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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第六章:欠落証明
122/154

001 初めましてでしょうか


 お久し振りです。

 誕生日記念SSの宣言通り、本日から不定期ながらも投稿再開したいと思います。


 それでは本編をお楽しみ下さい。


 初めから分かっていたことだ。


 全てが終わってる。

 そう思ってしまうぐらい、どうしようもない状態だったことぐらい。


 幻想も、影絵も、彼の認識さえ──全てが嘘で出来ていた。

 それはいつだって、理不尽で、不平等で構成された現実を生きた『藤岡友喜』の姿を見れば明らかだ。


 嘘で塗り固められた夢と嘘で目を逸らさなくては生きられない現実。

 どちらを選んでも傷つくだけの現状。


 それでも、私たちは。

 否、彼女(フィリア)は──。


 「────」


 パタン。

 手にした黒い本を閉じると、開けた窓から夜風が吹き込み、私の肌をくすぐった。


 「……来てしまいました、か」


 世間では人類滅亡が噂される中、一冊の本を通じ私は『彼』の転移を確認する。

 いや、確認してしまったと言うべきか。


 「吉報と呼ぶべきなんでしょう」


 ようやく叶えられた『彼女』の願いを──不条理な現実に抗う少女たちの健闘を想えば、それは喜ぶべきだ。


 「そうですね、そうするべきなんでしょう」


 しかし、それを素直に受け入れることは出来ない。

 何故なら、こちら側へ転移した彼を『繭』を通し眠っていた『外なる神』が感知してしまったから。


 「何も知らない彼。何も知らなければ良かった彼。いっそ、このまま眠り続けていたら幸せだった彼。……ええ、正直な話、私は世界などどうでも良いのです」


 見なければ良かった現実。

 進まなければ良かった真実。


 歩みを止め、魔導魔術王(グランド・マスター)の人格を受け止めていたらどんなに良かっただろうと私は思う。


 「どうしましょうか、ねぇ」


 開けた窓から外を見る。

 亀裂の入った月がそんな私を嘲笑うように輝いていた。


 ◇


 覚えてる。


 「私ね、別にお父さんのこと、それほど好きじゃなかったの」


 まだ家族が『家族』として機能していた(円満だった)頃、お母さんがそんなことを僕に言ったんだ。


 「──?」


 その時は意味が分からず首をかしげたが、今にして思えばもうその時にはお母さんはお父さんとの関係に嫌気が差していたんだろう。


 「でも、ね。お母さん、結婚を申し込む時のお父さんの顔を見てたら、断るに断れなくなっちゃって。──うん、どうしてか、そのプロポーズに返事していたわ」


 酷い顔だった。

 能面のような顔で惚気(のろけ)るんだから、どう言葉を返せば良いのか分からなかった。


 でも、時折こうして夢に見るのは。


 「それから、お互いの家族に会って。式場を探して、住む場所も探して、色んなことがあったの」


 きっと、あの時の下手糞な泣き顔が忘れられないからだろうね。































 「奇跡としか言いようがありません」


 「はあ」


 目が覚めてから一週間が経った頃、ようやく僕の担当医とやらに会った。


 「ええ、今回の貴方のような植物状態からの意識が回復というケースは非常に珍しく。万が一戻られたとしても体の何処かを『欠落』した状態になることが多いのです」


 ハキハキとした印象の若い男性の医師はカルテと僕を交互に見ながら、そう言う。


 「ですが、このように面談が出来るまで回復する。しかも、それが僅か一週間足らずでとなると──先ほど言った通り奇跡と呼ぶしかありません」


 奇跡。

 そう担当医師が言いたくなるのも無理はない。

 なんせ、僕は事故に巻き込まれ意識不明の昏睡状態から五年の月日で目を覚ましたそうだ。

 しかも、意識が戻ってからリハビリしたとは言え自分の意志で身体を自由に動かせるというおまけ付き。


 「で、では! もしかしたら息子は、友喜は退院出来るのですか!?」


 そんな担当医師の様子に何処か焦ったような顔つきでお母さんが質問する。


 「ええ、その可能性は充分ありますが、──まあ、最低でも一か月はリハビリを兼ねて入院して頂くことになります」


 そんなお母さんの期待に得意げで担当医師は質問に答えた。


 「や、やった。やったわよ、友喜! お母さん、もう嬉しくて舞い上がっちゃいそう!」


 身体をギュッと抱きしめられる。


 「う、あ、そ、その、……う、嬉しいんだけど、さ。ごめん、ちょっと恥ずかしいから抱き着くのは止めてくれ、母さん」


 「あー、その──コホン。すみません、他に人が()()()とは言え治療室でもあります。ですので、お母さん、申し訳ないのですがあまり騒がないようお願いします」


 「あっ、はい」


 今にも窓から飛び出しそうなお母さん。

 それを咎める担当医師。


 ……まあ、でもお母さんの喜びようも分かる気がする。

 だって、二度と目を覚まさないと思った息子の意識が回復したどころか、退院できるかもしれないと聞かされたんだから。


 「しかし、良かった。一時はどうなるかと思いましたが、我々も諦めず()()を続行した甲斐がありました」


 おめでとうございます、と祝いの言葉を貰う。


 「それで、今後の予定なんですが──」


 良いことがあると嬉しくなるもので、舞い上がるのも無理はない。


 「ええ」


 だけど、気づけなかったんだ。

 いや、気づいてもどうしようもなかったんだけど。


 ──それでも、ある違和感を僕はずっと見過ごしていたんだ。


 ◇


 あれから担当医師の面談を終え、用事があると言ってお母さんは病室を後にする。


 「────」


 その姿を後ろから眺め見送ると、途端に肩の力が抜けるのを感じた。


 「……お母さん、か」


 お母さん。

 大切な、大切な僕の家族。


 それは、何処にでもいる平凡な家庭にはありふれたピースの筈だ。


 「────」


 幾度と願った『もしも』を。

 嘘だらけの夢を、苦痛と苦悩に苛まれながら生きた僕たちには存在しない『IF』。


 病室で目を覚ました僕は今、──藤岡友喜が望んだ人生を歩んでる。


 「僕は……僕は友喜。藤岡友喜」


 夢に見た青年。

 僕と同じ顔をした、よく出来た不幸な人生を生きた人間。


 「そう、なのかな」


 周囲の人間は僕を藤岡友喜だと言う。

 お母さんも、担当医師も、点滴を換えに来る看護師も皆、口をそろえて言うのだ。


 だから、そうだ。

 僕は藤岡友喜。


 「……うん、そうだ。そう、なんだ」


 ──決して、七瀬勇貴じゃない。


 「──でも」


 なのに、何かが喉元に刺さったような感覚が離れないのは、どうして?


 「だ、め、だ」


 あれは夢。

 七瀬勇貴という青年なんて僕じゃない。


 そうでなくては、目が覚めた僕を抱きしめてくれたお母さんはどうするのさ?


 「あれは、夢。夢、──夢なんだ」


 事故で意識を失っていた僕が見た夢。

 友を引き裂く感覚も、叶うことのない夢を願う感情も、──あの身を引き裂かれそうになる真実も、全部嘘であるべきだ。


 そうだ。

 ずっと看病してくれた人の想いを無下にすることは、僕には出来ないんだから。


 「明日も来てくれる」


 約束をした。

 約束をしたんだから、それに応えなきゃいけない。


 心の中でそんなことを思いながら、僕は病院を歩き去るお母さんの姿を開けた窓から眺め続ける。


 コンコン。


 そうしていると病室のドアがノックされた。


 「──うん?」


 部屋に備え付けられた時計を見たが、看護師さんが点滴を換える時間ではない。


 誰だろう?

 そう訝しんだ時、ドアが開いた。


 「初めましてでしょうか」


 カツカツ。


 黒いスーツの少女が入ってきた。


 「────」


 目を見開く。


 「いえ。貴方の場合は、久しぶりですねと言い直すべきでしょうね」


 それは、あり得ないことだった。

 つい先ほど、あの出来事は夢であると振り切ったばかりで頭が追い付かなかった。


 なのに。


 「まあ、そんなことを考える余裕はないでしょうけど──」


 歩く度、短く切り揃えた緑の髪が揺れる。

 あの時と違う口調なのに、その顔はあの聖堂服を着飾った少女そっくりだ。


 「──っ」


 カツカツ。


 真っ直ぐこちらを見つめる少女の碧眼。

 何処まで知っているか分からないが、何となく僕の内心を察しているのはそれだけで分かった。


 「それでも、悠長にしている時間は残念ながらないのです」


 ──カツン。


 少女が僕の前へ着くと歩くのを止めた。


 「では、改めまして、私は古本ナコト。この第三共環魔術研究所の管理者を兼任している魔術師です。この度、貴方──七瀬勇貴さんの保護観察を任されましたので、どうぞよろしくお願いします」


 少女──古本ナコトはそう言って、呆然とする僕に手を伸ばすのだった。


 次話の投稿は未定となっております。この作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!

 また作品についての考察、意見が有りましたら『青波縁』名義で旧TwitterのXもやってますのでそちらの方もご利用して頂けたら幸いです。

 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!

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