協力者と侵略者
<まもなく噴水広場にて淡水のシャワーが行われます。ご利用されるみなさまは焦らずにお集まりくださいませ。なお、遠方におられる来場者さまにつきましては、従業員からポーションによる水分補給のサービスをさせていただきます。ゆるりとお声がけくださいませ>
▽ピンポンパンポーン。
広場では霧のように細かな噴水がふきあがり、青空になんともきもちのよい虹を現してみせた。
水場に生きる魔物だけでなく、水浴びを楽しもうとさまざまな魔物が集ってきている。
想定以上に集まってしまったので、入場制限がかけられて、急きょ、入れ替え制の対応がとられた。今楽しんでいる来場者に退場してもらったあと、別の来場者が入り、倍のシャワーが行われることもアナウンスされた。
魔王国の外交部・水龍クラウディアは長いひげを撫でながらこの光景を眺めていた。
「年甲斐もなく遊びに行くかと思っておったがね。長老」
「水母オババや。よしとくれ。まだ遊びの適齢期だもん」
「言いよるわ」
「それなのに来場者に譲ってベンチから眺めているのだから、えらい」
「カーッ。情けない。そんなもの当然じゃ、働け働けぇい」
海月オババと呼ばれたのはとても小柄な海洋魔人族で、しかし動きは俊敏、手に持った杖でげしげしと水龍クラウディアのすねを叩いた。
あいててと悲しむしぐさをするが、その龍の骨は海のダイヤと呼ばれるほど頑丈である。
「レナパーティはゆるくやってくれりゃあいいって言ってたじゃないの。ボクらがちゃかちゃかしてたら来場者のみなさんが落ち着かないからって。立派だと思ったねぃ。あ、アイスクリーム食べに行こうや」
一人称を変えてまでもすり寄る。
この水龍クラウディアが頭の上がらない数人のうちの一人である。(数日前魔物使いレナに近づいたからって、手が早すぎだろ〜)めぐりあわせはレナの幸運の賜物である。
「あいすくりーむう? そんなもの食うてる間に戦いが始まったらなんとする」
「田舎者は頑固だって言われちゃうよ。奢るからさ」
「オババは5段がいいわい!」
「田舎者は強欲だって言われちゃうよ。マモンにオババをスカウトされちゃったら嫌だなあ。まあ、あいつは浪費を断るような逸材じゃないとスカウトなんてしないか」
「アイス♪ アイス♪」
「海底にはアイス屋なんてないもんなあ。ごめんなあ。サディス宰相ってコネに厳しいからよぉ、理由がないと海底建築予算がおりないんだよ。いつか、クラウディア坊ちゃんがあんまりに優秀なんで里帰りくらいさせてやんなきゃ♡って予算を引き出して見せるからね」
「ジジイだろうが」
「んだとババア」
「「アイスください」」
シュシュがにいっと全力の笑顔を浮かべた。
「押忍! かしこまり! どのアイスもおすすめだよ。珍しいフレーバーを揃えてるよっ。へいらっしゃい、へいらっしゃい」
「姐さん、そりゃあ饂飩レストラン用の掛け声っす」
「ウサギパンチ姐さん、もしよかったらうちの副族長が交代するっす」
「ううん! シュ……私も初めて。お客様も初めて。だからこそ今日のプレオープンはこんなにもワクワクした空気なんだ。そうでしょ? ねえ、私が失敗しちゃうかもしれないけど、もしも盛り付けを失敗しちゃったら少し割引するから練習させてくれないかな?」
「オババそれにする!」
「ったく、わかりやすいねえ。儂はあんたに頼もうかな。すまないがマリンベリー・バニラのアイスをいただけるかい。そうだ、あんたの名前呼びやすくなっていい感じだぞ。ディス」
「お初にお目にかかります。オンライン会議でしか関わることがなかったですもんね。天使族副族長の”ディス”と呼んでいただけたら幸いです。こちら、どうぞ!」
きらめくひかえめな笑顔でアイスクリームを渡すディスはいかにも様になっており、人柄がにじみでていて、さわやかなアイスクリームショップにピッタリだった。
アイスを削り取るのも上手くきれいな丸型、かりかりに仕上げられたワッフルクッキーのコーンに収められている。
「それから。こちら、お二人分の領収書? です?」
「ありがとう。ふむ、きちんとできているよ。心配しなさんな」
「あんれまあ。それは何だね」
「領収書。ここで飲食したってことを魔王国秘書部に提出する必要があるのさ。そうしたら、お得なことになるのさ」
「そりゃあいいね」
水母オババはしわのある頬をニコニコと垂れ下がらせて、豪快に10段は盛られたアイスを食べ始めた。
「ちょっと待て」
「ほう、はへはひへへへっはほ(もう、食べ始めちまったよ)」
「これだから田舎もんは~。すみませんねえウサギのお嬢さん」
「いいんだよっ。レッ、レレレレナさんは、失敗しちゃうことを恐れないでやってごらんって私たちに許してくれているの。失敗したものを完成品だって言い張られたら困るけど、失敗しちゃってごめんねって言われたらしょうがないんだから、多めにオマケをつけて、許してもらおうねって。そして来場者のみなさんも初めて来場するんだから、失敗もあると思う、そしたら説明をしたり許してあげたりして、楽しい場所にしようねって話してくれたの」
「へええ。聞けてよかったよ。気分がいいやい」
「そう、ごしゅ、レナ……さんがね。えへ、えへへへへへ」
▽シュシュの目が ハートになっている。
▽ディスが ミントのアイスを一口分食べさせた。
▽正気に戻った。
「今のは……?」
「ミントは気付け効果もありますからね。別世界の妄想に言ってしまった魂を、すっきりとした刺激を与えて体に戻したんです。他にもそれぞれに効果がありますよ。レモンは美肌、チョコリボンはリラックス、ベリーは血液サラサラ、マリンは潤いなどです」
「ってこたあ、いろいろ合わせると……」
「みなぎってきおったあーーーーー!!!!」
▽水母オババが 力を溜めている!
▽頭の水の傘が 開いている!
▽目を見開いている!
▽幼女の姿になった。
「さあ行こう。クラウディアお爺ちゃんっ」
「ちょっとまて。クラゲ種は水分保有量が桁違いだとはいえ、さっきまで枯れかけくたばりかけのキノコみたいだったオババが、こんなことになるかね!?」
「魔物型が若返れば、ヒト型にも影響を受ける。それだけのことじゃろうがい。ほれ、ゆくぞ。オババはあっちのジェットコースターで遊びたいぞ☆」
「ずーーるーーいーー! こっちがアンチエイジングに年間いくらかけてると思ってるんですかあー!? 外交部だから子綺麗にするの頑張ってる儂、ばかみたいじゃん! うわ幼女ちからつよ」
▽クラウディアは 水母オババ(若いすがた)にひっぱられていった。
アイスクリームショップのシュシュとディス、手伝いでゴミ拾いをしていた天使族の若者は、びっくりしながらその光景を見ていた。
「……。あれ、シュシュ、何をメモしてるの?」
「ディス、私のこと名前でよんじゃだめだよ」
「あっごめん」
「シューちゃん」
「シュー……ちゃ……ん。シューちゃん様」
「いいけどさ。メモはね、いろんな魔物の生態を記録しているの。定番繁栄種ではない魔物たちは消えやすいでしょ。けれどこうして記録が残っていて、広まっていけば、消えなくたってすむじゃない。
あなたのことも私に教えて。私たちは商業ギルドや冒険者ギルドと提携してるから、そこにある【魔物図鑑】に情報を渡すことができる。ねっ、教えてね!」
「うわわわわ近いです近い。それ以上はだめ! ええとそうですね、私が好きなのはわたあめ味のアイス……」
「個人的なことは登録しちゃいけないんだよ。個人情報じゃなくて、種族の特徴のようなものがいいのっ。天使族は困ってしまうと翼の先がフワフワってそよぐ。今のディスからはそんな情報をもらったよ」
「お恥ずかしい……」
「恥ずかしいことじゃないよっ?」
天使族の若衆は思った。
ラブコメラノベのようだなあ、と。
▽ところ変わって ルーカティアスさーん。
「はーい。おーい。チョココ、こっち」
「お待たせしましたです。こちらお待たせしたお詫びです」
「そんな回りくどいことしなくたってチョコレートの差し入れは美味しくいただくよ。……うん、いい味。ありがとう」
「スイートミィ、です」
「そうだね」
チョココはごにょごにょと小声で言って、ルーカの方をちらりと見た。
先輩は安心させるような微笑みを浮かべており、自分が受け入れられていることを嬉しく思いながらも、子供扱いされていることとかお菓子の味に集中して欲しかったこととか、もんもんと気になるお年頃のチョココである。
(むむむ)
「どうしたのチョココ。もし君が今、どんな気持ちになっているか分からなくて教えて欲しいなら……察することもできるし、目で視て言葉にしてあげることもできるよ。そうすれば一足とびに成長できるし、僕はきみの味方だから嘘をつくようなことはしないし」
「やめておきます。将来、チョコレートモンスターのキングになりますから。そのときに自分は頑張ったって言いたいです。少なくとも、チョコレートクイーンはそうでしたもの」
「たしかに。憧れはチョコレートクイーンなんだね」
「目標であり、超えたくもあり、守って差し上げたくもある、大いなる母君ですもの」
ぽふんとチョコレート・モムが生まれた。
まだモムしか生み出すことはできないし、成長させきる前に食べられたがって食べられてしまうのがチョコレート・プリンスの最近のお悩みである。
「……チョコレートプリンスがレベルアップしたら」
「うんうん」
「プリンスのまま、モムを強くしてあげることも、できるかしら?」
「進化はしたくないの?」
「……ねえ。キングになってしまったら、クイーンの隣に並ぶことになるけれど、それって、クイーンの方が弱ければチョコレート・クイーンの存在が消えてしまわないかしら? って……。……」
「いい質問です。現状は大丈夫」
「うーん、うーん。けれど、これからは分からないのでしょう? 途中でルールが変わっちゃうのかもしれないタイミングが”今日”ですもの。土偶がやってきてこの土地を踏み荒らしたら、暗闇領域に囚われちゃうのかもしれないのでしょう」
「ふむ」
ルーカはひと呼吸おいて、建物の壁に背中をもたれさせて、言葉を選んだ。
リラックスした空気の中、チョココは頬を膨らませていた。
(真剣に、かんがえてくださってるんですよね? かんがえるのが苦手なこちらの言いたいこと、伝わっていますよね……? 不安になってきた……)
「その不安は、持っていてもいいものだと僕は思う。上に立ち組織をまとめ上げる人柄というのはね、不安を心の片隅に持つものだ。不安だから気をつけるようになるし崩壊前に対処できる。チョココはすでに精神はまとめ上げる者のそれに近いようだね。
まだ慣れてはいないから、ちょっと警戒しすぎで頑なになっちゃってるところはある。そうだなあ、ほぐすといいんじゃない? たとえば、あそこにいる土偶──を倒してくるとか」
ルーカが笑顔で親指を下に向けた。
「どう?」
「雑!」
「はいそうですね。けれど、わからないときってあるものだから、そのときはすぐに答えを出そうとせずに、目の前の”確実にやっておいた方がいい仕事”をちょこちょことこなすのがいいよ。そのうち達成感で気分がアガる。こんなとき、おおらかにフワフワと話を聞いてくれる先輩がいたらよかったんだろうけどね。……」
「"ルーカティアスさん"は、皮肉屋な感じがします。けれど、言ってることはごもっともです。脳みそ生クリームなんだからあんまり悩んだりすると生クリームがぼそぼそになっちゃってよくないぞってことですね」
「そんな貶し方はしてないけども!?」
チョココは飛び出していった。
周りにフワフワと浮いていたモムがチョココの体にくっついて、まるでレナが旅を始めたばかりの頃のようにファンシーな光景になっている。
レナとは違う道を歩むだろう。
レナほど幸運ではないだろう。
けれど、幸せな記憶を持っているならばチョココの歩みはきっと心地いいステップなのだ。
「いやー。個性、つよすぎー」
▽オマエモナー。
「僕の目も今は便利に使っているけれども、そのうち必要とされなくなることがあるのかもしれないな。そうしたらどうしよっかな……。おっと、これは考えたこともなかったや……。でも、歩いていけるんだろうな、もう。僕にもレナたちがくれた日々があるんだからさ。ゆるっと旅ビトでもやろうかなあ」
まったく同じ声質が返事をする。
「そんなふうに口にするっていうことは、目が使えなくなっちゃえばいいやって気持ちが僕にあるのかもしれないね。僕が誰かって? そんなの"僕なら"誰よりもたくさん鏡なんかで見たことがあるんじゃないかな。でもそっか、僕なら──鏡なんて見たくもなかったのかもしれないね、身だしなみなんて周りが飾り付けたし、僕は僕のこと大嫌いだもんな」
ルーカが壁から背中を離した。
けれど、影はまだそこにあった。
影はうすく伸びたミレージュエ大陸の砂粒でできていて、暗闇のように黒かった。ぎょろりとした目は紫色だった。一度伏せてみれば、うつしとった本人のようにどこか優しげな表情になってみせた。
ずるずると立体になってゆく。
その途中を邪魔することはできなかったし、しなかった。
ルーカはただ一言話した。
「黒いね」
「……あ?」
現れた人物はその肌の色や服の色はまったく本人のようになってみせたのに、髪の毛だけは”黒”が固定されてしまった。
「再構成をするタイミングで、よくも、情報の隙間をぬってくれたもんだよ。きみの過去の一番触れられたくないとこ、ふれまわってやろうかな?」
「初めまして。ドグー=ルーカとでも呼ぼうかな。僕の能力情報をコピーしたようだけれど、どこまでそれが可能なんだろう……。これまで散々悩まされてきた魔眼はあっけなくコピーされるなら、僕の悩みもちっぽけなものだったって笑い飛ばせるのかもしれないね」
「ドス暗い。そう、きみが一番暗いから、写しやすそうだって思ったんだ。やっぱりヒト族が一番惨めで愚かなんだよね」
▽戦闘開始!
▽チョココ VS ドグー=プッチ
▽ルーカ VS ドグー=ルーカ
▽<ピンポンパンポーン。まもなく、パレードの時間です>
▽<楽しく戦って魅せてくださーーい!>
読んでくれてありがとうございました!
そして、レアクラ書籍シリーズにつきましてもこれまで厚く応援いただきありがとうございました〜!!!!
ここでお祝いや叱咤激励、元気づけていただいたことはずっと大切にしていきます。
これからも書いていきますね。₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
2024年1月31日 TOブックスレアクラスチェンジシリーズ 1〜7巻 【終売】
ありがとうございました!!




