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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第五章:真世界帰閉ノ扉
116/154

038 おやすみ、少女よ


 夢を見る。


 ジジジ。


 それは、遠い昔のことなのに最近のように思える情景。


 ザー、ザー。


 懐かしく。

 けれど、私のものでない、借り物の記憶。


 「────」


 これは、手を伸ばせば届きそうな、目映い光でもあり。

 道草に生えたすみれのような、そんなありふれた少女の回想だ。


 ◇


 名城真弓()の人生は、よくある話で構成させられている。


 特殊な異能をその身に宿してたりとか、王族の血筋を引いていたとか、そういう特別な話ではない。


 ただ道端を歩いていたら、事故に巻き込まれる。

 そんな類いのアクシデントに見舞われただけの平凡な人間でしかなかったんです。


 「これといって才能なかったのに、ね」


 あの大事件に巻き込まれなければ、あの魔導魔術王(グランド・マスター)に目を付けられなければ私は平凡な人間として幕を下ろしていた筈だった。


 ところが何故か人生で初めての強運を発揮し、私は魔導魔術王(グランド・マスター)による『外なる神』降霊計画の一員として酷使させられることになったのです。

 笑えるでしょう?

 平凡に生きることが夢だった私に降って湧いたような非日常を生きるなんて、さ。


 でも。


 悪い魔法使いから正義の味方が女の子を助けるとか。

 好きになった人が居て、その人が目の前で死んじゃうとか。


 そんなのはこの世界だとよくある不幸で、誰もが聞いたことのある悲劇でしかないんです。


 「……やあ、今日も来たよ」


 そう。私に起きたことは、そんなありふれた話なのだ。


 今は亡き貴方の墓前に花を添え、黙祷する。

 たったそれだけで死者を弔うなんて生者の慰めになるんだから、やって損はない。


 「────」


 確か、死とは生きているモノが迎える絶対の理で回避出来ない概念だ。

 それが在るから、この宇宙は半永続的な循環を保っている。


 故にそれを壊すことは誰であろうとしてはならないんだって貴方はよく語ってたっけ。


 ────「お前となら良いなぁ」


 ふと、貴方の言葉が頭を過る。


 「これでも堅物だったんですけど、ね」


 少し話しちゃうだけで惚れちゃうとか私ってチョロ過ぎじゃない?

 そりゃあ、貴方はイケメンだったしぃ。なんかスゲー優しく接してくれるしで無理もないんだけど!


 でも、あれだよ。あれ! 貴方って絶対、主人公補正入ってるよね!

 だって、義妹(みずき)ちゃんはまだしも、会ったばかりの私やあのウェサリウスちゃんまで落としちゃうんだから、さ。

 本当、相当なすけこましだよねぇ。


 ええ。心の中でそう愚痴らずには居られないぐらい、あの時の私は浮かれてました。認めます。認めますとも。


 ……でも、ピンチに駆けつけてくれるヒーローに恋しちゃうのは仕方ないでしょ?


 「……どうして、死んじゃうんですかねぇ」


 墓前に添えた花が風に揺れる。

 でも、私の口からこぼれた問いの返事はない。


 当たり前だ。

 死者は蘇らないのだ。


 ……ええ。今なら、あの魔導魔術王(グランド・マスター)が完全な死者蘇生を願ったのも分かる気がする。


 「全く、これからどうしろと言うんですか? 瑞希ちゃんもウェサリウスちゃんも誑かすだけ誑かして、ポイですか? これだから、貴方って人は──」


 どれほど愚痴を言えども、大切な人は帰ってこないし。虚しさが積もるだけでポッカリと空いた胸の穴は埋まらない。


 そんなことは知ってる。

 そんなことは分かってる。


 けど、ね。


 「ねえ、聞いてるんですか? ねえ、……ねえ、ってば」


 それでも、私は口にせずにはいられないよ、古瀬。


 カツン。


 「ククク。今日も墓参りか? 精が出るなぁ、名城真弓よ」


 「ナ、イ神父? どうして、貴方が此処に!?」


 そんな時、一度死んだ男が──『外なる神(ナイアルラトホテップ)』の端末が私の前に姿を現したのです。


 「どうしても何もない。ワタシは『外なる神』の一端末に過ぎん。『外なる神(ナイアルラトホテップ)』がワタシという情報を元に身体を再構築するのはそう難しいことではないだろうよ」


 「……何が目的なの?」


 敵意を滲ませ、愉快そうに笑う白髪の神父へ問う。


 「なーに、哀愁漂う貴様に情けをかけてやろうと思っただけのことだ」


 「──で?」


 どの面下げて言うのだと思いつつ、私は話の続きを促した。


 「そう慌てるでない、ククク。知っての通り、この第二共環高等魔術学園はワタシたち──『外なる神』を降霊する為に魔導魔術王(グランド・マスター)が設立したことを貴様は覚えているかね?」


 「ええ、覚えてるわ」


 コクリ、と頷く。


 「ならば、奴の目的である完全な死者蘇生を完成させる術式がこの地には幾つも放置されている。……まあ、そのどれもが未完成に近いモノであり、欠陥を抱えている代物だが──。実は完全ではないにしろ死者の魂を呼び寄せる装置があるのだ」


 それは、耳を傾けてはならない悪魔の誘惑でした。


 「とは言え、死者の魂を呼び寄せるだけで現世に定着させる術のない不完全な代物だ。故に奴は、魔導魔術王(グランド・マスター)はそれを失敗作とし研究を放置した。──だが、な。ククク。今の貴様らには丁度良い代物ではないかね?」


 けれど、あの時の私にとってそれは──。



















 キキキ。

 キキキ?

 キキキ!


 基本、影絵たちに休息はない。

 彼らが活動を休止してしまえばこの世界は存続することが出来ない。


 「ぐぅ、っは!」


 だから。


 「何故、だ? 何故、君たちが魔導の残党に肩入れしてるんだ?」


 例え、自分の手を血で染めることになったとしても、それを邪魔するのなら何だってするのです。


 グシャッ!


 頭を潰され、ピクピクと痙攣する討伐隊の隊長(オートマン)の姿は手足を捥がれた虫みたいで同じ人間とは思えません。


 「……ごめんなさい」


 最も、彼ら──討伐隊の人たちを騙すのはそれほど難しくはなかったです。

 実際、魔導の残党が持ち合わせていた魔導魔術王(グランド・マスター)の置き土産を使えば、思考を誘導することは容易だったのですから。


 「恨んで貰って結構ですよ」


 この夢の世界を壊されたら、此処までの計画がすべて台無しになってしまう。

 そうなったら、古瀬に会えない。


 だから、必死でおびき寄せた二人の討伐隊の頭を潰したんです。


 「や、やめ──」


 グシャッ! グシャッ! グシャッ!

 グシャッ! グシャッ! グシャッ!


 何度も。

 何度も、念入りに。


 「真弓さん、止めましょう。……もう事切れてます」


 「ハア、ハア」


 カラン。


 そうして手に持っていた魔槍(ランス)を放すと、首のない二つの肉塊を眺めることになりました。


 「わた、し、──私は」


 取り返しのつかないことをしました。

 魔導魔術王(グランド・マスター)から助けてくれた恩人たちを手にかけたのですから当然です。


 それはいけないことで。

 それはとんでもない愚かなことでした。


 ……でも、仕方なかったんです。会いたかったんです。

 此処に来て、ようやく感情のない影絵でも心を持てることを理解したんです。


 たとえ、それが人間の感情を真似ただけの別物だとしても私は──。


 「それ、でも──」


 間違いだと分かってた。

 誰も喜ばないのも知ってた。

 協力してくれた二人にだって嘘を吐いてる。


 けれど、どうしても古瀬との再会を願わずにはいられなかったんです。


 「先を急ぎましょう、お兄ちゃんが待ってます」


 そんな風に震える私に向かって、瑞希ちゃんが先を促しました。


















 ジジジ。


 カツン、カツン。


 空っぽの祭壇を埋める為、宙へと続く階段を私たちは上る。


 思えば長かった。

 協力者を探すのも苦労したし、影絵という生命体との対話は困難を極めたよ。


 カツン、カツン、──カツン。


 でも、それも終わり。

 私たちの計画の執着地点にようやくたどり着いたのです。


 「着いたわ」


 ヒュウ、と風が吹く。

 階段を登り切った私たちの先に固く閉ざされた門が見えました。


 「二人とも、覚悟は良い?」


 後ろにいる二人へ問います。


 「大丈夫だよ、真弓さん」


 「え、ええ。出来てます。出来てます、とも」


 二人の返事を聞いて、私は懐から『銀の鍵』を取り出し──。


 「じゃあ、──行くよ」


 固く閉ざされた門を『銀の鍵』を使って開けました。




























 「──っ」


 そこで影絵の少女()は目を覚ます。


 「ハア、ハア」


 彼が死んで巻き戻るといつも寝そべっている祭壇から私は起き上がる。


 「早く、行かなきゃ」


 そう言って地下聖堂を出ようとしました。


 「行かせると思うかね、影絵(しょうじょ)よ」


 ですが、それは果たされません。

 何故なら。


 「ククク。今度こそ、魔導魔術王(あの男)の企みを邪魔させんよ」


 『外なる神(ナイアルラトホテップ)』の一端末、ナイ神父がそんな私を呼び止めたからです。


 「……ナイ神父」


 振り返るとやはり数メートル先に黒い修道服の男が居ました。


 この男は私たち、影絵とは違います。

 だからと言って、人間でもありません。


 彼は『外なる神(ナイアルラトホテップ)』が地球人と接触する為だけに造り出した情報生命体です。

 だから、この世界であろうとなかろうと死ぬことはないのです。


 「その為には一刻も早く、あの空の器に『記憶(やつ)』を注いでやらねばならんのでね」


 手を大きく広げ、こちらへ近づくナイ神父。


 「出来ませんよ。貴方には、──」


 それを──。


 「悪いが、その手は封じさせて貰った」


 私の手を神父の手が掴む。


 「──え? な、何で」


 神父の姿が離れていることは確認出来ていた。

 そして、権能(チート)を使う前に『名城真弓(彼女)』から託された恩恵(ギフト)を発動しようとした。


 なのに、それを封じた。

 こんなこと、今まで出来なかった筈なのに──。


 「ククク。理解出来ないと言った顔だな、影絵(少女)よ。しかし、種が割れれば簡単なこと。お前たちは認識を歪め過ぎた。故にその力への対策など容易に持ち合わせることが出来る──ふん。少々、喋りすぎた、か。とは言え、恩恵(ギフト)にしろ権能(チート)であろうが行使には魔導魔術王(あの男)でも一度に一つの発動しか出来なかったことを鑑みると──」


 ナイ神父が私の手を掴む力が強くなる。


 「や、止め──」


 それだけで、彼が何をしようとしているのかが分かってしまった。


 「助けを求めても無駄だ。『廃騎士』は愚者の傍に居て離れており、『道化師』はこちらの制御下にある。尾張飛鳥はあのザマで、他の残留思念(ヒロイン)は舞台から退場済み。オマエを守る駒はすべて潰させて貰った」


 口元を大きく歪ませ、神父は嗤う。


 「さて、お前のアストラルコードを消すことはアクセス権を持たないワタシには出来ぬことだが、二度と舞台に上がれなくすることは出来る」


 ギリギリと掴まれた手の感覚が消えていく。


 「い、嫌です! まだ私、あの人の願い叶えてないんです! 此処で戻ったら、私──」


 「ククク、ククククク! 大丈夫だとも。お前が戻る頃にはすべて終わらせておいてやる。故に安心して、眠るが良い!!!」


 ナイ神父はそんな影絵(わたし)を哀れむように、慈しむように嘲笑うのです。


 キキキ?

 キキキ!?

 キキキ、キキキ!!!


 そうして、私の意識は再び真っ暗闇に閉ざされるのでした。


 次話の投稿は未定となっております。そんな作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!

 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!

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