024 一難去ってまた一難
昨日は最低の誕生日になりました。
というより、人間関係に疲れました。
前回のあらすじ
● 鏡の中で再開を果たす主人公は藤岡から『藤岡■■』としての記憶を取り戻すこと(?)に成功する。
それでは、本編をお楽しみください。
囚われの過去を見た。
それは遠い世界の話であり、──温かく、冷たく、心が踊るような青年の悲劇だった。
人によっては、ありきたりと思うだろう。
多くの者がその抽象に曖昧で、酷く矛盾したものを感じた筈だ。
その通り。
貴方の認識は正しい。
正しいが故に、──間違えている。
まあ。そもそも視点が違うのだから、そう思うのは無理からぬ話ではある。
だが、これは矛盾などしていない。
そういうものだったが故に、事実としてこの夢は顕在を赦されている。
ドクン。
心臓が鼓動し、白紙の魂のコードを書き換えていく。
「────」
此処は、夢の果ての最下層にして、不可侵の領域。
魂魄の花が一面に咲き誇る、この世を迷う死者たちが眠る場所。
そこに未だ夢に囚われる、姿を変える愚か者がいた。
黒髪を、銀髪に。
黒目を、碧眼に。
感情のない心に大罪を与え、太らせよう。
影絵たちは嬉々として謳い出す。
キキキ、キキキ。
キキキ、キィキキキ。
だが、それも終わる。
残り少ない瘴気を取り込み、白紙の魂は完成へ至り始めたのだから。
「ククク。……モウスグ、ダ」
──そう嗤いながら、悪魔は次の魔導魔術王の復活を待ちわびる。
だが。
「クスクス、クスクス。まだそんな夢を見ているのですか、ご主人様」
そんなワタシを嘲笑う声が聞こえた。
「……誰カト思エバ失敗作デハナイカ」
気配のする方を向く。
すると、そこに学生服を着た女がいた。
「まあ、酷いことを仰ります。こんなにもお慕いしておりますのに、失敗作だなんて。──魂を注いだ力作でしょうに」
「アア。ソレ故ニ、残念デ仕方ナイ。愛シキ人ニ至レナカッタオマエヲ、失敗作ト言ッテ何ガ悪イ?」
創造主に反旗を翻すとは、やはり二重の意味で失敗だったと切り捨てる。
そんなワタシに少女は、顔を赤らめ激昂する。
「ええ、──ええ! そうです、そうでしょう! 確かにその点を見れば私は失敗作です。故にどれほど結果を残そうと決して貴方の心に響くことはないのでしょう、ね。……ですが、それもここまで。喜ばしいことにあれは人並みの欲を。いえ、意志を獲得しました」
「ククク」
滑稽の文字が浮かんだ。
それもその筈。
この世界に踏み入れた以上、ワタシの決定に抗う術はないと言うのに、まだ対等であると思い込んでいるのだから。
「フン。──マア、良カロウ。ドウセ貴様ノ企ミモ潰ス。精々、今ノ内ニ嗤ッテオクコトダ」
そう言いながら、ワタシは世界の電源を落とすのだ。
◇
「う、ぐぅ」
息苦しさに目を覚ます。
ズキリ。
頭が悲鳴を訴える。
「い、つぅ──」
そんな自分を出迎える、波紋が広がる虹の空。
いつもと違う始まりに戸惑いながら、オレは痛みを我慢する。
ドクン。
心臓が鼓動する度、頭が割れそうだ。
「あ、──がぁ」
もしかしたら、この痛みは──。
誰に咎められることもなく。
誰に蔑まされることもない──そんな夢を望んでたオレが。
そんな夢を終わらせようとしてるのを神様が赦さなかったから起こってるのかもしれない。
「……此処は?」
ズキズキと痛む身体を引き摺って、重い頭で辺りを見渡す。
すると、近くに黒髪の少女が横たわって居た。
「ああ……そうだ」
そこで自分が横たわる藤岡と対立し、『藤岡■■』の記憶を取り戻したことを思い出す。
ズキリ。
「い、たぁ」
違う。
何か忘れてるような。
それも致命的なことを見落としてる気がしてならない。
「おはようございます、──勇貴さん」
「うん? ああ、おはよう」
そんなことを考えてると、真弓さんが声を掛けて来た。
「おめでとうございます。無事、『記憶』を取り戻せたようで何よりです」
ザー、ザー。
ザー、ザー。
真弓さんの深紅の瞳がオレを見つめてる。
その目で見られることが好きだった筈なのに。
ザー、ザー。
ザー、ザー。
可笑しい。
『記憶』を取り戻したというのに、ちっともオレの容態は変わらない。
まるで、靄のようなモノがオレという人間を搔き消してるようでならない。
「どうしました?」
紺の髪の彼女が心配そうに笑う。
「どうしたも何も──」
ジジジ。
言葉が詰まる。
何か大事なことを言おうとしてるのに、酷く頭が痛む。
「──いや、何でもない。どうやら、考え事をしてたみたいだ。気にするな」
そう言って彼女を安心させようと笑い返す。
「そう、ですか」
『少女』は酷く残念そうに落ち込む。
「──?」
何だ?
何が、こんなに引っ掛かる?
記憶は取り戻した。
藤岡飛鳥は無事、■■飛鳥に戻った。
そうすれば、僕こと七瀬勇貴は無事、過負荷に耐えられるだけの能力を手にすることが出来る。
「────」
変だ。
いや、オレはいつだって変だった。
それは、この世界に来てからもずっと変わらない。
けど。
────「ああ。言っておくが名城殿ではないぞ。彼女はこの時間だとまだ介入出来ていないから無理だ。此処に来れるのは──」
「──あ」
紺色の髪を掻きながら、ゆっくりと歩み寄る彼女は薄ら笑いを浮かべてる。
「違う」
眠ったら時間が巻き戻る、なんてルールが明言されている訳じゃない。
これは、思い込みと同時に憶測でしかない。
……でも、この引っ掛かりはきっと、間違いない。
「お前は、──誰だ?」
目の前の『名城真弓』と思い込まされた少女にオレは問う。
「さあ、──誰でしょう?」
そんなオレの問いを『学生服』のスカートを翻して、少女は答えたのだった。
ゾクリ。
悪寒が走る。
「──っ!?」
仰け反りながら、青と赤の魔術破戒を現実化させる。
「クスクス、クスクス」
真っ赤な瞳がオレを離さない。
「キキキ。キキキ、……キキキィイ」
少女の足元から得体の知れない何かが這い出てくる。
「な、何だ?」
影とかそういう不定の存在ではない。
でも明らかに人間ではない真っ赤な手が伸びてくる。
「クス、クス。何だと思います?」
ギョロリと睨む黄色い眼光。
クチャリと滴る涎を垂らし、這い出るそいつは赤いクレパスで描かれた猿。
「キィキキキキキキ!!!」
奇声を上げ、目の前に這い出た化け物が腕を振るう。
「──うお!?」
ガキン!
振るわれた腕を思わず弾き、火花を散らす。
「キィイエア!?」
腕の一閃を弾かれた化け物は、放物線を描くように少女の元へと下がる。
「な、んだ? 軽い?」
一撃が軽い。
瞬きする間もなく振るわれた化け物の攻撃は寝起きのオレでも往なせるほどの威力だった。
だが。
「おやおや? 敵を前に目を離すなんて、随分と余裕なお方ですね」
耳元で少女の声が囁かれてしまう。
「うわっ!?」
一瞬のことで驚く。
慌てて声のする方へ魔術破戒を振るう。
「──って、え? 居ない!?」
しかし、それも虚しく空を切るだけで何の手ごたえも感じられなかった。
「クス。そちらには居ませんよ」
今度は背後から聞こえる。
「後ろか!」
ドクン。
気配を辿り、幻影疾風を発動させる。
──だが。
「──は? 居ない?」
そこに少女の姿はなく。
「本当、どうされたんです? 権能の乱用はお身体に毒ですよ」
べちゃり。
突然、顔に赤黒い泥のようなモノがぶつけられ、視界を奪われる。
「──っべ」
不味い!
そう思った時には、もう遅く。
「キィイイイイイイイ!!!」
腹に衝撃が走り、身体が宙を舞う。
「ぐふっ!」
そして、そのまま遠くの方へ飛ばされてしまう。
「ほら、──そうなるとこうなります」
痛かったですか、と言葉尻に呟かれる。
少女の姿を追おうにも、身体が鉛のように重くなり動けない。
「そのまま寝ててくださいね。飛鳥は回収します」
ザー、ザー。
ザー、ザー。
視界に砂嵐が走る。
ザー、ザー。
ザー、ザー。
モノクロの耳鳴りがして、頭痛を訴える。
「がっ、──あ」
でも、駄目だ。
このまま、正体不明のヤツに■■飛鳥を奪われたらきっと後悔する。
「止め、ろ」
動けない。
よく見ると、得体の知れない赤い猿に覆いかぶされてるだけだった。
けど、関係ない。
身動きが取れないという点では同じだ。
「退け、よ。この、クソ猿」
遠くなる。
手を伸ばそうとも、少女が飛鳥に何かを振りかけようとしている。
ドクン。
心臓が鼓動し続ける。
「退けって、言ってんだろ」
ドクン/動け。
ドクン/動け、動け。
ドクン、ドクン/動いてくれ、オレの身体。
駄目なんだ。
このままじゃ、駄目なんだ。
────「それでは、キミの活躍に健闘を祈る」
また殺してしまう。
僕に手を貸した少女を殺してしまう。
────「わたしだ、って、三木、あ、い、し、て、る、よ」
何が駄目かって?
決まってる。
────「私たちの願い、──いや、私の夢を」
そんなことをしたら、今度こそ『僕』を助けた少女の夢を叶えられなくなるだろ!
「──っらぁ!!!」
「キキキ!!?」
火事場の馬鹿力で化け物を退かす。
そのまま、青と赤の螺旋を振り抜く。
「ですが、現実とは残酷なものです」
少女が呟く。
すると、目の前が真っ暗になる。
「うがっ」
視界ゼロ。
真っ暗な世界をいつもの視界に戻そうと自己投影を発動させる。
しかし。
「無駄です。思い込みでどうにかなる問題ではありません」
何かが弾かれたような感触を覚え、オレの視界は真っ暗に閉ざされたままになる。
「──っ」
手も足も出ない状況。
絶体絶命の窮地。
言外に告げられる否定の弾劾を前に膝を屈しかけた時。
「確かに、そうかもしれませんね」
馴染みのある少女の声がした。
「──何?」
奇跡だった。
再会することは叶わないと思ってた。
けど、思い返したら一度も彼女は復活出来ないと明言した訳じゃなかった。
「──光よ!」
真っ暗な視界に光が宿り、目の前に現れる少女の姿を確認する。
腰まで届く茶色の髪。
大空のような青い眼。
そのどれもが懐かしく、同時に海原に光を届ける希望がオレの目に灯る。
「フィリ、ア?」
呟くように、少女の名前を呼ぶ。
「──はい! 貴方のヒロインのフィリアちゃんです!」
すると、こちらを振り向き、彼女は向日葵のような笑顔を見せたのだった。
次話の投稿は未定となっております。ですが、この作品は年内で完結させる予定です。そんな作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!
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