なるほど、佐藤顔ですもんね。
嵐のような姉弟が過ぎ去り、僕の部屋には再び静けさが戻ってきた。このコンビニの骨なしチキンはいつ食べても美味い。サンドイッチは、ソースが辛かった。余計に喉が渇く。
キッチンの流しには、あと3、4日水道は使えないという張り紙がされてあった。水道管の掃除かなんからしい。
もう1回コンビニ行くのもなあ...。僕は埃でうっすら白いままの床に転がった。転がったあとに、自分が黒いフリース生地の服を着ていることを思い出した。姉さん、僕はやっぱろ馬鹿だった。
まあ元々薄汚い男にちょっと埃が付いたくらいだ。誰も困らない。いっそこのまま床を掃除してやろうか。
結局、新居の片付けには丸2日を要した。片付けには、新しい家具の取り付けも含まれていたので、2日で終わったのは上出来ではないだろうか。
特に殺意が湧いたのは、家具量販店で買ったキッチン棚だ。僕はあの時初めて蝶番の取り付けを体験した。そりゃあ、売ってるのはただの板とネジの詰め合わせなんだから安いはずだ。実家から持ってきた細いドライバーでは太刀打ちできず、わざわざホームセンターで太いドライバーを買う羽目になった。帰りがけにコンビニで飲み物をまとめ買いしたせいで、死にかけた。つくづく自分の要領の悪さが嫌になった。
昨日片付けが終わったばかりの部屋は、なかなか居心地の良い空間になった。これであとは水道が通れば言うことはない。
「おにーさーん。なんかおやつ頂戴!」
訂正。水道を通すより先にこの少年が僕の部屋に勝手に入ってこないようにしてほしい。
弟くんよ、なぜ僕の部屋で僕よりくつろいでいるんだ?
「あ、すいませんねうちのチビが。ところでおやつはまだです?」
姉さん...弟くんの制御は姉さんの仕事じゃないのか?
なんで椅子で足組んでくつろいでいるんだ。
「...なんで来てるの?」
「弟が」
「いや連れて帰って?」
「私たち、あの向かい側のアパートに住んでるんですけど、」
僕よりちょっと良いアパートじゃないか。
「部屋の番号が貴方の部屋と一緒で、何回違うって言っても弟が間違えるんです。」
分かったから帰ってほしい。
「どうせ私たちも家に帰ってもすることないし。」
「いや、君学生だよね?」
「高3です。」
「受験生じゃん。」
勉強という大事なすることがあるじゃないか。
「大丈夫です。」
「あっへぇ。」
1度でいいから言ってみたいものだ。
「いや、それよりもね、知らない人を家にあげるってのは」
「笹原です。笹原舞。」
...あくまでもここに居座るつもりなんだな。
「そんでこっちのチビが海斗です。小4です。」
勝ち誇った顔の姉さん。いや、そんな顔されても。
「貴方は?表札出てなかったのでわからないんですが。」
名前も知らない人の家にズカズカ入り込むのはやめた方がいいと思うんだが...というのを抑える。
「佐藤です...。」
「なるほど、佐藤顔ですもんね。」
佐藤顔って何だ。どこまでも失礼だな。
その日、僕は久しぶりに夢を見た。
おじいさんが養鶏場で働いている光景だ。いつも断片的なのに、今回は長かった。
おじいさん...この時はおじさんだけれど、おじさんが鶏に餌をやっている。養鶏場はあまり大規模ではなく、小屋には十数羽の鶏がいるだけだった。おじさんは、一羽一羽に名前をつけて可愛がっていた。
出荷されるとき、おじさんは涙を流した。そして、養鶏場を辞めてしまった。そんなことしてるから職が安定しなかったんだよ、と僕は思い出す度に考えていた。元々おじいさんの性格がそんなだったというのは分かっていたけれど。
そのうち出荷されるのを分かっていて、彼はどうして名前をつけたりしたんだろう。




