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ミエネット王国へ向かって

 


 ▽レナたちは チュナ帝国南東から出発した。


 ▽共通道路を 馬車でゆく。



 ▽従魔は ハマル・ギルティア・チョココ・バニラ・キラ・アヌビス。


 ▽同行者は ノア・キーユウ・ロマンティブ・ロマンの部下。


 ▽重要な持ち物は ローランド辺境伯の手紙・ハトモデル。



 ▽[蜘蛛速報]偵察がきている!



「どこの偵察なんだろう?」


 レナがノアに聞くと、


「そこまでは。捕らえて、尋ねたらよろしいですわ」


 ▽すっかりたくましくなっちゃって。


 ロマン・ティブがボソッと、


「この子たち、ヒトと常識が違いすぎる。野蛮ねえ」


 きゅるきゅるした大きな目でレナとノアが見つめたので、ウッと喉を詰まらせてから、咳払いをし、説明をしてあげることにした。


(ううう、美形に甘いということは、逆に金に目がくらまないということが私の強み。それなのにここには極上の美形が……じゅるり……い、いや、低年齢だからストライクの範囲からは外れているわよ。ブザーも社会的にこわいし。必要以上に靡かないんだからあっ)


 面白がってる風のキーユウの方を一瞬ジロリと見る。イケオジジはタイプ外。


「現地のこと、ちょっと教えてあげる。偵察してくる相手がただのごろつきとも限らないのよ。権力者に雇われた偵察隊ならば、下っぱに手を出したことを交渉材料にされることがある。難癖をつけられないように、できるだけ逃げ切ったほうがいい。ちなみに警備隊風のよそおいで馬車の中に入り込み、持ち込み禁止物を忍ばせられて入国管理ゲートで逮捕……というマッチポンプもありましてよ。早いところ国境に行きましょう。そもそもこういうこと、キーユウ様が教えて差し上げるべきなんじゃなくて?」


「ほほほ。そのような下等な交流はしたことがなく」


「ガチガチに守り固められた上流階級の乗り物をお使いになっていらしたのね。それが今は下民の馬車をお楽しみとは」


「そろそろ寿命が来るのがわかると、残りの体力で遊びたくもなるのだ」


「……」


 あくまで「老人の楽しみ」というタテマエを貫くキーユウは、口が硬い。まだ公にしていない黒鏡のことや、レナたちの新たな目標を大事にしてくれるようだ。


(ま、私も全て言ってるわけでも無いしね。気をつけてね、レナちゃんたち。ヒトの国家は利権としがらみだらけだから)


 あの子たちもただ純粋なわけじゃないだろうけど、と彼女は肩をすくめた。


 隠されると知りたくもなるが、おそらく、藪をつついたら蛇どころではすまないだろうと彼女の勘が告げていた。


 キーユウとロマン・ティブは、にーっこりと、馬車の中で仮面の笑顔をつきあわせた。これからしばらくナカヨクしていきましょうね☆


 その様子をアヌビスは半眼で視ていた。


 ▽まあ詳細はあとで聞こう。


 ▽レナは 張り切っている!


(逃げ切るなら、もちろん、従魔の活躍の機会だよねっ)


 ▽いそいそと ハマルに羊に戻るよう命じる。


 ▽ハマルは 羊姿になった。


 ▽ハマルを見る目が若干妖しかったロマン・ティブ、萎えた。


「馬車をとめましょう」と、レナ。


 とまった馬車を、レナは外側から眺めてみる。


 荷台は三つ。レナ・ノア・ロマンが乗ってキーユウが御者をしている一台、ギルティアたちがお昼寝をしている二台目、ロマンの部下たちが控えている三台目。宝箱のような重要物は研究者ギルドに置いてきたので(クレハとイズミが待ってるならまた帰るっきゃないもんね!)、荷物は必要最低限だ。いざとなったら必要道具をハマルに[夢吐き]してもらうことも織り込んでいる。


 レナに抱えられたハマルが『ボク、やれると思いますー』という。


 レナは「やれる、やれる、やれる、やれる。大丈夫っ!」と意欲をみせる。


 ▽何を企んでいるのかな?


 キラは計算をしたところ<……99.9%いけますね>と歯切れが悪い。できるだけ安全にという思い、そして挑戦の気持ちを尊重したいという思いで、葛藤があった。


 ノアが、馬を撫でて落ち着かせている。


「同じ草食動物だもんね。羊のいうことちゃんと聞くんだよ」


 無茶をいうなというところだが、


<マスターレナは[ーーウマの信頼]という称号を得ていますからね>


 ▽二文字だけ認知しない自由。


 ▽いうまでもなく シマウマであるが。


 ▽いけるか? ラナシュにゴネ通せるか?


<称号[ーーウマの信頼]セット>


 ▽いけた!


 ロマンが驚いた様子で顔をだす。


「えー!? 今、称号使えちゃったの?」


「ええっ、むしろ、何か聞こえちゃったんですか……?」


「しまった。でもこれくらい許してよ。誰かのスキルやギフトの影響が出たら、ラナシュの福音ベルが耳に届きやすいような訓練を受けているの」


(ラナシュの福音──その言い方をするヒトは久しぶりだ。そういえばガララージュレ王国付近にいた時には、その言い方をよく聞いたっけ)とレナは思い出す。


「ねー、どうして称号が使えるのか聞いてもいい? だいぶ前から使えないヒトが多いんだよ」


 ナカヨクの笑みを交わした後なので、聞けるところまでは突っ込んでやれ、と肩の力が抜けたらしいロマンである。もちろん、黙秘しても彼女は機嫌を損ねないだろうが、レナは少しだけ教えることにした。


「キラ曰く、”ウマの”という地域性の一致が大きいようです」


 ▽嘘ではない。


 ▽ラナシュ・データベースへのアクセス権ハックが働いていますが、地域性一致もちょっとは関係ありますよ。


 へーなるほどねえ、といったん静かになったロマン・ティブである。


 そしてレナがどんなことをするのか眺めている。


 若草が揺れる草原に、小さな羊と少女だ。

 牧歌的でのんびりとしたいい気色、ただそれだけのようなのに、きっとこれからすごいことが起こる。

 ハトモデルになる前のモレラ・アッカーンの狂気を呼んでみせたり、それくらいの大きなことで前より明るい出来事があるだろうとロマン・ティブは算段する。


(悪いことが起こったら、同じくらいのいいことが来る)


 たくさんの物事に携わり、体感としてロマン・ティブは知っている。


(悪いことを乗り越えられたなら、いいことに恵まれる。それを繰り返して行くと、いつのまにか高みにいるものよ。悪いことが起こり脱落してしまうヒトが多い中で、レナちゃんはどこまで行ける子なんだろう。ああやって、ひだまりの中にいるのが似合う子なのにな。やりたくないのに実力があって抜擢されてしまうヒトほど、成功しちゃうモンだからなぁ)


 哀愁含めて微笑んでいたロマン・ティブの口元が、ぴきり、とかたまる。


「ハーくん。シマシマくらい大きくなってね」


『かしこまりー』


「でっっっっっっか!!!」


 お下品な下民訛りが出てしまうくらい、本気でロマン・ティブは驚いた。


 そもそも羊ってなんだろう、今まで見てきた羊とは明らかに違う佇まい、夜空が溶け込んだようなふわふわの尻尾。


 目立たない、とは?


「どう? ウマのみんなと連携できそう?」


『[獣者連帯]できそうですよー。ウマのみんなには、ボクと並走してもらいますー。一時的にならば可能ですねー。アグリスタが従魔仲間にいるからウマ語もなんとなくー』


「よろしくねって言えた?」


『ボクについて来いって言いましたー』


「マゾヒストだけどサディストの才能も感じるんだよなあ。まあいいや。じゃあぶっ飛ばしてもらおうかな。馬車三台、まとめていける?」


『いけますよー。[周辺効果]を利用してー、ボクたちにくっつけながら空間ごと移動する感じでー』


「なつかしいねえ」


『なつかしいですねー。すっかりスキル使う機会もなかったですもんー』


「思いっきり走ってね!」


『んんー腕がなりますー。脚ですけどー』


「あはは。面白い」


 レナはハマルに特殊なロープをかけていく。あらかじめ「馬体で荷台をひっぱるためのもの」と付与効果がついているため、ただ投げかけるだけでスルスルとほどよく結ばれた。


 赤色と青色のラインが入っている。


「スライムベルトが今は無いからね……。でもあの子たちったら、こんなこともあろうかとなんて、伸縮自在のウマムスビを開発してくれてるなんて。研究者ギルドでクレハとイズミが「内緒のプレゼント」なんてさ。……私たちがどんな旅をするのか、よく知っているもんね」


『ですねー』


 しんみりとして、隣国についたらきっとメールを送ろうと思うレナだった。


 ノアが近くまで来て、こっそりと告げた。


「そろそろですよー」


 ▽偵察が 近づいているようだ。


 ▽方向を変えるわけでもないらしい。となれば 狙いはこの馬車である。


 レナはハマルを二体の馬の真ん中につなぎ、ポンポンと喉元を撫でてから、馬車の御者台に座った。ちゃっかり先に御者台に座っていたキーユウはおさえきれずに目をキラキラさせている。


「何を見せてくれるのですかな?」


「魔王国式の加速です」


 んんっ、とノアが照れくさそうに咳払いをした。


 まあ、でっかい駿足魔物が箱を引く特急便は魔王国名物である。


 あのサディス・シュナイゼもワイバーンどころではなくドラゴン便を使ったこともある。


「嫌な予感がするんだけど」


 青くなるロマンに、ノアは慈愛の笑みで応える。


「これ、エチケット袋です」


「……私や部下はまだいいわよ、大人だからね。でも二番めの台に乗ってる幼子ちゃんたちは大丈夫なの!?」


「魔人族は頑丈ですからね。ジェットコースターを楽しめますよ」


「今、不穏な名称が聞こえたんだけど!? ジェットってなに、すごく速いってこと? コースターって噂のスカーレットリゾートのとんでもないアトラクションだったんじゃない?……あなたたち、まさか……」


「たまたま訪れたスカーレットリゾートでコースターの魅力に取り憑かれたのですわ」


「というか。そもそも羊……のようなもの……が加わっただけのことよね?」


「ご体験くださいませ」


「こ、こんな仕事きいてないわーー!! きゃーーーーーー!」


 発射──そういって然るべきだ。


 爆発的な加速は打ち出された弾の如く、まさか草食獣が地面を蹴った威力だとは神も思わないだろう。重ねがけされたスキル、そしてなによりラッキーに好かれた主人と従魔が心から楽しんでいたこと。滑るように移動する馬車は揺れも少なく、新幹線のように快適だった。


 一応渡されたエチケット袋をシワになるほど握りしめながら、ロマン・ティブは唖然としていた。景色が横線のようにしか見えない。いったい自分たちはどこをどのように移動しているんだろう。訓練して高めた「自分はここにいる、敵はどこにいる」という感覚がサッパリ消え去るような時間は幼少期以来だ。


 ▽ハマルは 楽しんでいる!


 なつかしい草原の匂い。


 隠れながら過ごしていたただの羊だった頃とは違い、ゆうゆうと大股で駆け抜けることの快適さ。


 どのような肉食獣も追いつくことはできず、両脇の立派な草食獣ウマは先導するハマルを尊敬している。


 そして二番めの荷台からは「わー!!」「すっげえ!」「速くてかっこいい!」と後輩の歓声が聞こえてくる。


 キラが道案内をするのでルートも安心、背中からレナの「ハーくんいい感じー」と褒める声。


 とってもいい気分!






「……な、なにが起こってたんだ?」


「知らない。さっきまで確かに、ここに、それなりの立派さの馬車群があったよな? 夢じゃなかったよな?」


「ああ、足跡はある……足跡ぉ?」


「地面がえぐれてる」


「なにこれ」


「どう報告するんだよ……」


 チュナ帝国の南東草原では、途方に暮れた偵察隊の声があった。


「王国近郊にも偵察隊がいる。そっちではどのような様子だったか、連携を取ろう」






「ああ、たしかに入国審査をしているキャラバンがある。特徴も一致する」


 と、王国側の偵察隊は言いつつも、汗だくの同僚をうろんな目で眺めた。


「本当にこのヒトたちか? 強い風が吹いたと思ったら、現れたというだけだ。でかい羊なんていなかったし、走ってきたというふうでもなかった」


「なんだと!?」


 レナたちは馬車が止まる瞬間に、ハマルの姿をとても小さくして隠したのだ。


「地面に大きな凹みや、土埃は!?」


「ああ……このあたりは注意報が出ていたな。ほら、気象情報でたまに音が鳴って知らせてくれるやつ。いつものことじゃないか」


「そ、そうだが……」


「あと、これをやるよ」


「なんだ? ……! ポーションだな」


「ああ、ポーションだ。ここまで走ってきて疲れたろう。おえらいさんの対応は俺たちがひとまずやっておく。こちらの報告を持って帰ってくれ。わかるな?」


「ああ。……走ってきた甲斐はあった。お疲れさん」


 草原に紛れるような緑のマントを着た男は、ある程度離れたところから王国門を振り返った。


「財閥一家の家紋がついたポーションか。俺たちにだってわかる。国王様や貴族様にも引けをとらない家格だ。そして優遇してくれるというならば、なあ、おトクなほうに決まってるじゃないか」


 口裏合わせとこう、と偵察隊は雇われ仲間の元に戻った。普段から厚遇をしなかった雇い主が悪いのだ。

 トンズラである。



 ▽偵察隊を ふりきった!

 ▽盗賊を ふりきった!

 ▽草原チーターを ふりきった!

 ▽エンジンカーを ふりきった!


 ▽ミエネット王国に 入国した!


 ▽辺境伯にアポをとろう。



 【速報】知らせを受け取った辺境伯。


「早くなぁい!?」




読んでくれてありがとうございました!


今週もお疲れ様でした。

良い週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



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更新有り難うございます。 レアモン博士「ココに薄幸の貧しい美少年が居るじゃろ?        ⋯⋯そしてココに彼を養えるお金を得られる        お仕事があるんじゃよ」 と言うレナさんを幻視し…
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