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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第二章:紅蓮迷宮
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000 その声は天まで届かない


 繰り返す。

 大切な記憶が色褪せるまで日常を繰り返す。


 死んだ。

 また■さんが死んだ。


 ふと、何気無しに部屋の鏡を見た。


 アタシがいる。

 ドロドロと濁った目のアタシがいる。


 けど。


 「──?」


 そこに以前の面影はなく、変わり果てた姿が映ってたんだ。


 「…………」


 何も感じない。

 何も感じなかったことに驚いてる。


 「──っ」


 それは、『■ト■■=■■■』になろうとしている証で。


 「……あ」


 どんな犠牲も覚悟していたアタシは、未だ人間であろうと固執しているってことで。


 「あ、ああ、あああああああ!」


 つまりそれは、自分の何もかもを削って生きたアイツと同じということなんだ。














 気が付いたら、屋上にいた。


 「…………」


 空は相変わらずの暗闇で、星一つ見えない。


 「こんな夜更けにどうしたの?」


 振り返ると、銀髪の青年が気怠そうに立っていた。


 「────」


 呆然とするアタシを尻目に、彼はテクテクと隣に来ては寝転んだ。


 「────」


 自分から聞いておいて、それは無いだろうと横目で男を見る。

 誰かになることを望まれた、人の形をした存在。

 アタシよりも人間なのに、意思を持つことを赦されない男だった。


 「別に■■(アンタ)には関係ないだろ」


 この世界は名前さえ満足に呼べない。

 アタシはそんな世界に固執してでも叶えたい願いがある。

 その気持ちと裏腹に、この日常が続くことを願うアタシは、きっと矛盾している。


 「関係なく、ないだろ」


 青年はそんなアタシに苛立ちを隠さない。

 心配しているのだろう彼を尻目に、アタシは次の繰り返しへと意識を向ける。


 月が眩しい夜、──継接ぎだらけの世界で存在しない者たちが嘆く。


 きっとこの先、彼は更に自分を保てなくなるだろう。

 でもアタシは救いたい人を助けるため、アタシはこの世界の権限とやらを手に入れなければならない。

 

 それをする為ならばアタシは何だってやる。


 意思が剥奪をされ、無意識の洗脳に気づかず、静かなるディストピアを受け入れる。

 そうでしかアタシたちは生きられない。

 そうしなければ願いには届かない。

 今も尚、暗闇の中を誰かが見つめてる。


 カチリ。


 欠けたものが埋まってく。


 繰り返す。

 繰り返す。

 また■さんの運命を変えようとアタシは奔走する。


 「──っあ、ああ、あああ!」


 心臓を脈打たせ、脳に血潮が沸く程に走った。

 何をそんなに必死になってるのかは解らないが、今度も報われないのだと諦めている。


 駄目だった。

 今度も駄目だった。

 アタシの大切な■さんがまた死んだ。


 その未来は変えられない。

 その世界は変えられない。

 何度試そうともそれは覆らなかった。

 目指す先がいつだって、そんな結末に至るのだと知っている。

 諦めろ、と誰かが頭の中で訴える。


 もう何度目の繰り返しに飽きが来た。

 もう何度目のやり直しに挑み続ける。

 それでも、アタシは諦めることは出来なかった。


 たとえ幻想に過ぎなくても、アタシは■さんの死を認めない。


 場面が変わる。

 古い映画のように、途切れ途切れに流される映像のように夢を見る。

 その夢では雨が降っていた。

 その雨に何の意味があるかは解らないけど、それでも何か特別な意味があるのだろう。


 ピシャ!


 足が何かを弾く。

 雨音にしては粘り気のある音だった。


 「嫌! 死なないでよぉ、兄さん!」


 雨が降る中、倒れている兄さんを思い切り抱き締める。


 「ハハハ。お前でも、そんな顔をするんだな、■■」


 アタシの名前がエラーとして認識される。

 空白となって抹消されるのは、この世界の絶対なルールだった。


 「するよ! 兄さんが死んだら、アタシ、もっと凄くするんですからね!」


 神様、神様。どうか叶うのならば兄さんを殺さないで下さい。

 そう願わずにはいられなかったアタシをお許しください。

 どうか。

 どうか!


 それでも、アタシは知っていました。

 もう子供じゃないから知っているんです。


 「そりゃあ、嫌だなぁ」


 困った顔。

 兄さんのそんな顔は見飽きてましたが、それでもアタシはまだ見ていたかった。


 「なら、死なないでよ!」


 強く揺すりました。

 血塗れになったとしても構わず、強く抱き締めもしました。


 「いや、駄目だ。これは、もう助からない」


 兄さんは悟った顔をし、いつもの無表情になりました。

 ぶっきらぼうな兄さんによく反発していたのは思い出します。


 「──っそんなの!」


 悔しくて、哀しくて。

 アタシは上手く言葉に出来ません。


 「なあ、■■。これで良かったんだ」


 そんなアタシに兄さんは最期の言葉を遺すのです。


 「どうせ生きていたってオレたち■■には居場所がないんだ。……だったら、オレはお前に殺されて良かったって思うよ」


 最期の力を振り絞ってか、アタシの頬に兄さんの手が触れます。

 不器用な人がくれる精一杯の、ちょっと意地悪な優しさ。

 そんなことをされたら、アタシは何も言えなくなってしまう。


 「ぅうう、あ」


 一頻りそうすると、兄さんは安らかに遠い世界へ旅立つのでした。

 とてもとても満足げな顔だった。

 そんな優しい人が逝ってしまうと、もう感情が抑えることが出来なくなった。


 「あ、あああ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 涙が。

 嗚咽が。

 感情が。


 ありとあらゆる想いが溢れだしたのだ。


 これは、遠い昔の出来事。

 叶うはずのない望みを手に入れた瞬間。


 ひたすら、アタシは天に向かって泣き叫ぶのだった。


 「あ、ああああ、っはあ、ぐぅ、ううう」


 そこで、アタシは目が覚めた。


 「ハア、ハア」


 チクタク、チクタクと時計が回る。

 陽気な朝を演出する小鳥のさえずりが気持ち悪くて、頬に伝うアセを拭った。


 「──ッハ。嫌なもん、見せんじゃねーよ」


 先ほどまでコントロールルームに居た筈なのに、自室のベッドでアタシは目を覚ました。

 つまり、アタシは今まで此処で寝ていたということにしたいらしい。


 「知るか。アタシはアタシがやりたいことをやるだけだ」


 たとえ、そう設定されただけの記憶であろうとアタシは願いを叶えるだけだ。


 「朝の六時か」


 備え付けられた鏡へ向かう。

 そこには、気だるげな顔をした()()()のアタシが映っていた。



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