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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第一章:欠ける記憶、日常再生
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009 急変


 「ハア、ハア!」


 あの女の子が行きそうな場所を虱潰(しらみつぶ)しに探す。


 寮の個室は授業時間には使用が禁止されており、女子寮にいる可能性は考えない。

 だって万が一、体調不良を理由に抜け出せたとしても保健室を(すす)められるので仮病での早退はもっと考えにくいからだ。


 そうなると校舎の何処かということになり、こうして駆けずり回っているのだが少女の姿は一向に見つけられない。


 走る。

 兎に角、走りながら探した。

 名前は未だに解らないが、仲が良かったことは累のお陰で思い出せた。

 僕が陥ってる状況がどうして累は解ったんだとか、そんなことを考えてる余裕はない。

 今やるべきことは、きっとそれじゃない。


 無我夢中で探し回ってると、中庭で小柄な女子生徒を見つける。

 首筋までに伸びた紫の髪を風に靡かせ、妖悦な笑みを浮かべてた。


 「先輩! リテイク先輩! すみません、上手く説明し辛いんですけど、僕のクラスメイトらしき女の子を探しているんです! この辺りで見かけたりしてませんか!?」


 要領の得ない説明。

 ゼー、ゼーと息を荒くする僕を、吸血姫は見つめてる。

 意外なものを見たみたいな彼女の視線に、もしかしたらの気持ちが湧いた。


 「そんな急いでどうしたのかな? 諦め癖の君らしくない慌てっぷりじゃないか」


 冷めた回答をされる。

 でも、今は彼女に会わなくてはいけないのだ。

 四の五の文句を言って時間を無駄にしたくない。


 「その様子だと、先輩も何か知ってるんですか?」


 先輩の冷めた言葉でも形振り構わず聞いた。


 「……別に、何にも知らないよ。第一、君がどうなろうと私には知ったことじゃないもの」


 ばつの悪そうな顔を先輩はしたが、はぐらかされてしまう。


 きっと僕の知らない真実を彼女も知っているんだろう。


 「そう、ですか。──なら、せめて此処に女の子が来たかどうか教えてくれませんか? 特徴は、えーと。……兎に角、ポニーテールで僕と背丈はあまり変わらない、グラマラスな女の子です!」


 探してる彼女の特徴を(つたな)いジェスチャーで伝える。

 それを先輩は顔をしかめながら聞く。


 「その特徴の娘なら見てないかなー」


 先輩は罰が悪そうに僕から視線を逸らす。

 僕はそんな先輩をジッと見つめた。


 「……ああ、もう!」


 突如、先輩はスカートが(ひるがえ)るのもお構い無しにその場をジャンプする。

 超人の如く、一瞬で先輩は僕から距離を取った。


 「しっかし、どんな心境の変化なのやら。誰が()きつけたのはおおよそ想像がつくけど、それでもこの変わりようはどうなのかしら? ……ねえ、仮にその娘を見つけたとして七瀬くんはどうするの?」


 大分距離が離れているというのに、先輩の真剣な表情がはっきりと見えた。

 先輩なりに深入りをするなと忠告してるのだろう。


 ──だが、それは余計なお世話というやつだ。


 「謝る。謝って、謝って、それからもう一度名前を教えて貰う。どんな関係だったのかも聞く。叩かれても、殴られても、また同じような関係に戻りたい。それから、また──」


 やりたいこと、したいことが思いの外に出てくる。

 彼女に会ってやりたいことが自分の意志で言えるのはもしかしたら初めてなのかもしれない。


 キーンコーン、カーンコーン。


 まるで僕らを嘲笑うように、鐘の音が校舎中に響いた。


 「──ほう。人形の次は吸血姫(きゅうけつき)と来たか。これはこれは奇特なものだ。態々、死に来たのか?」


 後ろから酷く掠れた男の声がした。


 「──え?」


 振り返ると中庭付近に黒い修道服姿の男が立っていた。

 ぐしゃぐしゃの白髪が不衛生そうな雰囲気を引き立たせ、深淵を覗くような黒の瞳。

 何より、距離が離れているというのに、全然小さく感じない背丈は二メートルを軽く越えたものだと想像出来た。

 そんな男が何者かと頭を巡らせていると、不意に男と目が合った。


 ゾクリ。


 背筋が凍る。

 否、鳥肌を立たせる程の殺意に身体が硬直した。

 自身に向けられた殺気でなくとも、それが畏怖(いふ)すべきだと本能が告げている。

 蛇ににらまれた蛙とは、このことだった。


 「失礼ね、ナイ神父。私、貴方のような汚いものに触れに行くほど酔狂じゃないわ」


 僕らを見下すような男に先輩は負けじと睨み返す。

 先輩は男をナイ神父と呼んだ。

 知り合いなのだろうか?


 「ならば何故、ここにいる? それと共に来なければ私に会うこともなかっだろうに」


 いつの間にか、空は無へと(いざな)う闇夜となった。


 ──キキキキィ、キキキキキキイ!


 何処からか猿の鳴き声が響く。


 「べっつにぃ。ただ、彼が必死だったから、つい意地悪したくなっただけよ」


 クス。


 男の問いに先輩の真っ赤な瞳が妖艶(ようえん)(ひそ)められる。


 「ククク。吸血姫にも可笑しな趣味が有ったものだ。中身のない傀儡(くぐつ)に入れ込むなど、酔狂なことだ」


 ニタァと口元を歪ませながら男はそう言った。

 神に(つか)える聖職者とは思えない邪悪さが(にじ)み出ており、それが男をあべこべな存在にしていた……!


 「言いたいことはそれだけ? 彼に()れた訳じゃないけど、嫌いでもないの。ほら、頑張る男の子って素敵だと思わない?」


 クルクルと髪を指に巻きながら、退屈そうに先輩は欠伸をする。

 そんな態度に男は(わら)った。

 まるで、この行為こそ無意味なものだと自嘲(じちょう)しているみたいに。


 「ククク。容れ物に意志などあるものか。仮に意志があるのなら、とうの昔にこの世界は崩壊している。全くの無駄な徒労。無意味だ」


 天に(ささ)げるかのように男は手を掲げる。

 聖職者を思い浮かべるその仕草は様になっていた。


 「……揚げ足を取る気じゃないけど、私を無意味だって言うのなら貴方のその構えも無意味じゃない? そんなポーズ取らなくても、エイプなんて展開出来るでしょ」


 先輩は呆れながら言う。


 「──ッフ。それこそ愚問だ。神父が主に祈りを捧げることに無意味なことは有るまい」


 心外だと(のたま)う姿に影が集う。


 「貴方、神父よりも上等なものでしょ」


 ──パチン。


 呆れ顔で先輩は指を鳴らす。


 その瞬間。

 集った影が無数の猿の形を作り出し、僕らに向かって襲いかかる。

 僕を蚊帳(かや)の外に殺し合いの幕が切って下ろされた。



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