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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第六章:欠落証明
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006 あら、見ない顔ですね

 投稿するつもりはなかったんですが、なんか出来たのでしようと思います。

 何故、普段からこう執筆が出来ないのか不思議でなりません。


 「……そう、ですか」


 藤岡友喜のお母様が一階ロビーを抜けた数分後、彼が泣きながら部屋から飛び出したと監視していた職員から報告を聞きました。


 「では、引き続き監視と誘導をお願いいたします」


 「解りました」


 次の命令を職員に出し、自室の椅子に腰掛けました。


 「ふぅー、……儘ならないものです、ね」


 息を吐くように苦言を漏らし、今も泣いているだろう彼と芽亜莉のことを考えます。

 儘ならない。

 そう、希薄な感情しか持たない私には二人のように心のままに泣くという行為が心底理解出来ないのです。


 「全く、何がそんなに辛いのでしょう」


 虫が感情を持たぬ生物であるように、人間以外の生物が笑うことに何の価値を見出だせないように、私という人間『古本ナコト』は自身の感情に欠落を抱えています。


 その事に気付いたのは物心がついた頃、私が自身の異能に目覚めたことがきっかけでした。


 私の異能『絵のない絵本』は並行世界の自分を物語として知るというもので、それは人間一人を何万という文字で綴った物語(じんせい)を閲覧する──ある意味これから起こり得る未来を知る魔法なのです。


 この魔術と異能がある世界において、魔法とは実現不可能とされた現象を現実化させる行為を呼びます。

 ……簡潔に言ってしまえば、奇跡を起こしたら魔法って解釈です。

 そんな代物を物心つく頃に熟知しているのですから、平凡で正常な人間という枠組みから外れるのは道理だったのでしょう。


 そんな私にも両親は居たし、多分愛してくれていたのでしょう。

 でも、それを実感することは彼らが生きている間に出来ませんでした。

 だって、心とか、愛とか、生きるとかよく知らなくても未来に起こることが予め解るんですから、生への欲求である感情が希薄になるのは仕方のないことです。


 ……流石に、両親が殺害されたことに感傷を抱けないでいるのは我が事ながら薄情だと思いますけど、ね。


 ジジジ。


 ────「おかあ、さん?」


 血だらけになる自分。

 それを愛しそうに抱きしめたまま亡くなった母。

 父の最期は見ていませんが、刑事の一人が死んだと教えてくれたから、多分逆らって魔術師(てき)にでも殺されたんでしょう。


 一応、彼らの葬式にも出ました。

 相変わらず涙を流すこともありませんでしたけど、これから大人たちをどう取り繕って利用すれば良いのかだけは考えてました。


 ────「やあ、おチビちゃん。泣けないようだけど、どうしたんだい?」


 ──そんな時、優しく、強そうで、逞しい金髪の白衣の男が幼い私に声を掛けてきました。


 ────「おじさんは、そうだな。此処しばらくは、時の旅人というのを任されてるよ」


 そいつはそんな風に私をからかいました。


 ────「時の旅人? ああ、貴方があの『タイタス・クロウ』その人なのね。……驚いたわ、こんな場所を彷徨ってるなんて『不死協会』の連中が知ったら飛んで来るわよ」


 それが、生きる英雄、時の旅人、観測者に最も近しい魔法使い『タイタス・クロウ』と私の出会いだったのです。


 些細な世間話も、意味有り気な会話も一言二言交わすだけでそれ以上のことは踏み込まない。

 当然です。

 愛想笑いは必要ありません。

 だって合理的でないものに、不必要な労力を掛けるなど無駄でしかないですから。


 ────「おチビちゃん。将来、君は生きる意味を知るだろう。その頃には今より多く感情を──愛を知れるようになるさ」


 偉大なる魔法使いはそんな訳の解らない言葉(のろい)を遺し、去って行きました。


 ……正直、意味が分からなかったです。いや、言葉は理解出来るのに理解出来ない言葉を喋るあの人はどうして私に会いに来たのか分かりません。


 ──果たして、並行世界の証明を果たし、今尚多くの時空移動を続ける彼と私の何が違うのでしょう?


 まあ、不躾にも両親という籠を失った私は、日本政府の大人たちと交渉し、対魔導魔術の対抗者として取り込まれたのですけど。


 それから色んなことがありました。


 決して全知を謳う訳ではないですが、大抵のことを知り尽くした私でも未だタイタスに言われた『生きる意味』を理解出来ないでいます。

 無数にある未来の中で自分の最期は一つじゃないことも、一人一人の一生の分厚さに違いがあるのも知っているのに。


 でも分からない。

 そもそも私に生きる意味を知る必要なんてなく、自分の一生など『名のない絵本』の一冊で収まるものに固執する意味もないのに。


 なのに、モヤモヤする。

 頭の片隅の私がそれで良いのかと問い続ける。


 ────「なんと、お主は自分の為に泣けんのか? ──可哀想に」


 育ての師──ゴルバチョフ・ペレストロイカ総監にそう言われたことがあります。

 また、憐れみです。

 どうして出会う人たちは私を憐れむのか理解出来ません。

 ……所詮、人生(ものがたり)なんてものは誰に読まれることなく消滅するだけの文字の塊(テクスチャ)に過ぎないのに、出会う皆さんはそれを誇らしげにされてます。


 気味が悪い。

 まるで、辛くて、悲しくて、苦しいだけのそれが大切だと自慢されてるようで心底気持ち悪かったです。

 知らないことがある。

 知らないことは不気味で怖いから、私は余計知りたくなりました。


 そう、外なる神によって滅亡に向かうこの世界でも、その人生とやらに生きる意味を見出だせるのか私は知りたくなったのです。


 「芽亜莉、夢野(ゆめの)芽亜莉。彼の夢世界(ドリームランド)にいる残留思念(ヒロイン)の彼女によって改竄されて死ぬ、ですか」


 どうやら、それが七瀬勇貴の世界にいる私の最期らしい。


 「何故、私はそれを許したんでしょう? 考えても、考えても合理的ではありません。……理解しようにもこの世界の芽亜莉は協力的じゃありませんし、転移した七瀬勇貴を探して外なる神は繭から目覚め始めました。全く、この世界が滅ぶのも時間の問題だというのに──」


 もう私たちには時間がありません。

 此処、第三共環魔術研究所に負荷蝙蝠(ビヤーキー)が襲撃してきたということは既に『ンカイの森』の奥底の繭に眠る外なる神に探知されていると見て間違いないでしょう。


 「……以て後一ヶ月ですか」


 それまでに、彼らと過ごして生きる意味とやらを見つけれると良いのですが。


 「さて、どうなるとこでしょう、ね」


 そう呟きながら、監視している職員からの報告を気長に私は待つことにしました。


 ◇


 「ハア、ハア」


 人の居ない方へと走り抜け、やっとのことで僕は屋上へ続く階段を駆け上がっていく。


 「……屋上、か」


 ────「──待ってたよ、ユーキ」


 忘れてしまったことがある。

 それは嫌なことだった気がするのに、でもとても大切なモノだったと思う。


 ────「時間切れ、か。まあ、精々頑張ってみれば良いさ」


 美しいものだった。

 尊いと思えるものだった。


 なのに、それを僕は誰と過ごした時間なのか覚えていないんだ。


 固く閉ざされた鉄のドアを無理矢理開ける。

 錆びてるのか、思いの外それは重かった。


 「──っ」


 開けた先は、茜色の空が一面に広がってた。

 ああ、それは今までに見たことのないとても綺麗な夕焼けだったとも。


 ────「……だから貴方の傍に居たいんです」


 霞み行く記憶の中、誰かと話をしたことがある。


 「あ、ああ、あああ」


 大切だった筈なのに。

 もう虫食いの顔でしか思い出せないその人は明日とやらを見たがってた筈なのに。


 「あ、ぐぅ」


 忘れてしまった。

 忘れてしまっている。


 それが掛け替えのない宝物だというのに僕は──。


 「あら、見ない顔ですね」


 声のする方に視線を向ける。


 「こんばんわ、名も知らぬ殿方さん。随分と辛そうですけど、どうかされました?」


 風が吹く。

 それに連れられ、紫色の髪が靡く。


 「──君は」


 夕焼けの明かりが車椅子の少女を眩く見せる。


 「ああ、失礼。あまりにも貴方の顔が綺麗でしたので名乗るのを忘れておりました」


 知らない──会ったこともない彼女はクスリと微笑んだ。


 「私の名は、リテイク。リテイク・ラヴィブロンツ」


 カラカラと車輪を回し、ギコギコと車椅子が近付いた。


 「見ての通り取るに足らない小娘ですが、宜しければ話ぐらいは聞きますよ」


 真っ赤なダイヤが僕を捉えて離さない。


 「あ、──う」


 その目で見つめられると頬が熱くなり、真面に喋れない。


 ドクン、ドクン。

 車椅子の少女──リテイク・ラヴィブロンツが微笑む度、この心臓は脈打つのだった。


 次話の投稿は未定となっております。そんな作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!

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