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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第一章:欠ける記憶、日常再生
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011 暗闇から


 ジリリとベルが鳴り、遠くの方からサイレンが聞こえた。


 「ハア、ハア」


 息が苦しい。

 起き上がろうにも無造作に転がる死体(オブジェ)たちが邪魔をする。

 砕けたビール瓶が手から落っこちたけど、それよりも全身が血塗れてとても気持ちが悪かった。


 「ハア、ハア!」


 心臓の鼓動がうるさく、脳内にアドレナリンが回って興奮し出す。

 未だ人を殺した感触を忘れられず、今にも喉を搔き切ってしまいそうだ。


 「……う、うぅう」


 狂気と狂喜がせめぎ合い、非常識が僕の良識を浸食する。


 「やってられない」


 どうして、こうなった。

 数分も経たずにやってくる警官を想像し、世の不条理を噛みしめた。


 「……やってられないよ」


 頬に涙が伝ったところで、僕の意識は夢から覚めた。


 「──っ!」


 固い地面の感触。

 汗でびしょびしょになった身体を振るわせて、全身を抱くように震えた。


 「ハア、ハア!」


 理不尽な夢だった。

 実際に人を殺していたかのような感覚がまだこの手に残ってる。

 途端に吐き気が僕を襲った。


 「ウォオオレェエ」


 だが、その吐き気に我慢出来ず吐いてしまう。

 すると幾分かマシになり、暗闇に一人きりなのだと理解する。


 「此処は何処?」


 そうだ。僕は名城さんを捜していたら、先輩と会ったんだ。それから謎の神父に襲われて……。


 というより、あれは何だったんだ?

 神父もあれだが、幾ら此処が魔術学園だからって崩れた校舎が瞬時に直っていくなんて今まで見たことなかった。


 「──ほう。アッパラパーなキミにしては考えたものじゃないか。まあ、愚か者のキミはそこから先を考えるなんて無理だろうけどね」


 知的そうな少女の声が聞こえた。

 慌てて声がする方を振り返るも、誰の姿も見えなかった。


 こんな暗闇に少女がいるなんて、気のせいだろう。

 そう思った時──。


 「気のせいじゃないさ、愚者七号。ボクとしては久方ぶりの再会なんだけど……気分はどうかな?」


 今度こそ、少女の声がハッキリと後ろから聞こえた。

 少女の声は博識そうな感じを連想させたが、生憎と聞き覚えがなかった。


 「誰? ……というより、愚者七号って僕のこと?」


 振り返る。

 ゆっくりではなく、こうバッと瞬時に格好付けてドヤ顔を決めるのがミソだ。


 「あれ? 誰もいない?」


 暗闇に目が慣れて、今いる場所が何処かの教室だと解るのに少女らしい人影も見えやしない。

 まるで狐に化かされたような気分だ。


 「君には見えないだけでボクはちゃんと()()()に居るとも。……まあ、こればっかりはキミに説明したところで解んないだろうけどね」


 美少女との遭遇を夢見たのに、なんかガッカリ感が半端ない。

 つーか、この声の少女はまな板なバストに違いない。

 幽霊少女は貧乳と相場が決まっているのだ、ウェヘヘェ。


 「……キミの考えてることは筒抜けだよ。だから変なことを考えるのは止めたまえ」


 「──うぇえ!?」


 今、正に卑猥な妄想がドチャクソしてるってのにそれを先に言って欲しい。

 もう黒髪クール系美少女がエ◯同人みたいな目に遭っている光景を妄想してるってのにさ!


 「相変わらずだねぇえ、キミは!? ボロボロな状態のキミのアストラルコードを修復してあげたってのに、これかい!? 本っ当、キミはどうしようもない変態だね、愚者七号!」


 いきなり耳元で大きな声を出され、鼓膜をキーンとして痛い。

 もしやこの幽霊、幻覚じゃなくマジモンの幽霊だったりするのか!?


 「ふん! 幽霊なんて低俗なもんが現存出来るほど、この世界のリソースは余ってないよ。キミにとってボクが幽霊に思えてしまうのは仕方ないのだけど。……というか、ボクの髪はそんなロングじゃない。それにもう少し目つきは優しい。あ、後、胸はもうちょっとある。何だい、その説明キャラはつるぺた幼女体型だなんて失礼にも程があるよ!?」


 有無。

 どうやらこの反応をするってことは、そこそこの貧乳だと見て間違いなさそうだ。

 やっぱり、まな板じゃないか!


 「戦争だ! 戦争をしようじゃないか! キミという男は助けてあげたってのに何て仕打ちだ!」


 少女の声は激おこぷんぷん丸だ。


 「──待った。僕を助けたって、どう言うこと?」


 スルーしちゃいけない単語が聞こえた。つーか、言った!


 「そうさ! 弱ってるキミをアイツ等からこの()()で、()()で、()()な、この()()が助けてあげたのさ」


 声は先ほどとまでとは違い、惚れ惚れするような貫禄が伺えた。

 知的で、綺麗な、美少女の姿を声にイメージさせた。


 「……君は、誰?」


 恐る恐る名前を尋ねる。


 「知りたいかい? それならば教えてあげよう。なーに、怯える必要はない。ボクはキミの味方だ。安心したまえとは言わないが、今のところキミを泥船に乗せるつもりはない」


 訳の解らない現状に巧妙の光が差した。

 それは(わら)にも(すが)る思いで手にした希望の光だった。

 そもそも祈るばかりなのは今も昔も変わらない。


 「ボクこそが、最果ての今にして絶対なる知識を司る魔術師が一人──」


 少女の声が名乗ろうとすると、風が(なび)いた。

 すると、目映い光が闇を晴らす。


 「ま、眩しい」


 突然の光に思わず目蓋を細める。

 やがて目が慣れていくと、今いる場所が馴染みのある教室だと理解した。


 「飛鳥(あすか)藤岡(ふじおか)飛鳥。迷える子羊、愚者七号。ありとあらゆる知識の権化と呼ばれたこのボクがキミの悩みに答えてやろうじゃあないか」


 そうして目の前に、一冊の黒い本が浮かび現れたのだった。


 ◇


 チクタク、チクタク。

 カチカチ、カチカチ。


 秒針が逆さまに回り、闇が支配する世界。

 イ=スの種族が伝えた時間干渉の魔術。


 チクタクと世界は戻って、カチカチと記憶をねじ曲げ改変する。


 失われた魂を修復することは不可能な魔法。

 それに近い全くの同一の魂へ改竄することもまた、事実上不可能に近い魔術。


 イ=スの種族が求めるのは宇宙滅亡の回避であり、自分たち概念生物が滅ばない未来の獲得だ。

 それこそが彼らの目的である。

 宇宙規模に発展する滅亡なんて誰も望むことはないだろうが。


 「ク、ククク、クククククク」


 闇の中に一人、少女が佇む。

 必ず手にすると決めた面影はそこには無く──。


 「アハハハハハハハハ!!!」


 ただ狂気に侵された少女が時空を捻じ曲げるだけだった。


 「誰かが邪魔をした。ワタシの邪魔をしたの。あと少しのところで、邪魔をしたのよ! ああ、そうよ。魔術破戒(タイプ・ソード)起動(コード)をアレに刻んだ人間の候補は絞られる。ならそいつらがアレのアストラルコードに干渉出来る時なんぞ限られている。──嗚呼、早く削除したいなぁ」


 アストラルコードを改竄し尽さないと意味がない。

 そうしないと■■瑞希(みずき)の願いは叶えられない。


 「待っててね、お兄ちゃん」


 悠久の時を巡り、彼女は模索する。

 死んだ人間を生き返らせることを否定したのは、他ならぬその兄だったのに彼女は奇跡を願う。

 その在り方を止める者は居ない。

 そこには暗躍する略奪者たちが居るだけだった。


 少女は暗闇の中にいる愚か者を只、見つめるのであった。



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