進化レベリング
「じゃあ、あの棘ネズミを倒してみようか。
スキルは[ニードルボディ]と[毒刺]持ち、ギフトはなし。
ネズミの毒程度なら従魔のスライムには効かないし、血中に毒は無いから、リリーも安心して[吸血]できるね。
レベルは6で少し強めだけど…。この1体を倒せば確実にレベルアップできるし、どうかな?
頑張れそう…?」
「…不安がないわけじゃないですけど、4人で戦うのでイケると思います。
頑張ります!
あの、ルーカ先生の魔眼ってすごくすごいですね?」
「ありがとう。
レナ、顔に『チュートリアルさん便利』って書いてあるけど?」
「!? 静まれ顔面…!」
「愉快な人だね」
レナたちは森の出口付近に一旦留まって、モンスターを一体倒しておく事にした。
対象は先生がチート魔眼で探してくれました。
トドメをリリーに任せることで、レベルアップからのレア・クラスチェンジを目指すつもりなのだ。
彼女はあとレベル1つ上がれば進化するらしい。
早めに戦力強化をしておきたい。
『…ヤル!』
当のリリーもヤる気十分な様子だった。
彼女は非力だけれど、安心して頼れる仲間がいる。
レナが、真剣な表情で彼らに作戦を告げた。
「相手は動きの素早い、トゲトゲした体のネズミね…。
うん。私は、今回もおとり役をする。
イズミ、私のいる手前1M辺りの地面に、身体を伸ばしてひそんでおいてくれる?
その上をネズミが通ったら、一気に[超硬化]するの。
足が固められて動きが止まるはずだから、クレハがそこで対象を一気に包み込む!
ボディの一部を開けておいてね。
そしてリリーちゃんが口吻を差し込んで[吸血]して、トドメ …。
こんな感じでどうかなぁ?」
『生き血…。じゅるり』
『足留めは、クーと!』
『イズに!』
『『任せんしゃーーーいっ』』
「わぁ頼もしい。頑張ろうね…!」
何気に物騒なリリーの発言はスルーしたレナさん。貴方の作戦も、いつも結構えぐいですよ?
作戦は従魔にもスムーズに承認されて、決定したようだ。
仲間の力を活かせるようしっかり考えられている内容に、先生も感心したように頷いている。
なまじステータス値が高かったルーカはひたすら「ガンガン行こうぜ!」な戦い方をしていたので、このような戦法は新鮮に感じるらしかった。
万が一の時のためのお助け要員として、彼はレナ達の後ろで待機しておいてくれるようだ。
皆で目配せしてから、こそこそっと、ネズミのいる方向にレナが移動していく。
途中、転びそうになって慌てて踏ん張っていたのはいつもの仕様です。
ネズミは気配に敏感な種類らしいから、音には気をつけなければいけない…
相手との距離をしっかり取りつつ、なんとか背の高めな草むらにひそんだ。
棘ネズミの視線は手にしたドングリにのみ注がれており、狙われている事には気付いていない様子。
どうやら食事中らしい。
黒紫の身体は薄暗い森によく溶け込んでいて、そうそう見つからないはずと安心しきっている。
この棘ネズミも、濁った自然魔力の影響を受けている異常種だ。(え?魔眼ですよ)
顔つきが妙に凶悪で、恐ろしい…
…そんなのの血を[吸血]して、リリーに悪影響はないだろうか?と、ちょっと心配になるご主人さま。
(…ハッ!?
もしリリーちゃんが、イケイケのヤンキーお姉さんみたいな性格に変わっちゃったらどうしよう…!?)
心配するところは普通そこじゃないと思うんです、相変わらずレナさんクオリティは愉快だね。
「…今回の相手は強敵みたいだから、しっかりと戦力を補強しておこう。
スキル[鼓舞]!使用魔力は…25かな」
『『おぉーーーーーっ!!』』
『…んっ!頑張る…!』
気持ちを切り替えて行きましょう!
従魔たちの戦闘準備もしっかり整ったようだ。
「ステータス値も上がってるし、テンション効果もバッチリ付いてる。
…[鼓舞]スキルは、同じ魔力で全ての従魔に上昇効果があるのか。コスパいいなー。
ーーー…よし、いきますよっ!」
『『『はーい!』』』
主人の肩には、クレハとリリーが隠れて乗っている。戦闘にそなえつつ棘ネズミの油断を誘うためだ。
イズミは作戦通りに地面に薄く広がっていて、ネズミの足を確実に捉えてやろうと気合いを入れていた。
興奮のためか、表面が少しだけプルプルしている。
…目を細めて、獲物に襲いかかるタイミングをはかるレナ。
対象がひとつめのドングリを食べ終えて、二つ目に手を伸ばそうとした所で…いまだぁーー!
派手に分かりやすく音を出しながら、
▽草むらからレナさんが飛び出した!(ネズミ視点)
「棘ネズミさん、勝負ですっ!!」
鞭をかまえ、ピシリッ!と右手側の地面に軽めに叩きつけるセーラー少女。
単なるオトリ動作のため、威力はまったくない。
…ネズミに小馬鹿にしたように「ハッ」と鼻息を漏らされた。
非力な小娘がエサになりに来たでぇ!と言わんばかりの余裕の表情である。
実際、その通りで、レナ単体ならレベル1のスライムにだって捕食されてしまうほど弱いヒト族の少女なのだ。…しかし、従魔が控えているという心強さからか、彼女の表情には真剣さはあれど怯えはほとんど見られない。
それに、わずかに違和感を覚えた棘ネズミか、ヒゲを神経質にピクリと揺らす。
彼はこの辺りではそこそこの強者だった。
だからこそレベルも6になったし、そこそこの知能も持っている。
あの妙な人間を、襲うか?きちんと思考していた。
…これを逃すなどありえない、という結論に至ったらしい。
柔らかくて旨そうな極上の肉なのだ。相手の出方に出来るだけ気を配りつつ、襲うことを決めた。
もはや思考する時間も惜しいと言わんばかりに、強く地を蹴って駆け出す!
猛スピードで駆けるネズミ。
その動きは小動物らしく細やかなもので、地面に無造作に転がる石やら小枝やらを器用にかわしながら進んでいた。
つまりは、ジグザグとした独特の動きだということ。
ハッ!とレナが息を飲む。
自分とネズミの一直線上に、イズミはスタンバイしているのだ。
ジグザグな動きのせいで、イズミのいる場所を獲物が通らないという可能性も出てきていた。
急いで、指示を追加する。
大自然の中での戦闘は、いつも多少なりのイレギュラーな要素が加わってくるものだと心構えはしていたのだが、気持ちは焦る。
「リリーちゃん!…一応、[幻覚]スキルをつかう準備をしておいて。
もし、イズミのいない所をあのネズミが通って来たら、惑わせて足止めしてほしい」
『…分かった!』
「クレハは、私の足元に。
イズミのように広がっておいて。いざとなったらネズミの進路を伝えるから、そのときは臨機応変に移動していってくれる?」
『あいあいさーーっ!』
「お願いね…!」
早くも、もう3Mほど手前にまでネズミは近づいてきていた。
進路を見間違うまいと、目をこらすレナ。
獲物は走りながら、スキル[ニードルボディ]を発動させている様子だ。毛がまとまって鋭利な棘に変わっている。
その先端には、おそらく毒があるはず…
スライム達なら毒を無効化出来るが、レナやリリーに当たってしまっては大変だ。
…ネズミの動きによっては、鞭で防ぐことも視野に入れておかなければ!と、柄を握り締めるレナ。
緊張して若干汗をかいている。
(作戦通りのルートを通って来て…ーーー!)
祈りつつ、ゴクリと生唾を飲み込む。
無意識の、ほんのささいな動作だ。だが、野生の研ぎ澄まされた目はそれを見逃さなかった。
「!(ニヤリッ…)」
「ーーーッ!?」
本能が、警戒したのだろう。
…ネズミは、イズミのひそむすぐ手前で後ろ足に思い切り力を込めると、強く地を蹴り、レナに向かって大きくジャンプしてきた!
毒トゲまみれの体をまるでアルマジロのように丸めている。
そうして飛び込む先は、旨そうなヒト族の懐だ。こんな攻撃、くらったらひとたまりもない…
リリーがとっさに主人の前に立ちはだかる。
『させない…!』
「!」
ひゅっ、と息を飲むレナ。…自身も覚悟を決めて、鞭を再び強く握り直す。
そしてもう一体が、ぷよーーーーーーんっ!
『クーだってぇ、そんなの許さないんだからねーー!?』
レナのすぐ足元にいたクレハが……跳ぶ!
[鼓舞]スキルで上げられた高ーいテンションそのままに、トンデモウルトラハイパージャンプを…してのけたあッッ!!
シビれるぅーーー!格好いいーー!
「キィキィッ!?」
ネズミはべったりスライムに張り付いてしまい、もがいている。さらに追撃が加わる。
「…ナイス、クレハッ!硬化お願いっ」
『スキル[超硬化]ーー!』
もはや、ハエ取り紙にからめ取られたハエ状態である、棘ネズミさん。
びょーんと薄く伸びたスライムに刺さった状態で硬化され、とてもカッコ悪く動きを止められていた。
『クーってば素敵ぃー!便乗しちゃうぅーー!』
獲物の悲劇は終わらない。
駆けつけたイズミが、元々のクレハの役割をしっかりこなす。ネズミを真ん丸くすっぽり覆ってしまい、またもや[超硬化]したのだ。これでもう呼吸すらできないだろう。
あとは死を待つのみである。
放っておいてももはや死んでしまう状態のネズミさんだが、ま・だ・ま・だ・悲劇は終わりません!
そろり、そろりと、目に見える"死の使者"さんがゆっくり近づいてきた。
『じゅるり……』
我らがリリーさんである!
スライムボディの一部には、直径1cmほどの小さな穴がぽっかりと開いていますよね?
うふふふふ、そこに口吻を差し込んでぇぇーーー…
『『さあさあどうぞ!』』
『……ふふっ、ありがとう。…イタダキマス!』
トドメをどうぞ。
ちゅううぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
皆さんは、どうぞ殻付きココナツジュースを想像してお待ち下さい。
ただし中身は棘ネズミの血ですけどね。
少しずつ獲物の身体が小さく萎んでいき、カラカラに乾いてくる。
ギラギラしていた目からは光が抜けていって、どこまでも一方的に命を吸い取られていた。
「…う、うわ…」
鞭を握りしめたまま固まっているレナさんが、遠い目をしている。
だから、"もしも自分が血を与える時にスキルを使われていたら"なんて考えちゃダメですって?
リリーちゃんはご主人さまが大好きだから攻撃なんてしませんよ。
「…!あっ」
「お疲れさま」
レナの背後にはいつの間にか蛾モンスターが忍び寄ってきていたが、それは約束通りに、先生が剣で振り払ってくれた。
ホッと息をつくレナ。
鱗粉まみれになったかつての国宝の様が涙を誘うが、元王子は見た目などどうでもよさそうである。あわれ、魔剣。
「不測の事態にもきちんと対応できていたね?
正直、すごいなーってちょっと見直した」
「先生…!」
「でも、最初に獲物に近づく時にコケかけてたのは減点対象です」
「先生ぇ…」
ルーカ先生はレナを褒めてはくれたけど、基本的に評価のしかたは辛口減点方式なようです。
満点とること目指してファイト!レナさん!
喜ぶべきか落ち込むべきか悩んで、なんとも言えない珍妙な表情になっていた彼女だが、結局まあいっかー。という結論に至ったらしい。
気持ちをきりかえて従魔たちの方を笑顔で振り返る。
「!」
ちょうどリリーが血を吸い尽くし、ネズミの命が尽きた所だった。
世界の福音が脳内で鳴り響く。
<従魔:リリーのレベルが上がりました!+2>
<ギルドカードを確認して下さい>
<☆クラスチェンジの条件を満たしました!>
<クラスチェンジ先:ダークフェアリー>
<進化させるには、種族名項目をタップして下さい>
用意された獲物にトドメを刺しただけだったので、強敵だったけど、リリーのレベルアップは+2に留まったようだった。
<従魔:クレハのレベルが上がりました!+1>
<従魔:イズミのレベルが上がりました!+1>
<<ギルドカードを確認して下さい>>
クレハとイズミは身体を張ったお手伝いによって、1つずつレベルが上がっている。
ステータスを確認したら、体力と素早さがそれぞれ(+1)ずつ伸びていた。他は、特に変化は無い。
今回もっとも注目すべきなのはリリーのクラスチェンジである。
進化先は『ダークフェアリー』なるモンスターらしい。
"フェアリー"と言うからには、もうモンスターではなく妖精と呼びたいな、なんてウキウキ顔のレナ。きっと可愛くなるよね?
「みんなー、お疲れさまーー!よく頑張ってくれましたっ」
『レナ!クーのジャンプ凄かったでしょぉー?もっと褒めてくれてもいいのよっ』
『なんのなんの。イズの超硬化もタイミング良かったよね?レナー』
『…けふ。…ご馳走さま、でした!』
「うんうん。皆すごいよー?
格上の棘ネズミさん相手に、勝るとも劣らない強さをお持ちです!」
『『『えっへん!!』』』
胸を張る従魔たち。
…たいそう愛らしい(主人視点)!
大人しかったリリーも、なんだか愉快なスライムに感化されてきたようだ。
彼らの頭を順番に笑顔で撫でていくレナ。
ぽわぽわーで、ぷよぷよー。撫でている指がとても気持ちいい。
リリーもクー・イズも嬉しそうな様子。そわそわと身体を小刻みに揺らしていて、動きで喜びを表していた。
従魔をひととおり愛でて、主人は改めてカードを手にする。
クラスチェンジのお知らせ項目がピカピカ点滅しているのだ。早く!と急かされている気分になります。
…リリーを少しだけ心配そうに見つめる。
「あのね、リリーちゃん。ダークフェアリーに進化して欲しいんだけど…
進化する時、身体が熱くなっちゃうかもしれないんだ。
頑張って耐えてくれる?」
『…ご主人さまが、私を、望んでくれるなら。
こんなに、嬉しい事ってないの。
……頑張れるよ?』
リリーはレナをまっすぐに見返して、落ち着いた口調で言った。
『『愛だねーー!?きゃあーーーっ!』』
こちらは騒がしい。
「うわわ、なんだか照れちゃうね…!
ふふっ、ありがとう。
これからもよろしくね。リリーちゃん、クレハ、イズミ。
進化項目をタップするよ…?」
『……んっ!』
レナが、ゆっるゆるの幸せそうな表情のまま、ギルドカードの[ダークフェアリー]の項目をついにタップした。
種族の説明文が浮かび上がってくる。
【ダークフェアリー】
…闇属性に特化したフェアリー。バタフライ種が10年生きると、フェアリーになると言われている。
15cmほどの小さな成人ヒト族の身体に、蝶の翅を持った姿が一般的。
王族へと進化する素質のある者のみ、通常よりも3倍ほど大きな身体を持つ。
特殊スキル[魅了]を進化時に取得する。
※ギフトが【☆4】[フェアリー・アイ]にクラスチェンジします!
「「うわぁ」」
レナとルーカが思わずといった様子で顔を見合わせ、驚きの声を漏らしてしまっていた。
こんなの絶対、大きめ希少種さんになるに決まっていますね…!
通常10年かかるクラスチェンジを出会って3日で成し遂げさせてしまうだなんて、ご主人様の体質ホントすごすぎィ!
「便利だねレナって」
「仕返しですか先生…?」
大人げないですよ。
スライムがリズム良くぷよーん!ぷよーん!と応援ダンスを踊る中、リリーはこみあげてきた進化時の熱に耐えているようだ。
苦しそうに翅を震わせている様子は見ていて痛々しい…
今回ばかりは、非力なバタフライを下敷きであおぐわけにもいかず、途方にくれるご主人さま。
▽レナは自分にできる精一杯で、従魔を励ました!
▽スライムダンスに合わせて手拍子をした!
この場面での手拍子は少々耳にうっとうしい。リリーの顔がしんどそうである。
空気読んで下さい、ご主人さまぁ……。
そんなこんなしていると……リリーの様子が変化してきた!
蝶の全身が淡く輝きだす。
青い翅がぐんぐん大きく広がっていき、身体を覆っていた短めの白い毛は、人の髪のように長く伸びてきた。
…髪の間から、綺麗な黒肌の腕が伸びてくる。
完全に、小さなヒト族の容姿になったリリー。
身体のサイズは……もちろん希少種仕様ですね、分かります!
だいたい50cmほどもある。
甲高いベルの音が、再び響く。
<種族:ナイトバタフライ→ダークフェアリーに進化しました!>
<ギフト:[バタフライ・アイ]→[フェアリー・アイ]に進化しました!>
<ギルドカードを確認して下さい>
<スキル[魅了]を取得しました>
レナがリリーを見つめて、そのあまりにキレイな姿を絶賛した。
「やったねぇ、リリーちゃん…!うわぁ、とっても綺麗だよーー!」
可愛い、というより綺麗系な容姿の少女だった。
『……嬉しいな』
頬を淡く染めて、ふわっと幸せそうに笑うリリー。
彼女はほとんどの日本人が想像する"これぞフェアリー"な姿に進化していた。
まごうことなき美少女(幼女?)の見た目。
黒めの肌に、絹糸のようなきらめく白い髪、青色の瞳と蝶の翅。
薄手の黒のミニドレスをまとっているためか、幼い見た目なのに妖艶な雰囲気を醸し出している。
ステータスはこのように変化していた。
「名前:リリー
種族:ダークフェアリー(幼体)♀、LV.4
適性:黒魔法、黄魔法
体力:18(+3)
知力:14(+10)
素早さ:17(+5)
魔力:33(+15)
運:15(+3)
スキル:[幻覚]、[吸血]、[魅了]
ギフト:[フェアリー・アイ]☆4」
「つよいです!」
思わず小さく叫ぶレナ。ご主人さまを置き去りに、従魔たちの成長がもう止まりません。
「幼体…?」
「普通10年かかる進化を数日で成し遂げているからね。
見た目が幼いのもそのせいじゃないかな?体調は特に問題なさそうだけど」
「なるほど。どう見ても成人じゃないですもんね。リリーちゃんはこれから成長していくのかなぁ」
鞭技を磨く余裕がなくオトリ役ばかりしているせいで、ご主人さまはレベル置いてきぼりをくらっているが、当人はまったく気にした様子も無い。
純粋に従魔たちが強くなったことを喜んでいる。
わーい、えらーい、すごーい!と褒めるレナに調子に乗せられて、リリーは得意げにジュエルスライムでお手玉していた。
ヒト型の身体を慣らしているらしい。
ルーカが一人冷静に、リリーをじっと見つめてぽつりと呟く。
「…フェアリー・アイ。契約持ちかー」
「あ。…ギフトの内容確認まだしてなかった」
先生の言葉に、慌ててギルドカードを再確認するレナ。
ギフト欄をタップしてみると、新たなリリーの能力が表示された。
「ギフト:[フェアリー・アイ]☆4
…妖精族のみが持つ、魔眼の一種。
夜目、心眼の効果に加え、妖精契約の特殊魔法を使用できる」
なんか凄そうな魔法能力が増えてる。
「フェアリー・コントラクト?」呟き、首を傾げたレナ。
リリーを見やるも、彼女もまだ自分の能力を理解していないらしく、不思議そうな表情だ。
えーと、こんな時に便利…失礼、頼りになるのがルーカ先生!
『『ぱふぱふーーっ!』』
「…期待されてるとこ悪いけど、そんなに詳しくは説明できないよ?
僕もフェアリーに会ったのは初めてだから、本の知識しかないんだ。
"妖精契約"は、フェアリー族のみが使える、お互いの魂に直接契約を刻む魔法のこと。
この契約は、絶対に破ることは出来ないとても強い魔法。
フェアリーと誰かの契約、という縛りはなくて、誰かと誰かの契約をフェアリーが縛る、ということもできる。
後者の方が一般的かな。
…何にせよ、とても役に立つ魔法だね?
まだ信頼の足りない相手とも安心して約束を交わせるんだから」
「!そうなんですか…」
「あとで、僕と貴方とで契約を結んでおこうか、レナ。
お互いを害しない。国外逃亡するため協力します、って」
「う!」
「そしたらもう安心でしょう」
…飄々と気にした様子もなく言うルーカに対し、レナは少々気まずそうに口ごもっている。
…ルーカには色々と助けられているんだけど、まだ完全に信用しきってはいなくて、それを知られていた事がどうにも辛い。
今、彼とこうして普通に話せているのは、リリーの心眼があるからなのだ。
利用するだけしておいて、仲間と認めてすらいないなんて……と、申し訳なく思ってしまっているレナ。
お互い利害があるのだからそこまで考えなくてもいいのだが、いかんせん元が善良すぎる。
日本人らしい良心と、ラナシュ常識の板挟みになって、胃がキリキリしてきたらしい。お腹を押さえる彼女の顔には、私の小心者ーー!とか書いてあった。
そんな様子を見たルーカは、なんとも驚いたという表情をしている。
「いや。そのくらいの警戒心は当然のものだから、全然気にしなくていいよ…?
むしろ、こんなにすぐ貴方たちの輪に馴染ませてもらえるだなんて予想外で、そこに驚いてるくらいなんだし」
「ぅぅ、悩んじゃうのは性分なんですよぉー……。
誰かを疑ったりするのって、元々とても苦手なんです」
「…それはこの世界の人間には知られない方が良いだろうね。
絶対、騙しにこられるから」
「世知辛い…」
レナも、ルーカも困ったような顔をしていた。
性分とはなかなか治らないが、ここ異世界ラナシュでは、レナの素直な性格は利用されやすすぎる。なんとかしたい所だ。
長所なんだけどね?
その"レナらしさ"に惹かれたスライムたちが、ぷよーーんっ!とご主人さまの(貧相な)胸に飛び込んできた!
次いで、リリーに後ろからきゅーーっと抱きつかれる。
『クーと!』
『イズと!』
『…リリーが…!』
『『『ご主人さまを、守ればいいの!!』』』
「……!うあああああありがとううぅ…!従魔ちゃんたちがイイ子すぎる…っ」
ご主人さま、涙が滝です。
感動から涙までがもう、早い早い。こういうの何度目だろう。
ルーカさんのこちらを見つめる視線が生ぬるいのなんて知らない、涙で物理的に前が見えてない。
『そのままのレナが好きなのーー!』
『だからね、そのままで居られるように、イズたちが守るからねっ』
『…強く、…なるから!』
「ふぐぅっ」
たたみかけるように浴びせられる、従魔たちからの好き好きコールがたまらない…
これ以上声を出してはマズい事になりそうです。とっさに自分の口を両手で抑えたレナ。
その判断はおそらく正解!
▽レナは 自身の奇声を 堪えた!(約70%)
はいはい幸せ幸せー、と、ルーカ先生が軽く手を叩いて場をまとめに入る。
もう辺りは薄暗いのだ。
リリークラスチェンジの目的も果たせたし、いつまでもここでのんびりしている訳にはいかない。
「ホラ、ご主人さま?
嬉しいのは分かるけど、泣くのはまた逃亡後にしようか。今は、魔物が寄ってこないとも限らないから」
「……う、はい!」
「うん。夜の間はまた森奥に入っておく?」
「そうですね。ダナツェラからまだそう離れていないし、どこかの街で休むのは、リスクが高すぎますから…そうしましょう」
「貴方たちが休んでいる間は、夜目のきく僕とリリーが交代で見張りをするよ。
だからある程度は安心して眠ってもらえると思う。
寝場所を見つけたら、妖精契約はきちんとしよう。
逃亡中の協力が約束されるのは僕のためにもなるんだから、もう気負わないで。
ーーー行こうか」
「はいっ」
レナたち一行は、森の中に一旦戻って夜をあかす事にした。
闇の中で身体を休め、明日また距離をかせぐ予定である。
▽リリーがクラスチェンジした!(幼体…?)
読んで下さってありがとうございました!
な、長かった…
リリーちゃんのキャラデザに迷い中なので、イラスト掲載はもう少しあとになります(・・;)
とても眠い状態で書き切ったので、語尾とかだけ、あとで少し訂正するかもしれませんー(>人<;)