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すれちがう赤と暗闇

 

 ▽一方その頃

 ▽カメラ切替ーーマスター・レナ


 レナは赤いエプロンに目深な帽子というスカーレットリゾートの従業員そのものの見た目で、来場者特典のプチギフトがつめこまれたカゴを持ちながら、園内を歩いて回っていた。入場はひと段落ついたからだ。みんな、朝早くからきてくれていた。


 道幅はじゅうぶん広く、余裕がある。

 いい設備にすることができた!と上機嫌になるけれど、ふと、気を引き締める。


(今は一人一人がばらばらに歩いているし、それぞれに遠慮する気配が感じられるからスムーズに歩けているのかもしれない。これからアトラクションの楽しさに興奮してしまったり、いずれ複数人のグループで訪れるってことになれば? 今の時点で大丈夫って思うのは早いよねえ。んー)


 レナはポンと手を叩く。


「従魔たちで団子状になって歩くことも試してみてもいいかも!」


「却下」


 レナの隣にいたオズワルドがすぐに口にした。

 アイスクリームショップは交代でシュシュが担当する時間なのだ。

 こうして交代制で、従魔のだれかがレナの隣にいることにされていた。

 もちろん、壁に隠れてハンカチを噛むようなストーキングをしてサボらないように、と従魔たちには徹底されていた。ホントデスヨ。


「今は俺の時間だから」


「今すぐにってことじゃないってば〜。そう聞こえたならごめんね」


「ううん。きつく聞こえたならごめん。なんていうか、従魔がたくさんいると主人との繋がりが薄くなるように感じられるんだよな。分配される感じ、っていうのかな……主人の一点集中のほうが、その従魔がより強くなれるのかもしれない。魔物使いというのは職業の一つだから、ラナシュはバランス、幸運があれば悪運があり、魔物使いが力を溜めこまないようにという薄まりが発生してもおかしくない……」


 途中から深い思考に潜っていったオズワルドは瞳の色が深くなる。

 レナは尻尾の毛先をつんつんとした。

 根元のあたりがプライベートゾーンなわけで、毛先の方は獣人間でもわしづかみにしたりと手荒いコミュニケーションに使われることもある。セーフ。

 しかしオズワルドはピョンと飛び上がって距離を取ると、一呼吸おいてから、爆速でまた隣に戻ってきた。


「びびびっくりした」


「ちょっかいかけるタイミングが悪かったかも。ごめんね」


「う、ううん、ごめん」


 オズワルドは咳払いをする。


「今は撫でたりしないほうがよさそうだね〜。勉強頑張っててとってもえらいね、ってつもりだったんだ。よく頑張っているの私たちから見えてるからねっ。オズくんの夢が叶いますように」


「ありがと。えーと、主さんから笑顔を向けられて従魔が受け止めることができたなら、それは鼓舞と似たようなエネルギーが湧くもん……みたいだよ」


「そうなんだ。あと、レナさん、ね。今日はそれぞれの名前を口にしない。私のことをご主人様って呼ばない。まあ努力目標だよ」


「ごめん」


「もー。謝ってばかり」


 これをあげましょうね、とレナはカゴから一つを渡した。

 薄いガラス瓶にポーションが入っている。入場者はきちんとリルを払ってスタンプを押されているので、体調不良へのケアとしてポーションをもらうことができる。

 体調を保ってもらうところまではサービス、とはピーチィからの教えだ。

 それ以上の体験をしてもらうためには、基礎体力の地盤が必要なのである。徹夜組などしてはいけない。


 リゾートホテル業は夜からの運営になるため、それまでは淫魔族も遊園地エリアに遊びにきている。


 ショップでエルフ製の大盤ショールを購入したらしいピーチィは、上品にそれを頭にかぶりつつ、抱えたズーズーのこともそっと包んでいた。


「きゃー! ズーズーちゃま、あちらにも行きましょう。コーヒーカップに、プラネタリウムの洞窟ですって!」


 楽しげに歩いているうちに、淫魔族がキャッキャと寄り添った。

 五人はいる。あれをみている限り、複数人で並んで歩いたとしても道幅は問題がなさそう、とレナは思った。


 オズワルドはポーションをぐいっと飲み、体力が回復した。

 従魔回復をかけてもらうのが一番心地いいが、ここでレナが余分に体力消耗してしまえば”いざというとき”に力が発揮できない。わかっているので、文句は言わない。


(俺も文句を言わなくなったよな。…………。いや、最初に会ったときには文句を言う気力もなくて、それからやつあたりみたいに文句ばかりで、だんだん満たされて今があるんだ。文句を言えないんじゃなくて、言わないように……って自分で決めたルールを守るようになった。

 だって、文句が俺のやりたいことに変わったから。レナさんを消耗させたりしたくない、だからそれが叶う自分になりたい。今は俺が守ってもいい時間)


 ちらりと見れば、レナは歩き方が少し変だった。

 もともと獣人のような運動神経があるわけではないので、ヒト族の歩き方として悪くはないが、良くもない。オズワルドの視点からしてみれば、体の軸がぶれているように見えた。

 一瞬、ラナシュ世界にレナが認められていなかったらどうしよう、と怖くなった。

 けれど、どうやら靴のせいらしい、と気づいて胸を撫で下ろす。


「レナさん。その靴」


「スカーレットリゾートオリジナルのだよ。従業員用、販売もしてる。これがどうかした?」


「おそらく普段履いている靴よりも重い。ヒトの華奢な骨格では歩きにくそうだ。というわけで、不調な者のケアが行われるのはスカーレットリゾートにおいて従業員も同じだ」


「ぎくり」


 オズワルドは獣型になった。

 見事な青みの黒色毛並みは日差しの下でも色褪せたりせず美しい。

 立派な骨格が大地をじっくりと踏みしめている。

 レナ一人が乗ったとしても、揺らぐことはないだろう。


『乗って』


「ひい~。できるかなあ」


『主さんに騎乗スキルがあったらよかったのにな。……? まあ、俺がうまいことバランスとって運んでいくから』


「そうだねえ。……。普段の歩行サポートの靴に頼りすぎちゃっていたかな。長い距離を歩くのって大得意だったもん。えへん。……? 運動苦手なヒト向けに、魔法効果のかかっている靴を作ってもいいかもね。売店で売るにはけっこう割高になるだろうけど。あ、リリーちゃんに付与アクセサリーショップを開いてもらうのもいいかな」


『そのリリーに取り急ぎ主さんの靴を良くしてもらうのはどうだろう。だって、その靴の商品宣伝も頑張りたいだろ?』


「靴職人さんとアリスちゃんのコラボ品だもん。ありがとう」


 レナはオズワルドに乗っていった。

 ヒト型からは想像もできないくらいの若々しく力強い体躯の獣だ。

 まだ少年らしさの残るオズワルドと、この獣が一致しない者も多くいるだろう。


(従魔は早くクラスチェンジしちゃうから、ヒト型になったときに魔物型よりも幼くなっちゃうんだよね。この差を埋めてあげるべきなのかな、でも、心がそんなにも早く成長するわけないって思うの。幼い子が大人っぽくなれなんて言われるの、ものすごくつらいことだから……。私にも経験がある……。両親の事故のあと……。なんだろ、妙に思い出しやすいな。

 おっと、ここは楽しい遊園地だぞっと!

 あ……一致だけすればいいわけだから、ステージのショータイムキャストとしてオズくんを有名にさせてあげたらいいのでは!? あとで運営陣に相談をしてみよーっと!)


 獣の上で、少女はにこにこしたり落ち込んだり、焦ったりひらめいたり、やっぱりにこにこしたりする。

 その気配をオズワルドは敏感に背中で感じ取っていた。


(手綱、いるか? でもないほうがいいような気がする。なぜだかわからないけれど、誰かに文句を言われそうな気がするんだよな。提案はやめとこう)


 レナがずり落ちかける。

 オズワルドは上手に、レナがこけていった方に体を傾けてバランスを取ってあげた。

 すると後頭部を撫でられたので、役に立てるし褒められるし好きな人は側にいるし、一石三鳥だ。




(……なんだ? 獣に乗った少女のパフォーマンスか何かか?)


 シモン=モグラはふと目をそちらに向けた。

 なぜなら、複数の魔人族がそちらに注目していたからだ。

 目にした少女には、みょうに人目を引くようなカリスマ性が感じられた。支配をするタイプと競う生活をしてきたモグラにとっては、警戒せずにはいられなかった。もしくは冒険者のようにダンジョンマスターを攻略しようとしてきた侵入者の気配だろうか──。


 魔物使いレナとは、魔物を従えているはずである。


(……。……。……あれは、ナイな)


 少女は黒髪を帽子の中に入れており、それによってなお幼く、あどけなくいっさいの冒険を知らぬ無垢な子どもに見えた。

 あのようなゆるく朗らかな笑顔など、生みたてで世界の厳しさを知らない生物しかシモン=モグラは知らない。やがて生物は顔つき険しくとぎすまされていくものだ。


(赤いエプロンを着ている。それは赤の女王様だからではなく、スカーレットリゾートの従業員であれば当然の服装だ。しかしそれにしても……赤の女王様とやらを強調するように赤色が多い施設ではないか。

 支配のためには理にかなっている。赤いものを見るたびにしもべは赤の女王様を思い出すのだろうから。それに、生き物のほとんどの血は赤色なのだ。魔力の色は青色を帯びるものが多い。では、赤の女王様・青の女王様などという名称は憎らしいほどよくできている)


 しかしシモン=モグラはまだあの少女が気になる。

 こうまで気になるのは、この体の”ネタ元”である[タツノオトシゴ魔人族のシモン]の思考情報を帯びているせいだろうと原因に気づく。


 少女を眺める。


(惹かれる……何がこうも惹きつけさせる……? あー、笑顔を見せたときほど心が惹かれる。笑顔になる余裕があるということ、でっ、大樹の傘下のような安心感を覚えるのだろうか。

 話題のスカーレットリゾートの従業員はどうにもレアな魔物が多いようであるし、あの少女もただ幼いだけでなく、幼い笑顔を浮かべることができるほど余裕がある実力者──という線はどうだろう。それでこのシモンの”惹かれる感覚”、従えて、とでも言いたくなるような! なんかムカつくな)


 少女に近づく。

 三歩ほど、つかつかとそちらに歩きかけた。


 ふわんと香ばしい匂いがした。


「アラアラ、ウフフ! お加減いかが? お腹のお加減のことヨー! 往来オーライで立ち止まるなんて、空腹クーフク以外考えられないでしょっ? これは来場者サービスなのヨー!」


「あ、ああ」


 急に差し出されたのは、木串に2切れつきささった白い切り身だ。焦げ茶の調味料が塗られていて、炙り焼きをされているらしい。

 シモン=モグラは、昔ダンジョン内でバーベキューを始めやがった情緒のないSランク冒険者パーティを思い出してさらにむかついてきた。

 思えば、もともと冒険者は好きではない。

 だからレナパーティとやらも絶対好きにはならない。


「食べてみてっ。これ冷めちゃったら、また炙りに戻らないといけないのヨー」


「う、うまい。これは……」


 醤油マヨーー!ふはははははは!!!!と遠方で叫び声が聞こえた。

 シモン=モグラが串を指差すと、従業員は頷いたようだった。

 醤油マヨというソースの種類なのだろう。

 そしてすでにファンがいるらしい。

 スカーレットリゾートの求心力に唇を噛む。


 ところで、辺りを見渡したことで、ようやく気づいた。


 あの桃色髪のみょうな魔人族を、見失ってしまっている!

 先ほどまでこっそりと後をつけていたのだが。

 例えば跳ねるように歩いたり、歩いていた淫魔族とはどうにも髪の濃さが違うなど発見があり、そう発見のために観察をしていたのであって断じて個人的な興味関心があるわけがないではないか第一シモンの思想があったとて陸上の動物とタツノオトシゴがどうにかなるはずもなくこれは本当に学術的意味だけのことであるのだが!!


「どしたの?」


 覗き込んでくるほどに巨体のレディ。


 胸元にはでかでかと[マダム・ミディって呼んでね!給餌サービスオンリー]と書かれており、なるほどこの接客により頼み事をしてしまう客も多いのやもしれないとシモン=モグラは考える。


 顔を見た。


 胸がどきんと高鳴った。


 水面を思わせるきらめきのある瞳はやわらかく弧を描いて、イカらしきぷるんとした部位が頭に垂れ下がっていた。髪と同時に垂れればその構成物の特殊さがわかる。おおよそ陸にあるべきものではない。

 ハリのある肌はまるで水中の魚類のごとくいっさいの乾燥を知らず水分に満ち満ちて潤っている。ヒト型になったとしてこれほどの大型に育つだなんて何百年、何千年を生きた魔物だというのだろうか。肌のキメの細かさからして、体型変化でむりやり引き伸ばしたような個体でもあるまいし、進化によってこの形状を手に入れたのだとすれば何代進化したらこのような生きものになるのだろう。


 シモン=モグラの目は釘付けになった。


 ▽あちゃー。


「ほっぺが緩むほどおいしいでしょっ」


(ま、まずい。こちとらタツノオトシゴなのだから、海洋生態の魔人族を前にしてしまったら、そんなっ、ええい顔を引き締めて気丈に接するのみだ)


「それ、イカなの。イートミィ!」


「ぶーーーっ」


「鼻から砂が!? ダイジョーブ?」


「す、すみません。大丈夫です。砂を食事にすることがありまして、ええタツノオトシゴはプランクトンフィーダーですから微生物と共に砂を吸い込むこともあり、定期的に砂を放出する生態であっても不可能ではない」


「フーン? 難しい言い方するねーっ。また、お腹空いたら出店で食べるかミィのところにきてねーっ」


 ▽マダムミディは 立ち去った。


 ▽見送る彼は 見惚れるというような表情をしていた。


 ▽【笑い】取得! ×1




<思っていたより雑魚でしたね……>


『これが共感性羞恥心か……』


 キラと海底ダンジョンマスター・リヨンの会話である。


 キラは手元のモニターを確認した。


 ▽レナは シモンから離れている。


「ふう。こちらはひと段落のようです。しかしなんというか、マスター・レナは超幸運なんですけれど、それって”幸運”を証明するために”こんな目に遭ったにしては幸運な結果”とセット……くらい引き寄せますよねえ」


「不満そうだな。キラママ」


「まっ、察しが良いこと。私、今、やれやれという表情していましたのに」


「読めるぞ」


「えらいですねマシュマロ。でもあんまりやるんじゃありませんよ。この超幸運、私を持ってしてもまだ”なぜ”なのか紐解けないんですよねえ。だからもやもやです。今はまだ、解る、そのときではないのでしょう。

 机上より、現場現場! やれることしますよ!」


「オーライ・クーフク」


「あっ。チョココさん。もしよろしければルーカティアスさんのところにヘルプに行ってあげてくれませんか」


 マップには従魔がいるところがリアルタイムで映されている。

 そして、従魔が赤色で表示されているならば、暗闇色で表示されている点が二つあった。


「シモン=モグラだけでなく、潜ませられた土偶がまだあります。あちらはどうしても体が大きくて目視されてしまいますが、小さな土偶モノであれば紛れ込むことは難しくない。ーーーさんが残してくれた手がかりです」


 ▽チョココと ルーカが 合流した。






読んでくれてありがとうございました!


なかなか面白いキャラになってきました。

書きながら「そーなん??」ってふしぎでした笑

終着点までにどんな展開になるか、書きながら私も楽しみです!



今週もお疲れ様でした₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

よい週末を!



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……あれ? 最初の頃の渋い雰囲気は!?(そんなの無かった!)
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