第一話 バーチャル・ニンジャギア
誰でも忍者になれる『ニンジャギア』
VR技術とAR技術の融合した新感覚体感型ゲームだ
ベーターテストから参加する兄、ユキムラ
初めての仮想世界に高揚する弟、ハヤト
最強を目指す二人の旅は今始まった
忍者の記録は文献によると紀元前六六〇年に道臣命が登場したのが最古とされる。そして日本各地で忍の里が生まれ戦国時代に武将たちの手足となり活躍する。 颯爽と草原を走り、石垣を飛び越え、城へ潜入し主首をあげる。 敵と遭遇したなら手裏剣で動きを封じ忍者刀で切り裂き忍術を使って煙と消える、それが忍者。
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二〇二九年、VR技術AR技術で再現したのが【ニンジャギア】だ。新感覚体感型ゲームであるニンジャギアは、【ニンジャフェイス】【チェストアーマー】【リストガード】【シュリケンス】【ニンジャブレード】の五種のパーツで構成される。
東京渋谷区の幡ヶ谷二丁目の環八公園、通称ハチ公。もともと小さなどこにでもある公園であったが、都庁がある新宿公園と二十メートル幅の並木道で繋がって、自然豊かな大公園となった。
日が真上に来る頃若い兄弟が二つの切り株で足をくんでいる。
ハヤトは兄ユキムラの話しを目を輝かせて聴いている。
霧野幸村は十六歳の高校一年生、身長一七五センチのやせ型運動神経はそれなりにあり、ニンジャギアが発売する半年前からベーターテストに参加、影王の称号まで上り詰めた凄腕ゲーマーだ。
霧野隼人は十歳にしては一六〇センチと背が高い小学四年生。お年玉とこつこつ貯めたお小遣いを費やし、早くから予約していたニンジャギアを昨日やっと手にいれた新米ゲーマーだ。
今は何処のショップも品切れ状態で、再入荷も半年後といわれる程大人気のニンジャギア。ゲームといってもPCを必要とせず、テレビゲームでもなく、屋外スポーツとして我が国の児童育成会からも推奨を受けている。
当初ゲームを買うことを反対していた二人の両親も、ニンジャギアを買う事は快く了承してくれた。ニンジャギア、その見掛けはスーツケースの形をしたポリカーボネイト製の箱、それが全身に装着する武器パーツに分かれるのだ。
【ニンジャフェイス】は頭に装着する。おでこにあるシステムデバイスから透明のフェイスガードへ現実の画像と仮想世界の映像が合成されて映し出される。
【チェストアーマー】はベストとして装着、胴体を守るだけでなく、敵の攻撃が命中するとダメージポイントをカウントしダメージに応じた振動が発生する。
【リストガード】は両腕を防御するだけでなく、シュリケンスを片側3枚、合計6枚収納できる。
【シュリケンス】ICチップの入った手裏剣で、外周に吸盤のついたリングパーツで囲う、敵にあたると引っ付いてダメージポイントを与える。
【ニンジャブレード】忍者刀。敵に大きなダメージポイントを与えることができる。また敵の攻撃を受け流すこともできる。
ユキムラは手に持った武器を構えて語る。
「ニンジャブレードやシュリケンスはナイロン製だから、身体に当たってもちょっとした衝撃はあるが痛くはないよ。勿論勢い余って地面に転んだり扉に手を挟んだりしたら痛いけどね。また目や口ははニンジャフェイスが全てガードしてくれるから安全な武道という感じかな」
兄の丁寧な説明にハヤトはうなずいて
「そこは分かってる」
ユキムラは続ける
「現在ハヤトはレベル〇だから3onはできないし忍術も使えない。まずは一人でできるチュートリアルを終了してくれ」
「兄ちゃん、ありがとう!」
ハヤトは元気よく返事したと思うと、ニンジャギア【風】の箱を展開した。
現在販売されているニンジャギアは、火・水・土・風・雷の5種類で、ひとつひとつのデザインが違うのと同時に、それぞれ個性的な忍術エフェクトが生まれる. 忍術を使うと影響を受ける距離範囲内の者のニンジャギアに対して画像、音、振動などのアクションエフェクトを発生させる。
ユキムラのニンジャギア【雷】は雷系の忍術が使える。すでに五〇レベルに達しているので、雷雲を呼び辺り一面に雷を落とす竜雷の術までマスターしているのだ。
ハヤトのニンジャギア【風】はレベル0でまだチュートリアルも終了していない。一応チュートリアルを終えてレベルが一になれば、相手の横を無傷で駆け抜けれる隼駆けの術が使える。
ハヤトは左右端にあるリストガードを外側から腕にはめ内側のベルトでロックする。
「よっ」
チェストアーマーはTシャツのように頭から被り、左右の腰ベルトをロックし固定する。
ニンジャブレードは背中のハーネスに固定し、シュリケンスは三枚づつリストガードにセットした。
「うっし」
最後にニンジャフェイスをサンバイザーのように被り透明パーツのバイザーを下げ顎まで覆う。
「じゃあハヤト、俺たちは先に一戦交えてくるよ!」
兄は2回手を振ると友達の所へ向かって走り出した。
僕は大きく一息に吸い込むと起動コマンドを叫ぶ。
「ニンジャギア起動!」
兄の後ろ姿がパっと消えるとOSの起動画面が浮かび上がり音声メッセージが流れた。
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「バーチャルニンジャギア」
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一瞬で世界が変わり、目の前には雲一つ無いほどの青空と緑の田畑がひろがる。
空にはトンビであろうか上空をピロローと鳴きながら旋回し、牛が農機具を曳いて田植え前の地面を掘りおこしている。
クリアバイザーに映しだされている映像なのだろうが、それを言わなければ現実と見分けがつかないほどリアルだ。
しばらくすると前方から薄紅色の着物に白い帯の女の子が近づいてくるのだ分かった。
彼女の黒髪は眉の上で揃えられ、後ろ髪が左耳の後からしっぽのように生えている。
「かわいい子だなあ」
つい口に出してしまったが、まだ距離があったから聞こえないはずだ。彼女はそのまま目の前まで来るとぺこりとおじぎをした。
「こんにちは、ニンジャギアの世界へようこそ、私はサヨと申します」
「えっ!?」
赤くなっている筈の僕は言葉をかえす。
「あーあーこここ、コンニチハ」
照れている僕に彼女はふふっと小さく笑うと少し見上げるように聴く。
「あなたの名前を教えていただけますか?」
「あ、そうか」
これはゲームのチュートリアルだった。はやく名前を言わなきゃ。
「僕の名前はハヤトです」
・・・・・・・・・・・
彼女は少し考えるしぐさをすると
「えっと、ハヤトさんって呼んでいいですか?」
僕も顎に手をあてて考えるしぐさをすると
「うん、でもさんはいらないよ。ハヤトだけ、名前は呼び捨てでいいよ」
「わかりました、ハヤトさん。では私の事はサヨと呼んでくださいね」
サヨの左手が差し出された。
「ではハヤトさん、私に付いてきてください」
僕の右手を握ると茅葺き屋根の集落の方へと駆けだした。
「えっ、えっ?」
サヨの手は僕の手より一周り小さくそして柔らかい。それでも僕の手をぎゅっと強く握っていてる。
「ねえサヨ、どこに行くの?」
サヨからの答えは無く、さらに加速していく。僕はそれに必死についていく。
「はっ、はっ、はあはあ」
小さい頃から卓球を習っている僕は基礎体力はばっちりで走ることは苦手ではない。それでも彼女の速度は速すぎる、僕はハアハア言いながら全力で走った。
川沿いの道からつり橋を渡り杉林をぬけ小高い丘を上がってゆくと、やがて立派な歌舞伎門が見えた。
門の手前でサヨは減速し、立ち止まると同時に振り向く。
「お疲れ様ですハヤト。準備運動は終わりです。これから忍者体力測定を行いますので、門から中に入ってください」
サヨは疲れていないのか、息一つ切らしていない。対して僕は情けないことに肩で息をしている。
「サヨ、忍者体力測定って何?どんな事をやるの?」
彼女は両手をぶんぶん振り回し、身振り手振りを交えて答える。
「まずは五〇メートルです、ダーッと全力で走ってください」
「うん」
「次に走り幅跳びはぴょーんと跳んでください」
「まあ頑張るね」
「そして懸垂はガシガシ回数こなしてください」
「できるだけやるね」
「ソフトボール投げは、ボールを遠くにビューンです」
「結構得意かもしれない」
「腹筋と腕立ては二分間でなるべく多くガシガシです」
「ガシガシは懸垂と一緒なんだ」
「最後は三〇〇〇メートル走ですラストなんで死ぬ気で走ってください」
「死ぬのはいやだけどまあ頑張るよ」
門をくぐると丘の上に漆黒の巨大な建物が見える。
「ハヤト様をお連れしました」
サヨが何もない前方の壁に告げると石垣の石が上下にずれて、ペローンと布のようにめくれる。
そこに現れたのは長髪に顎髭、筋骨隆々のオジサンだった。
彼は黒い身なりであったがよく知られている忍者の服ではなく、どちらかというと侍のような恰好だ。
「サヨご苦労。下がれ」
「ははあ!」
僕の隣でサヨは片膝をついて頭を垂れると、そのまま後にススススーと下がっていった。
タンバは身長一八〇センチを超える大柄な人で顔は彫りが深くどこかハーフっぽい。
気難しい人ではなさそうだが、こちらから先に話したほうが良いのかなあと思っていたら。
「お初にお目に掛かるハヤトとやら、わしの名はタンバと申すこの百地城を預かっておる」
「タンバ様初めまして、キリノハヤトと申します」
「この百地城は伊賀忍、甲賀忍、軒猿、風魔集、戸隠忍の5流派の集会を行う場所にもなっておる。そなたも自由に行き来するがよい」
あれ、忍者って他流派を嫌ってるはずじゃなかったかな?もしかしてゲームの仕様だからか。
「ではハヤトよ忍者体力測定じゃがの、お前と同期の者があと2名来ておるのでそやつらと競え」
タンバの言葉が終わると丘の上から黒衣の忍者がこちらに向かって走ってきた。背は僕より低いかな。
彼の姿恰好は袖の無い着物に裸足である。前髪は長く目が隠れているが、後ろの方は短髪だ。
「彼の名はコタロウ、ハヤトと同い年くらいか。もう一人は・・・・・・おう、来たようだな」
今度は髪を赤く染めて真上に逆立てた少年、こちらは僕より五センチ程背が高く目じりにはくまが入っていて傾奇者を連想させる。
「もう一人はゴエモンだ。こちらはおぬしより少し年上だな。二人ともこちらに来たばかり、良きライバルとなる事だろう」
二人はお互い郷里が違うからか顔を合わそうとしない。
「オレ・・・コタロウで・・よろし・・・・・・」
コタロウの風に消えそうな小さな声
「ガハハハハハ、吾輩が今に天下に名を残す。ゴ・エ・モ・ン だ!以後よろしく頼むぞ」
対して壊れたスピーカーのような大声のゴエモン。
彼は着崩した赤と黄色の派手な着物に高下駄という忍者離れした格好と大きなガラ声で豪快そのものだ。
果たしてあの高下駄で走れるのだろうか。
「僕はハヤト、キリノハヤト、よろしくお願いします」
タンバは懐から火縄の小銃を取り出した。
「ルールは簡単この先五〇メートル丘の上の城まで死ぬ気で走れ。ただし、何があるか分からぬがの...」
「では忍者体力測定スタートじゃ」
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パーン!!
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乾いた銃声が響きわたり、三人の忍が走りだした。
こんばんは、ひこねです。
更新は毎月頭になる予定です。
よろしくお願いします。
次回はサムライギアの登場かも。