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プレオープンのリハーサル

 


 スカーレットリゾートのオープン日が近づいてきた。

 日本のように「何月何日」ときっちり決められておらず、季節もよく曖昧になるため、花火が上がってから翌日に!という知らせをすることになった。

 もし当日遅れたものがいれば自己責任である。

 遊びにいくのだ。

 ワクワクとしていればよい。


 近頃のラナシュでは誰も彼もが、いつ自分の世界情報が薄くなってしまうだろうかとピリピリしてしまっていて、すっかり疲れがたまっていた。


 ただの遊びが新たに生まれたことで、ホッとするものも多いようだ。


「と、アンケートの集計をば」


「ありがとうございますマモン様。直々に来ていただいてよろしかったんですか?」


「こちらこそレナ様にご対応いただきまして。今後ともよろしく、でございますから」


「もちろんです。悪い意味じゃないですよね?」


「おやなぜです?」


「マモン様。背中の翼が」


 ヘラがこそこそと指摘する。


「あはは、それです、背中の翼が見えましたので、なんだか笑顔に迫力があるなあ〜って! 悪魔族の方は歴史が長いと聞いていますから、その迫力でしょうか。私、気軽に声をかけちゃいましたが、悪い意味じゃないですよね、って本音でとらないようにお願いしますね」


「お気を遣わせてしまって。もちろん健全な言葉ですよ。こちらの赤の聖地の土地柄なのでしょうかねえ……ここにいると、なんともいえず気持ちがゆるくなるのです。門の警備など厳重にされていてそこではむしろ緊張したのですが、中に入るとこのありさまになるほどで」


「厳重に守られているってことは、中は安全だし信用されたって証、ホッとしてもらえるようにと花店ネイチャーブランドのお茶をお出ししましたから。その影響でしょうか」


「ですかね」


 マモンとレナは同時にお茶を口にする。

 ミラーリングを使われたことに、マモンは気づいた。

 同じ動作をすることで仲間意識を刷り込むテクニックであり、商業の場ではこれを試みられることも多かったが、レナのしぐさは天然のもののようだ。


 相手と空気感を合わせることが得意なのだろうと感心する。


 それゆえにこれまでの経歴にみたレナの旅路は、かなりのストレスだったであろうともマモンは思う。


 赤の聖地は彼女の安寧の地であるはずだ。

 ラナシュのぐらつきに脅かされなければ、引きこもっていて会えやしなかったかもしれない。


(これからも困難な出来事には遭遇するでしょうが……。彼女たちが波を乗り越えて、心落ち着かせられる安寧の日々を送れることを祈りますよ。我々の悪魔的利益のためにも!)


「マモン様、また翼があ〜」


「リラックスしてもらえたようでこちらとしては歓迎ですよ。ヘラさん。こちらのお菓子は影蜘蛛女王ちゃんのお気に入りでして」


「いただきますわー!」


「ヘラ…………」


 レナはアンケート書類を見て「ふむ」と頷き、(これだけ順調なら従魔のみんなに指揮をとってもらっても大丈夫そうかな。私は応援と鼓舞、サポートに努めてみよう。なんだか後方支援職っぽいぞ)と思うのだった。




 スカーレットリゾート・遊園地エリア──。

 入場門には風船などが飾り付けられポップで華やかである。


 レナが入場すれば従魔たちに歓迎されることはわかりきっているので、あえてローブをかぶって、ひそひそと入場する。


 本日の予定は【リハーサル】。

 警備員が己の配置を確認したり、その警備員がたまに買い物にくることでショップ店員はオペレーションを練習する。場所がわからなくなったものはモムに触れてもらい、迷子センターにたどり着いてもらう、など……あらゆるところで魔人族が動いていた。


 雰囲気はゆったりとしている。

 きびしいルールを設ける代わりに、それぞれの魔物の特徴に合わせた配属をしているため、ストレスを減らしている。


 資金が潤沢にあり、従魔や警備員に力があるので、レナがまるで不審者のように訪れてもまずはおおらかに見守られている。


(よしよし。この対応で嫌がるようなお客さんはいないでしょう)


 その足取りでレナだろうと勘づいたものもいるし、このエリアに入場できたということは入場印([ラビリンス:青の秘洞]を参考にしたもの)を押されている証明なのも視線が厳しくない理由だ。


「すみません。ちょっとよろしいですか」


 レナは飛び上がった。

 一人きりなので少しドキドキだ。


(おっと! シヴァガン王国の警備員さん。声のかけ方がちょっと威圧的なんだけど、街で見かけた時もこれくらいだったし、手堅くやってくれているのかな。優しすぎる声かけをして舐められちゃ注意が聞き届けられなくなる、とも聞いたことがあるし。魔物の本能に働きかけるって工夫なんだよね)


「はいっ。なんでしょう」


「入場印の見せ合いをしてみませんか? さまざまな魔力の色で押印されていますので、見せ合うのは楽しいですよ。それに同じ色の入場印でしたらドリンク一杯無料チケットのキャンペーンもやっています」


「わ! 楽しそう! やりまーす」


(こんな仕掛けを用意してたんだ。キラのところにゴルゴちゃんやグルニカさんやマモン様が訪問していたのはこのシステムの相談だったのかも。経理関係のことはリハーサル後に「やる・やらない」を私に報告してくれるそうだけど、決定前に私も楽しめちゃいそうだなー。ふふふ。

 こっそりと見回ってもいいかな?って相談したときに、キラがニヤリとしていたはずだよね〜)


 レナはフードを持ち上げてグッと見上げた。

 それなりに見慣れた青の髪が目に入る。

 お忘れの方もいるかもしれないが、海護人マーマンのドリューである。臨時収入があると聞いて気軽にやってきたのだ。やっぱりレナだったとわかり、ウインクする。


 ドリューの手の甲にある入場印は、青色。

 レナの手の甲にある入場印は、赤色。


 ▽※熱狂のジャンケンバトルにより ルージュの赤色が本日は採用されました。


「残念でしたね。色は違いました。けれどエリア内の道を歩いている従業員ならば、色合わせのチケットチャレンジができますから、また声をかけてみてください」


「えーっ。ドリューお兄さん、チケットくれないんですかー?」


「駄目でーす。海の藻屑にされちまいます。さっきからこわーい雪豹とか黒薔薇とかウツクシイ妖精オネエサマとかが見張ってるでしょう? 不正はしてはいけないのです」


「保身と業務に忠実でご苦労様です」


「あおりのリハーサルまでありがとうございます」


「あはは、すみません、言いすぎちゃって。傷ついたお兄さんには飲み物の差し入れでもいかがでしょうか?」


「申し訳ないのですが、お客様から何も受け取ってはいけないことになっております。ご自身のために使ってください。ここはあなたが楽しむところなのですから」


「おー! お上手!」


「ありがとうございます」


「マーマンのお兄さんの接客が良かったですって後程アンケートに書いておきますね」


「ありがとうございます!」


 レナとドリューは快活に笑うと、すぐに離れた。


 レナは教えてもらったばかりのドリンクショップに向かう。


 お金を出して飲み物を買ったが、周りにはチケットを出しているお客もいた。

 そして、そのチケットは何だい? と聞く姿、声で対応するのは時間がかかるのでチラシを渡す姿も見られた。


 現在は作業員などにも感謝の入場を許しているので、荒っぽいしぐさのものも多く、読み終わったチラシがポイと丸めて投げ捨てられる様子も見られる。

 それは生活習慣からくるものですぐには変わらないだろう。


 しょうがないかとレナが拾おうとしたところ、連れ立った別のものが注意をして投げた男にゴミを拾わせた。「せっかく綺麗な遊園地なんだから汚しちまったらもったいないじゃねえか」と、かけられていた声を聞いて、レナは嬉しくなったのだった。


 レナはそれから、売店、迷子センター、噴水広場、レストラン、ホテル、各乗り物の前を早足で歩いていく。


 気づけば3時間ほども歩きっぱなしだった。

 慣れた靴を履いているとはいえ、あまり足が疲れていないことに驚いた。地面はほどよく硬すぎないドワーフ式石畳で作られているのだ。踏みしめるのにちょうどよく、足を置くときに衝撃が生まれない。これならばさまざまな足の形を持つ魔人族たちが歩いたとしても、足が痛いとクレームが来ることもないだろう。


「くんくん、ご主人様だ! アイスはいかがですか♡♡♡」


 ▽シュシュが 売り場から身を乗り出し ピンクアイスを決闘のように差し向けていた。目は血走っている。


「えっ主さん。ここは俺が押さえておくから早く逃げて。シュシュのやつをプレオープンまでに暴走禁止教育しておかなくちゃいけない、あと、お金払ってそこのニジイロアイス買ってって!」


「ニジイロ」


「従魔が喧嘩するから作った」


「従魔が喧嘩しちゃうならしかたないな」


 レナは苦笑し、何味かわからないもののまあ不味くないだろうと、ニジイロアイスを受け取った。

 お金を渡すときに手が触れたらオズワルドも赤くなるので、平等な接客としてはまだあと一歩だ。


「二人とも頑張ってね。活躍してる姿、楽しみにしてるから」


「「頑張る!!」」


 その声を聞きつつ、レナは薔薇広場にやってきた。


 パトリシアが植えた立派な薔薇が六分咲きになっており、やかましくないひかえめな香りを醸していた。

 白いベンチに座り、空を見上げる。


(今のところは晴れ渡ってる。けれどこれからどうなるだろう。また空に暗闇が来るのかな……。現れるところはランダムのようだけれど、都市部だとか人が多いところを狙っているのはたしかだ。もしもこのスカーレットリゾートがそうなってしまったら?

 ここはキラが収めるダンジョンのようなところ。

 だから侵食されるようなことはないはずだ、って相談はしている。キラのことを信じてもいるし、マシュたんもいるし、けれど……もしものことがあったら私がきっと力をかそう。ピンチで自分の力が足りない時、[レアクラスチェンジ体質]の使いどころだろうからね)


 レナはアイスを食べる。

 透明なアイスにカラフルな粒がいくつも入った棒付きアイス。

 さわやかなサイダーのような風味が口に広がる。


 雲を見つけた。

 白くておぼろげな雲は、風に流されて形を変える。


(キラやマシュたんが更に進化しちゃったらどうなるんだろう。ラナシュにもともといなかった種類の新種が、さらに形を変えようとするとき……。うーん……。どうなりたいのかってみんなの将来の夢を聞いておいて、どうなるのがあの子たちの幸せだろうって形を考えたりして、そういう積み重ねをしておかないとね。

 進化する瞬間。

 そのときがもっとも不安定で、油断できないのかもしれないって思うんだ。この心配はきっと杞憂じゃない……)


 雲がおかしな形になる。


(うーん、うーん。進化の瞬間をできるだけ少しで済むようにしてあげたい。でも急かしてしまって後悔するような形になってほしくない。いや、違うのかな? その場合でもまた進化しなおせばいいのかな? 途中に反抗期を挟むもの? あれっ、そんな成長もアリ!?…………)


「おじょーさん」


「あ」


 レナの頭上に大きな手のひらがふと現れる。


 レナのおでこからまぶたにかけて、影を作った。


 見たことのない魔人族。

 驚き、レナの目が丸くなった。


 服装が警備員のそれだったのでレナはニコリとする。

 もしも不審者であれば従魔がレナへの接触を許すはずがないのだ。エリアはいわゆるキラの腹の中なのだし。


「熱中症、っちゅーもんになっていやしないかい」


「アイスを食べていたから大丈夫かと……。いや、でも……ぼんやりしています。頭がぼーっと熱い感じに……」


「休むならば噴水広場がええじゃろうに。とくに今日は汗ばむ日差し。なぜに一番日当たりがいいところにじっとしてたんじゃ」


「日当たり、お日様からのパワーを借りたかったんですかねえ……。暗闇の空事件があったじゃないですか。ですので明るい日差しを浴びたかったような気がします。オープンまであとしばらくですから緊張しちゃうのもありますし」


「お嬢さんは主役らしいからのう」


「あ、わかります? 手、ありがとうございました。涼しかったです。水魔法か何か使ってくださいましたか?」


「実は、青魔法に適性のある龍人じゃからの」


「すっかり良くなりました。これ、お礼に」


「ありゃあ。賄賂はもらっちゃあいかんと言われておってなあ……いや、んん? これはチケットか?」


「午後のステージのチケットです。持っていても持っていなくても今日は見ることができますが、せっかくなので差し上げます。ステージのリハーサルを宜しければ見に来てください。すばらしい[かみつかい]見せますので!」


 レナは装飾保存ブレスレットを光らせると、港のマリンガールの服装になってさわやかな風を見に纏い、颯爽とさっていった。

 レナとすれ違った水辺の魔物は気持ちよさそうにして、その肌に魚の鱗を浮かべてしまったものもいる。


 水龍クラウディアは顎髭を撫でた。


(うーむ。肝の座った小娘のようじゃ)





 ▽ステージのリハーサルだよ!


 ▽舞う紙吹雪! そおれそおれ! レナの紙技!


 ▽ステージグループは オズワルドとシュシュの[武技兎技ブギウギ]!


 ▽紙吹雪を撃ち落とす 蹴りと拳のバトルだ!


 ▽天使族の熱い声援!!!!


 ▽DJキラの音楽!


 ▽ハマルの[夢吐き]プロジェクションマッピング!



 水龍クラウディアは震えた。


(こりゃあ新しい時代が来ちまうぞう)



 周りの者たちも同様に感じ取っただろう。

 水龍の顔色を伺ったり上司の顔色を伺ったりと忙しくしていたドリューがつかまり、話し相手にされてしまった。肩を組まれて内心悲鳴を上げている。


「──ま! どちらにせよラナシュに新しい時代が来ることは避けられん。そのようなサイクルなのじゃし。みなが難しい顔をして額にシワを刻んでおったが、それを前にしてこともなげに笑ってみせるこのような大波もあろうとはな〜。話に聞くよりも、実際に目で見た方が若いもののエネルギーっちゅうもんのすさまじさを感じられるわい。

 若いのうー。いいのー。そなたもそう思うじゃろう」


「自分はまだ若いのでよく分からな、あっ」


 ▽ドリュー、やらかし。


 ▽水龍、にっこりしてうざ絡み続行。


「そこの天使族のおにーさんおねーさんたち、儂らにもその光る棒をくれい。降るのかえ? 参加してみたくってのう」


(悪ノリだ! これ悪ノリだ! おいおい水龍様が新時代に自分も一噛みしようと思っちまったなら、まずいことになったんじゃないの。

 いや俺そーいうのよくわかんないけど。ひいいん力がある人たち怖いよー。なにか他にも気を逸らしてもらえるようなことがあればいいんだけど)


 振り返った天使族たちが顔を白塗りにしてデスメイクをしていた。


 水龍とドリューは手を合わせて「「キャー」」などと言ってしまった。




 ▽プレオープンを迎えられる出来 だと言えるでしょう!

 ▽マル!


 ▽天使族のメイクは園内禁止になりました。

(虫種族にとっての戦闘模様に見えるため)



読んでくれてありがとうございました!


ついに12月かあ。あとしばらく、いい年にしましょうね!(`・ω・´)ゞ


【ドリームジョーカー】

【夏フェンリル】

 更新していますのでこちらもぜひぜひ₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



週末、のんびりとしましょう(風邪です⭐︎)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……大人(?)がマトモな人……人? が多くて良かったなぁ。
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