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スカーレット・パレード!(4)

 

 チョコレートの甘い香りには中毒性がある。

 一つ、そんなつもりで手を出せば、二つ、三つ目へと手が伸びる。


 ヘラ女史もその一人だ。

 いつの間にか(……いくつ食べたっけ?)チョコレートのとりこ。


 彼女がチョコレートを貪るその手を、手首を掴んで止めたものがいた。

 腕力としてはわずかなものだ。

 しかしその存在ゆえ、ヘラは手を止めざるを得なかった。


「ノノ、ノア様!」

「いけませんよヘラ。そのように太ってしまっては」

「申し訳ございませ……ええ、ふ、太ってしまっている」


 今にもジャケットとスカートのボタンが弾け飛びそうなほど、ヘラ女子はふくふくとしてきていた。


「いやー! こんなのっていけませんわ! 影蜘蛛はスリムで機動力があるからこそさまざまな隙間に潜り込んでいけるのです。私が太ってしまえば、使役する蜘蛛も太ってしまう……。役立たずになってしまう……。体型維持には非常に気をつけていましたのに……!」


「ブラックチョココさんですから。まだ力のコントロールができていないのです。戦闘に夢中になっているのでしょう」


「ノア様、どうしましょう、どうしましょう」


 ヘラは、はたと自分がノアを頼っていることに気づいた。

 その意味にも思い至った。


 影蜘蛛はたくさんの雄と、ひとつの雌からなる。

 影蜘蛛女王は代替わりをして、その時代に一つきりしか生まれない。

 一人きりの影蜘蛛女王が大人になるまで守ることができなければ、死すのみ、影蜘蛛はそれを生き抜いてここに繁栄しているのであり、しかし旧来のように武力だけでやり過ごすのではなく、雌の「ふり」をする影蜘蛛が存在する。


 ヘラ女史はその一人だ。

 外見はどこまでもたおやかな雌らしい。

 外部のものが影蜘蛛女王を狙おうとすれば、まず目につくのはヘラであるだろう。おまけにあちこちマモンについて移動するので表舞台に現れやすい。


 そのヘラが、助けを求めようとしてしまったのだ。

 いかにも自然にそうしてしまうような魅力を、ノアが身につけた証である。


「ノア様……」


 彼女は今や、光り輝いているかのように、ヘラには見えていた。


(率いるものの輝きを宿しておいでです。魔王ドグマ様のように何らかの頂点に立つものの雰囲気。はあ、あの小さかったノア様が、こんなふうにねえ)


 ノアは、ヘラの手をとった。


 そして[体型変化]と唱えた。


 ▽ノアは 激太りした!


「ノア様ーーーー!?」

「そう慌てなくても大丈夫です。あなたに合わせて太って見せただけですよ。重量を増すという魔法は、あのドグーというのも使っていますが、たしかに存在するのです。やり方を教えましょう。近くにいるものがやってみせれば、ヘラは優秀ですもの、きっと分かりますね」

「はい」


 太ましい女子・・二人は、大衆がスウィーツに熱狂する片隅で、そっと微笑みあった。


「体の中にあるエネルギーのうち”カロリー”を放出するようなイメージをするのです。凝縮は難しいものですから、私はこれまでに一人しかできた羊を知りません。……。ですので、蜘蛛が糸を紡ぐように、魔力で糸を編むときのように、カロリーを細く長く体に纏わせてゆくのです。スキル[体型変化]」

「スキル[体型変化]──」


 ヘラは繭に包まれるようになったあと、みるみる痩せて、弾け飛びそうだったスーツのボタンも余裕なスリム体型に”戻った”。

  周りの空気はすこし密度が増していた。


「これは便利なものですわ、ノア様。ああ、よかった。また身軽に働くことが叶います! そうしたらきっと、あなた様に貢献できるような結果を届けることができますもの。これからも教えていただいた能力を発揮してまいりますから、どうかヘラのことを見ていて下さ…………ノア様ーーー!?」


 ノアは体をくの字に折り曲げたかと思えば、ぐんと後ろに引っ張られるようにして後退していった。

 建物の影に隠れるようなところまでゆくと、影に溶けるようにして気配を消した。


 ヘラには見えていた。


 ノアの腹部に青銀色の蜘蛛の糸がからまってさらっていったのを。


 思わず、むすっと眉間に皺を寄せたものの、そうされた理由は納得をせざるを得ない。


(私がノア様に近づきすぎたからですわね。長いこと側にいればサディス宰相がいい顔をしません。最近では、子飼いにした類似種族の蜘蛛にボディガードをさせているとうかがいましたもの、あれがそうなのでしょう。

 ノア様の成長が見れたことはよかったけれど、私ったら、もっと近くにいたかったなんて高望みを覚えてしまった。いけない、いけない。影蜘蛛女王のための目眩しとして、しっかり働かないとですわ)


 ヘラはつやつやと健康な頬を薔薇色に染めて、チョコレートの雨を見上げた。


 チョコレートは美味しそうで魅力的だけれど、それよりも種族の本能はつよいものだ。

 そのような強みが他にないものたちは、甘いスウィーツに溺れてしまうのかもしれないと思われた。


(引き続きチョコレート並びにチョコレートモンスターのスウィーツは流通制御が必要ですわね〜。そうだ、流通制御の権利を中抜き集団に一部交渉して、徐々に権限をとりあげていくのはよさそうだわ。

 急に物事を変えれば、反発は大きくなるから、にじり寄るように、汚れ仕事もまた影蜘蛛の得意分野。

 私たちが泥に塗れて働きますから、ノア様はすこやかに育ってくださいませ。願わくばまたあなたの瞳に映していただけますように)


 ヘラは影蜘蛛たちを総動員して、こぼれ落ちた地面のチョコレートを集めては片隅に寄せていく。

 それはまた後日集計されてレナパーティに届けられ、「混乱を防いでくださってありがとうございました」と感謝をされるのだった。





「なにーっ!? あっちの方でも君臨する者の気配が……」


 ▽シモン=モグラである。


「しかし一瞬のことだった。間違いだったのやもしれない。こっちのものの方が、赤の女王様らしではないか……そうだよな……?」


 ▽それはルーカティアスである。


 シモン=モグラが集まった観衆に揉まれながら立ち往生している、その前を、ルーカが空中アクロバティックを披露しながら去った。

 そして追いかけていくのは、おそろしく顔立ちの整った黒髪の青年である。

「キャー!」と黄色い声をかけた観客たちに手のひらを振るなどのサービスをなぜだか長々と行いつつ、パレード用に開けられた大通りを走っていった。


 混乱しながら耳を澄ませる。


「君、ほんとうに僕が嫌がることをわかってやってるよね」

「君、その顔立ちが騒がれたことでずいぶん苦労したらしいからばらまいておいてあげたよ。もう外を歩けないんじゃない?」


「君、もともと僕が引きこもって過ごしていたことを知らないようだ」

「君、しかし一人でいるのはさみしいと思うこともあるらしいじゃないか。この体は嘘をつかないんだからさ」


「君、僕には仲間達がいるってことを忘れているんじゃないのかな」

「君、その仲間達を近くに寄せたくなくて必死なようだね。わかっちゃうんだからさ」


「そうでもない。だって、悪いことを君が引き受けから、僕には幸運の方がやってくるものだしね!」


 "大きめの音"が響いたため、シモン=モグラは素早く聴覚を切り替えた。


 そうしたら幼い声が「すっごーい! 転がってきた瓶を踏みつけて転びそうになって、ふんばった結果ゴミ箱にぶつかりそうになり、ゴミ箱を壊して回避したけれども、そのゴミ箱壊した"黒いの"を”赤猫”がどついとるー! キャハハハ!」「静かにせんかクラゲオババ」と聞こえた。

「あれ? なんか黒いのが足元怪我しとったのは、見間違いかのう。いや、若返ったんじゃし、そんなはずは……」

「老眼はそのままじゃねーのおばあちゃん」とも……。


(すぐに治る足……。この気配……)


 シモン=モグラに影が落ちる。

 建物をはさんだ道の向こう側に、屋根を越えるほどのドグーが姿をみせたからだ。


(他にも手下がいるってことかよ……)


 かつて支配していたダンジョンの暗闇の洞の中、とっておきの一撃になってこいと期待の言葉をかけられたことをまざまざ思い出す。


 冷静なつもりだったが、心のどこかは舞い上がっていたらしい。

 当然である。もう”古代の噴出”と運命をともにしなければならないことが決まっていて、その主人に評価されるということは、シモン=モグラにとって唯一の道のように見えるだろう。


 これまでこつこつと創造してきたダンジョンを奪われてしまい、あまつさえ破壊されて、ダンジョンマスターの地位も無くし同じ立場のものに相談もできなくなり、残されていた一本道。

 あの暗闇様の第一の配下と評価されてみれば、評価されるためには勝戦をしていくのだから、自己が領土拡大したものをいずれまた取り返す──。

 それならばプライドも守られる──。

 そんな思いを頭の片隅に抱いていたことに気付かされた。

 恥ずかしかった。


(どうすっかな……)


 最悪に嫌な思いをしている最中でさえ、胸の片隅にうずくようなこの[忠誠心]。


(嫌だと感じている。しかし体は命じられたように魔物使いレナに向かうだろう。土竜モグラはそのような存在だと決められているのだから)


 赤の女王様!と声のするほうに向かう。

 自分よりも先に、黒髪の配下が成してしまうかもしれない。

 どれほどの魔力差をつけられているのか、あちらのほうが相当に戦闘力が上に見えた。

 おとりにされているのはあきらかにシモン=モグラの方だ。


 これに気づくことを、想定されていたのだろうか?

 それとも、舐められたのだろうか?


「”舐められてみせて、誘い込んで、一発逆転劇、それがダンジョンマスターの生き様だった”ことを思い出したッ」


 遠くの管理人室で、キラが<ほほう>と言い、リヨンが<基本だな>と頷き、マシュマロが<かっこいい>と跳ねた。


 シモン=モグラは走る。

 その道すがら、来場者特典のバニーカチューシャをもらい装着した。

 お疲れの方にと差し出されたポーションを一気飲みした。

 風船を拾ってあげたらお礼に差し出された花輪を首にかけた。


 すべては己のこの脆い意志がよそものに崩されないうちに、ラナシュ世界にぶつけてやるための最短距離をとったのである。


<業務連絡。警備員のみなさま、これより来られるシモン=モグラについて広場に通してやってください。ええ、勢いのせいで交通整理をできなかった、というていで構いません。お咎めはなしです。このほうがきっと未来がわずかによくなるから>


「本当にそーかのうー」

「オババ。ほら、あれが話題の窃盗罪のモグラのようだぞ」

「ププーーー! なにあれ面白い! 賛成! 通そう! 引っ掻き回してもらおうぞ。いやあ年長者が年甲斐もなくああもはしゃいでいるのを観覧は元気が出るわい〜」

「いやおばあちゃんもね」


 クラゲオババと水龍クラウディアの前を、必死の形相のシモン=モグラが走っていく。


 ルーカとドグー=ルーカの間に割りいった。


「勝負だ!」


「「……誰!?」」



 ▽現在、エリア獲得バトルが行われています。

 ▽ブラックチョココ VS デカ=ドグー

 ▽ルーカティアス VS ドグー=ルーカ VS シモン=モグラ


 ▽残り敵対勢力 3体確認。

 ▽勝った場合 現状維持。

 ▽負けた場合 スカーレットリゾートの乗取り。


 ▽防衛戦です。


 ▽ラナシュランキング急上昇 レナパーティ一同

 ▽異世界情報機関が 観戦しています。




読んでくれてありがとうございました!


よい週末にしましょうね。

今週もお疲れ様ー!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……全力で楽しんでる!?>モグラ シモン「……ソンナコトナイモグヨ?」
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