土偶ワーープ!(物理)
▽ミレージュエ大陸から 土偶がぶっ飛んできた!
▽ジーニアレス大陸の 大地に刺さった!
しばらくは土煙の中で沈黙していた。
やがて衝撃による振動が収まると、思考が始まる。
ダンジョンから生成された意思ある生物であり、古代押印をされることで外での活動もできるというわけである。
(暗闇様 スカーレットリゾートの 領地と名声が 欲しい。そのための収穫を 任せられた──)
土偶のような土人形は、手足に見立てた関節をかちかちと曲げて、器用に上体を起こすと、ひょっこり頭を出した。
目の造形部分からは外の情景をインプットすることができる。
極めて原始的な風景だと判断された。
芝生のような丈の短い草原に、点在する高さが低い林。すっきりとしているが人為的な手が入っている様子はなく、長らくこの地で育ってきた植物だけがバランスよく残っているのであろうと推測する。
誰かの思惑で手が入ったならばふつう生活に有益なものだけがごっそり奪われてバランスが欠けるはずなのだ。
分析されたバランスは、完璧に近い。
(見事 暗闇様が 欲しがるだけの価値 ありそうだ)
首をぐるりと360度回転させる。
(しかし 服従させられそうな情報脆弱な生命の 余分がない 困った)
スウーーーー、と足先の風魔法によりすべるように移動する。
太陽がよく照りつけていて、空気中の魔力は濃く生物へのほどよい負荷があり、土壌は豊かに命が生成されそうなしめりけと黒々した色味。
アリの背中すらつやつやしていた。
ネズミは丸く太り、それを鳥が足で掴んでゆき、木の上で食べているときに、イタチがやってきて喧嘩を始めた。滴り落ちた血を吸ったのは木陰で少々萎れていた魔花で、目を引くほど立派に咲き誇る。
点が全てつながりなだらかな線になった自然環境は(100点でも足りないかもしれない)と、土偶の計測にわずかなエラーを起こした。
(あ ぼんやり いけない。リゾートチラシの開催日 もうすぐそこ。配下 作らなければいけない)
土偶はこの土地の自然物ではない。
遠くからやってきたものが、自分の情報が何もない土地で活動をしようと思えば、かならず足元から崩れてしまうものだ。
古代の時代の転換期にあった現状であり、現ラナシュ世界もいずれはそうなるだろう。土偶はとくに特殊な生成物であるので、崩壊はたやすい。
ふと、それを思えば、冒険者ギルドや商業ロードなどに登録をさせておいて、遠くの土地でも早く活動ができるようにシステムを整えた今代ラナシュ人はそうとう頭が回るようだ、と気づく。
(暗闇様を崇めよ 暗闇様を讃えよ 暗闇様を口にせよ われ 暗闇様の代理となるものなり)
「”暗闇様を崇めよ 暗闇様を讃えよ 暗闇様を口にせよ われ 暗闇様の代理となるものなり”」
声というにははるかに遠い”命令を示した音”が、波紋のように辺りに響いていった。
範囲は約30メートル半径ほど。
それくらいならば、もしこの近くに自分たちを感知するものがいるとしても、すぐに特定まではされず、土偶が侵略を企てているなんて思いもしないだろう。
暗闇の影響を魔王国に濃く降ろしたことがあった。
この草原からでも当時の「暗闇様」は見えていたはずだ。
草木は月の明かりさえも見失ったことだろう。
虫ごときは踏み込んではいけない空気を本能で理解したことだろう。
動物はその光景を恐ろしいものであると肌に刻んだに違いない。
あの時訪れたのは、自分たちを隠してくれる便利な夜などではない。
すべて飲み込んで魔力をまるごと染め上げようとするような、圧倒的に強く恐怖心をそそるような、真の暗闇は忘れられるはずもないような恐怖だった。
(この 文句を聞いて 当時の恐怖 思い出せ)
「”この 文句を聞いて 当時の恐怖 思い出せ”」
土偶は命令を重ねる。
これにより、反応があったものを土偶が支配できる。
ざわざわと生命の動く反応があった。
(この 文句を聞いたものども 集まれ 暗闇様の膝下に)
「”この 文句を聞いたものども 集まれ 暗闇様の膝下に”」
──待機。
──土偶は首を傾げた。
「”この 文句を聞いたものども・・・」
バッタは草を喰み、その触覚を音に振るわせはするものの、まるで風を感じるだけかのように足を遊ばせた。
「・・・集まれ 暗闇様の膝下に”」
集まらない。
「集まれ!」
集まらない。
────。
────。
────────。
土偶は大きな音を繰り返したので、土づくりの体がわずかにほろほろと崩れてきている。
大きな音を出したにもかかわらず、誰も集まってこなかった、という状況もこの体の情報崩壊に拍車をかけていた。
土偶は考えを改めた。
(欲しいのは この土地での認知 活動できるだけの情報量。従来のやり方 効果が薄い……。ならば 目的のために この土地に合ったやり方 見つけ出す)
この土地ではどのようなものが生態系の頂点に立っているのか?
弱いものが恐れを感じた瞬間を探知、それを繰り返し、アリが恐れたアリクイに、アリクイが恐れたヤマネコ魔物に、ヤマネコ魔物が恐れた・・・と繰り返していく。
その頂点を探してゆく。
(見つけた)
土偶は草むらに近づいていく。
(なかなか 知能が高そうだ。どうすれば 分からせられる? 暴力がいいのか 思想の崩壊がいいのか 吠えてやればわかるのか 金や地位が欲しいものか・・・)
草むらをかき分けてそこにいたのは、なぜだかすっかりと熟睡中の、まっしろな羊毛も気持ちよさげな、若くみずみずしい雄の羊であった。
我らがハマルである。
「え、ハーくんが、警護員に志願してくれたの?」
資料をめくっていたレナが、ハマルの名前を見つけて不思議そうに尋ねた。
「ええ。ハマルさんはスカーレットリゾートに入荷する分の羊毛ハンドクラフト品はもう納品されておりましたから。その事務処理をゴルゴさんが勉強がてらしてくれたので、やることがなくなったそうですよ。
自分はあまりに可愛いのでスカーレットリゾート園内をふらふらしていたらけっこうな周りの注目を集めるし、警備員なら帽子で顔を隠せもするから、やってみようかな〜、とあくびをしながら言っていました」
「言うもんだね! まあそうだけどさ。少年風に育ってもハーくんはいつまでもどことなくベイビーフェイスでねえ。やってみたいことなら挑戦してみたらいいと思うよ。私の補助が何か必要だと思う?」
「もしマスター・レナがハマルさんに会うことがあれば、その時に尋ねて差し上げてくださいませ。
ご本人がマスターと話す機会を他人が奪ってしまうとなれば、残念すぎるでしょう」
「それもそうだね。つい、すぐに何かしてあげたくなっちゃってさ〜。すぐそばにいてくれた時なら、撫でたりしてあげられるのになって、癖になっててね」
レナが苦笑する。
スカーレットリゾート・プレオープン予定表の資料を机に置いた。
もう目を通すくらいで済むほどに仕上がっており、ここ[迷子センター]の窓から園内大通りを見渡してみても、みんなのんびりとした雰囲気をしている。
レナは窓を開けた。
「スキル[伝令]ーーハーくん! やりたいこと、頑張ってみてね。失敗してもいいよ。そしたら私や従魔仲間がみんなで力を合わせて、またハーくんが挑戦できるように巻き取るからさ」
「えーっレナ様ーっボクが失敗すると思ってるのお?」
すぐ近くから。
キラの声真似だ。
声は違うが、話ぶりだけはハマルに似ている。
レナはにこりとして、さらにスキルを発動した。
「[伝令]大きなことやってみようってとき、失敗するかもって考えたら怖くなっちゃったりするでしょう。でもさー、小さな枠でできないだろうことを、君はやってもいいんだからねー。私たちがついてますよーっ!」
レナの声は下準備をしている職人たちにも届いた。
誰かは、ほっ、と胸を撫で下ろしている。
いくども安全確認をしているとはいえ、世界的に不安定な中、こんなにはしゃいでしまっていいのだろうか?という感情が、べったりと彼らの足を引きずろうとしている。
大元のレナが大はしゃぎしているらしい姿は、彼らに活力を与えた。
▽土偶は ハマルの基礎情報を 覗こうとした。
▽鞭が見えた。
▽土偶は 混乱している!
読んでくれてありがとうございました!
年末もちかくスケジュールが忙しくなってまいりましたね。師走ー!ってかんじー!
頑張りすぎて体調崩されませんようご自愛下さいませ₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
今週もお疲れ様でした。よい週末を!




