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ミッドナイト(1)

 

 ふははははーーー!

 ふははははははーーー!

 ふははははははははーーー!

 ……


 オズワルドの耳が、ペしょんとなったり、なんとか持ち上がったり。

 周りの音を拾うために気を付けていなければいけないが、父の大咆哮が聞こえてくるのは恥ずかしいものである。


「オズくん……」


 見上げてくる、主人にしてちょっと恋心を自覚しつつある少女のいたわりがまた、いたたまれない。


「うちのお兄ちゃんも、そーいうとこあったよ。わかるわかる。だいじょーぶ!」

「レナさんのお兄さんってうちの父ほどやかましかった?」

「も、もうちょっとは社会的分別があったかな。すみませんでした……」

「いや、それを聞いて安心した。俺の環境ほど悪くなくって」

「うーん」

「でも、前よりはよくなってきてるんだ」

「よかった!」

「おかげさまで」


 オズワルドはぱちりと片目をつむり、(この仕草ってレナパーティから移ったやつだよな)自身の変化を自覚した。

 レナがホッと安心した顔をしたから、まあいっか、とちょっと照れた自分の胸中をなぐさめた。


「レーナ様」

「あ、チョココ。……チョコ風船?」

「中には”エアー”が入っていますので浮きますし」

「よくわかんないなあ……。まあ、なんとかしたってことね」

「そうですし。キラ様からのお伝えがあります」

「えっ」

「今、館内放送はできるけれど誰にでも聞かれちゃう。通信はどうにも伝わりにくくなっていて、それはスカーレットリゾート内の陣地合戦によるもの。らしいです……??? まあ、できないから、スウィーツモムを通して私に、そして私からレナ様にってこと」


 ちょうどいい足場を見つけたオズワルドは、足を止めた。

 いくつかある時計台の上部の休憩所。小さなベンチがぽつんと置かれており、本来ならば翼を持つ魔人族が羽休めをしたり、翼を伸ばしたりするためのところだ。


 ダークチョココはぷかぷかと風船で浮かびながら、ぴりりとスパイシーな表情でレナたちに伝えた。


「ルーカティアス様たちを追いかけておられましたね。しかし、彼は迷子センターに一足先につきましたよ」

「迷子になった……わけじゃないよな」


 変なところで運が悪いルーカへの心配である。


「逃げられちゃったらしいのです。デカ=ドグーだってそうですし。砂が崩れるみたいにして消えてしまいました。どこかにはいるのでしょうけれど。チョコのにおいがしていますもの」

「作戦の練直しのためってことね。そして、ルーカさんとチョココがそこで会ったと」

「そうですし。警告もありますし」

「「警告?」」

「”僕はやってみたいことがあるから、絶対こっちにきちゃダメだよ”」

「「…………」」


 レナとオズワルドはジトーっと目を合わせた。

 おもむろに、大きなため息をついた。はーあ。

 やれやれと肩を落とす。


 いじわるに口を尖らせた。


「勝手な人! 言われなくたって、手伝ったりしてあげませんもん」

「好き勝手にやるところ、まさに独裁的なリーダーぶってて、従魔に見放されちゃってもしらないぞ」


「プププ。お二人とも、よくお受け取りくださいました。これをどうぞ。アメちゃんです」


「飴なんだ……」

「なんで……?」


「新作のスウィーツを模索中なのです。チョコレートでは来場者のみなさんが熱狂しすぎましたから、わずかに風味があるくらいのスウィーツがお土産にいいのかもしれないと思いました。スウィートミィ」


 ▽ちゅ! 

 ▽チョココは投げキッスをマスターした。

 ▽甘ーーーーい!


「どうですか……?」


 ▽そわそわ。うずうず。

 ▽チョココは 心配そうに こちらをみている。


「これは……想像を超えてきたね。飴……なんだよね?」

「口の中でほどける感覚が不思議だな。こんなのどうやって思いついたんだ?」

「歯に当たるくらいの硬さはあるのに、硬いってあまり感じなくて」

「噛み砕くにはもったいないくらい、溶け方が面白いかもしれない」

「「あとチョコレートの"風味"」」


「ウフフ」ダークチョココは口元を隠して、ニコーっとにやけた。


 ──あほらしい、というように、伸びていた建物の影が引っ込んでいった。

 影は今や縦横無尽にあちこちを歩き回り、太陽の方角など無視して、勝手にその場所を変えている。


 ──たまに、足元に注目しておらずとも環境の違和感に気づいて転びかける来場者がいた。

 不思議そうに周りを見渡すころには、もう原因の影はどこかしらに遠ざかっているのだ。


「いきましたね」


 ひそっ、とチョココがいう。


「私はここに留まっていると不自然ですし。レナ様たちは、ルーカティアス様をわざわざ追いかけなくともいいですよ。それを伝えた私は……おふたりの甘い時間を推奨するですし。そうですね、飴やおやつの味について、マダムミディとギルティア嬢と話してまいります。さらば」


 ダークチョココは風に吹かれるようにして、去っていった──。


 レナとオズワルドは飴を頬でもごもごとさせていたが、やがて甘い余韻を残して吸収された。


「……あ! 行ってきて、オズくん」

「あの転びそうなお客? 了解」

「って、私も連れていくんかーいっ」

「あんたを今一人にしていいわけ、ないじゃん」

「……そりゃそーかあ」


 レナはちょっぴり赤くなった頬を指でこすった。


 そして、マジックバッグからリゾートキャスト用の籠を取り出すと「じゃん!」そこからは甘いポーションを選ぶ。


「お嬢さん、大丈夫ですか? どこか擦りむいたり、怪我していませんか? このポーションを飲めば回復力が高まるはずですから、どうぞ。サービスです」


 ありがとう、と快くやりとりを終えることができた。


 いつもは転んだりしないはずなの、とちょっと恥ずかしそうでもある。


(おかしな影が平衡感覚を狂わせちゃった、ってイレギュラーなこと。でも、獣人の方には、運動がよくできるはずなのに転んじゃった、って恥ずかしいのかも。ええと、フォローできることは……)


 レナの勘が冴える。


「あちらをごらんください。Gーレックスです」

「なんですかそれ!?」

「ドラゴンの原種、トカゲの類似種、オオサンショウウオの亜種、いろんな説があるんですけれども、事実としてあるのはかっこいいことです」

「か、かっこいい」

「獣人の方は素晴らしい毛並みをお持ちになっている、だからこそ鱗を持つ魔人族へのあこがれも大きいとうかがっております。Gーレックスも、お好きかなあ〜と」


 オズワルドたちは少しジレに憧れがあるのだ。


「それはそう。うわああ……!」


 獣人はきらきらした目でジレを眺めている。


「あちらのGーレックスが何をしているかといいますと、地均し、なのですね。石畳が剥がれてしまった箇所があるらしく、こちらの不手際です。すみませんでした。先程、お客様の足元もかなり揺れてしまったかもしれなくって……」


 そうだったの、と獣人は目を丸くした。

 そしてペコリと頭を下げたレナの後頭部を、ポンポンと触った。


 これは、魔人族としてそれなりの経歴がある家名持ち獣人らしい、示された意見を受け入れるというマナーである。

 しかしながら、知らなかったレナは驚いた。いつも助言をくれるキラやルーカと連絡が取りづらいタイミングだったので緊張もした。


(でも、オズくんが追い払ってないってことは、問題のない行動なんだろうし)


 そのとおりである。


 しかし、面白くない気持ちにはなるもので。


 むすー、としたオズワルドの態度から感じとったお客は、あらあら、と面白がるようにして離れていった。


「オズくん、待っててくれてありがとう。君がいてくれると、魔王国でやっていいことやまずいこと、フォローしてもらえて助かっちゃうよ」

「……そう。まあいいけどさ」

「もやもやしてそうだね。そばにいたら分かっちゃうもんだよー。獣型になれるならワシャワシャっとしてあげることもできますが、どうする?」

「今はいいや。もうしばらく独り占めしていられるし」


 どこに行く? とオズワルドは問う。


 キャストの仕事をしましょう、とレナは言った。


 みんなそれぞれの考えがあり、でも目標はおなじだ。レナが主人であるとごまかすために、やるべきときに余力を残しておくために。

 ふらふらとしていた獣人にポーションを差し出した。


 ルーカとそっくりの顔をしていた。


 ▽幸運!

 ▽久しぶりに来ちゃった!




 ▽クレハ イズミ ミディのところに ルーカがやってきたよ。


「な、なんだあれはーーー!?」

「モグラさんお静かに。指を刺さない。声のボリュームを落とす。遊園地では楽しそうにね」


 ▽モグラもやってきたよ!

 ▽どんな見た目なのかって?

 ▽来週までのお楽しみさ!


 ぽよよん、ぷよよん、スライムたちがやってくる。


『あっれー。ルカ坊、どうしたのじゃね』

『我々に話してみんしゃい。よいのじゃよ』


「どんなキャラ……? さては、回されすぎて目が回っているとみた」


『『そうなの〜。ぐーるぐる。世界が回っていて楽しいわあ〜♪』』


「目……? スライムに目……!? それ以前に、会話が成立するスライムなど存在するのか? すべての生き物の原初の液体である、スライムにそのような個別の知能があっていいはずがないだろう!?」


『その変なやつ、なーに?』

『ちゃんと手綱つけてるぅー?』


「こらこら。ま、ちゃんと気をつけてるから大丈夫。鞭を手に持ち命じたら、なんだって僕のいうとおりに動いてしまうはずさ」


『『うわあ』』


「さて、彼はドグーの動向を探ることができるんだ。グループが同じだからね……ハイコンテクストに。砂のように細かくなった敵を捕まえるため、スライムボディを借りたいなあ」


 こっちはまかせてくれて大丈夫ヨー!とミディが手を振る。おてだまから、イカ焼きに趣旨が変わってきている。レグルスが手伝いに駆けつけていて、しょうゆのにおいにつられた魔王が列に並んでいた。列に並べてえらいね!


『『よっしゃー!いくかー!』』


「一緒に狩りをするの久しぶりだね。懐かしい。頑張ろうね」


「狩りって言った!? 仮にも古代のダンジョンマスターが操るものを、狩るって言った!?」


 あ、そうだったんだ? とルーカが呟いた。

 定義がされているならば扱いやすくなるなあ、とも。









読んでくれてありがとうございました!


規模デカゆえに難しくなりがちな物語、編まれたみたいに繋がっていくと、よみやすい。当社比。


よみやすいといいな!(願かけ)


今週もお疲れ様でしたよ( *´꒳`*)੭⁾⁾

よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 「アレは何だ!?」 「鳥だ!」 「飛行機だ!」 「イヤ、魔王様だッ!!」
[一言] すべての生き物の原初の液体……?……!? 『驚愕の事実!スライムはLCLだった!!?』
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