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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第六章:欠落証明
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030 墓前


 フラフラとした足取りで数日をかけて山道を進む。


 第三共環魔術研究所について、僕は幾多の山に囲まれた人類最後の魔術の研究施設であるということしか知らない。

 そこが日本の何処にあるだとか、どのぐらいの人間がいるとか、そういうのは何も把握してなかった。


 ……というか、今いる現在地さえ何処なのか分からないんだから、知ってたとしても無事にたどり着けるかどうかも怪しかったんだよね。


 幸いなことに、あれから佐藤さんみたいな善良な人たちと遭遇して尚且つ、今いる場所が何処だとか、第三共環魔術研究所への行き方とか色々教えて貰えた。


 何というか、世界がいつ滅んでも可笑しくないとみんな愚痴ってたけど、それでも懸命に今を生きようと足掻く姿は心に来るものがあった。


 ……まあ、今更、この世界の藤岡友喜の父さんの墓へ行ったところで何もないけどさ。


 それでも此処で立ち止まるのは、何故かやりたくなかったんだ。


 「……此処かな?」


 ジトリとした汗が吹き出す頃には、いつの間にか目的の墓地へたどり着いていた。


 そうして。


 「……えーと」


 探し出してみると、『藤岡』と彫られた墓は思ったより早く見つかった。


 「────」


 所々に苔が生えてた。

 というより、罅が入ってた。


 けど、そんな墓を見ても文句は出なかった。


 「……それもそうか」


 少し考えたら分かることだ。

 他所様の墓に手入れする余裕も、義務もないんだからこうなるのは仕方ない話だ。寧ろ、墓を建てて貰えるだけ感謝しなければならないんだろう。


 ──だから、悲観することもないんだ。


 「──っ、ああ、そうだ」


 せめて線香の一つでもと思ったが、あいにく今の僕は手ぶらだった。


 「────」


 みーん、みーん。

 嘲笑うようにひぐらしの鳴き声がする。


 「────」


 僕は何をするでもなく、立ってるしかなかった。


 ……そういえば、こうして何もせずにいることは無かったなぁ。


 「……何なんだろうね」


 何をすれば良いとか。

 何をしたら良かったとか。


 いや、そもそも。


 「何したら良いんだよ」


 空っぽの自分が何をしたいのか、解らないんだ。


 「畜生……解んない。解んない、──解ら、ないや」


 あの世界では、常に誰かが教えてくれた。

 何をしたら良いとか。

 何が自分にとって嫌なことなのか。

 自分の意思で考えることもなく、ただ、追われるよう足掻き続けて来れた。


 でも。


 「ハ、ハハハ。──ああ、そうか。そりゃあ、嗤えるだろうさ。寧ろ、こんなもの見せつけられて嗤わない方がどうかしてる」


 その結果がこれだ。

 何をすることも、何をして生きることも考えれない人間モドキが出来上がったんだから当然だ。


 「何だよ、それ」


 虚しくなった。

 やはり此処に来るんじゃなかった。

 そう思い、踵を返そうとする。


 みーん、みーん。


 「……眩しい」


 夏の日差しに目がやられる。

 空は僕の心と違って快晴だった。


 ────「勇貴さん。空って見たことありますか?」


 頭に過る■ィ■■の言葉。

 忘れてはいけない筈の彼女の顔は黒く塗りつぶされ、もう思い出せない。


 「空、……空、ね。あの世界と違って何処までも続いてるなぁ」


 外なる神は脅威だ。

 人知を超える規模でこの世界の何処かを滅ぼしてる彼らに僕たち人類は成す術もない。

 そんな存在に対し、僕を逃がすためだけに立ち向かった少女たちがいたのをまだ忘れちゃいない。


 「忘れろ、ね」


 今もこちらを覗く神様気取りを僕は恨んでいない。

 外なる神、いや観測者たちはきっと僕たち人間のことなんか気にも留めていないのが分かる。


 その証拠に彼らが僕たちに何をしようと人類は未だ爪痕一つ残すことなんか出来てないんだから。


 ────「あ、ぐぅ──ハ、ハハハ。見たかい、傑。ボクだって、やる時はやるんだ、よぉ」


 「────何か、腹立ってきた」


 ない筈なのに。

 この世界へ跳ぶ前に見せた虫食いたちの顔が離れない。


 「そう、だよ」


 不意に。


 何かが。

 何かがぷつりと切れた。

 ふつふつと煮え滾るそれは今まさに激情へ至ろうとしていた。


 「……ざ、けんなよ」


 身体は何処も痛くない。

 でも苦しい。

 何もない。

 いや、何でもない筈なのに、僕が此処にいることが、彼女たちが紡いだこれまでを無意味だと馬鹿にされてるような気がする。


 それは──。


 ────「さよなら、愛しき人。そして、ありがとう。あの時、貴方が手を引いてくれたから、私たちは此処まで頑張って来れました。だから、……だから、どうか私たちのことは忘れて、幸せになってください」


 それは、あのフィリアの頑張りを何処までも嘲笑うことに他ならないか?


 「ふっ、──ざけんなよ!!!」


 腹の奥底から声が出る。


 認めない。

 認めてはいけない。

 自分を否定するのはまだ許せる。

 所詮、七瀬勇貴なんて架空の人間は嘘でしかないんだから当然だ。


 「何が忘れろだよ! 幸せになれだよ! 君たちの方がずっと、ずっと幸せになるべきだろ!」


 けど、駄目だ。

 それだけは駄目なんだ。


 七瀬勇貴がとか、藤岡友喜がとかじゃない。

 それはきっと何もなかった残留思念(かのじょたち)がようやく抱けた夢なんだ。


 ────「戯言でも! 私には本物なんです! 誰に決められても、誰に後付けされても、私はそれを嘘にしない! その為に私は、──『フィリア』は夢を語ったんだって分かったから!」


 だから、それを他ならぬ僕が蔑ろにして良い訳がないんだ!


 「戻らなきゃ、────早く戻って、文句言ってやらなきゃ気が済まない!」


 父親の墓を急いで後にする。

 それが、多くの願いを斬り捨てた偽物(ぼく)の責務だから、そうした。


 いや、違う。また間違えた。

 これは義務とか使命とかそんなんじゃない。


 ──これは。


 「僕がやりたいから、やるんだ」


 そう言うと、古本たちが待つだろう第三共環魔術研究所へと駆け出した。































































 「古本!」


 思い切り扉を開け、勢いに任せてズカズカと部屋へ入り込む。


 「──どうやら、答えが見つかったようですね」


 そんな僕を古本は椅子に腰掛け出迎えた。


 「良いです、良いでしょう。ノックもせず部屋に入る狼藉は本来であるなら本の中へ閉じ込めてしまうところですが、とても気分が良いので許します。──ええ。損な役回りを押し付けられましたよね、私」


 まるで、こうなることを初めから予期してたように彼女は落ち着いている。


 尊いものを見たかのように。美しいものを見つけたみたいだと言いたげに振る舞うが、けれど急ぐ僕に対し彼女は感情のない目で見つめてる。


 「──っ」


 怖気が走る。

 少女の矛盾した行動に人間でないモノを感じる。


 ……ああ、これがあらゆる世界の自分を知る弊害だと言うんだろうか?


 でも。


 「古本」


 躊躇することは出来ない。

 否、此処で逃げるなんて選択は(はな)っからない。


 「……フフフ。まあ、良いです。それもまた運命であり、主のお導きと言うもの──コホン、話が逸れました。それでは、これから二つの選択肢の内どちらかを貴方には選んで頂きます。勿論、拒否権はありませんよ」


 わざとらしく古本が微笑む。

 正直、その行動へ至るまでどれほどの葛藤が彼女にあったかは分からない。

 しかし、己の役割を殉じることを選んだのは明らかだ。


 「一つ、このまま私の異能『絵のない絵本』を介しこの世界の何処かにあるであろう真世界帰閉ノ扉(パラレル・ポーター)を起動させ、今尚眠り続けるもう一人の『藤岡友喜』を同一平行世界へ送りすべてを無かったことにします」


 虐められ、嘲笑われた毎日。

 家族からの優しさも、誰かを拠りどころにすることもなかった──何の楽しみもない人生。


 それが、かつて藤岡友喜が生きた世界で、僕がこれから暮らす未来。


 「それこそが、あの影絵の少女(名城真弓)残留思念(ヒロイン)たちが望んだ結末であり、私としても楽な選択です」


 でも、みんなは。


 ────「さようなら、私のヒーロー。ありがとう。貴方が手を引いてくれたから、私たちは生きると言うことを知れました」


 僕をこの日本がある並行世界へ転移させた。

 不可能に近い空間跳躍を実現させた。


 それをした理由は、そうすることによって僕たち二人が救われると本気で信じたからだ。


 「そして、もう一つは『ンカイの森』にある『滅びの繭』を通じ、夢世界(ドリームランド)にある真世界帰閉ノ扉(パラレル・ポーター)のある座標を割り出し戻ってしまうことですね。残留思念(ヒロイン)たちが考えられる中で一番のバッドエンドです。最悪です。最悪ですが、彼女たちをあのナイ神父から救うには最善の選択です」


 古本が選択肢を提示する。

 眉一つ動かさず、淡々ともう一つの選択肢を話す姿は神の御使いには程遠い。


 「──っ」


 本当、どうかしてる。

 向こうの世界だと修道女(シスター)してたってのに、その選択肢は悪魔のようだ。


 「さて、どうします?」


 機械染みた、精巧なビスクドールは僕に問う。


 「どうするも何も決まってる」


 そう、答えなんか決まってる。

 この部屋に来てから、いや、走り出したその時からそれは出てた。


 「僕を──いや、僕たちをあの世界に戻して欲しい」


 「そうですか、残念です。実に残念でなりませんが仕方ありません」


 古本は机から何やら数枚に綴じられた紙束を取り出すと、静かに告げる。


 「明後日から、ゴルバチョフ総監の指揮により『ンカイの森』への強襲作戦が開始されます。そこで上手く行けば、夢世界(ドリームランド)へ戻れるかもしれません、ね」


 次話の投稿は未定となっております。そんな作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!

 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!

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