない。……まあ、遅かれ速かれボクがキミの半裸を拝むことになるのは間違いなかったのだしね」


 いや、真面目に言ってるけど僕は君に半裸なんて見せないよ!


 「いけない、いけない。それより今日は重大なことをキミに言いに来たのだった」


 また真面目な声色に変わる。

 ……これもマトモな案件じゃなかったら、温厚な僕でも怒るぞ。


 「それに関して大丈夫だとも」


 途端に小鳥の囀りが止み、カチカチと秒針が回る音が聞こえる。


 「なーに、そう構えなくても大丈夫さ。彼女らは当分の間キミに危害を加えることは出来まい。何せ昨日キミに■■瑞希(みずき)はアストラルコードを破戒されたのだ。キミが持つ魔術破戒(タイプ・ソード)と呼ばれる権能(チート)はこの世界の全ての法則を殺せる力だ。そんなものの一撃を与えられたのだから、相手側もこちらに構う余裕はないだろう」


 だとしたら。


 「まあ、自由に思考が出来るということは、彼女らにとっては追いつめられた状態と見るべきかもしれないね。一人は表舞台から現実に干渉する手立てを失い、権限(チート)の力を使ってキミへの干渉が出来ない。そして一撃を与えれば確実にアストラルコードを破戒する権能(チート)まで持ち合わせている。そんな現状を打破しようと策を練るだろうさ」


 魔導書は矢継ぎ早に喋った。

 その間に小鳥たちの囀りが無くなり、代わりに時計の針が回る音だけが耳に聞こえる。


 「キミの焦る気持ちは解る。だが、ね──」


 風もなく頁がメクレる。

 

 「あまり彼女らを追い詰めすぎない方が良い。窮鼠(きゅうそ)猫を噛むということわざがあるように、追い詰められた人間というのは何をするか分からないものだ。……すまない、どうやら話が脱線してしまった。有無、結論から言おう。■■瑞希が持っていた外なる神の力が何処かへ消えた」


 外なる神の力?


 「この間、キミがボクを使って一時的に影の能力(エイプ)を無力化したじゃないか。その時にある場所に封印しておいたのだが、それが何者かに奪われた」


 なん、だと?


 「うん。頭の悪いキミでもそれがどういう意味か理解したみたいだね」


 つまり僕らの知らない第三者が外なる神の力とやらを手にしたってことか?

 なら、その力を持ち去った相手が少なくとも僕らの敵である可能性もあるじゃないか!


 「そうとも。まあ、協力関係を築こうとするならば、我々の誰かに話すだろうし味方である可能性は極めて低いとみるべきだ」


 ────「──ほう。人形の次は吸血姫(きゅうけつき)か。これはこれは奇特なものだ。態々、死にに来たのか?」


 そこで、不意に神父の言葉が頭を過ぎった。

 僕という存在を知る第三者で思い付くのは、神父が言っていた人形と呼ばれる人物じゃないのか?

 すると、そいつが影絵の猿(エイプ)の能力を持ち去った第三者だと決めても良いような気がする……。


 そう思うと言いようのない不安が押し寄せてくるのだった。



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