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金色モンスター再び

かがやく金色の髪はつややかに濡れており、束になった毛先から水滴がポタポタと落ちては、泉に波紋を広げている。

シャツはぽいっと岩の上に雑に脱ぎ捨てられており、あらわになった白い素肌が暗闇に美しく映えていた。

ちなみに下はちゃんと穿いていると明言しておこう。

振り返ってレナ達を見つめる彼の瞳は、アメジストを思わせる高貴な紫。



「こんな森の中でどうしたんですか?ルーカさん…」


まさかの、懐かしの逃亡仲間との再会である。

レナは泉によろよろと近寄りながら、唖然と声をかけた。風を追いかけて必死で走っていたため足が疲労しているようだ。



「そのセリフはお互いさまだと思うけれど。

…まさか、こんな森の奥深くで貴方達に出会うなんて思いもしなかったよ」



ルーカティアスもまじまじとレナを視つめ返している。

紫の目をきつく細めて【魔眼】で魂を確認して…ふっと肩の力を抜き、安心したというように柔らかく微笑んだ。

レナの魂が相変わらずとてもキレイだったことが、彼の表情を自然にほころばせたようである。


ルーカの纏う雰囲気が少しキツくなった…?と感じていたレナ達は、その微笑みを見てようやくホッとしたようだ。

主従共々はしゃぎながら騒がしく近寄る。



「わあ、お久しぶりです!ルーカタアス先生!」


「噛んだね。…うわ、この感じすっごくなつかしい」


『ちーーーっす!ルーカぁー!』

『懐かしいっ?だよねーだよねー、皆と離れててさみしかったでしょー!?』

『『実はこっそり泣いてたでしょーー!やーいさみしんぼーーっ』』


「まあ、若干」


「そうなんですか…!?」


『やあ…久しぶりだね、ルーカ…!』


リリーは得意げに、投げキッスからのウインクを決めてみせた!


「その口調、僕のモノマネなの?100点中2点くらいかな…リリーも久しぶりだね」


『クスクスクスッ!』



おふざけのモノマネだったため不評だったことは全く気にせず、リリーは楽しそうに笑い声をもらしている。


静かだった夕暮れ時の森の中には、明るい笑い声が響いていた。

索敵は特別な目を持つ2人がしっかりしてくれていたと言っておこう。


ひとしきり再開の挨拶を皆と交わしたルーカは、おかしそうに小さく笑いながら、髪をぎゅっと絞って適当に水気をきり、泉から出て片足を地面につける。一歩踏み出す。

…おや?彼とは反対に、一歩後ろに下がった者がいた。

元王子の形のいい金色の眉がぴくりと動く。



「やあ。貴方に会うのも久しぶりだね、ハマル」


『…どーしてボクの名前知ってるのー?…言ってないのにーっ』


「視えたからね」


じりじり…と後ずさっていたのは、ゴールデンシープのハマルだった。

彼はジト目でルーカの"手"を見ている。ルーカの口角があがる。



「そんなにこれがお望みなのかな?」


『ち、違うもーん!…うぐぐ、前に撫でくりまわされたこと、許してないんだからぁーっ』



スライムに心覗きを嫌がられ、ハマルに撫でまわしの前科を怒られたルーカ先生は、なんだかんだ最初の印象で距離をおかれてしまうタイプの残念な人だった。

本人に自覚があっても大して気にしていないぶんタチが悪い。



「えっ?ハーくん、撫でられてすっごく気持ちよさそうにしてたじゃない。

またルーカ先生に撫でてもらいなさいな」


『え。レ、レナ様ぁーー…!?

…ぅぅ、貴方さまがそういうならー、おおせのままにー…。

でもでも、レナ様に撫でてもらうのが一番好きなので。あとで上書きでボクのこといーっぱい撫でてほしいですーー!』


「ふふっ、はいはい!ああもう、ウチの子は本当に可愛いなぁ!」


「相変わらず親バカしてるね」



ルーカは実に楽しそうに、大きめぬいぐるみサイズのハマルをレナから受け取った。

ぐぬぬ、とジト目で見上げてくるハマルに対してニッコリ笑いかけてやると、こしゅこしゅっ、と耳の根元を指でかいてやる。

そしてふわふわの毛に手のひらを埋れさせながら、後頭部、首周り、頬…など気持ちいいポイントをしっかり押さえつつ撫でていく。


▽ルーカの 快楽のゆびさき 攻撃!


『ふみゃああぁぁ……』


▽ハマルは 陥落した!


彼がルーカを警戒していたのは、以前草原で撫でられた時にもこうして骨抜きにされたからである。

絶対主人レナ様の前で、他者にいいようにされている姿なんて見せたくない!と考えていたのだが…まあ、その女王様本人によって快楽天国に送り込まれていた。

あられもない声が出てしまっている。獣語で表すとメ"エ"ェェェ…!というところか。


【鈍感】ギフト持ちのヒツジは痛みにはめっぽう強かったが、快楽にあらがう事は出来なかった。

【魔眼】で全快感ポイントをカンニングしているルーカ先生の撫では最強なのである!



じゃれている青年とヒツジを、レナ達は生あたたかい目で見守っていた。


「ルーカ先生、よっぽどストレスたまってたんだろうなぁ…」


レナがぽつりと呟く。

…一人きりで大自然のサバイバルを続けるのは大変だっただろう。

夜番を交代してもらう事も出来ず常に寝不足、食材の調理もままならなかったかもしれない。おまけに、不意打ちで魔物が襲ってくるリスクもある。

どうして街中ではなく、今もこんな森奥に一人きりでいるのかは分からないが…。

自衛のために、魔眼も発動させっぱなしだったはずだ。ルーカの紫の瞳はやや充血して、赤みを増していた。

ろくな食事をしていなかったのか身体は少し痩せていて、顔色も良くはない。

ハマルのもふもふ感触で少し癒されてくれればいいな、とレナは考えていた。



『『ハーくんは気持ち良くなれて、ルーカももふもふでリフレッシュできて、お互いにイイ関係よねっ!』』


『…でもそろそろ、ハーくん、限界っぽい…?』


「ふふっ、うん、そうだねー。もう身体クタクタになっちゃってるもんね。

そろそろ助け舟を出しますかー。

ルーカさん!着替えないと風邪ひいちゃいますよー」


「そういえば上脱いでたっけ」


「忘れないで下さい。ついでにズボンはびしょ濡れのままですので、脱いで下さい」


『『きゃーーっ!レナのえっちぃーー!』』


『はふううぅぅー…』



スライムの言葉を華麗にスルーした皆のオカン・レナさんは「おや、こんなところにフカフカのバスローブが!」と言いながら、淫魔のお宿♡のバスローブを差し出す。

「なぜこんなものを…?」と首を傾げながらも、ルーカはおとなしくそれを受け取ってはおった。

濡れたズボンと下着も脱ぎさり、ゆったりしたバスローブ一枚に包まれて、巨大化したヒツジにもたれかかる金色モンスター。

魔眼を久しぶりにオフにしたルーカは、はあーーーっ、と至福のため息を吐いた。


彼が相手の好意をここまで素直に受け取り、気を抜きまくっているのは生涯で初めてかもしれない。

それくらいレナ達の事を信頼していたし、今の戦闘力を認めてもいた。戦力を知っているのは言うまでもなく魔眼カンニングである。


ハマルが巨大化してまで宿敵のクッションになっているのは、レナ様がかつての逃亡仲間を気遣いそう頼んだからだ。

なかなか鬼畜なお願いに思えるが、ヒツジにとってS的命令はご褒美プレイなので何も問題はない。



「なぜ、こんな森の奥に?…って、聞いても大丈夫ですか?」


「うん、かまわないよ。まあ、あんまり気分のいい話は出来ないけど。

僕からも貴方に聞きたいことがあるしね…」



皆でもふもふハマルに背を預けてリラックスしながら、これまでの旅の話をする事になった。




***




ツェルル草原でレナ達と別れたルーカは、とりあえずガララージュレ王国とは正反対の方角に向かって旅をしていた。

浅い眠りをこきざみに取り入れながら、お得意の魔眼を駆使してモンスターをふいうちで倒し、一人きりで魔物のはびこる草原を突破した。

まず最初に訪れたのは、小都市トイリアとラチェリの近くにある小さめの町。

トイリアのような大きな都市には政府関係者が滞在していることが多く、王子ルーカティアスを知る者がいるという可能性を考慮して、あえて小さな町を訪れたのである。

そして商店で食料を調達しようとして…やらかした。



「ああ…私も同じ間違いをおかしましたよ…」


「変に思われなかった?」


「勘付かれました。その店長さんの自宅に招かれて、一般物価の常識を教えて頂きました」


「…運良くいい人に巡り会えたんだね」



家族との出会いを思い出しほのぼのしているレナと違い、当時を思い出したルーカは遠い目をしている。

話を戻そう。

商店でうっかり高額の硬貨を店員に支払ってしまったルーカは、すぐに自分の過ちに気づいた。

店員はわずかに目を見張ると、そそくさと釣り銭を入れている箱を漁りはじめる。その者の態度になんとなく違和感をもったのである。

心を読むと「なんだよ、世間知らずのボンボンがこんな所に来るとはなァ!格好のカモだぜ!」と思考していた。

驚いたルーカはそのまま心を読み続け、少ない金額の釣り銭を渡そうとしてきた青年に対して足りない分の硬貨を要求する。

怪しい青ローブが物価を理解カンニングしていたことに、青年はチッ!と盛大に舌打ちすると、元の5000リル硬貨を放り投げてよこした。


「…にーちゃん!そんな高額な硬貨用の釣り銭なんて、ちっちぇー町の商店なんかじゃ普通用意してないぜ。

冷やかしならとっとと消えてくれ!」


そんなつもりでは無かったのだが…この青年にもう物を売る気はなさそうだし、大声により注目を周りから浴びてしまっていたので、ルーカは旅の備品を揃えられぬまま町を後にした。



『…ルーカってぇーー』

『ほんと、運、悪いのねっ』


「…反論のしようがないね」



スライム達の言葉が耳に痛い。


ルーカは旅を続け、このラチェリの街にようやく辿り着いた。飢えはマズイ携帯食料でごまかし続けた。

ラチェリでは一番高級な宿をとって、なんとか5000リル硬貨を使うことに成功する。この種類の硬貨しか持っていなかったので、とりあえず一安心だと思った。

ラチェリをしばらくの活動拠点にしようと決めた彼は、まずは日常的に使える小銭を稼ぐために冒険者ギルドを訪れる。

宿での両替は断られてしまったのだ。

そして…件の新人ギルド嬢に目をつけられてしまった。



「うわぁ…」

『『『『うっわぁーー』』』』


「あ、レナ達も彼女に会ってたんだね。…あの人はよりにもよって[透視]効果の魔眼を持っててね。

僕はフードで顔を隠してたんだけど、視られて、容姿が好みだったらしくかなり粘着されたんだ…」


「お、お疲れさまです…」


「うん…」



面食い新人ギルド嬢の押しは凄まじかった。

未だかつて見たことのない、まるで王子様のような美形が目の前に現れたのである。なまじ自分の可愛さに自信があるぶん、逃がす気はさらさらなかった。


列が出来てるしこれに並ぶのかな?とうっかり整列してしまったルーカが自分のカウンターに来るよう、先輩たちが冒険者をさばく速度を観察して計算し、まず接触をはかる。

そして彼女の内心を知って早々に逃亡しようとするルーカに巧みに話しかけ、なんとか連絡先をゲットしようと試みた。失敗したが。

…それが乙女心に更に火をつけてしまったらしく、プライベートの時にまで街を探索してルーカを探し出し、恋人のように隣を歩いてみたりとアピールをしまくった。

ルーカは彼女に粘着されることにより、あいつめカワイイ子を独り占めしやがって!と他の冒険者たちにはうらまれてしまう。悲惨なとばっちりである。

誰かとパーティを組むことは出来なかった。


…結局、ラチェリの街中にも居づらくなってしまい、高級宿に料金を支払った一週間ぶんだけ泊まって、ルーカは森へと繰り出したのだ。

また別の街に行くことにしたのである。


レナ達全員が、彼のあまりの悪運ぐあいにドン引きしている。



「それで…わざわざ目立たない森のど真ん中を突っ切ってきたというわけですか…」


「うん。ギルド嬢との遭遇率がやたら高くて…。旅の道で待ち伏せでもされたら、ほんとに困るから。

この顔はいつも厄介なものを引き寄せるし…いっそ焼いてしまおうかと血迷ったことを考えたりもしたなぁ。ははは」


ルーカ先生の目が結構マジである。


「ルーカさんお気を確かに…!

ええと、人の顔の造りなんていうのは、肉と血と骨の詰まった皮袋についたシワのようなものですから!

そんなもの、そのうち老けて形も変わっていきますって」


「ちょ、すごい例え方するよね…!?

…さすがに驚いたよ、相変わらずだね、レナは。

…なんか安心した。

まあ、それで失明したら野垂れ死ぬ未来しかないから自傷はやめたよ。

せっかく貴方達に命を助けてもらったんだしね」



しっかりした声音の回答を聞いて、ようやくレナたち皆がホッと肩の力を抜く。

じっと5名に見つめられたルーカは、一呼吸おいて続きを話しはじめた。



「そして僕はこの森の中で、精霊シルフィーネに出会ったんだ」


ここからは呪い事件にも関係している話かもしれない。

そう気付いて、皆ハッと表情を引き締める。

ルーカも心得ているようで、一段階声のトーンを低くした。


「シルフィーネはとても傷ついていた。…何者かに傷つけられた、と言った方が正しいのかもしれない。

【魔眼】で姿を視ることができた僕に必死で『助けて』と声をかけてきたから、今はここに留まって、彼女を穢している原因を探しているんだ。

彼女の声が聞こえるのは僕だけみたいだから、なんとか助けてあげたくて」


「シルフィーネ…!

あの、その精霊さんは、今…すでに傷付いていらっしゃったんですか?」


『『ルーカ、幻の精霊に会ったのーー!?精霊まで視えるんだー』』


「ほとんどのものは視えるよ。

というか…僕も貴方たちに聞きたかった事があるんだよね。

さっき貴方達の近くに、僕が視た個体とはまたべつのシルフィーネがいたんだけど、何か心当たりはある?

みんな気づいてなかったみたいだけど」


「えっ!?」


『『『『えーーーっ!!?』』』』



レナ達は、自分たちの周りをキョロキョロと見渡してシルフィーネのことを探している。

あの、モスラの笛をさらった風はもしかしたらシルフィーネの仕業だったのかもしれない。


レナはラチェリに来てからの出来事を思い返したが…呪いのイノシシに追われた事くらいしかトラブルは起きていなかった。

トラブルの数を思わず数えてしまっているあたり、自分たちの引きの強さをいい加減自覚していた。


困ったように首を振るレナを見たルーカは、そっか、と小さく呟く。

シルフィーネの身体の末端がドス黒くなっていたんだ、と告げた。そして、ここ数日は姿を現していないのが気がかりだ、とも…。

呪いのイノシシと、呪術師がいる可能性についてレナから聞くと、盛大に眉をしかめる。



「…嫌な話だね。もしかしたら、さっきの"若い"シルフィーネも穢れの影響を受けていて、レナ達に助けを求めていたのかもしれない。

僕のもとに貴方達を連れて来たのは、通訳をしてほしかったからなのかも?

なぜかすぐ消えちゃったけどね。また近々現れる気がする」


「!私たちも精霊さんに会えるのでしょうか…?」


「もう出会っていたけどね。

全てのシルフィーネは力が弱まっているみたいだから、普通の人の目にはもう見えないんだと思う。

乙女の宿り木の周りには結界が張られている、って聞くから…そのせいじゃないかと考えているんだけど」


「…そうですか…残念です」



レナの表情は曇ってしまった。

とても美しいとされるシルフィーネが見えないのも残念だが、それよりも、乙女を守るための結界のせいで力が弱まっているの?と、矛盾に納得できない様子。

ルーカが「多分、だからね。あくまで僕の予想。結界を張ることによる影響を予測できなかったのかもしれないし」と慰めるように返す。

アネース王国の人々はシルフィーネをとても大切にして精霊祭まで催しているくらいなので、悪意をもって結界で精霊を閉じ込めた訳ではないのだろう。

ルーカのように、力が弱まっていることが"視え"て分かる人間が特殊なのである。




ひととおり旅話が終わって、心地いい静寂が森に満ちる。

ルーカは一気に気をゆるめた反動で、半分目をつむってウトウトし始めてしまった。


「ルーカさん、まだ髪が乾いていませんよー。クレハ、ドライヤーしてあげて」


『うっす!』


クレハドライヤーによって、ルーカの金髪はさらっさらに乾かされる。


「だ、堕落する…」


ルーカは心地よさになんとか耐えて、ギリギリの所で意識を手放さずに起きていた。


「ふふふ、まだまだいきますよー?

いっそ堕ちてしまえばいいと思ってます。ゆっくり休んでください。さぁハーくん!」


『はーい!おおせのままにー、レナ様ー。

ルーカ覚悟っ、スキル[快眠]~』


「う。………」


「すぐ寝ちゃったねぇ」


『『『おやすみルーカ~!』』』



…さて。ルーカ先生が寝オチして、ここから先はレナと従魔たちの作戦会議のお時間である。

何の作戦かって?金色モンスターをテイムするための案が、主従から次々と挙げられていった。こういうことだ。


森の夜は、レナたちにとっては優しく更けて行く。

小腹を空かせたスライムたちの捕食による魔物の断末魔を子守唄にして、明日の朝に早起きするため、皆もゴールデンもふもふに埋れてぐっすりと眠った。




***




そして翌朝。

ルーカはこれでもかと尽くされまくった。

イズミのアクアボディアイマスクで目を癒され、洗濯された清潔な服を渡され(下着はスライムが洗った)、もともと幸せ慣れしていない人間に純粋な好意を一気に与えまくった結果、元王子は…泣いた。


その口内には現在、なめらかでとろける食感の黄金のオムレツが入っている。極めつけの一撃だった。

とっておきのグーグー鳥の金タマゴを解禁したのである。

ほろほろと涙を流し続けるルーカを見て、レナも従魔たちも苦笑していた。

そしてレナたちも少し小さめの黄金のオムレツを食べて、目を輝かせて満面の笑顔になる。これはかなりおいしい!


黄金のオムレツは、大容量のタマゴに生クリームを混ぜて半熟でくるりと巻き、特製のトマトソースをかけたシンプルなもの。

携帯食料ばかりを口にしていたルーカにいきなりがっつりした食事を与えるのは胃の負担になるだろうと、口当たりのいい卵料理にしたのである。

双子黄身の効果で栄養も更にたっぷり!


オムレツをゆっくりと味わって食べ切ったルーカは、しばらく舌の上の極上の余韻に浸ったあと、おずおずと頭を下げて再びパーティに入れてもらえるよう頼んだ。



「ぜひ、魔王国まで同行させてください…」


「はいっ!喜んで!」


『『やったぁーー!ルーカ、つっかまーえたー!』』

『クスクスッ!また、よろしくね。…先輩って、呼んでもいーよ?』

『しょーがないなぁー。でもー、もふもふ撫でる時は一声かけてからにしてねっ』



レナパーティのみんなは嬉しそうに笑顔で彼を歓迎する。

朝から何度もパーティ入りの勧誘をしていたのだが、断られ続けており、ようやく首を縦に振らせたのだ。

今度はルーカが思わず苦笑していた。


これからの旅の予定は決まっていないと宣言したものの、まさか、また一緒に旅をしようと誘ってもらえるとは思っていなかった。

もちろん…勧誘は嬉しかったが、迷惑をかけるだろうからと遠慮したのである。


先ほどの運の悪すぎる不幸話を聞いてもなお、「友達が困っていたなら手助けするのは当然」と手を差し伸べてくれるお人好し加減をみて、なおさら、悪運持ちの自分に巻き込むのは気がとがめた。

自分のギフトの便利さを自覚していたルーカだが、レナ達に限って言えば、それが必要ないほどに戦力は上昇している。

更に新しく魔物をテイムすれば、死角はどんどん無くなっていくだろう。


それなのにわざわざ厄介な人間を抱え込むことはない、とネガティブなことを考えていた。

そしてなんとなく思考に気づいたリリーに頭を小突かれている。


『むぅ!』

「ごめんって」


もう観念した!というように、ルーカもようやく明るい笑い声を漏らした。



「そりゃ…また仲間になれることを全く期待してなかった訳じゃないけれど。

やっぱり、レナ達はちょっとおかしいくらいお人好しだと思うよ?…ありがとう」


「私の目の前で友達が飢えているなんて許せない、ってだけですよー?

健康になるまでは皆であなたの隣にいさせてください。

今日のお昼はコーンクリームベースのパン粥で、夜はお野菜のとろみ炒めにします!苦手な食材はありますか?」


「うわ、美味しそう。

貴方が作るものなら毒を盛られる心配もないし、全部ありがたくおいしく頂きます。

…いいのかなぁ。こんなに幸福な気持ちになっちゃって。すごく満たされてるんだけど。

…シルフィーネの件も手伝ってくれるって言うし。本当にいいの?」


『もともと呪い事件には関わってたから、構わないのよーー?』

『ルーカったら思考回路が暗いわぁーーっ』

『…根暗撃退キック!』


「ごめんなさいっ」


『ぷっ。リリー先輩、とっても楽しそうですー』



ぐだぐだとした言い訳や自嘲は、全てリリーのキックにより吹っ飛ばされたようだ。

こうして、ルーカは事件を解決した後、レナ達とともに魔王国を目指すことになった。


食事を終えて、皆がしばらくのんびりと休憩していると……どこからともなく柔らかな風が吹いてくる。

さわやかな緑の香りと共に、レナの三つ編みがふわりと揺れた。




▽ルーカティアス先生が 再び 旅の仲間になった!


▽Next!風と水の乙女シルフィーネ




読んで下さってありがとうございました!


ガララ王国の政権交代話もしてますが、その話し合いの様子はまたの機会に書きます〜。


戦力は大幅に増えましたがトラブルもマシマシになりましたので、ドタバタ旅は愉快に続きます。


そして再度申し上げますが、あまあまラブラブ展開はないのでご安心ください(従魔いちゃラブはデフォです)

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