表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕事人・鶴瑞葡萄ノ進  作者: たまねぎ
7/8

第7話 駆け落ち(二)

 「ああ。と言っても、直接面識があるわけじゃねぇがな」

「はあ」

松崎は、酔って呂律が怪しい我孫子の顔を、侮蔑と興味が入り混じった表情で見つめた。

「なに、あっしは我孫子といってね、文久の頃から飾り職人をやっているんだが」

「はい」

「お若いの。あのお屋敷は昔、なんだったか知っているかい」

「いえ、存じません」


 無理もない。松崎はまだ齢25歳、一昨年入社したばかりの駆け出し記者である。


「あそこはね、今の遠山大将の親父であった、遠山信濃守の屋敷だったのさ。それで、奉公人も今の倍はいたんだ。その奉公人の中のミツという女がね、あっしの店の客だったのさ」

「ははあ、なるほど」

「うむ、もっとも、今じゃ老いぼれの婆だがね。しかしまだ両国の家から歩いて店に来るよ。昌子という名も、その時に聞いたのさ。しかし…」

「しかし」

「いや、ねえ。これは大変なことだね。そうじゃないかい慎さん」

ひとしきり話し終わって、我孫子は話を山名に振った。

「うむ…、ご苦労だったな松崎。本社に先に戻っていてくれ」

はっ、と松崎はかしこまって、それからデスクはどうされますかと山名に聞いた。

「俺はこの通り酔っている。酔っている、が…、すこし足で稼いでみるかな」

山名の言う、「足で稼ぐ」とは、歩き回ってネタを探してみるという意味である。

「わかりました。では、自分は社に戻ります」

「うん。あ、いや、待てよ。陸軍省の方に人はいたかな」

「いえ、不明です。しかし塚原にメモを渡しました。恐らく何かしらの行動を社でも起こしていると思いますが」

「わかった。最初の予定通り社に戻ってくれ」

「了解しました」

そういうと、入ってきた時と同じようにドタドタと階段を駆け下りて、松崎は店を出て行った。


 「そういう訳だから、俺はちょっとその辺を周ってくるよ」

ややあって、山名は二人に声をかけた。

「ん…分かった」

「そういうことならば、仕方ないだろうな」

「じゃ、失礼するよ。またいずれ会おう」

その言葉に、葡萄ノ進と我孫子は片手を挙げて応えたのだった。


 銀成の前を丁度通りかかった辻馬車を捕まえて、山名が三宅坂の陸軍省の前に来てみると、すでに多数の報道陣が詰めかけているのが見えた。他社の見知った顔もちらほらと見える。

「旦那、着きましたよ」

「ああ」

 山名はすこし逡巡してから、舌打ちをして、御者に行先変更だと言った。

「すまないが、両国へやってくれ」

更新が滞っております。申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ