000 プロローグ的な何か
見知った少女がいた。
「う、うぅう」
傷だらけになりながらも、歯を懸命に食い縛りながらも、立ち上がろうとしている。
「がっ、──ぁあああ!」
でも、その姿は痛々しく──とてもじゃないが見ていられない。
それを──。
「くだらないですね」
グシャリ、と修道服の男が少女の頭を踏み潰す。
「キ、キキキ、──キキキキキキ!!!」
傷だらけになりながらも、それでも尚、立ち向かおうとした少女を男は嗤う。
「……なん、で」
グチャ、ベチャ、ビチャ!
しかも修道服が返り血に染まるのを気にせず、潰した頭を踏み続けたんだ。
「や、やめ、ろよ」
僕は少女が好きだった。
あの妖精のような翠眼で見つめられると頬が赤くなったし、栗色の髪を弄る姿に目を奪われたこともあった。
「──やめてくれよぉお!」
でも、それももう見られない。
目の前の男が少女を殺してしまったから、叶わないのだ。
何故?
どうして、彼女が殺されなきゃいけない?
「まーだぁ、そんなこと考えてるんですか」
いつの間にか少女の頭を踏み潰すのを止め、男は何も出来ない僕を嘲笑う。
そうして女言葉でしつこいと罵りながら、横凪に腕を振るった。
「……え?」
その人間離れした芸当に驚くも束の間。
バシャン!
一瞬で体勢を崩し、僕は口から真っ赤な吐瀉物を出す。
「ぐぅふぅ!」
血溜まりに身を伏せ、感じたことのない激痛に身悶える。
「呆気ないものですねぇ」
そこに追い討ちを駆けるよう顎を掴まれ、無理やり立たされる。
痛い。
とても痛い。
でも、そんなことより■■さんの死を憐れむ暇もないことが辛かった。
「これで、終わりです……っよ!」
男が告げる。
すると耳鳴りが起こり、頭がかき回されるように痛くなる。
「──がっ! あ、ぁあああ!!!」
押し寄せる激痛にもがき苦しむ。
止めてと必死で手を伸ばすものの、男はそれを愉快げに嘲笑う。
──そんな中、唐突に夕焼けを背に僕を励ます■■さんの姿が過った。
「あ」
彼女は向日葵のような笑顔で、僕を希望と言った。
「あ、あ、」
記憶が無く、途方に暮れていた僕に声を掛けてくれた。
いつだったか忘れてしまっていた■■さんとの日々はとても輝かしいものに見えた。
「あ、あ、ああ、」
たった数日の出来事。
けど、そんな日常をどうしてか僕は忘れてしまっていた。
────「勇貴さんはそんな嫌われ者の私にとって、希望なんです」
少女は僕の前でしか笑えなかった。
声を押し殺し、震える声で泣く彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
ふざけるな。
こんなところで終われない。
こんな奴に殺されるなんて真っ平ゴメンだ。
何より。
「あ、あ、ああ、ああああああ!!!」
好きな男の前でしか笑えないなんて認められるかよ!
「これで終わりだってのに、まだ抵抗するんですか!」
必死で身体を動かし抵抗するも、耳障りな怒声と共に一層強く頸が締め付けられる。
「────、────! ────、────!」
男が何かを喚き散らす。
周囲はいつの間にか暗闇になっている。
ズキズキ。
ズキズキ。
更に頭痛は増していく。
「ふ、ふざ、け、ん、な」
掠れる声しか出ない。
それでも、これだけは言ってやらなきゃ気が済まない。
「終わ、り、じゃ、な、い。ぼ、く、は、ま、だ」
こんな僕を希望と言った彼女の想いを嘘にしたくないから、此処で諦めるわけにはいかなかった。
「じ、ぶんのじ、ん、せ、い、を、ぼ、く、は、ま、だ、生、き、て、い、な、い!」
カチリと響く、パズルの欠片が填まる音と同時に──。
「恩恵の発動を確認。これより、対象の時間遡航を開始します」
突然、聞き覚えのある少女の声が響いた。
「──っ!?」
いつもと違う抑揚のない、機械的な口調だった。
「なん、ですって!?」
そんな声に修道服の男が驚いた。
グラリ。
狼狽える声を聞いた瞬間、平衡感覚が失われる。
夢を見る。
悪夢に溺れる。
ゴポゴポゴポ。
僕の記憶が軋みを上げる。
意志の剥奪。
無意識の洗脳。
静かなるディストピア。
永遠に抜け出せない煉獄。
雑音が脳に走る。
ゴポゴポゴポ。
未だ少女たちは鍵を見つけれない。
ゼンマイが巻き直され、僕の意識は次の■へとシフトする。
「ルールの改竄? ■■を殺したらそうなるって言うの? なら次は──」
──意識が途絶える間際。
いつの間にか、男の声色は女のものへ変わっていた。
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