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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第一章:欠ける記憶、日常再生
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012 馬鹿げた話だ


 広辞典みたいな厚さの黒い本。

 ファンタジーの魔術書にありそうな外観のそれは、なんか頭に振りかざされたら凶器になりそうだと思った。


 「うん。正確には魔導書なんだけど、まあその方で解釈して貰って構わないよ。寧ろ、そっちに似せて構成させてるからそう認識して貰わないと困る訳だしね」


 自己主張するようにペラペラと(ページ)(めく)れる黒い本。


 ……というか!


 「ほ、ほほほ、本が、喋ったぁあ!? 嘘!? これなんてファンタジー!?」


 最近、魔術学園だとか言っても、授業だとこういう魔法みたいなものを扱ってくれなくて退屈していた。

 うん、何だろう。

 スゲー新鮮でテンションが上がるなぁ!


 「あー、うん。……授業かー。まあ、状況の説明だとかそんなのばっかりだったし、言いたいことは分かるがね。あー、でも。……そんなにつまらなかったかー」


 人間だったら頬搔いてそうな。

 まるで魔導書自体が先生として授業してたみたいな言いぐさ。


 「──って、そんなことより、説明! 僕を助けたってとこ詳しくプリーズ!」


 今もパラパラと捲れ続ける魔導書に対し問いただす。


 「そんなことではないんだけどねぇ……。そうだね。うーん、ただ説明するとしてもキミがボクの言葉にどれだけ認識出来るかで説明が変わる」


 「いや、認識出来るかって何もこうして会話が出来てるじゃないか」


 「うん。今は出来てる。出来てるってことはこの会話内容はまだ許容されているということだ。難しいな。何処までが触れて良い上限なのかが曖昧過ぎるし。上限をオーバーしてあちら側にこちらの状況が伝わるのはNGだ」


 ぐるぐると僕を中心に円を描くように浮遊する魔導書。


 「うーん、そうだね。じゃあ、例え話の話だ。キミが二匹のネズミを飼ってるとしよう」


 「ネズミ?」


 「そう、モルモットを想像してくれると良い。そのネズミ二匹の内、一匹が死んじゃうんだ。ここまでは大丈夫か?」


 「いや、僕、そこまでバカじゃないよ!?」


 「あー、そうじゃない。キミをバカにしてる訳じゃないんだ。うーん、困った。この反応が干渉されたものなのかハッキリ分からんぞ。……まあ、考えたところでどうせ袋小路には仕方ない。許容範囲としよう。んで、その一匹のネズミがキミにとっては掛け替えのないペットなんだよ。そのネズミをキミは何としても生き返させたい。しかし、その死んだモルモット自体に蘇生手段を行使することが出来ない。おっと、ここまでは大丈夫かい?」


 「色々突っ込みたいけど、うん、大丈夫。要するに死んだペットを蘇らせることが出来ないってことでしょ」


 それがどうしたっていうのさ。

 生き物なんて死んだらそこまでじゃないか。


 「──まあ、今のキミに言ったところで理解出来る筈もないから流すとしようか。うん、そうだ。だが、キミは何としてもその死んだネズミの蘇生を諦めることが出来ない。そこで、考えた。死んだネズミ自体に蘇生手段を行使出来ないのなら、もう一匹のネズミを死んだネズミに変えてしまえば良いのではないかと」


 うん?


 「えーと。死んだペットの代わりにもう片方のペットに愛情を注ぐってこと?」


 「違う。その死んだネズミを生き返らせることが出来ないのなら全くの同じ中身のネズミを作り出してしまえば、それは死んだネズミ自体になるのではないかという話さ」


 何だ、それ。


 「いや、それは違うでしょ。例え、外観を幾ら寄せたところでその死んだペットにはならないじゃん」


 「誰が外観だけと言ったのかな?」


 はい?


 「外観だけじゃない、そのネズミが考える意思も思考も記憶の何もかもを考えうるありとあらゆる全てを同じに作るのさ。当然、一から同一の生物を作り上げるなんてことは事実上不可能な話である。なら、どうすれば可能なのか。同じ種族のネズミから作り替えた方が簡単じゃないか」


 馬鹿げてる。そんなもので死んだペットと同じモノを生み出すなんてことは出来ない。

 だって、それは──。


 「うん。キミの言わんとすることは理解出来るとも。嗚呼、それが死んだネズミに似せただけの別物に過ぎないさ。まあ、ここまでは思考することが可能らしい。やはり抽象的な言い回しにすれば妨害はされないと見ても良いようだ」


 「ネズミの話でしょ。それが僕の認識がどうこうの話になるのさ?」


 「うん。まあ、そこでその捻じ曲げは予想がついたよ。じゃあ、こう考えてみようか。なーに、簡単な連想ゲームだよ、愚者七号。この場合、とても難易度が低い。自分の状況と置き換えるなら、普通の人間はそこで直ぐに理解出来る話だ。だが、自由に思考することを奪われた人間はそれが出来ない。その考えを思考することを認識出来ない。上手くはぐらかされてると言っても良いね」


 馬鹿げてる。ネズミの話だ。

 まるで僕が話に出てきたネズミだとでも言うかの言いぐさじゃないか。


 「そうだね。人道的な意味合いじゃあ、馬鹿げた話だ。それでも、キミは一度失った大切な存在に会えるとしたら手を出してみたいと思わないのかい?」


 その返しは卑怯だ。


 「うん、卑怯で結構。さて、今の自分の現状が理解出来たことだろう。そんな現状で相手側にとっては起きて欲しくないアクシデントがある」


 ペラペラと風も吹かないのに魔導書の頁が捲れる。


 「当然だけど、邪魔をされることは勿論だけど、この場合言いたいことは違う。ネズミが言うことを聞かないという問題だ」


 意思も思考も記憶の何もかもが別人に変えるのだから当たり前の話だ。

 その別人が思考する意思なんてものが在ったらそもそも不可能な問題である。


 「極論の話、思考することを出来なくしてしまえば良い。

  そうすれば、後は別の思考を植え付けるだけの話だからね。でも、それは簡単な話ではない。精神面な問題じゃない人間の身体的な構造でもありその魂の構造上の話だ」


 魂?


 「そう。精神と魂は直結しているが違うものだ。精神とは思考することを有無とした認識を掌る感情情報だ。だが、魂はその感情情報とは別に存在を確定させる為になくてはならない概念情報に過ぎない。そうだね、魂についてはコンピューターでいうとマザーボードとかハードディスクであると想像してくれると助かるかな」


 「じゃあ、精神は何なのさ? ……ああ、そうか。ソフトとかプログラムとかを考えれば良いってこと?」


 「そう。その認識で正しい。そもそもの話、人間の意志やら思考とは精神を弄れば良い話じゃない。その精神より上の概念情報である魂がその存在を単一のものとして構成させている。この魂を構成する情報をアストラルコードと僕ら魔術師は呼んでいるのさ」


 アストラルコード。

 何処かで耳にしたことがある単語だ。

 そう、それは確か、暗闇に呑まれて身動きが取れなかった時に誰かが言っていた気がする。


 それは今まで思考することを放棄していたからか。

 それとも懐かしい誰かの声を思い出したからなのか。

 失ってはならないモノが蘇ってきたからなのか。


 ゆっくりとパズルのピースが胸の奥底でハマっていくのが感じられた。



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