[ダンジョン:????]
▽スカーレットリゾート:遊園地エリア のプレオープンが迎えられます!
▽チラシが 増刷されました!
ーーミレージュエ大陸 [ダンジョン:????]
乾いた土の地面にチラシが投げ捨てられる。
チラシには、見たこともない色付け技術。見たこともない施設や遊具。自信たっぷりに笑顔を描かれた魔物たち(正確には魔物の着ぐるみなどを着た人型の姿。ミレージュエ大陸では魔物を怖がる動きがあるため配慮されたのだろう)
それらの全てが彼女の気に障ったらしい──と、かつてのダンジョンマスターは思った。
じろりと主人を眺める。
「〜〜〜〜!!」
言葉を選べず思いを口にできないらしい。
適当な言葉をラナシュに吐き出すことの危険性を知っているからだ。
しかし、何度もチラシを踏みつける様から、その激情は察するに余りある。
息が詰まりそうだ。たった二人しかいないのに。
一人は古代から甦った[暗闇]──再びラナシュ全土に影響力を及ぼしたいと考えている受肉した存在。
一人はこの地中ダンジョンの元ダンジョンマスター[土竜]──一度消えかけたのだが、わけあって作り直されたものだ。日の当たる所では生きてゆけぬように、日陰に執着するように……とそのような命名をされた。
今では補佐のようなことをさせられている。
つやのないちくちくとした土色の髪。
負けた者特有の反抗心を抜かれた瞳をしていた。
「モグラ。このスカーレットリゾートとやら、取りに行く」
「は?……いや失礼。あー、ジーニアレス大陸ですよそれは」
「ミレージュエ大陸には少々飽きたッ」
モグラは慎重に口をつぐんだ。
ここで(……そりゃあ、ミレージュエ大陸で負け続けたからヘソを曲げた、っていうんではないですかね)と思いかけたのだが、モグラにはそのような口出しは許されていないのだ。
今や、ダンジョンマスター:暗闇様とその補佐でしかない。
(暗闇様の目的は領土を広げることだ。空に、地上に。
空の方では成功した。ほとんど敵対するものがあらず、ラナシュ各地に『空に暗闇の災い』と認識させられた。問題は地の方で、こちらこそもし我がものとできれば『多数の命に認められし暗闇様』になれたはずなのだが、はびこった生命たちは抵抗し、わずかな小村を支配した程度だ。
とくに欲しがっておられたガララージュレ近郊は暗闇に一切の不安を持たないアンデッドの根城、その隣のアネース王国には現代の大精霊がおり、空に逃げようとすれば巨大な蝶々に追い払われた。
地下に叩きつけられ、また地下のダンジョンに戻ってきた……というわけだ。しばらくは空に登ることもできまい。
ラナシュ世界の崩壊は近い。そのときまでに名声を広められなければ、今度こそ完全に消えてしまうというわけか)
「モグラよ」
「はい」
「何を考えておる」
「どのようなお返事を返そうかということを。土塊から練り直されたこの頭は思考が堅く、満足されるような答えがなかなか見つからず」
「配下が殿を盛り上げられるなどおこがましい。事実を口にすれば全てが殿の満足となるような、そのような世の中を実現するのが配下の務めであろう。まだそのようなこともできておらんのか」
「もーしわけございません」
モグラは思う。長らく自らがダンジョンマスターをしていた頃、このような扱いをされれば消されようともぶつかる程のプライドがあった。今となってはプライドも作り上げる前のゼロ、まったく何の気力も湧いてこない。
「モグラ。ジーニアレス大陸の構築事情におまえは少々詳しいだろう。話せッ」
(おー野蛮。受肉した肉体にひっぱられて行くものだよな。俺のこの卑屈でからっぽな精神といい、暗闇様のがさつなところといい……)
「ジーニアレス大陸は試験的な土地と言えるでしょう。さまざまな土地の変化は、さまざまな魔力個性がなにものとも混ざらぬまま残った、土地そのものが古代の遺物です」
「わかりにくい」
「では、比較しますかねー。ミレージュエ大陸は古代の神のうち勝ったものが、大海の中に作り上げたとても大きな成功例なんですよ。気候は穏やかでさまざまな魔力が混ざり合い、春夏秋冬をまったりと流してゆく。角のとれたヒト族が反映し、古代の勝者を語り継いでゆきました。まあ過去形です。ヒトは想定以上にこざかしく、数も多かったので統率がとれなくなってゆき、古代の情報は失われました」
「話が長い」
「ミレージュエ大陸は安定した成功例の土地。ジーニアレス大陸は試験的で古代の名残が残るクセの強い土地。安定したところでは情報が強硬で崩しにくい。不安定なところでは情報の穴があるものの生態の反発も強い。そしてそれぞれの穴は、ミレージュエ大陸ではガララージュレ近郊、ジーニアレス大陸ではまだ見つかっておりません」
「受肉した体はポンコツだ! すぐにオーバーヒートする!」
「わー目から液体まで垂らしてお辛そうですねー。暗闇様特有の仮面をつけたりなどしたらいかがでしょうか。そうすれば体調が安定し、能力も凄、モグ、ググググググゥゥ〜〜」
モグラの口のあたりがボロボロと崩れて土くれが足元に落ちてゆく。
被せられていた服の表面が汚れてゆくな、と眺めていた。
そんなものも気にならないくらい、蹴られたら、全てが崩れた。
またここから再生するしかない。
するとモグラのプライドはゼロになり、知識だけ残った土人形が生まれ直す。
フッと「暗闇様」は吐息で肩にかかった土埃をうっとうしそうに飛ばした。
ぐりぐりと土を踏んだ。
座るのは玉座。とはいえ過去の栄光を名残惜しんだ土づくりのまがいもの。これを月の光のような白銀にしなければ、暗闇様の気はおさまらぬ。
「殿は力を蓄えておるときだ」
「そ、です、ね」
ぐずぐずと表面がまだらなものの人型のモグラが着物をはおる。
「前は急ぎすぎたな、と、ちょっっっっとは反省しておるのだ。これからは小集落を得てゆく。小集落とて寄せ集めれば、やがて大きくできるじゃないか。土を固めたらモグラという泥団子ができるように、な? あちこちの小さな場所をとり大都市を包囲してゆこう。
空の脅威などあのおかしな蝶々くらいだ。ジーニアレス大陸にはいなかったよ」
「そ、です、か」
「しかしまてよ。土地を離れてしまうと支配の効力が薄れるものだ。ましてやジーニアレス大陸など海を隔てている。海と暗闇は性質が違い、相性がよくない。…………。そうだなあ、各都市に暗闇を出現させるときには殿の情報を切り分けていたように、このたびもそうしよう」
暗闇様はパチンと指を鳴らす。
すると土が盛り上がり、レナの認識では[土偶]と言えるであろう形になった。
古代、暗闇様が祀られていた頃、神殿に納められていたような造形だ。
「んん? 動かんな。ダンジョンマスターは殿であるのに、なかなかいうことをきかん。まあいい、思い通りに動かしたいならばそれを達成する術はある。モグラよ、これが動くようにせよ」
「は、い」
ダンジョンマスターの経験が長ければ、動く存在を作ることなどお手のものだ。
モグラは土偶の頭に手を置き、短い手足や土塊の硬い体、それがなめらかに動くように[情報を加え]た。
内側には暗闇様の[紋]をつけておく。
「どれ。舞踊でもしてみろ。なんだヘタクソだな。ハッハッハ。ギャハハハ」
暗闇様は口を押さえた。
受肉の難しさを知る。
「モグラのダンジョンにやってくる者の質が悪いから!」
「そ、れ、は、ダンジョンを攻略しようと企むような輩ですから、腕に覚えがある荒くれ者なのでしょうし、酒を飲み交わしつるめば、下品な笑い方になることもあったのでは。推測ですが」
「殿は品よく酒を飲むものだ」
「そうしてください」
「酒!」
「生成し、ま、す」
土塊の器は鈍い銀色になり、そこにブドウの香りも芳しいワインが溢れる。暗闇様はことさら上品にワインを飲んだ。
「土偶よ。そなた、暗闇様となのれ」
頷く。
「殿の紋に恥じぬ働きをしてこい」
頷く。
口を開こうとした気配があった。
蹴飛ばす。
「はたしてそれは殿に報告するだけの価値がある成果か。耳を汚すような疑問や私念であれば承知せん」
モグラは(私念が生まれるくらい高度な生き物づくりは上等技術なんだけどなー)と思った。黙っている。
土偶は頷いた。
「行け」
大型射石砲につめこまれた土偶は、ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
とジーニアレス大陸に飛んでいく。
暗闇様は機嫌を持ち直した。
「収穫を待つとしよう」
▽ジーニアレス大陸に土偶が刺さりました。
読んでくれてありがとうございました!
書いてて思わず【図1】みたいにしたくなったシーンです。゜゜(*´w`*。)°゜。
モグラの穴のようなとこを想像してくださいまし。
ダンジョンとして保てなくなっておりましてなー。
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




