037 たとえ君を倒してでも、僕は行く
放たれる、青と赤の一閃。
「やぁあああ!!!」
それを阻む不可視の領域。
「──っち!」
不規則なステップ。
整わない息遣い。
目が眩みそうな焦燥感を前に火花が散る。
「ぁあああん、もう! しつこい!」
古本の持つ本の頁が捲れる。
すると、何処からともなく不可視の一撃が繰り出される。
「──っ!」
咄嗟に魔術破戒を振るう。
キィン!
「──っぐ!」
だが、それも見えざる力場に阻まれてしまう。
「きゃわわわ!」
ニヤリ、と古本の口が歪む。
ドクン!
嫌な予感がしたので、幻影疾風を駆使し後ろへ下がる。
瞬間。
ボンッ!
先ほどまで僕が居た場所に小さな爆発が起こる。
「きゃわわわ! きゃわわわ! これも避けますか!」
パラパラと本を捲る古本。
並行するように爆発した場所から砂煙が更に巻き上がる。
「ですが! それもこれで、終わっちゃうんだって!」
愉快そうに聖職者は笑う。
ダンッ!
古本が足を踏み出す。
続けて、ポン、と弾けるように見覚えのある人影が現れた。
それは、種も仕掛けもない奇術で。
それは、超常的な力による異能だ。
「え?」
その人影の出現に疑問が出る。
ぐちゃり。
そんな疑問に答えるように、そいつは飢えた獣のような視線で僕を睨んだ。
「さあさあ、現れましたぜ、ビッグショー! お待たせしたんだ、スプラッター! 今宵の懺悔はお前だ、ミスター!」
褐色の肌が見えているけど、ギラギラした眼光に以前の余裕は見えない。
思わず目を覆いたくなる、真っ黒な泥に寄生された白衣の男。
「蹂躙! 凌辱! 改竄! さあ、ショウタイムだ。暴れろ、ウェイトリー!!!」
嬉々として声を弾ませる古本は、突然現れた『人形男』に向かって叫ぶ。
「あ、ぐぅ、──が」
その指令に対し、蹲り、呻く『人形男』。
もう動けないとそれは頑なに訴える。
だが──。
「おら、どうしたし!? 観客を楽しませるのが、神様の特権なんでしょう?」
パラパラ!
古本が本の頁を捲って、それを許さない。
「や、や、──がぁ! ぃあ、め! だづぅ!」
ぐるン!
ぎこちない動きで、『人形男』は立ち上がる。
「きゃわわわ! きゃわわわ! そう来なくっちゃ!」
今にも踊りだしそうに、哀れな人形を演じるウェイトリーを『道化師』は指差し笑う。
「がら、だ。ばれの、──がらだぁあああ!!!」
神を騙った男は、泥まみれの体で叫ぶ。
「──っ!?」
ミシリ!
空間が軋む。
「じゃあじゃあ、これにて『バッドエンド・ガールズ』は完結、完結ぅう!!!」
ジャリリリ!
罅の入った空から無数の鉄杭が伸び、数多の鎖と共に僕を襲う。
ガキン!
襲い来る鉄杭を弾く。
「ぎぃ、が、きゃ、っひぃ」
鉄杭を弾かれる度、ウェイトリーが苦しそうに悶える。
「きゃわわわ! 最っ高ですね、最高だって、最高だよって、最高に決まってるっていうんだし!」
その姿を嬉しそうに見つめる古本だった。
◇
ガキン!
シュバッ!
飛来する悪意。
当たれば、頭部を余裕でひしゃげるそれを魔術破戒で一閃する。
「──っく」
宙を舞う鉄杭。
火花を散らし、ジャラジャラと音を立てる鎖。
「っしゃあああ!」
キリがない。
幾度斬り倒しても次から次へと止まない鉄杭たちにウンザリしてくる。
「面白~!」
それを愉しげに古本は笑う。
僕のことなど眼中にないらしく、持っている本を捲るのに夢中で隙だらけだった。
──なら!
ドクン。
「やぁあああああ!!!」
心臓を高鳴らせ、コンマの世界で余裕の古本へと斬りかかる。
しかし。
「きゃわわわ! きゃわわわ! 無駄だし、無駄だって、無駄なんだって、無駄だと分かってるんのにしつこいし!」
キィン!
それを見えない壁が阻む。
「ぐぅ、ぅううう!!!」
ジャリリリ!
僕が弾かれると同時にウェイトリーが呻く。
壁を壊す思い込みをさせない為か、無数の鉄杭が容赦なく向けられる。
「どうしようか、な!」
無骨に攻撃を躱す。
避け切れない鉄杭は魔術破戒で弾く。
「どうしようもねぇえんです! どうしようもないってことで、どうすることも何も諦めて忘れろって言ったんだし!」
古本が諦めろと叫ぶ。
もう叶わないのだからと僕に現実を突き立てる。
でも。
「だから、それは嫌だ!」
負けじとそう叫び返す。
けど、彼女はそんな僕を無視してパラパラと本の頁を捲り続ける。
「ぅるっさい! いい加減、くたばれ!」
癇癪を起こすように少女は怒鳴る。
すると、何かが目の前で弾けるのを感じた。
「この、──分からず屋が!」
堪らず、叫んだ。
ドクン!
幻影疾風を駆使し、思い切って二人から距離を取る。
「────」
覚悟を決める。
ドクン、ドクンと心臓が脈打つのを感じながらこちらへと向かう敵を見つめる。
ドクン。
見えない壁が阻むというなら。
目の前の古本が邪魔をするというのなら。
ドクン、ドクン。
大事なものがある。
大切な人が待っている。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
それを奪われようとしている。
それを奪ってでも願いを叶えようとしている。
────「勇貴さん!」
それを許せるか?
それを手放せるか?
──ドクン!
だったら、──叩き切るまでだ!
ピキリ。
「──っち! 今、徴収命令に触れる訳には!?」
影が伸びる。
「う、ぐぅ」
頭が割れるような痛みを訴える。
見ているものがあやふやになるような、大切な何かが抜け落ちるような感覚に息が続かない。
つーか、動けない。
「喰ら、え」
それでも何とか腕を突き出し、死に急ぐ影に指令する。
「ぁああん、もう! ウェイトリー!!!」
影から無数の斬撃が伸びる。
青と赤の刃を瞬時に繰り出すそれに、『道化師』は慌てふためく。
「がっ! ぎ、ぐぅ、──ぉおおお!!!」
頭上に現れる幾多の鉄杭。
降り注がれる必殺の権能。
ウェイトリーは知っている。
古本も知っている。
それらが意味をなさないことも。
「これ、で!」
だから、彼らは僕に休ませる暇も与えなかった。
──けど、それも終わり。
「──終わりだ!!!」
熱を帯びる神経。
一ドットの時間を超え、影による剣舞は立ちふさがる二人を捉えた。
「きゃわわわ! お、覚えてなさい!!!」
交差する赤と青。
吹き飛ぶ二人の暴君。
パラパラと本を捲る古本はそう叫ぶと、一目散に何処かへ姿を眩ませる。
「ぎぃ、んがっ!!!」
そして、黒い泥にまみれたウェイトリーは、影の剣舞に呑まれ──。
「ぐ、が、い、ひひひ。──この借りは高くつくぞ、クソゴミ共」
スゥン。
──そんな断末魔を残して、姿を消した。
「────」
何処からともなく、風が吹く。
すると、一斉に虹色の花びらが舞い上がった。
「知らないよ、そんなもん」
何故かそんな言葉が口からこぼれたのだった。
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