森あるある
元は登山道だったと思われる細い道を進む。腐った落ち葉が雨に濡れ、独特の香りをはなっていた。傘は山の中では、木に引っかかって役に立たない。
傘を閉じて杖替わりにして進んでいくうちに、思い出したように頭痛がぶり返してきた。なんだこんな時に...。
「くそ...」
急な坂道を登っていくうちに、辺りは本格的に闇に包まれた。
雨のせいで地面はぬかるんでいて歩きにくい。よく見えないが、僕の白いスニーカーは今頃真っ黒になっているだろう。歩く度にネチャネチャ音がする。
頭も重いし、足も重い。目眩もする。心臓が動く度に、脳が膨張して頭蓋骨を押しているかのような痛みがくる。頬を伝っている雫が汗なのか雨粒なのか、もはや分からない。
ガサ...
背後から、葉を雨が打つ音とは明らかに違う音がした。
ガサガサガサ!!!
慌てて振り返ると、ねちゃ、と足音が続いた。
人影がぼうっと浮かんでくる。
「海斗くん?」
「...」
違う。影の大きさが海斗くんの大きさじゃない。
「...誰?」
「...」
何も言わずに、こちらへ近づいてくる。
ねちゃ、ねちゃ...
僕は、体がすっと冷たくなるのを感じた。
『犯人はまだ捕まっておらず、警察は捜査を進めています。』
不意に、アナウンサーの声が脳内で再生された。
違うかもしれない。でも、絶対に違うという確信もない。
僕は恐怖心に駆られ、走り出した。右も左も分からないまま、がむしゃらに地面を蹴った。いつまでも追いかけられている感覚が消えなかった。
頭がクラクラして立ち止まる。
近くの木に寄りかかって、地面を見つめ、息が整うのを待った。
早く、海斗くんを見つけなきゃ。視線を横に移すとすぐ足元の地面が無くなっていることに気がついた。崖だ。
近くの木に捕まり、周りを見る。
「おーい、海斗く....あ...。」
世界が回転した。
目眩のせいかと思ったが、違った。
「おわ」
僕は一瞬、浮遊感の中で、木の間から黒い空を見た。直後、腰に激しい痛みが走る。そして左肘を大木に強打した。
耳元で枝が折れ、ザワザワと激しく木の葉の揺れる音が続く。細い枝が数回頬を引っ掻いた。
縦に3回転ほどして、やっと僕の体は静止した。再びザァーっという雨の音だけが耳に入ってくる。
「いって...。」
左の手のひらがビリビリ痛む。
ドロドロの地面に、暫く大の字のままでいた。
舞ちゃんをこっちに行かせなくてよかった。
「はあ...。」
全身痛い。もう動きたくない。
先程まで僕をつき動かしていた、半ば恐怖心に促された使命感が、打った左肘から抜け出していくような気がする。
僕は雨に打たれながら段々体が冷えていくのを感じた。
もし、前世のホテルマンなら、もし、前世のおじいさんなら、こんな時でも絶対に諦めはしないだろう。地面を這いつくばってでも、海斗くんを捜すだろう。
僕は....
「おにーさん?」




