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[キーユウ・ロマン]裏方の仕事

 


 ロマン・ティブとキーユウは、豪奢な屋敷の前に来ていた。

 キーユウはどのようにか屋敷のパスワードを解いてしまった。魔道具の厳重なセキュリティに見えたのに。

 ロマン・ティブが横目でジトリと見ていると……。


「ある程度以上の身分証を持っていれば入ってよい、そんな仕掛けです。そのような場所が近隣国には所々にあるでしょう? "ロマン嬢は"ご存知かと」

「……わきまえておりますわ」


 少々、演技も求められているのだろうと、キーユウにふさわしい振る舞いとまではいかなくとも、彼女はウソのお嬢様を演じた。


 屋敷の中に入ってみれば、これまた贅沢なエントランスだ。しかし、(妙な雰囲気ね)エントランスだけしかないように見えた。ハリボテのような。


 ロマン・ティブが潜入したことのある屋敷などは、奥へ奥へと誘うような間取りであったが、この屋敷はエントランスがあまりにも没個性でつまらない。何もかも貼り付けたように高級家具が置かれているだけ。

 もし、キラがこれを眺めたら、建売住宅高級版なんて表現したかもしれない。


「取引をするためだけの箱ですな。箱としては格安のようだし、月光教会の支部とはこのていどか。エントランスを通り過ぎよう。奥には巨大なダンスホールがあるはずです……ほらね。さて、下に降りる階段を探そう。そこで取引がなされているはずですからな」


 呆れてしまう。上流階級はどんな情報も思いのままかと。ロマンや部下がこれまで何度無理して情報を手に入れたことか。


「下の階も冒険なさるのね」

「爺も働かなくてはね」


 キーユウが働くという言葉を使う時、息をするようにあまりにも自然で、キーユウは生まれてこの方、ずっと何かしらの商業取引の場に居続けたのだ……と、ロマン・ティブは感じ取る。


(レナちゃんがこの潜入を望んだのかしら? どちらかと言えば、キーユウ様自身がやりたくてやってるような感じがする。レナちゃんはそこまで裏の社会に詳しくないわ。身近なヒトを助けることに時間を費やすような、彼女の行動のやり方では、多くのことを把握できないし。思いつかないわよね、こんなこと)


 幼女にイジワルする親族をスチュアート邸でこらしめたことはあるけどネ!


(どうして巻き込まれているのかしらね? そりゃ、言われたら断れませんけれども。だって、私なんて、もう……。……)


 ロマン・ティブはそこからは考えることをやめた。


 自分の内側に入り込みすぎるような気がしたのだ。


 そんなふうに、のんびりと、自分にだけ集中していられない。


 知らない場所。

 様々なわけのある場所。

 誰かが隠した場所。

 そんなところにいたら、まずは死なない努力をしなくてはならないのだ。


 魔法使いの杖を握りなおす。


「ずいぶん暗くなってきましたね。階段の足元が心配です。ライトをつけましょうか? おじさま」


 キーユウが言った通り、エントランスの扉を抜けると呆れるほど巨大なただっ広いダンスホールがあり、その端に、地下に降りてゆく階段が存在した。

 まるで従業員が使うかのようにシンプル。

 業務用の階段で、明かりもろくになくて薄暗い。

 それでも進むことができるのは、ロマンにとっては夜歩きまわったときの技だし、キーユウはどのように暗い階段を降りる術を持っているのかは明かさなかった。


「このまま前にずっこけて見せても、周りをびっくりさせられそうですがな」


「しないでくださいませ!? 絶対にだめですわよ! あのね、あなたに万が一のことがあったら、わたくしの命だけでも償いきれませんわ!」


 ぞぞぞーーっ! と青くなりロマン・ティブが反応する。

 キーユウはただ笑っているだけであるが、万が一の不安を即座に払拭しなければ、と焦るほど、恐ろしい想像であった。


「爺とロマン嬢の二人だけとは数奇なものですが」


「……そのようにお話ししていて良いのかしら。わたくし、心配になってしまいますわよ。冒険とおっしゃいましたけれど、そもそもこんな地下にまでいらっしゃったのはどうして? ただただ何があるかお知りになりたいのかしら? わたくしはどうして誘われたのかもまだよくわかっていないのに……」


 気取った令嬢のふりをしたまま、ロマン・ティブが探りをかける


 少なくとも、トロックラの拠点を叩くためのちょうど良い機会になりそうでしたからな。ライトを頼んでも


 ロマン・ティブが辺りを照らす。


 パッと明かりがともってみれば、周りにヒトが倒れていた。なんとなくそのような気配は拾っていたものの、その形相にロマン・ティブはぎょっとする。

 全員、顔面に拳を一発当てられたかのようだ。みんな前歯と鼻から軽く血を流して気絶している。


 周りを見れば、何やら水に濡れた場所がある。

 その横には焦げた跡も。

 ロマン・ティブが作業用机をながめ、水に濡れたところと濡れていないところの境目を指さして、


 何かしらの紙の束を、ここで燃やそうとして水をかけられたみたい。紙が少し燃えた後のかけらもある。


「ふむ。こんなところで火を使えば、呼吸が苦しくなって自分たちにダメージを受けるでしょうに。倒れているヒトは準エリート層だ。頭でわからないほど馬鹿じゃない。そんなヒトでも焦るぐらい燃やしてしまいたい資料があったのかな。

 先に進みますぞ」


 さらに、下の階段をキーユウは指差す


(わたくしに拒否権は無いし……)


 ロマン・ティブはしぶしぶ歩く。


 ライトの光の球は、一旦このフロアの天井に浮かせておく。まるで小さな太陽のように柔らかく周りを照らす。


 そしてまた、薄暗い階段で、地下二階へ向かう。


 急にロマン・ティブは自分の心が安らぐのを感じた。


(これはハトモデルが近くにあったときのような感覚だわ。私のような心が黒いものは、悪いものが近くにあるときの方が一人じゃないような気がして安らぎを感じる。レナちゃんたちの近くにいると、自分がすごく醜く思えることの逆という感じかしら。まさかキーユウ様がモデルを持ち出したりはしないでしょうし、ここって、もしかして魔法儀式の土地なのかしら……?)


「おじさま、わたくし、少し怖い気持ちだわ」


「そうでしたか。実のところ、地下深くに潜っていき暗いところに身を置くほど、ハトモデルに近い効果があるのではないかと持論がありましてな。ロマン嬢にはぜひ検証のお手伝いをと」


「おじさま(※クソジジイ)ってば、今おっしゃいますの」


「逃げるかもしれませんしな」


 ロマン・ティブは、ドクンと動いた胸に手を当てる。


 ハトモデルが近くにある時よりは、やんわりと、しかし現実逃避かのように急激に思い出されるのは最近の日々だ。


 レナパーティとゆきずりで知り合うことになり、思いがけず輪の近くにいることを許されて、この世で一番暖かなひだまりの家族の食卓にたまに呼んでもらうこともできた時のこと。


 だからこそも殺されてしまうであろうこと。


 ロマン・ティブの心からはこの世への失望と緊張が消えてしまっており、自分の上司はそのことに鋭く気づいているだろう。魔法契約に基づいて、心の状態は常に掌握されている。


 自分で感じ始めてしまい、日常生活を惜しく思ったヒトは、この過酷な仕事についてはいられない。

 ──口封じも必要だ。


 そのために怖くなって逃げるかと思われたのだろうか?


 キーユウならば、ロマン・ティブが所属するような秘密組織や国をまたぐ同盟のあり方を根本的に理解しているのだろう。


 ロマン・ティブは軽薄にヒラヒラと手を振った。


「わたくし、逃げませんわよ。なんかもう、いいかな……って思っていますもの。綺麗なものに優しくもされたから。これ以上願うことなんて何もないかも」


「ほお。面白い」


「面白がらないでくださいまし」


「もうどうでもいいのでは?」


「それは……、わたくしは侮辱には慣れていますけれども、どうせもそろそろ死んでしまうのかもと思えば、文句の一つも出るようですわ」


「それはようございましたね」


 地下二階のフロアに到着する。


 ダンスホールと同じく恐ろしいまでの広さの床が広がっている。たくさんの荷物が置かれているため、端までは見えないとしても、空間把握に長けたロマン・ティブには感じ取れた。


 ここに、生きたヒトが複数いるであろうことも。


 そんな彼女であっても、気づくことができなかった──、

 自分たちの索敵をかいくぐり、何なら真正面に、背の高い人影が立つ。


 人影が"自分のことをもう晒しても良い"と思った瞬間まで、ロマン・ティブもキーユウも、彼のことを感じ取れなかったのだ。


 キーユウはのんびりと手を差し出して見せた。

 握手の姿勢だ。

 相手はその手を握ろうとしたが、キーユウの手にほんのわずかに触れない位置で動きが止まった。

 一見握手をしたようにみえて、肌を触れさせずに手が下ろされた。


「早い到着でしたな。モスラ」


「執事である以上、その言葉は受け止めますが、決してあなたを主人だと認めているわけではないこと、ご理解のほどよろしくお願いします」


「君の主人は二人だけだものな」


「一生をかけても返せない恩がございますから。この体も技能も既に彼女たちに捧げております」


 モスラという名前からロマン・ティブは即座に思い出す。


 急に現れた美貌の執事だ。

 そして、レナの従魔の魔人族。

 チリチリと少しだけ胸が焦げた。

 可愛らしい従魔がレナになついているのは微笑ましいけれど、一見するとあからさまに上流階級の召使いをしているようなものが、あの微笑ましい陽だまりに入っているのは羨ましい妬みのような、汚さないでほしい違和感のような、おかしな気持ちを抱いた。

 周囲が暗いからハトモデル現象のせいだとも言えるし、殺されてしまってももうしょうがないからと諦めた素直な自分の気持ちであるとも言える。


「おや。複雑そうな顔をしておりますが、ロマン嬢は今どんな気持ち?」


「検証に協力するならば……。黒い気持ちの粒がぐるぐると頭の中をつむじ風のように回る感じです」


「気落ちとともに混乱を伴っているようですが、しかし、暴れ出すほどおかしいわけではない。この地下二階程度ではそのようなものですか」


「屋敷にはさらに下のスペースは無いようですからね。先ほど探しておきましたけれど、私のことを避けながら障害物の影に隠れるヒトぐらいしかフロアにはおりません」


 ガタガタと木箱であったり、作業デスクであったりが揺れる。


「燃やされそうになっていた資料は回収しました。執事として様々な道具を与えられていますから、適性がなくとも水魔法を使うことも可能です。道具に使われている宝飾品を一つ壊すことで、そこに込められていた魔力と魔法を使うことができるのです。同[トライ・ワープ]のレア魔道具で資料はレナ様のもとに送りました」


「あの資料を地上に渡したんか!!」


 耐えきれなくなったように箱が叫んだ。


「なんてことを。大勢に影響が出る……」


 モスラは、箱を蹴りとばした。

 カエルが潰れたような悲鳴が上がる。

 こかしただけなので、中にいるヒトは、擦り傷打撲で済んでいるだろう。


「主人の前ではぶりっこしていたようで」


「目の届かないところにいる子供には手を焼くものですから、主人もいずれ思い知って恥ずかしく思うかもしれません。私のことを近くにおかないのは危険だと……一緒にいる時間が長くなるかもしれませんね? あぁ望ましい」


「もしかして、地下に誘ったの怒ってる?」


「もしかしなくとも早く終わらせましょうよ」


「計画に協力するつもりは?」


「ありますから、あなた方を待っていたんじゃありませんか?」


「……二人ともどうやって連絡を取ったって言うのよ」


「「キラフォンがあるから」」


 モスラは、ただの道具を指すように。キーユウは、なぜか妙に慎重な口ぶりで。


(どのような道具を指しているのかはわからないけど、わたくしが深掘りすることではないか)


「あああの資料は、お前ら如きに扱えるものではない。どこかに動かしたと言うならば、見なかったことにして秘密に処理するのだ。最後の善意だぞ、これは! 

 フン。殴り込んできた野蛮の輩に教えてやる。世界が不安定になっている今、みなから尊敬の対象だと認識されていたヒトに全く逆のスキャンダルをぶつけた場合、対消滅という現象が起きる。お前らは人殺しだ! そるにこれまでそのヒトがいたおかげで保たれていた仕事が急に空白になるのだ。社会の混乱もお前たちのせいだ」


「あなたがそう思うならそうなのでしょう。あなたの中ではね」


 モスラが文句を言って(早く帰りたい)


「既に仕事として存在するならば、他の人でも務まることがほとんどです」


 律儀にキーユウが返事をした。


「ライトを、あちらの箱の上のほうに」

「ええ」


 ロマン・ティブはあまりにも情報が少なく言われた通りにするしかない(早く終わりたい)


 そして、倒れた箱から出てきた男は、キーユウの首に腕を回した。取り出したナイフを首筋に当てている。扱い慣れていないらしく、先はブルブルと震えていた。ライトに照らされてみれば、ぶよぶよの裕福そうな男に見えた。


 モスラが、何か「カシャ」と音を立てた。

 魔道具を構えて写真を撮ったのである。


「誘拐されちゃった!」


 キーユウが黄色い声で叫び、


「ぎゃーーー!!!」


 ロマンはムンクのようになりながら野太い声を出し、


「助けに来ました」


 モスラが音速パンチで、相手の頭を張り倒した。


 (茶番、狂気、計画? 目撃者、私、何これ!?)


 ロマン・ティブは混乱する。

 この混乱は、もしかしたら暗闇の影響より彼女の心をかき乱した。ひどすぎる。彼女の前にいるおかしな野郎二人組の企みに違いなかった。


 誰かが転んだ音がした。

 ──きっと、彼らは"こう"やりたかったのだろう。


 貴族のじいさんをとらえた仲間の後ろに立って、お前の仲間は人質だ!助けて欲しければ、これまで奪った教会連合の資料をこちらに戻せ!

 何のいきさつでそれを狙ったのかはわからないが、速やかに改心したならば、こちらに迎え入れてやってもいい。悪事を働いたのだから待遇は当然劣るが。もちろん従属契約をしてもらうが、それで我々の仲間になれるのだ。


 と、このフロアにいる30人で脅すのだ。


 30人も集まっていたのは運が良かった。


 全員が、地上からの雲隠れでしばらく地下に身を隠そうと降りてきて、備蓄品に手をつけたので、仲間内で争いにもなっていたのだが。

 こうして、地下に降りてこれるほどの敵対勢力の貴族じじいを捕まえることができたならば、それはヘマをした自分たちの上司への手土産にできる。

 手土産がなければ、罪を償えないと、彼らは備蓄の食品を漁りながら涙を流していたところだったのだから。


 このじじいは、きっと天が授けてくださった自分たちへの贈り物に違いない。


 さらに、彫刻のように美しい若い執事と、と素晴らしい曲線美の体をしたどこかのお嬢様も追加となれば、この地下にいる31人の迷えるおじさんおばさんは、目をニンマリと三日月の形にした。


 ただし……。

 貴族のじじいは貴族以上の高貴な血筋で。


 美貌の執事は、それって執事の業務だっけというありとあらゆる分野の最強であり。


 ナイスバディーのお嬢様は、裏仕事のプロフェッショナルだったため。


 31人のうち、口の早いファーストオジサンから倒されてしまったわけである。


 一度目のパンチの音が響いたあとには、全員フリーズしたのち、蜘蛛の子を散らすようにじたばたとし始めた。


 階段は、もう一つあるのだ。


 招かれた上流階級にも教えていない、アンダーグラウンドなさらなる地下への入り口が。

 しかし、入る事は叶わなかった。


「蜘蛛の巣が何重にも……? なんだこれ!?」


 階段の入り口は閉ざされていた。


 そもそも、さらなる地下に行ったところで結局出入り口はあわせて一つしかないのだが。

 なぜこのような作りになっているのかと言うと、秘密を知っている何者かを排除したい場合、地下3階地下2回、地下1階のそれぞれで酸素を奪い殺してしまえるように。そのような事態にさせないことこそ信頼である、などと、彼らは見栄を信用だと錯覚しながら暮らしていたのだ。


 パニックになった30人は、再びモスラたちのほうに向かってきた。

 今度は階段を駆け上がろうとしたわけである。


 逃げた先に何があるともわからないが、とにかく己の底から湧き上がってくる暗い未来からのがれようとして。


「ロマン嬢。巻き込んで申し訳なかったですな」


「今更ですの。手を貸しましょうか?」


「いえいえ、よければ見せましょう。詫びです」


「何を……」


 ロマンが返事をしていられたのは、キーユウがやけに落ち着いていたからである。

 服装を真っ白なスーツにしている。

 暗闇の中にこそ、ぼんやりと浮かび上がる。


「拒絶する」


 と、キーユウが首を横に振る。


 びたん!! と、先端の男が見えない壁にぶつかったかのようにひしゃげた。

 向けられたナイフの刃先は消滅する。

 誰であれ[拒絶]されてしまう。


 キーユウは後ずさり、階段の前に立った。

 終わりだ。近寄れない。


 モスラに近寄ればマッハパンチ。


 ロマン・ティブの杖は煌々と妖しく光る。


 さらに蜘蛛のはいずる音があちらこちらから。


「さあ。土産話など、聞きたいですな。孫娘によい報告ができると爺は鼻が高いのでなぁ」


 キーユウは生まれて初めて、ホコリのある無骨な階段に腰掛けるなどしてみた。白いスーツで。これまた彼にとっては大冒険である。目はキラキラと光る。


 目がギラギラと捕食者のように光っていると、追い詰められた裏稼業者にはみえていた。

 後ろめたさからぺらぺらと話した。

 互いに責任をなすりつけあった。

 一種のトランス状態にも陥った。


 ▽"お片付け"は入念に。

 ▽国境線でレナたちを追いかけた団体について聞き出した。

 ▽従魔会議で共有しよう!


 ▽とっても頑張ってつかれたなー。

 ▽ここで ご主人様の連絡!

 ▽トロックラ夜市でごはんにしよう!


 ▽モスラは 屋台を開いた!

 ▽夜市で 周りに対抗した!


「いやなんで!?」


 ▽褒めてほしくってぇ!

 ▽オリジナルレシピを 屋台に共有した。

 ▽トロックラ×トイリアのアレンジ料理が爆誕した。


 ▽Next! 続、それぞれのひと息





おやすみなさいませー!Ꮚ• ﻌ •Ꮚ

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更新有り難うございます。 局地的パニックムービー!?
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