表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

497/576

にこにこぷんぷんオープニング

 

 レナはスカーレットリゾートの制服に着替える。

 赤いエプロンがひらりと映えた。


『プレオープン日に魔物使いレナが壇上に立つというのは避けた方がいい。ミレージュエ大陸のほうで、組織の頂点にあるものが狙われるという事件が相次いでいるんだ。いずれはジーニアレス大陸でこの事件が起こるかもしれない。それにまた時々空が暗闇になってもいる──』


 という知らせが、魔王国から届いた。


 プロジェクトを手伝ってきた身として言いたくはなかったのだろうが、安全のために必要だと後ろ盾として判断したのだろう。


 レナたちの目的は、レナを周知させることで[かみつかい]をキラやマシュマロの制御に当てられるかもしれないという希望、そしてレナとレア魔物をたくさんの魔物の中に隠してしまおうというものだ。


 リスクをとってプレオープン当日に目立たなくてもよい、と判断をした。


 よって、レナは、従魔を伴いつつちょこちょことリゾート内をお手伝いして周ることになる。


 演劇ステージのほうでは急きょ、レナパーティの劇は先延ばしになり、ドリューとクドライヤとピーチィが大道芸をする予定が組まれた。


 レナは鏡の前でくるりとする。


「あーあ。悔しいなあ。けれど……そのぶんも来てくれたみんなには、楽しんでもらおうっと!」


 ひょっこりと後ろに金色がきらめく。


「たくましくなったよね。ほんとうに。さすが僕らのご主人様」


「あ。ルーカさん。ルーカさん!? ルーーカにゃーーん! にゃおにゃお」


「耳痛い耳痛い。声のボリューム抑えて。えっ、テンションどうしたの」


「すみません。なんだかそわそわとするんですよ〜。本調子じゃなくて、なんていうんだろうなー、なにかやってないといけないような、焦燥感です」


 ルーカはすっと目を細めた。


「今はそれくらいで済んでるならいいんじゃない。──はい、診察終わり。それから、あんまりこっちに来ないようにお願いしますね。がーん、って表情してるから言っておきますと、久しぶりに他人に会ったからちょっと生命のエネルギーが大きすぎてね……」


「なんて順調に引きこもりへの道を……。いや外でフィールドワークしてるんですからむしろアウトドアなんでしょうか……。って、怪我してるじゃないですか。けっこう盛大にどこかで転びましたね?」


「地面の岩が割れてけっこう転がったよね」


「治療魔法[エクセレントヒール]くらえーーーっ!」


「ぎゃーーっ」


 扉を開けてキラが入ってくる。

 入ってきた時点で少し笑っていた。

 扉の向こう側で、この楽しげな声を聞いたからようやく足を踏み入れられたのだ。


 壁付けのクローゼットが並ぶ衣装室の布貼り椅子に腰かけたレナが、金色子猫を膝に乗せてぐーるぐーると包帯を巻いていた。そこまでするつもりがなかったのに、と本人も不思議そうに首を傾げている。


(普段の自分とちょっとちがう行動をしてしまうことが、緊張するイベントの前にはよくあることです。だなんて、先に言っておいてよかったですね)


「おほん。お二人とも元気はよろしいようで。このあと、マスター・レナは受付の席に座り来場者の手にスタンプを押していただきます。[青の秘洞]で使われていたようなものですね。ルーカティアスさんは、その近くで”招き猫”をなさってくださいませ」


『ネコマタ尻尾を見せながらね。ネコマタヒト族ですから。やれやれ、ややこしいラナシュになってしまった』


「でも以前の生活よりはいいでしょう?」


『言うようになったね。まあね……僕は自由度高く過ごしているし、"みんなまだ無事なようだから"。万が一のことがないように、定期的に自分のことを確認するのはレナも同じように気をつけるんだよ。さあ、ギルドカードを確認してごらん』


「はーい」



「冒険者ギルドカード:ランクA

 名前:藤堂とうどう レナ

 職業:魔物使い(モンスターテイマー)LV.40

 適性:黒魔法・緑魔法[風、治療]


 体力 :普

 知力 :優

 素早さ:劣

 魔力 :優

 運  :測定不能


 スキル:[従魔契約]、[従魔回復]、[鼓舞]、[伝令]、[従順]、[みね打ち]、[友愛の笑み]、[仮契約]ー常時発動省略


 従魔:クレハ、イズミ、リリー、ーーー、モスラ、シュシュ、ルーカティアス、オズワルド、キラ、レグルス、キサ、ミディアム・レア、チョココ、アグリスタ、ジレ、マイラ、ギルティア ー以下省略


 ギフト:[レア・クラスチェンジ体質]☆7

 称号 :ー調整中」



『はいはいはい。あーうんうんうん。そういうことかー!』


「ルーカさんが何かに気付いたらしいですね。あららネコミミがしょげちゃって。大丈夫ですか? 慰めましょうか?」


『いや大丈夫じゃないけれど、大丈夫だ。想定の範囲内、かなり鋭角ギリギリアウトすれすれだけども。とりあえずレナ、キミのお気に入りのケープは身につけていくといいよ』


「ケープ?」


『ケープ』


「わかりました。装備に追加しますね。スカーレットリゾートの制服との相性もまあ、いいでしょう」


『キラ。これだけはギルドカードの情報に追加しておくといい』




「冒険者ギルドカード:ランクA

 名前:藤堂とうどう レナ

 職業:魔物使い(モンスターテイマー)LV.40

 適性:黒魔法・緑魔法[風、治療]


 体力 :普

 知力 :優

 素早さ:劣

 魔力 :優

 運  :測定不能


 スキル:[従魔契約]、[従魔回復]、[鼓舞]、[伝令]、[従順]、[みね打ち]、[友愛の笑み]、[仮契約]ー常時発動省略


 従魔:クレハ、イズミ、リリー、ーーー、モスラ、シュシュ、ルーカティアス、オズワルド、キラ、レグルス、キサ、ミディアム・レア、チョココ、アグリスタ、ジレ、マイラ、ギルティア ー以下省略


 装備:白金羊スターライトケープ


 ギフト:[レア・クラスチェンジ体質]☆7

 称号 :ー調整中」



「どうですか? って、こっち見てないし」


『キラ。今晩晩酌に付きあうよ。プレオープン後の祝賀会は数日内ってぼやかしてあるし、今夜は休憩だって必要なはずさ。きみが好きな電撃ぴりぴりカクテルを作ることにするよ。チョココとモスラとカクテル開発をしたんだよね』


「ルーカティアスさああーん! 助かりますー!」


 キラが金色子猫を抱き上げてくるくると周るのを、レナはにっこりと眺めた。

 事情はあるようだけれど、従魔たちが仲良くしているのを見るのは癒される。

 それに、急きょ身につけることになった"エルフ縫製スターライトケープ"はふんわりと包むように温かい。


『よーし招くぞー。不幸を』


「それがいいでしょうね。マスター・レナの側を離れちゃだめですよ」


『満遍なくレナにお手伝いをしていってもらうのがいいね。ひととこにとどまると不幸が凝縮されてしまうからね』


「ですねー。不幸を招く金色子猫だってばれてしまってもいけませんからね。そんな称号は不安ですもの。外側はあくまで、幸運の招き猫、ふれこみをつらぬきましょう!」


「悪巧みしてる!!」


「『そうでーす』」


 キラとルーカはにやりとした。

 悪者がやってくるならば、こちらも企みをぶつけて相殺してやるのがまっとうな計算式である。諸説あり。





 ──海底ダンジョンにて。


「や め と け」


「そんなに?」


「禄 な 事 に な ら な い」


「それほどかよ。チッ」


 海底ダンジョンのマスター・リヨンは大きく首を横に振った。

 しかし、腕組みをして上を向いてから、ため息でもつくように大岩の頭を項垂れさせた。


 土人形の縦に長いヒト型は口をツンとさせてたたずむばかりだ。布をだらしなく羽織り、開いた胸元には[土竜モグラ]と刻まれている。


 かつての同胞であり、元ダンジョンマスターであった存在が、こうも作り変えられているならば、ここに来たことをただ否定するだけではいけないのだろうと思い知らされる。

 彼は相談をしにきたのではなく、とうに働きを決められている駒なのだ。


「そなたの事情をもう一度聞こう」


「一度では覚えられなかったか?」


「そんなことはないさ。しかしもしかしたらと思ってな」


「ふうん」



『スカーレットリゾートのチラシが散見され影響力はかなりのものとみられる。ガララージュレ・エリアの土偶までチラシを貼り付けて帰ったほどだ。支配の種を撒くべくおまえも戦力として現地にゆけ。地理的にも便利なところにあり、いずれのジーニアレス大陸の支配拠点ともできよう』



 苔むした大岩のようにただ聞いていたリヨンであるが、数回、頭を持ちあげて眺めるようにリアクションをした。

 そのしぐさがあった部分について、発言をしたモグラも理解をした。

 口元に手をやり、べろりと舌を出した。


「あー、言った言葉が違ったな!」


「そうだ。そなたが口にする言葉が、一度目と二度目で変化していた……。それは大事なところだ。ただの人形ではなく意志あるものとしてラナシュ世界に認識されているらしい。おそらくジーニアレス大陸だからだろう」


「ちょっと見直したぜ」


「おお、そうか。思えばそなたは、ジーニアレス大陸のこの流動性が気に入らず、全てを己で制御したくてミレージュエ大陸に腰を据えてダンジョンを作っていたのであったな。それが乗っ取られてしまったとなれば、悔しいだろう」


「〜〜〜」


 言葉を発さずに、モグラは己のこめかみを殴るような仕草をした。

 その部分にヒビが入る。

 ダンジョンマスターの思考の核がある頭は重要な場所だ。何者にも触らせたくはなく、また攻撃は致命傷となる。しかしそれに相当する屈辱だ……ということを表したかったに違いない。


 ヒビが広がると、空洞をあらわにし、細かな砂の一片までもが、また頭を構築していった。

 ここにモグラの心はすでにない。

 あるのは胸に刻まれた服従印と、自らのダンジョンを崩して作られた土人形の土に己の記憶がわずかに残っているだけだ。


「ライバルが減ってさぞいいきみだろうなあ」


「あと数ヶ月早くその問いかけを聞いたならば、そなたが再起不能になったと知った瞬間、間違いなく頷いていただろう。何せ我ら、長い時間をかけて、次世代の神になろうとそればかりを望んでいたのだから。

 今となってはそうでもない。毎日が目も回るほどに忙しいのでな」


「ふうん」


「まじだぞ」


「なんかつやつやしてやがる」


「そ、そんなんじゃないわいっ。もう大変なんだからなっ。これを見よ」


 ダンジョンマスター・リヨンは海水を鏡のように作りあげ、海辺の水面と同じような光の屈折にすることで景色を呼んだ。


 ▽おすすめのアトラクションが描かれた登り旗!

 ▽並ぶ屋台!

 ▽観光客で賑わう受付!

 ▽マーメイドの踊りに イルカショー!


 モグラはしばし沈黙した。

 リヨンは早く反応が欲しくてそわそわした。


「何これ?」


「今の海底ダンジョンだ」


「目がーーーーーーーー!?」


 急に目の部分を押さえてのけぞるモグラ。

 そういうリアクションが来るとは思いもしなかったリヨンは驚きながら、落ち着くのを待った。


「……目が潰れるわッ。なんなんだこの生命力に満ちたものどもは、お前また岩肌をツヤツヤさせるのをやめろお! こちとら地底の地中で長いこと陰気な顔しか見てこなかったんだぞ。古代人がどれほど陰気で辛気臭い表情ばかりなのか想像できるだろうがお前なら、くそおーーーーー!!」


「ジーニアレス大陸特有の魔力変化を受けて、混乱しておるようだな」


「やかましい」


「そなたの叫び声の方がまずいのではないか。服従させておる大元に聞き取られる可能性がない……ということか?」


「ここに刻まれている命令を遂行するしかねえ。逆らえない強力な命令だ。だから、このように野放しにしても問題ないというわけだ。こっちの叫びも動向も通じやしねえさ。

 実際に今のことを聞いてもな、スカーレットリゾートにはいくぜ。というよりも、行かなければならなくなった。ああ、胸糞悪い! ぶっこわしてやろうじゃん」


「気持ちがあるのはよいことだ」


「けっ、そんな同情したようにみやがって。否定はしねえ……。気持ちがあるってことは、消えてしまうかもしれない[命令消化による消滅]を回避できるかもってことだ。性格が、確固たるものであるならばな。この大陸に来て己を取り戻してきたのは事実……。命令ついでに、派手に動いてぶちかましてきてやろうじゃねーの」


「ふう。行動は避けられんとすれば、かつての同胞として一言助言だ」


「それは聞くとしよう」


「甘く見ればいい。元ダンジョンマスターほどのお前さんが甘く見るってことは、ラナシュ世界に[レナパーティは弱い]って印象付けられるからな。空気を支配しやすくなるだろうさ」


「そいつはいい。じゃあ俺はいくぜ。この海底ダンジョンを移動先にしたことは、誰にも知らせないようにしようじゃねーの。巻きこみゃしねーよ」


「そういえば、なぜここから現れたんだ」


「土偶……暗闇様の土人形は空を渡った。それだけでは不安なので、地中からも戦力を送り込もうっていう腹さ。さすがに古代式の陣地取りに慣れているだけある。厄介なものが噴出しやがったぜ。

 ということをお前に愚痴ろうとも思っていたのかもしれねえ」


「こんな時ばかり頼りよって。まあそんなものだよな。海底ダンジョンが危機に陥ろうとすれば、こちらもなんにだって縋るだろう。暴走もするだろう。そのようにしてゴネて足掻くことこそダンジョンマスターの泥臭い[継続力]だ。ラナシュ世界を引き継いでゆくための本能。早く諦める奴などおらぬ」


「なんだってするよなあ。許せよ」


「そちらも許せよ。とくに今回は、すでに貸し一となっているのだから」


「ああ」


 ▽モグラが去った。


 地下から開けられた異様な縦穴を見下すように眺めながら、リヨンは感傷的な気持ちに浸る。

 かつての同胞があのようなきみの悪い"巨大ミミズ"のような形に変えられてしまっていたとは──その異形からヒト型に変化してみせたし、異形化は一時的なものかもしれないが、生態系ピラミッドの最下層の姿をするなど、ダンジョンマスターとしてもっとも屈辱的なものだろうに。その屈辱がくりかえされることにより、モグラは自尊心を削られているのかもしれない。無茶な命令をさせられていることも含めて。


 レナが口にしたことがある「大名行列」を思い出す。


 ダイミョーという剣士パーティがあまりに強いので、異国の国王はおふれを出し、何度も何度も城に呼び出しては蓄えるべき力を削いでしまったのだそうな。


 モグラの状況は似ていた。

 古代の魂は、モグラを遠くにやることで任務を完遂させたくもあり、地底ダンジョンに置いておきたくなかったのであろう。元ダンジョンマスターをあのような姿にしてなお警戒している暗闇様とやらの粘り腰がうかがえた。


「さて」


 リヨンが小石を頭の側面に当てた。


「あっ、もしもし。レナパーティのキラさん。実はですね今」


 時計は確実に進んでいるのである。



 ▽スカーレットリゾートの オープニングリボンが切られた!

 ▽来場者がやってきた!


 ▽絶対に笑わせてやるスカーレットリゾート14時間 開始!






読んでくれてありがとうございました!


今回も楽しんでもらえてたら幸いです♫


今年もよい年にしましょう(`・ω・´)ゞ

そして、今週もおつかれさまでした₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 今回も楽しく読ませて頂きました。 何事もなく終わらない!(信頼感)
[気になる点] ハーくんのお名前が!?(泣) [一言] さっそく言いつけてるwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ