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スカーレット・パレード!(3)



 ▽チョココ vs ドグー=プッチ

 ▽ファイっ!


 レナが「防衛戦」と考えたとき、レナの近くにはスウィーツモムがいた。そのモムが吸収した言葉は、つながりをたどってチョココの心にも届いた。


 まるで舞台を見るように来場客が丸く並んでいるスカーレットリゾートの大広場。


 その中央にいるドグー=プッチ……改め、デカ=ドグーはまさしく”君臨”という言葉がふさわしいかった。


 ぷくーーー。

 チョココの頬が膨れる。

 ブラックチョココになるのも必然というものだ。


(怒っちゃいますよ。私たちのエリアに侵入だなんて、脅かされているだなんて、防衛戦だなんて。チョコレートクイーンが教えてくれたことを今こそやるべきなのでしょう。これを試練だというならば、なんてイジワルな運命なのでしょう!)


 ドグーの足元で石畳ががしゃんがしゃんと割れてゆく。


 どのようなしくみなのか、膨らんで大きくなったことで「体積が増えた=体重も重いにちがいない」なんて、ラナシュのルールが乱れた。


 チョココはそれをふしぎに感じたけれど、ドグーは気にもとめていない様子で、それは古代のルールを目覚めさせてつくられているのか、チョココよりもさらに脳みそが生クリームでなにも考えていないのかわからなかった。


「主役はスウィーツなのですよ」


 チョココは泡立て器ホイッパーの柄を長く伸ばしたような杖をとりだして、バトントワリングのように動かしてモムを整列、浮かぶマシュマロモムたちを足場にして、上空に登る。

 くるくるとホイッパーを回せば、チョコレートクイーンのスカートのごとく滝のように甘い魔力が溢れ出し、ドグーはチョコレートコーティングされた。


 チョココから離れるほどに甘い魔力は"薄く"なるので、ほとんどは地面につく前に消えてしまったが、いくつかのしぶきは丸いチョコレートとなって、来場者の手元まで落ちてきた。

 もちろん、騒ぎになった。


「これ、わたくしでも嗅いだことがないくらい芳醇な香りがするわ」

「甘いにおい。食べられるもの?」

「一応果実に近いもののような気がするぜ。勘だけどな! んでも獣人の野生の勘だぜ! 匂いだけ甘いような偽造品じゃねえ、食べられるんじゃないかなあ」


「あまーーーーーーい!」


「噂に聞いたことがある……。とっても高いチョコレートっていうお菓子があるって」


「まさか。いくら豪華な新事業に招待されたからって、それほどのものをこうもたくさんふるまってくれるわけないよ。そういうプレミアがついたものはプレミアムな価格で売るから経済が成り立っているのだ」


「へへえ、すごいなあ。おいしいからいいやあ」


「スカーレットリゾートって食べ物がとにかくおいしいよね」

「お腹が空く暇がない」


 来場者がにっこりとする一方。


 マモンの代理で来ていたヘラは口の端を引き攣らせていた。


(ほぎゃーーー。まさに! プレミアムな価格が崩壊するほどのばらまきですわあ。……どうマモン様に報告しましょうかねえ……。

……いっそ、スウィーツパラダイスエリアをもっと開放してしまいましょうか。禁止区域にしていることで甘い汁を得られる団体がある一方、チョコレートクイーンへの恩恵はエリアを保障するという守りだけ。グループを守りたいチョコレートクイーンから不満はなかったものの、最近では、引きこもっていれば世界に忘れ去られた存在となってしまいリスクが高いのよね。現状を知った彼女がキレるのもリスクだし。

マモン様に報告するために、このチョコレート、ちょっと食べて帰ろうかな。うん、試食は仕事だからね)


 ヘラも幾種類かのチョコレートを口にして、へにゃりと表情を和ませた。


 スウィーツにはだれをも幸せにする魔法がかけられているのだ。

 きっと。


 チョココが生むスウィーツにはだれかを幸せにしたい気持ちが含まれていて、それはチョコレートクイーンから受け継いだ「食べられるとだれかが幸せそうにするから」という食料魔物の本能である。


 デカ=ドグーは急に体の一部を熱くした。


 溶けたチョコレートが土の表面に吸収されていった。


「むっ。チョコレートフォンデュとなり私の眷属化するのが早いか、甘い魔力を使い尽くさせてしまうのか、陣地取りってことですね。いいでしょう、バトルスタート」


 チョココは空中をあちこち移動しながら、ホイップロッドをふりまわす。

 デカ=ドグーはひたすらに抵抗を示した。


 チョコレートの液体を吸収したギルティアがチョコレートの花を一つ咲かせた。「なんでえ!?」とクドライヤがわけのわからなさに唸った。





 地表までホットチョコレートで熱くなるといけないので、ここで活躍するのがキサである。麗しの美貌が混乱を招かないように顔の下半分は絹の布で覆っている。やんわりと目を細めてみせる。


 広く、うっすらと──冷気により来場者を守っている。

 キサの仕事。


「地味な作業も今の妾にはちょうどよい。ただ立っているだけでも目立ちやすいのじゃし」

「そうやねえ。ウチらのお嬢さん」

「……レーヴェ。……なんて呼ぼうか迷うのじゃ〜。お姉ちゃん?」

「まっ」


 くねくねと身をくねらせてみせるのはキサの故郷ラミアの里からやってきた、レーヴェ。

 キサとレーヴェ。これほどの美女が二人並んでいれば、誰しもの注目を集めてしまうのは当然のことだ。


 来場客の目がハートになりつつも頭がのぼせあがらなかったのは、ちょうどよく冷気をただよわせていたからにすぎない。


 そしてこのスカーレットリゾートに魔王ドグマがいることだ。彼がこの土地にいる限り、[絶対王者の覇気]によって、魔人族たちは「なんとなく引き締まった空気を体感している」のである。

 はめを外しすぎる者が出ないように、正気のドグマがここにいるだけで意味はある。彼が冷静ゆえ、ドグーを前にしても魔人族が乱れなかったのも事実だろう。


 デカ=ドグーはひとつ思い違いをしていた。

 シモン=モグラも同様である。

 このエリアには魔物使いレナがいるからエリアが自分たちのものにならないのだと思っているが、実際のところもう一人の「ボス」がいるのだ。



 ジェットコースターにいるドグマは非常にごきげんであった。


「ウチらのお嬢さん。キサさん、キサさん」

「うー、気恥ずかしくなるのじゃ」

「成長したんやねえ。こういうの、親離れっていうんかなあ。フフフ。大人びたウチらの可愛い子をもうちょっと鍛えてあげようかな。あそこにおる大きな敵は、どうしてあんなふうにただただ抵抗するだけでおるんやと思う?」


 キサは少し焦った。

 冷気を保ちながら、頭も働かせるのはけっこう大変だった。

 けれど、どちらも頑張るように努めた。

 レーヴェの表情は真剣そのものだったから。


「どうして……か……」

「うん。これまではやったことなかったやろうから、順番に教えてあげようねえ。どうやって考えていけばいいのかを。たとえば敵さんの最終目標はなんやっけ。どういう欲望を抱いているんやっけ」


 しだいに声が潜められて、蛇が喉から細く息を出すような音だけがキサの耳に意味を伝える。

 久しぶりにこのような呼吸法を使うので、キサは気をつけて話した。

 難しいけれど、ラミアの里に帰ったような懐かしい気持ちにもなった。


「敵さんは、スカーレットリゾートの土地が欲しいのじゃ」

「そう。どうしてほしいんだっけ」

「ほしいから、ほしい」

「そうそう。引っ掛からんかったねえ。小賢しい理由なんてなくてね、おそらく欲望が強くて、ゆたかな土地は自分のものにしないと気が済まないんやろうねえ。本能に振り回されてしまって、かわいそうな存在やわあ。そして、土地を手に入れるためにはどうすればいい、って敵さんは考えそうかな?」

「レナ様を倒す」

「あとひといき」

「め、滅す」

「うーんそれで堪忍したろうかなあ。死なすやなんて、悲しいからねえ」

「想像しただけで泣きそうじゃ」

「そうやね」

「レナ様は妾たちと穏やかに暮らしたいだけで、クエストをこなしたりと社会貢献だってしているし、だれかを不幸にしているよりも幸せにしてくれることのほうがよっぽど多い。それなのに、悪いことをせずにこつこつと積み上げてきたレナパーティの幸せが良いものだからって、だれかに欲しがられて狙われるのなんていやなのじゃ」

「そういう存在はいなくなればいいのにと思う?」

「思う。レーヴェはそうじゃないの?」


 キサの冷気が強くなったので、レーヴェが調整をした。

 温泉の湯気のようにあたたかい水分を操る魔法。

 これは近頃のラミアたちが習得しているスキルだ。いつでも大好きな姫様を温めることができるように。


 彼女キサはまだ、自分を温められるほど器用ではない。だからオズワルドのような炎属性が近くにいてくれればと願っていたこともあったけれど、今のところ春は遠そうだ。そしてレナは今日はキサの近くにいてやれないかもしれないからと、レーヴェが招待を受けた、この気の回し方に今は満足している。


「そーいうもん。って大人になったらわかるんよ」

「分かりたくないのじゃ。そんなもん」

「そーそー。キサさんたちはね、せっかくまだ若くて”でも嫌”のほうを優先させることができるし、レアクラスチェンジやなんてことを世界から認められたやないの。やっちゃえ、やっちゃえ」

「う、うん? うん……」


 キサは首を傾げる。

 温泉の湯気に頬が温められていてうっとりするような肌の美しさだ。

 レーヴェはそれを至近距離から愛でた。


「あれっ。結局、何が言いたかったのじゃ?」

「敵さんがああやって同じ場に留まっていること。敵さんは一人じゃあないこと。目的はその本能のままに、レナさんを……すること。本能がどれだけ強く私たちを動かすのかは、わかるよね」

「うん」


 レナたちと暮らしている「キサ」を忘れて「ラミア」になりそうなとき。ラミアから蘭美亜ラミアに進化をしたときの頭がまっしろになっていたとき。気がついたら事態が終わっていたとき、おそらく本能のままに何かをしていたことがキサにもあるのだ。

 それはレナの近くで過ごすようになってから、少なくなっていたけれど。


「敵さんは、夜に、現れる?」


 キサには、パズルのピースをかちっとはめたときのような感覚があった。


「だって時間をかけすぎているのじゃ。焦っていない。かといって倒されるつもりはないらしい、抵抗しているのだから。相手の名前は、暗……」


 しーー、とレーヴェがキサの唇を塞いだ。


「言ったらダメよ」


 キサの視界の端に、ルーカの姿が見切れて、遠ざかっていく。


「あっ、頑張れー!!」


 キサは大きく声を張り上げて、仲間を応援した。



 ▽つまり……

 ▽夜になる前に 倒そう!






読んでくれてありがとうございました!


なつかしのひとが続々ご招待〜(*´ω`*)




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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……トンチキな土地なんだけどなぁ? スカーレットリゾート。
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