スカーレット・パレード!(5)
獣型になったオズワルドの背中に乗ることはレナには"やはり"難しかった。
しかしまた出るというなら、主人を背中に乗せたいオズワルドである。というわけで。
▽レナは 作戦を考えた!
▽リリーの 配下による 糸紡ぎ。
▽粘着力のある糸が 鞍のように巻き付いた。
▽リリーがすばやく編んでくれました。
もちろんこれがベストではないため、レナもオズワルドも(しまったな)とは思っている。ねちょねちょとする。
しかし、こうしている間にも戦っている従魔たちはあせり始めていることが、繋がっている心臓がさわぐことによりわかる。
であれば、レナは駆けつけたい。
主人が見てくれていたら、気にかけてくれていたら、従魔は実力をめいっぱい出せるのだから。
レナが乗っかり、オズワルドは屋根の上を走った。
道中、ジレ・アグリスタ・マイラとすれちがう。
「レナ様、ちょうどよかった、はいこれ、きらめきの紙吹雪の籠!」
「そっちの方向はおまかせしてもいいですか。あっち、がんばってくるので」
顔つきが明るくなったなあとレナは嬉しく思う。
一生懸命になにかをして輝いている子供の顔をしていた。
道中、ギルティアを避難させるクドライヤ・ドリューとすれちがう。かなり手こずってはいるものの、子守りはきちんとされている。
「チョコの花が咲いちまった前例はないですけど、前例がないくらいなんとかなりますんで、おまかせでいいですよ」
「水分足りるように自分も駆り出されましたので、枯らしたりしないっす」
「きゃっきゃ♪」
小さな樹人がきげんよくはしゃいでおり、甘さをプラスされたのかな~なんてレナはにこりとした。ギルティアが両手を伸ばしてレナにアピールしていたので、レナは手を振ったあと投げキッスをしてみた。
ギルティアに愛情が届いたようで、甘くにこりとしていた。
道中、レグルスとすれちがう。
「まじめに警備をしていますからご褒美があってもいいのでは!?」
投げキッスをしておいた。
レグルスも上手に息抜きをするようになってきて自己管理ができてえらーい、とレナは思う。
道中、スライムお手玉をしているクラーケンを広場に見た。
『レーナー。ヤッホー!』
『スライムとクラーケンなんて、珍しくって大ウケだよー』
『たまにスウィーツモムもまざってくるんだよー』
『そうしたら我らのおやつになるのだ。もぐもぐ』
『久しぶりの魔物姿なのヨー♪ 海底には烏賊型魔物もいるっておもしろいことを教えてもらったから、こっちの姿でもいっかなあーって♪』
おおらかな波の音が響いてさらに場を盛り上げてくれているのは、広場の噴水に浸かったマーメイドの気の利かせかただ。
ミディはにょろにょろと回転する8本のアシでおてだまを、2本の触腕で体を支えていてそういうオブジェかのよう。
レナは紙吹雪をたくさんばらまいた。
いつか[かみつかい]になれますようにとも祈りを込めて。
オズワルドは走る。
すんすん、鼻を動かす。
耳は伏せている。父が「おおーい、楽しいぞおおおお」という声がうるさいので……。
オズワルドは進んでいた方向を変えて、別の屋根を走った。
スカーレットリゾートの建物は緊急時足場にしやすいように並べられていて、さまざまな魔物について質問をしたレナパーティと、その要望に応えてみせたドワーフの設計士のおかげでこのような空の道ができている。
また、走る方向を変えた。
「あれ? オズくん、一番困っている従魔のところに向かっている……んだよね?」
『そう。でもそいつは動きながら戦っているから、俺たちも追っているってわけ』
「ありがとう」
しかし、一呼吸おいてからレナは気づく。
「私たち、いくらなんでも走らされすぎじゃない?」
もう、円形のスカーレットリゾートを半周するほどに走らされているのだ。ルーカがわざわざこのような動き方をするとは考えにくかった。
むむむ、とレナは眉根を寄せる。
パレードを装って戦おう、とはいうものの、それならば動くよりも一箇所で大道芸などしていた方が戦いやすいはずだ。わざわざ観客たちの隙間を通り抜けるようにして移動するなど、とくに人付き合いが苦手なルーカの作戦だとは思えなかった。
『走らされている、か。たぶんそのとおりだな。俺たちが近づくことを予想しているやつがいて、会わないようにしてるみたいだ。
ごめん、そんなことをあらかじめ考えておく奴がいるところに、俺は主さんを連れていけない……。発見されている土偶が全部見つかっているなら遠くから眺めるつもりで、なんとかここまでは連れてきたんだ』
「わかってるよ。私が行きたそうにしていたから、オズくんは自分の心配な気持ちを譲歩してくれたんだよね。ありがとう。
──ルーカさんたちの方向、血の匂いはないでしょうね?」
『それはないよ。うまくかわしているみたいだ。主さんが心配するしさ、ルーカも気をつけているだろう。周りの警備員たちも。だって、俺たちはキレたあんたを絶対見たくないからね。
遊園地エリア特有のたのしげなにおい以外では、魔物それぞれの体臭と、あと特殊な砂っぽいにおいがする。香りがきついんじゃなくて、細かいのが鼻をかすめる感じっていうのかな』
「わかった」
『どうしたい?』
「キラがいる本部の方に向かおうか。ちょうどエリアの中央にあるから。どこにいくにせよ、そこが一番近道になるはず」
オズワルドが、わかった、と頷いた。
大きく飛び跳ねるようにして、中央管理人室兼まいごセンターにゆく。
スウィーツモムを抱きしめた魔人族の数人がそこにいて、どうやらパレードの混雑の中、一緒にきたものたちとはぐれてしまったらしい。園内アナウンスが鳴り、定期的に名前がコールされていた。
(なつかしい)
と、ふとレナは耳をすませる。
(デパートで迷子になったときにこんなふうに呼ばれたことがある)
ぼんやりとしたノスタルジーが胸のあたりに広がるのみだ。
(デパートか……。スカーレットデパートがいいのか、ううん、スチュアートデパートだな。おっと、つい考えるようになっちゃったけど、私たちがここに遊園地エリアをつくったのは魔人族をあつめて私たちが姿をくらますことが原点。そして楽しい気持ちだけを作り出してもらうこと。
それ比べるとデパートは、たくさんの商品の中にリリーちゃんのアクセサリーを紛れ込ませるようなことはできるけれど、お金や商品には欲望が集まりすぎてしまうような気がする。そういうのはうまくさばける自信がないや。適材適所でアリスちゃんに要相談だな)
「おねーちゃん、どうして、わんわんに乗ったままでいるの?」
「それ、あたしたちものれる?」
どうやら親とはぐれた子どもたちのようだ。
今回は落ち着いた家庭を多く招待しているので、魔人族の子どもにしてはしつけが行き届いていて、興味がありそうにうずうずしているのに、無遠慮に触ってくるようなことはしない。
しかし魔王の息子であり自身も風格あるレア魔物のオズワルド相手に、恐怖できないような警戒心のないところは、まだまだ幼いようである。
どうやら炎獅子家系の子供と、淫魔家系の子供のようだ。
ここにきて知り合ったのか、ふだんはまったく違う家柄の子どもたちに縁ができているということは、ちょっといいことなのではないか、とレナは思うのであった。
「それ、じゃなくて、オズワルドくんだよ」
『主さん、待って、その呼び方はずかしいから! ぞわぞわするから!』
「あれれ? その子、あるじさん、って言ってる」
「そーなの? ボクは淫魔族だからわかんないや」
「あたしは獣人だから、肉食獣類ならわかっちゃうんだ。おねーちゃん、今、しまったって顔してるねー。だいじょうぶ、だれかに言ったりしないから」
「そうしてもらおっかな。いやー私もうかつだったよ。実はね、私のあだ名があるじさんっていうんだ。だいぶまえにやめることにしたんだけどね、だって、今のラナシュ世界では嘘をつかないほうがいいから」
嘘をつけるのならば、レナは「うちでしつけている訓練犬だから」とか「実はアル・ジィという名前で」とか言えたのだが。
さくっと軽口を言うことも難しくなってしまい、息苦しいかもなあ、と苦笑してみせた。
子どもたちもまたラナシュ世界の変調について親に言い聞かされているのだろう。
レナの応答で理解をして、口の前でちいさくバッテンを作ると「しー」と微笑んで許してくれた。
「私たちは……ちょっと温泉にいく用事があるんだ。ごめんね、スカーレットキャストの服を着ているのに期待に応えてあげられなくて。夕方ごろにはホテルのほうで温泉も温水プールも開放されるから、よかったら遊んでいってね」
「わかったー。ありがとー」
「淫魔族だから知ってるよ。ホテル街にライトがつけられているのは、そのための演出だったんだね。とっても楽しみになってきたから、あとでいってみます」
(ライト? 誰かが演出をかけたのかな?)
レナは手を振って子どもたちと別れ、まいごセンターを奥に進んだ。
やさしい印象の丸い壁で囲われたまいごセンターから雰囲気はがらりと変わり、キラの髪のような銀色の円柱が一つそびえている。
レナたちを感知すると、エレベーターのように扉が開いた。
まいごセンターの上部、高さでいうと20階相当の場所に、エリア全体を見渡すための管理人室がある。
レナとオズワルドは、上階の扉が開くとともに冷気を感じた。
そこには元・氷の古代聖霊がいた。
ひややかな氷色の目。
こわがらせることを好む冷たい口元。
レナは目を丸くする。
「どうして」
「オーバーヒート、しないように。処理というのは熱を持つから。伝わるか? ヒトの娘よ」
一瞥して、彼女は答えた。
それ以上は口を閉ざしてしまったので、レナは自分で察することにする。
この管理人室には銀の柱がいくつもそびえて、それぞれにパソコンコードのような文字や数値が流れている。ラナシュの構成情報というものを自らにわかりやすいようにキラが翻訳しているもの、であるらしい。
キラはずいぶんとがんばっているようで、モニターに向かって集中していた。
レナが入ってきて言葉を発したことに気付いたはずだが、質問の答えはもうマスターに届いたと信じたのか、レナの方を振り向かない。
(私にべったりなだけではなくて、従魔同士がお互いを思いやっている、そういうふうに育ってくれて嬉しいな。キラもできるだけさみしい時間のないようにね)
そんなことをふと思い、やさしい眼差しを背中に向けた。
キラの代わりに、とことことマシュマロがやってくる。
「キラママ、同じ処理をかけ続けているから、やりかたは学習しちゃったマロは自由時間なのだ」
「そっか」
「そこの涼しいのはそろそろ帰る。ここを冷やそうにもキサ姉も忙しいし、そうとうなコントロールが必要なためこの管理人室から呼び立てた。あちらの凍土<氷の楽園>では暇な時間帯だったらしくて、来訪にあたってもめてはいないぞ。気晴らしのためでいいそうだ」
「まだ、何かしてやってもよいぞ」
(よっぽど機嫌がいいみたいだ。じゃあ……)
「ささやかな雪を降らせてほしいな。この遊園地エリアにぱらぱらっと舞うくらいの、空気をきらめかせるための演出。きっとあなたが世界で一番上手にできるんじゃないかなあ。いやー、そんなことまでできちゃったら、こわいくらい!」
「できるぞ!」
▽氷の元・古代聖霊は 乗せやすい。
雪が降りはじめたら、モニターに映されていた来場客たちは「わあっ」と声をあげた。雪に生まれて初めて触れたものもいるだろう。
また、ルーカとドグー=ルーカは二人ともがすっ転んだ。
シモン=モグラは巻き込まれてしまった。
(ほっ。いつものルーカさんのままだ)
▽いつもの。
(大きな怪我をしちゃったら従魔回復しまくりの刑ですよ。どんなに快楽に悶えることになるかわかりませんからね! ふにゃふにゃネコになりたくなければ……怪我なくしのいでくださいね。応援してますから)
レナは祈りを込めた。
組み合わせられた手は、爪が肌にくいこんで赤い跡をつけた。
「ところで、なぜここに来たのだ?」
「ああ。ルーカさんたちの様子を見せてもらうためと、オズくんとくっついたままのこの糸をどうしようかな〜って相談をしに。まあこのまま駆けてもいいんだけど、跨った姿勢だと足が痛くなってきちゃって」
「ふむ。糸は、蜘蛛のものであるという情報だな。マロはそのままオズ兄がヒト型になってしまえばいいと言うしかないが。思いつかなかったのか?」
『……恥ずかしいからダメ』
「だそうで。思春期だからデリケートなんだよ〜。お兄ちゃんってそういうものなの」
「ふうん。離れられたら、またルーカ兄のところに行く?」
「今の状況なら、そうだね、行ってもいいと思ってる。雪のおかげで同じ広場にとどまってるもん。だよねオズくん」
『まあ、前提がかわれば俺の意見も変わるよ。今は、行ってもよさそうだ』
「ふうん」
▽マシュマロは ニヤリとした。
▽器用なものである。
「え」
『嫌な予感。レナさんはこういう従魔ばっかり育てる』
「マシュマロはちょっと事情が違うもんんん。それからレナさんって照れずに呼ぶタイミング、今ぁ?」
『もしかしたら自由にのびのびと育てられると”こんなもん”なのがふつうで、みんなただガマンして生活してるだけなのかもしれないな』
「よっ、名言じゃん、かっこいいね」
『レナさん褒め方が雑』
「だってこわいから」
『こわいよなー』
「なにあの、マシュマロがちいさなおててでコネコネしてる情報のかたまり」
『こねて、伸ばして、なんか調整でもしてんのかね』
「で き た」
「『できちゃったかー』」
マシュマロの手の中にあったちいさな世界は、しゅわしゅわと空にのぼって見えなくなった。
こわがりバトルをしかけようかとタイミングを見計らっていたはずの現・氷の精霊は、ドン引きした表情で消えゆくしゅわしゅわをみて、そそくさと帰った。
こんな非常識につきあわされてたまるものか、おだやかな北の大地におひるねしにいくのだ。
▽暇を持て余した 神の手遊び。
▽オズワルドは 獣型からチェンジさせられた。
▽ヒトの姿 かつ 蜘蛛の糸などなんら効果を発揮しない大きさに。
▽着ている服もていねいに作りかえる。
(そのためのセンスはリリー姉から学んでいるのだ)
▽オズワルドは 好青年の姿になった!
レナとオズワルドは、びっくりして丸くなった目で、エヘンとしているマシュマロを凝視した。
「「ええーーーー!?」」
「こらこら。ここはお互いを眺めて頬を染めて驚いて見せてくれねば、ロマンスが始まらないではないか。完全に育ち途中の子供を見る視線なんよ。マロはいい仕事をしたと思うのだが? ひとまず、それならば、レナママを抱えたまま屋根の上を行けるだろう」
「よゆー」
獣型から変化する時すでに、背中に乗せたレナを落としてしまわないように、オズワルドはレナを上手に抱えた姿勢になっていた。
すでに姿勢については問題なく、体重もたいしたことはない。それに少し歩いてみれば、この青年体の使いやすさだ。オズワルドという個体がまっとうに成長したなら、という最適なプログラムが編まれている。
オズワルドは感心した。
「レナさん。これなら俺、すっごくいい感じに走れそうだ」
「私も安定感あってらくちん。オズくんに負担かけちゃうけど、頼める? あっほら広場、またもみくちゃになってる、もー危なっかしいなー!」
「ルーカが不運でダウンしないうちに行ってやらないと」
「ありがとうマシュマロ、キラ。私たちちょっと出かけてくるねー!」
オズワルドの尻尾が機嫌良く揺れる。
マシュマロはこの管理人室に窓をつくって、そこから飛び出していけるようにしてやった。どちらにせよこの20階相当から身軽に降りられるようでなければ、レナを抱えたまま戦闘の場に行こうなんて無理な話なのだ。
オズワルドは躊躇なく飛び出した。
獣の勘が、いけるぞ!と喜びの咆哮を上げている。
「いやこの場においてもルーカ兄の心配のほうかーい。あまりの色気のなさにマロはびっくり」
いつ変身がとかれるのか、聞かれると思ったのにな、とマシュマロは肩をやれやれとおろした。
「夜になったら元の姿に戻るようにしてあるから、それまで楽しんでー。って伝えてほしいのだ、キラママー」
「って私の仕事かーーい! んもーー!」
「だってマロ遠くまで声届けらんないんだもん」
「急に可愛子ぶっちゃって、しょうがないなあ誰に似たんでしょうねッ。うちのメンバーはみんな可愛子ぶる才能はありますから全員か……。まあいいでしょう」
キラは分身体を通して、伝える。
レナとオズワルドの驚いた声が返ってきて、マシュマロはけらけらと笑った。
キラは目を細めてにっこりと雪を見る。
「いやあ。さすがはマスター・レナといいますか、ラッキーを引き寄せる力がありますよね。その起点がただ誰かを喜ばせたかったから、という理由も気持ちがいい。
あの雪を"異常視"している個体がみつかりました。
"来ている"ようですね。こんな遠くの地まで、はるばると弱体化しながらもよく来たものです。暗いところからようこそ。へえ、古代人って、あのような姿をしているものなんですね──」
キラはモニターに赤のチェックマークを入れた。
▽”暗闇様”を 発見した!
読んでくれてありがとうございました!
氷の精霊の話、すっごく長く書いてましたね。読み返してきました。なつかしいです。
あの頃よりもまとめられるように、でも雑にならないように、説明くどくはしすぎなくて、するするとどくような文章にしたいなあ。むーん!がんばります。
よい週末をお過ごしください。
今週もおつかれさまです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




