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スカーレット・パレード!(2)

 

 ▽魔剣の金色女王 VS 古代剣の黒王子

 ▽ファイッ!


 ルーカはハイヒールの踵を鳴らすようにして移動する。

 持ち前の器用さで難なくバランスをとって走り、またハイヒールパンプスはさすがの魔法効果で足にぴたりとフィットしている。旅のブーツと変わりない、それ以上かもしれない速度で走ることができ、腰を覆うようにあるスカートをタキシードの裾のようにさばいた。


(いけるな。レナのためにいい装備を揃えておくことが、まさか僕のためにもなる日が来るとは。笑える)


 華やかな衣装のルーカが前にすすめば、混み合っていた道は自然にひらいた。

 そうしなければならない、そうしたくなるような雰囲気を自然にまとっていたらしい。


(誰かを傷つけてしまうことは僕たちにとってのゲームオーバーだ。レナの心も傷つくし)


 それに横目で見てみれば、派遣従業員による避難誘導──それと思わせないくらいのすみやかな交通整理が行われていた。

 戦う場はひろくなり、少々の攻撃が及ぼうとしてもガードをしてくれることだろう。


 そしてこれを”パフォーマンス”だと思ってもらうために、ルーカたちが、おびえないことだ。


 余分な肩の力を抜いて。

 いつものようにゆるく微笑み。

 それは、楽しんでもらうための努力。

 この姿であることがルーカたちの真剣さである。


「なに、笑ってんのさ、楽しくもないくせに」


ぼくってとてもひねくれものなんだね。楽しくなくて笑うのかもしれないし、楽しいときに笑えなかったりするのかもしれない。じゃあキミは、そんなふうに不貞腐れているから実は──楽しいってコト!? あはははは!」


「は?」


「楽しいそうですよ!」


「はあーーーー?」


 黒髪のドグー=ルーカは形のいい眉をギュッと真ん中に寄せて、真似元のルーカが見たこともないくらいに厳しい表情で切りかかった。

 ぎりぎりのところで飛びあがってかわせば、フラメンコの衣装のようにスカートの裾を持ってなびかせる。


 ▽ルーカティアスさん 顔には仮面をつけています。

 ▽スチュアート邸宅にて泥棒を迎え撃て! の時のやつ!


 仮面につけられていたきらめく宝石の飾り。それにまったく劣らないほどの舞踊を続けてゆく。


 切り付けることを続けていた黒髪のドグー=ルーカはぴたりと動きを止めた。

 そして、仏頂面をやめることにしたらしく、口の端をにいいと引き上げる。


「──おや、怒らせたようですね。ではこちらは頬でも膨らませておきますか」


「そんなふうに余裕をあらわにしないといけないなんて、かえって余裕がないようだ。……そういうルールなんだろう? 笑っているなら怒っていて、膨れっ面ならきっと面白く思ってない。観客の方を向いてあげることができないので、これで大丈夫なんだろうかって不安に思ってきているところなのさ。君はね」


「聞きましたか皆様〜! 私は! 皆様のことをこんなにも想っているのです! スカーレットリゾートの従業員ですので〜!」


 声高らかにルーカが言ってみせるので、笑い声があちこちに現れた。

 芝居がかって腕を振ったあと、古代の剣が地面に刺さり電撃を振りまいたのでそちらに向かって走る。


 そのためのスキルはギルドカードに表示されていないけど、どのように走ってここまで冒険をしてきたのかルーカの体はきちんと覚えているから、早く走ることができた。


 雷魔法を扱う者には、わずかながら雷耐性がある。

 びりびりと体の水分を震わせるほどの感電にしばし耐えて、古代剣を踏むように上に乗り、ドグー=ルーカの手を蹴りつけた。

 すると表面にヒビが入って、手首から先が砕ける。


 ルーカはそのまま宙返りをして、自らの魔力を練り上げるとがむしゃらに雷魔法を空に打ち上げた。


 引っ張られるように、大地にあった雷はルーカに引き寄せられてから空に向かう雷魔法と混ざり合い、青空にスパーク。


 花火のような色はないものの、空気がはじけて大きな音が鳴った。


 にょろり、二本の金色の尻尾が生えて、バランスをとる。

 そうしないと倒れてしまいそうだったから。


 観客からの拍手に応えて礼をした。

 なにも考えていない。まだ雷が脳の表面を震わせている。

 それは嫌になるほどヒトらしい、ルーカティアスという存在の奥深くに閉じ込められていた、ヒト社会が造った王族の仕草であった。

 オートマチックに導き出されたそれは、幼き日々の苦く辛い結晶である。


 招待された観客の中には、”ヒトくさい”その雰囲気を嫌うものたちがいた。

 若干名、この広場からは踵を返した。


(しまったな。頭、上げなくちゃ…………)




 その頃。

 靴を改良してもらうためにアクセサリーショップにいたレナ。

 椅子に腰掛けて、擦りむいてしまった踵には治癒の葉を貼っていた。樹人がこのエリアで売っている絆創膏のようなもので、これを使うこともまたスカーレットリゾートのためになる。

 リリーがアクセサリーに付与を施し、オズワルドが主人に靴を履かせた時だった。


 オズワルドの獣耳がある一方向を向いた。


「この店、防音ちゃんとしてるよな。外で大きな音がしていても獣人の聴覚が痛くない。他の建物もそうなんだろう。さすがってところか。レナさんに頼みがあるんだけど」


「なに?」


「……あー、なんて言おう。どうしようリリー」


「ん? なんとなく、分かるよ。きっと同じことを思ってるし、ご主人さ……レナちゃん。きゃっ♡」


「リリーちゃま。照れていないで宣言しないと時間が押しているでち」


「はぁいゴルゴちゃん。あのね……私たちはこれから、騒がしくすると思うけど、それは、レナちゃんがやりたいことと一緒だよ。同じ目標を胸にしてるから、大丈夫……なの」


「……まあ、俺が言いたいこともそれなのかも。レナさんに怪我してほしくない、って気持ちがあるけど、ここにいてってお願いするのもどうかと思った。だから何て言おうかって迷ってた。あんたの心がつらいようでは、俺たちは従魔として不甲斐ない。無茶しないでほしい、それから、信じていて」


「それくらいがよろしいでち。納得のいく言葉を思いつくには、時間が足りまちぇん。状況は逼迫しているようでち。通じ合ったなら、動く。失敗は挽回する。成功は経験にする。試行錯誤していくものでち」


「「「おっしゃるとおり」」」


 レナ、オズワルド、リリーは、小さなゴルゴを尊敬のまなざしで愛でた。


<マスター! マスター!>


「あ、キラ……。音だけ? それにマスターって。まあ、急いでるとレナさんって呼ぼうとかつい抜けちゃうよね〜、まあ、できるだけ気をつけていきましょうって努力目標だもんね。どうしたの?」


<マスターから見て壁に鏡がかかっているあたり、そちらを向いて、ルーカティアスさんに[従魔回復]してくれませんか?>


「信じるよ。じゅ……」


<ついでにそのときに、金髪猫耳赤のドレスハイヒール女王様風だけど薄幸な美人で仮面をつけてる姿でイメージをお願いします!!>


「んんん[従魔回復]ぅぅ~~!? で、できた、のかな?」


<できました!>


「できたんだ。よかった。何だったの?」


<諸事情が>


「了解」


 キラの声は途絶えた。

 よほど忙しいのだろう、あとで聞かせてもらおう、とレナは口を結んだ。意識しながら、ほっ、と息を吐く。自分の心配性なまでにドキドキしている心音を落ち着かせる。

 主人が慌てていたら、従魔にもそれは伝わってしまうから。逆に、レナが落ち着いていられたら従魔たちは安心感とともに戦うことができる。


(戦っているんだろうな。私の目の届かないところでも。こんなに店内の空気は穏やかで、スカーレットリゾートは楽しむための娯楽施設で、それなのに戦っている子たちがいる。防衛戦ってことになるんだよね。ここまでの規模で居場所を守ることは珍しいくらい。これまでは、外に戦いにいくことが多かったからなあ)


 レナは少しぼんやりとする。


(アリスちゃん。アリスちゃんが自分のお屋敷を守ろうとしたとき、きっとこんな気持ちだったんだろうな。ルージュが思い出の場所をとりかえそうとしたときも。少しも壊されたくなくて、でももう手を伸ばされていて、どうにかしなきゃいけなくて。外の段階でやれることはもうやったんだよね、ーーー……。それだけでは防げなかった。及ぶ手は乗り越えてきてしまったんだね。対策はできるだけした。なくすものも壊れるものも、少しあるだろう。それはきっとあとで直そう。本当に退けなくちゃいけないものを、まちがえないように私は気をつけよう)


 従魔たちの胸がじんわりと熱くなる。


 心臓のあたり、契約で繋がっているところ。


 レナの覚悟が伝わってくる。こんなに落ち着いているのに、"きちんと怒っている"。邪魔をしにきたものを退けようという気持ちがある。オズワルドやリリー、チョココやルーカたちと同じように。


 ゴルゴが電卓を叩き始めた。

 キラが依頼してドワーフ族がつくってくれた超小型電卓は、ゴルゴの計算頭脳をより活かした。


「できたでち! [鼓舞]を三回、あちらの鏡の方向にかけてあげてくだちゃい。ルーカティアスさん?はそれくらいなら彼の力にできるはずでち。でもそれ以上は"確率が不幸に偏る"のでいけまちぇん。リリーちゃまに誓って、ゴルゴは申し入れます」


「やってみよう。私、何かしたくてうずうずしてたんだよね〜」


 オズワルドはレナの足元を見た。

 つま先が落ち着かなさそうにそわそわしていたのをずっと視界の端にとらえていたが、やるべきことが現れた今は止まっている。

(待っているだけなんてレナさんらしくないもんな。あとでそれぞれの戦い現場に連れていってあげようか。獣の背中を上手く乗りこなしてくれるなら)


「よーし」


「ご主人さまっ。あっ、レナちゃん……私、手拍子してあげるね」


「[鼓舞]、[鼓舞]、[鼓舞]!」


「ぱち、ぱち、ぱち♪」


「私の魔力が抜けていった感じがある。きっとまたルーカさんに届いたことでしょう。ふー、できるもんだね。不思議な格好してるって聞いて焦ったけど、そういえばルーカさんが面白い格好してることはこれまでにもあったし、想像しやすかったなあ。器用になんとかしてるでしょう」


「こういうのかな?」


「リリーちゃん、フィギュア作成うまいねえ」


 珍妙なのに妙にまとまった姿のフィギュアを微妙な表情で眺めたオズワルドは、再び耳をひくりとさせた。

 遠くの方で、なにやらルーカのびっくりしたような悲鳴が聞こえてきていた。






 一方ドグマは、大量のホットドッグにわざわざ醤油マヨのトッピングをしてもらいご機嫌でほおばっていた。

 大きなベンチには誰もおらず、どうやらスカーレットリゾートの大通りのイベントを大勢が見にいっている時間らしい。


 大きく口を開けて、ホットドッグを頬張る。ひとくちで食べ切るもよし、わざわざ噛んで食感をあじわうもよし。パンはふわふわとしていて、ウインナーはパリッとした皮が破れればジューシィな肉汁が溢れ出てくる。

 実にうまい。

 これを買うことに持ってきた私財をすべて使ってしまった。

 もっとも、こういうときくらい自分の財布を持てとオズワルドにお小遣いをねじ込まれたものであるし、個人的な財産は使い所もなかったので魔王の部屋の金庫にたんまりと溜まっているのだが(マモンが狙っていて投資の営業をしにくる。サディスが防いでいる)それはそれ。お金を放り投げるほどこのホットドッグにはまっているということを言いたい。


 これまでドグマは食糧に執着することはなかった。肉が好みだが、エネルギーになるならば何でもよかったし、同じものを複数食べたいという願望も今回が初めてだ。ましてや、ベンチで一人になり味わうなどという経験をするとは。

 青い空を見上げる。


(ツェルガガの肌のような青さだ。あれにも食べさせられたらよかったのだがな)


 そして、空には雷が弾けた。

 猛烈に闘争本能を刺激され、バネのように立ち上がった。

 半獣人の姿となり、身長は3メートルを越え、獣じみた大きな口で抱えていたホットドッグを齧り飲み込んだ。今にも咆哮をあげそうに胸を膨らませる。


 面白そうすぎるぞ!!!!


 そちらにいってしまいたいところだったが、ドグマの「人型である部分の社会性」が足を止めさせた。

 オズワルドは「俺たちがメインだから邪魔はしないでよね。父様たちはサポートなんだから!」と念を押していた。


 うぐぐううう、と地団駄を踏む。


 石畳が割れた。

 しかしその石畳は割れることが想定されており、砕けたところから元の形に戻ってゆく。形状記憶の付与魔法を各レンガに与えるという、気が遠くなるような作業でもありそのような発注はこれまでになく、貴重な酒と美味しいイカ焼きと引き換えにドワーフ族が作り上げた情熱の新技術である。協賛はグルニカである。


 それは幸いにもドグマの興味を惹きつけて、しばらく石畳を壊して遊んでいた。

(あっ)

 何度やっても元に戻るが耐用限界はあるらしい。三つほど、割れてしまった。

(こういうときに私財を使うのだ。やれやれ、あとでレナパーティに渡しておくか)

 そこでようやくテンションが少し下がった。


「ド、ドグマ様〜」


「マリアベルか。乗り込むことはせん。しかし近くまで行って観戦することくらいはよかろう。何せ我こそは、シークレットの観客とやららしいからな!! しかも負けそうになったら”ひーろー”?のように助けて欲しいとオズワルドに請われている!」


「わーオズワルド坊ちゃん頑張ったナー」


「ふはははははは」


「あ、声控えめでお願いします。あと屋根をぴょんぴょんと移動するのはダメですからね。そうだなあ、ジェットコースターに乗りませんか? 乗りながらでもドグマ様の視力でしたら戦いも見られるでしょう」


「そうしよう」


「やった! 私も実は楽しみだったんだよね」


 ドグマとマリアベルはジェットコースターに乗った。

 こんな時であっても、こんな時だからこそ、ジェットコースターの出入り口では軽快な音楽がなっていて、スウィーツモムはそのへんをふわふわとしており「他の方とともに6名体制で乗っていただきますね」と言われるくらいに遊園地は盛況だ。


 風をきって乗り物に乗るのはきもちいい。


 黒髪のドグー=ルーカが「どうやって回復したのやら!」と舌打ちしており、「どうしてこんなことが起きるのかなー!?」と金髪猫耳赤のドレスハイヒール女王様風だけど薄幸な美人で仮面をつけてる姿のルーカティアスが叫んでいる。いきなり魔剣が鞭のようにしなったのだ。


 そしておかしな声質のやつが「あいつが赤の女王様──ってもんらしいな、見つけたぜ、金髪猫耳青年というのが正体だったとは気づかなかった!!」と駆けつけてきていた。

 シモン=モグラである。





読んでくれてありがとうございました!


先週は風邪でお休みしてしまってすみません><

みなさんもお気をつけて!

ゲホゴホ!(咳が長引くかぜが流行っていますよーう(;ω;))


よい週末にしましょう₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

今週もおつおつでーす!



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……そう言えばルカ猫さん、王子だったっけ……。
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