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ハトモデル

 


【会議場 朝】


 レナは思う。


 スライムの外殻を柔らかくしたところから、ゴム手袋のように手をつっこみ、中の黒い沼を整形しながら。


 こねこね。


 こねこね。


(これは誰かの体だったもの。生きていたもの。そう考えれば遠慮が出る)


 こねこね。


 そして、これは料理に似ていた。


 食べない、という点が違うだけ。


(魂が刈り取られたものを私たちはいつも材料にしてきている。その一つ一つと比べてあまりに心が揺れるのは、私と同じヒトだったものを触っているからだ。……)


 レナが思いやれば、黒い沼は勝手に形を変えようとする弾力が生まれた。


 そうはさせない。


 こねこね。


 そして、無心で考えるのは「自分たちにとって必要な形」。


(あとで手を合わせます。でも、できるのはそこまでです。あなたの人生はここで終わりを迎えました。どのような、辛いものだったのか、どうなのか、私には理解する暇はありませんでした。さようなら──。

 そして、改めまして、こんにちは。初めまして)


 こねこね。


 こねこね。


 あらゆる従魔つまりあらゆる種族を撫でくりまわしてきたレナにとっては、愛玩的造形をすることはお茶のこさいさいであった。


 そして願ったのは(できるだけ暗闇という概念から遠いこと)だ。


 光るような存在をと。


 平和の象徴といえば、レナがピンときたのはハト。


 なぜハトが平和の象徴と思われるのか、ハトにこの世界で会ったことはないが……知らなくてもレナの中に保たれている常識がある。


 忌避するものではない。


 レナは感覚に従った。


 丸っこく造形された小さなハト──ヒトによってはただの小鳥というかもしれないが、願いは込められている。


 そして黒い沼からの抵抗を感じ取ってもいた。


(平和の象徴にはなりたくなさそうですね? でもごめんなさいね。あなたに罪があるならば、罰は必要になるんです。受け止めてください、あなた自身のことを)


 レナのことを眺めているヒトの中に、マリの視線がある。


(それがあなたの正義なんだ──。……正義にしてはゆるくて甘いけどね)


 やれやれと、この会場から一人減っていることに気づくものはいなかった。




 しかしその後、商業ギルドにはときどき「ふと」ギルドカード履歴と契約書が現れることが続く。誰も疑問にも思わない。ただ「いないときに気づけなくて、そこにあることは事実」というだけなのだから。




 きゃははと笑って見守っていたクレハとイズミに、レナが声をかけた。


「オッケーまとまった。今のうちに固定しちゃお。クレハ、イズミ、この黒い形にむかってスライムの殻を小さくしていける? 圧縮するみたいな感じかな……」


「「リリーをテイムする時にやったみたいなやつね! あれ苦しそうだったなあ」」


 なぬ!? と立ち上がったバニラに「スキル[従順]あとでね」をくらわし、


「そうそう。やって」


 ▽ご主人様 容赦なしー!


「「あいあいさー」」


 ぎゅぎゅ──っとスライムの外殻は小さくなっていく。


 そしてレナがこねた黒いハト小物に沿い、手のひらサイズにまでなった。

 また、あまりがこぼれ出た。

 スライムの外殻のあまりに、空気のあまりがはいったもの。ビーチボールくらいのものがいくつか、ガチン! ゴチン! と床に落ちてキラキラした。一緒に閉じ込めてしまっていた空気を抜いたのだ。


「うわ! このハト、重いっ……なるほど、圧縮されたのは超硬化してるやつだもんねえ……ノアちゃん、持ってきた鞄を私にくれる?」


 ノアの方がレナやキーユウよりも力持ちなので、持っていてくれたのだ。


「はいっ。どうぞ」


「ありがとうございます。このカバンにつけていたブローチを……」


 ▽マジックバッグにはバグが起こる今 普通鞄にたくさん荷物を入れてたよ!


 ▽つけていたのはリリー・ジュエリー


 ▽付与魔法[重力操作グラヴィティ]をつけた オズワルドとの共同開発だ。


 ▽とても便利!


 ※ふつう、軽量化のためだけに完全丸型の宝石を使ったり魔王の息子の魔法を持ち出したりはしません。デザインもこだわりすぎです。


 ※リリー「無駄? ノンノン。ロマン、っていうの♡」



「でーきたっ。ブローチは赤のリボンでつけちゃおう。うーん、きらきらの鳩の小物にブローチの首飾り。これは市場価値が高そうな見た目だな」


 シュバッ。キーユウの横入り。


「間違っても市場に流しませぬように。混乱します、こんなもの、多くの鑑定師やバイヤーが自信をうしなってしまうでしょう」


 真顔である。

 ニヤニヤ笑いもない。

 本当にしてほしくないことらしい。


「キーユウさんのご友人や後輩さんを、別業界の気まぐれで潰すようなことはしません。そういうレベルにある代物なんですね。へえ……どうします?」


 ▽レナは 商業ギルド代表 ラングドシャを見た。


「ヤダーーーッ!! ……こほん。特別コメンテイターのキーユウ氏がそのように称したもの、商売の業界に委ねない方がよろしいでしょう。まことに魅力的な逸品を見せてくださったことに感謝いたします。さて、特例的な宝物は、トレジャーハンターもいらっしゃる冒険者ギルドにお尋ねされては?」


 にこやかに丸投げである。


 ▽レナは 冒険者ギルド代表 ドナルドを見た。


「どうします?」


「むしろどうしたいんだ……? 正直なところ冒険者ギルドは街の代表の方より、戦力が高い方が尊敬されるもんだ。Sランクカードのレナパーティの意向をうかがいたい。あらかじめ言っておくなら、宝物を発掘したことの経験はあるが、これほどのものは手にしたことがない」


「宝物って発掘できるんですか?」


「ああ。ラナシュは過去の遺産が土中に眠っているものだからな。ラビリンスなんかも土中にあるだろう? 地中には過去の遺物が埋まっている。掘り出すには許可がいるが、言葉の通じない野生動物が掘り出しちゃったものを俺たちが回収するなんてことはアリだ。……」


「どうされました?」


「なんでもない」


(それはときに、ラナシュ共通語が通じないヒトを使って行われることがある。アンデッドやゾンビなんてちょうどいいと目をつけられてもいる。しかし、今ここで場の空気を暗くすることもあるまい)


 ▽レナは 研究者ギルド長を 見た。


「どうします?」


「同じ言葉を繰り返すんだなあ、それによって三者に差が出ないように気を遣ってくれているわけだ。旅をしているパーティのバランス感覚には恐れ入るよ。


 さて、研究者ギルドとしてはそのものは預かれない。


 人工物であるからだ。

 もはや自然発生したとは言い難い、自然のものをあんたがこねて整形したアートと呼ぶにふさわしい。そんなもん領域外だな。ああ、アートといえばギルドはないんだが、上流階級のサロンがある。珍しい一点ものが集められた宝物庫を披露しあったりするそうだ。あんたは興味がありそうだから、伝えるだけ伝えておくよ。

 聖霊杯なんてものもあるんだとか」


「「聖霊……!」」


 レナとドナルドの声がかぶった。


「やっぱりそういうの、冒険者は好きだよなあ。自分たちの力にバフをかけるかもしれない存在だもんな。まあそれは到底不可能な妄想にも等しいが……」


 レナはカルメンたちのことを思った。


 脳内でピースしていた。


「あんたらの反応、好きなものを追いかける夢中さが滲んでてよかったよ。ちょっと仲間意識を持ったくらいだ。なあ……」


「それは気のせいだろう」


 ドナルドが一生懸命引く。


 こいつらに仲間意識を持たれるのはあまり……その……嫌な感じだった。


「まとめる。きらめく外殻のトリモデル──「あ、ハトちゃんです」そうか、ハトモデルが完了して、取扱いについて相談中。


 ハトモデルの外殻はスライムジェルが硬化したものであり、内側はヒト犯罪者がなんらかの理由で液状化したものである。商業業界で流通させてはならず、冒険者業界でも前例がない、研究者業界はこれをアートとみなし研究対象外とした。


 途中までならば研究レポートができているが、珍しい値はないはずだ」


「値……?」


 レポート用紙を見せられて、レナは眉根をしかめた。


 あれこれ観察してみせるそぶり。


 その時間のうちに、キラがスキャンくらいはしているだろう。


 ここで出しゃばる必要はない。


 レナはレポートを返した。


「専門的すぎる。私は、見てもわかりませんね」


「素人に看破されては専門家として困ることだ。こちら側に来るというならば歓迎するが。そう、これはヒトボディの成分という証明なだけだよ。ヒトの体を構成する物質のふつうの値だ。

 ただ魔力量計は測定不能をあらわしていて──」


「ちゃんと測れていない?」


「いや、どうも針の動き方を見ていると、きちんと計測できているうえで[測定不能]規格外に多い! と見えるんだよな」


 レナとドナルドは目を丸くする。


 ギルド長は「わからない、ことが、わかった」と言い嬉しそうにしていた。


「いやーしかし、人生で測定不能レベルに出会えるとは! オカルトな話だが、これは運命的な試練の証と伝えられているんだよ」


「えっ?」


 レナが挙動不審になる。


「え?」


 ギルド長の勘が冴える。


「ナンデモナイデス」


 つっこんではいけません、パーソナルスペースの侵害です。


(私の運[測定不能]は、それじゃあ……これまでその点は言及されてないけど。研究者のみなさんだけ知ってたことなのかな?……最初にステータスが測られたところはダナツェラ冒険者ギルドだったし、ルーカさんも豆知識を披露するでもなかったから、マイナーなことなのかも。

 運命的な試練の証かあ……)


 レナはころんと手に収まるハトモデルを見る。


 妙な親近感がある。


「これから一緒に頑張ろうね。ハトちゃん」


 ▽ヤダーーーー! なんて 聞こえなーい。


「一緒に……」ラングドシャ。


「一緒に……」ドナルド。


 じり……じり……。


「ハッ!? もしや囲まれた!?」


「一緒に、と言ってしまわれましたね。少々早計でしたな。まあキーユウめも止めなかったのですけれど。これだけのものが注目する中で、Sランクカードを持つあなたがそう言えば、もはや持ち帰るしかありますまい。さらにローランド辺境伯も到着されましたしな」


「ぎえ──っ」


「お覚悟の上でしょう? というか難題は慣れていると聞いておりますが?」


「まあそうなんですけどぉ、こう、ローランド辺境伯ってめんどっ……難しい雰囲気あるじゃないですかぁ? 緊張しちゃってねー」


「らしいですよ」


「コラー!? ちょっとー! キーユウおじさーん!」


 ポカポカと殴るレナを信じられないものを見る目で眺めるラングドシャ。


 高貴なる一族に対して無礼が過ぎる。


 それを指摘するのもまた無礼になりそうで怖過ぎる。


 商人ゆえ、引き際の見極めが早い。


 すたこらと退散して、もし逃げがみっともないとされればあとでめっちゃ謝ろう。今はとにかく、撤収! 撤収! 戦略的撤退! 商人がいなくなった。


 ※まわりが使用した食料のゴミなどは持ち帰ってくれました。



 ▽ローランド辺境伯が 現れた!


 ▽会議室に 騎馬で。


 ▽会議室に 騎馬で?(シンジラレナーイ!)


「ひいっ。常識がわかんない。こわい。なんで会議室に騎馬なんですか? 教えてくださいキーユウおじさん」


「ブフォ。い、いいですよ。それはね、あなたのSランクカード以上の威厳を示さないといけない場面だからですよ。まあ無理なんですけどね。ブフォ」


 ▽冒険者が 逃げ出した!


 ▽お互いの頭を軽くこづき合っている。


 ▽いって~なあ アッ記憶なくなっちゃったわ~ いや何も聞いてね~し覚えてねーわ! しかたないね!


 ▽朝日がそろそろ登りそうだぜ。


 ▽俺たちよく頑張ったよな。おはよう!


 ▽アディオス!



 残るはピシッと気をつけしている囚人管理人たち。

 施設運営の受付嬢、コンシェルジュ、支配人代理だ。


 彼らも動き始めたので、帰ってしまうのかなとレナは思った。


 が、違うらしい。


 会場の扉を厳重に閉め始めた。


 がちゃん。


 逃げられなーい!?


 ▽ローランド辺境伯の まっすぐな眼差し!


「体調がくるっているのではないか。キーユウ相手に様子がおかしかったし、キーユウもおかしな表情をしている。はたしてお前は誰なのだ?」


「???」


 レナは(難解すぎる)と思った。


 ローランド辺境伯は妙にポエミーな喋り方をすることがある。


 先ほどの言葉はキーユウを見ながら言っているので、(翻訳して!)とレナは服の裾をひっぱった。


 上流階級の言い回しの謎を暴くキーマン・キーユウである。


「それはローランド辺境伯がキーユウめのことを”こう”としか知らなかっただけで、もともとこのような面もありましたよ? はたしてお前は誰なのだ、ではなく、キーユウは正しく老いて、今や孫娘と戯れる祖父のような一面すらみせているという同一のヒトです。ねえレナさん」


(このヒトもややこしい言い方を……。上流階級のヒトって、わざとわかりにくいような、身内の暗号? のようなことを言って、部外者をグループに近づけさせないようにしてるところありそう?)


「乗っかっておきます。キーユウさんはまさしく祖父の如く」


「ふふ、助かります」


 ▽レナの身内に 祖父ポジションが生まれた!


 ▽姉のような存在 妹のような存在 弟のような存在……数あれど 祖父のような存在はなかった。


 ▽キラは満足です。


 ▽レナは さみしがりや。


 ▽ファミリーは 満ちているほど 良い。


 ▽ファミリーを守ろうという レナのやる気にも繋がる!


 ▽マフィアかな?



「孫娘と戯れる祖父……? こちらにも孫と戯れる気概くらいあるが? やってみせようか、今ここで」


「けっこうです。あなたにもそういう一面があるのかもしれませんね。むやみに見せびらかすものではありませんよ。また屋敷に訪れたときにうかがいましょう。気はすみましたか?」


「……」


 ▽面倒な性格ディスりはそろそろやめてあげよう。


 ※ディス「はっ!登場チャンスの予感が……?」


 ※今ジャナイヨー!



「ギルドの定期会議はローランド辺境伯領の重要事業だ」


 ぎろりと馬上からローランドは眺める。


「そのハトモデルを良い方向に導け」


(ヒョエーっ! 確定しているーっ! 辺境伯公認になっちゃったよ……)


 キーユウが背中に半分隠れていたレナへ振り向いた。


「自分の言葉で返事をしてごらんなさい。非公式の場ですから、少々の失礼は咎められません。ただし、あなたにその気があるならば──」


 レナは頷き、一歩前に出た。


「ローランド辺境伯。私は魔物使い旅団のレナ、魔物使いとして冒険者ギルドに登録しているレナパーティのリーダーです。このハトモデルは私がお預かりして、悪いことにつながらないように管理します。もうご存知かもしれませんが、これの中身の由来は恐ろしいものです。これが外に漏れないだけでも、平和に近づいてくれるでしょう」


「心配なかったようですね。もうとっくにあなたは決めていた」


 キーユウは視線でレナを褒めた。


 ローランド辺境伯は数秒待ったのち、頷いた。


「聞き届けた。そなたに預けよう。しかしそのハトモデルの半分はこのローランド辺境伯の素材・・で作られていることを忘れないよう。暴走しそうならばこちらにも連絡を」


(あ、なるほど。いい影響があれば評価が上がるけど、悪い影響がもし漏れたら辺境伯の評判も下がるのか。ローランド辺境伯はかなり領地の評判を上げたいみたいだよね……? だからきびしい)


「わかりました。連絡します」


「了承聞き届けた。それでは、一つ頼まれてくれるか?」


「なんでしょう。内容によります」


 レナの胸にかけているギルドカードをローランド辺境伯は見る。


 Sランク。ギルドシステムが不安定な中にあっても、よく目立つ。


 これほどの高みに登りつめたなら、自由な発言も許される。


 たとえば、ある辺境伯を前に「引き受けるかは内容によって私がきめる」と表明できてしまうくらいに。それを(うらやましいことだ)とローランド辺境伯は少し思った。


「休んでからでよい。街の外の魔物の群れを倒すクエストに、加勢してほしい。前提、昨日の昼頃から魔物がいっせいに活発になり始めて、急激に力を増したが、1時間もたたぬうちに弱体化し、今はいつもより弱いくらいだ。


 急激に集まりすぎたものを間引く討伐クエスト。


 一時的に壊された街を囲む壁を直すクエスト。


 これらへの参加、いかがか。もちろんハトモデルも持っていって──」


「暴走しないか、試せそうですね。わかりました。その後、報告もします」


「話が早いな」


「おかげさまで」


 ねっ、とキーユウをひじでつつくレナ。




 ▽休憩をして お試しクエストに行こう。


 ▽ドナルド 魔法使いたちと 共闘しよう。




 ▽ハトモデル(ハトちゃん)を 取得した!


 ▽ミニポシェットの中に入れて 持ち歩いてみよう。







読んでくれてありがとうございました!


明日感想返信させてくださいませ₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑


今週もおつかれさまでした。

良い週末を!

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更新有り難うございます。 レナ「今日からアナタの名前は[サブレー]よ!」 ハト「⋯⋯オイオイ、お嬢ちゃんオレはそんなに甘ちゃんじゃあねえぜ?」( ∪▼)∋
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