ゴールデンクワガタの進化★
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタに 初めての命令をしよう。
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタの レベルを一つ上げよう。
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタの 進化先を予想しよう。
<確認しましょう。"レベルを一つ上げる">
『僕の見立てでは、できている。モムなので、レベルという域に至っておらず、ぼんやりとしたものだけど。魔物が一つレベルを上げるくらいの経験値は積んだだろう』
<ルーカティアスさんはひらりとかわして攻撃経験だけを積ませたのさすがです☆ では、"初めての命令をしよう">
「私、命令してた、かな?」
<動きを教えてあげる、という範囲ではありましたが、ゴールデンクワガタはリリーさんのことを信用して、言うことをきくようになりました。クリアとしましょう。"進化先を予想する">
「クワガタフェアリー?」
『レナのセンス』
「えー。いいじゃないですかー。こう、妖精族っぽい見た目なんだけど、守りに徹する感じというか。クワガタって装甲が厚いし、ゴールデンクワガタは金属質だからなおさら。ルカニャンとの戦いでも牙から体を守るくらいの強度がありました。手加減していたとはいえ、ルーカさんも驚いていたのでは?」
『それはあるね。少し凹ませるくらいできると思っていたんだけど。ていうかレナがニャーベルタイガーとか言い始めてびっくりしたよ。もし、僕の牙がほんとうに伸びるようになったらどうするのさ。人型でそれができるようになったらドラキュラだよ』
「ドラキュラっているんですね」
『古語の中にはね。アンデッド族に近いらしい』
<はいお二方ー。久しぶりに話が弾んでいるのは私としても微笑ましいし動画に収めたいし殿堂入りなくらい尊いのですが>
「『キラ?』」
<ごほん>
「マシュマロ、それなりのところで止めてあげて」
<削除しておきました>
<アーーーーッ!?>
<うそ。重複録画をまとめて情報を圧縮して軽くしたのだ>
<え、えらい>
「ねえっ。私、クワガタフェアリー、いいと思うの」
「リリーちゃんも? だよね!」
『え〜』
「だってルカニャンも、ご主人さまがそう言った時……面白そうな表情と、難しそうな表情を、同時に見せてた。クスクス……変な、顔だったね? つまり、できるんでしょ」
「なんですってーー! 今までいなかった新種だろうから無理だろうって思っていたのにーー! 私、一応聞いただけだったのにーー! そんなこと可能なんですかーー!?」
『はいレナのオーバーリアクションありがとう。キラが喜んでるよ。さて、できるかと言われたら』
ルーカは猫の瞳をやんわりと細くして、キサとハマルがあやしていたゴールデンクワガタを眺める。
『できますね。クワガタフェアリーになれます。なぜかといえば、僕は今古代の石板などを調べていると言ったよね。趣味で』
「いい趣味ですよね」
『ありがとう。そこには妖精族についてこう書かれていたんだ。
”あらゆる虫には進化の可能性あり。珍しくも、ヒトに似た姿をとるものが現れた。ヒトが育てる素晴らしい花々を、好んでそばに寄り添った蝶々など、そのような傾向があった”
つまりは昔は”蝶々が多く、蝶々以外も”フェアリーがいたんだろうと解釈できるよね。データの切れ端とも言うものが、ラナシュの曖昧さに見逃されていた、それをキラとともに見つけてる。種族情報を復活させたらいいんだよ』
「昔って多様だったんですねえ」
『未来に行くほど洗練されてしまうものだからね』
「復活させちゃってもいいんですね?」
『その辺りの調整を、もっとも適切にやれるのが、僕とキラだと思うんだけど? ご主人様は信用なさっていない?』
「まさか。当たり前のように流してしまいたくなかっただけですー。ルーカさんもキラもすごいねえ。すごくすごい!」
キラとルーカははにかんだ。
『リリーが想像するのがいいと思う。ゴールデンクワガタが、クワガタフェアリーになるとしたら、どのような姿になると思う? ジュエリーデザイナーとして培ったリリーのセンスを、活かすときだ』
リリーは節目がちになる。
その瞳はじぶんの内面を覗いていて、心の奥底にあるイメージの原石を、磨いているところなのだ。
そしてぱあっと輝く表情を見せると、自分用のマジックバッグから取り出した水晶粘土に金色蜜を垂らしてこね始める。
撫でたところがリリーの魔力の波に反応して揺らいでゆくので、いかにも踊るように優雅に、またたくまに形が変えられていった。
子どものフェアリーの姿になる。
「できた! 美少女フィギュア」
「言い方」
「えへっ♡ どうかな、ゴルちゃん。あなたの、進化先、こうなるのは素敵だと思うんだけれど」
ゴールデンクワガタの前にリリーが造形水晶を持っていく。
つやつやとした水晶の表面に、映るゴールデンクワガタの瞳も、キラキラと輝きを増しているように見られた。
ハマルとキサはそっと見守っていた。
自分たちが関わることで集中を削いでしまわないように。
ゴールデンクワガタの表面がわずかに白くなる。
おそらく(これだ)と心に決めたので、脱皮しようとしているのだ。
サナギから成虫になる時には、脱皮がある。
しかし成虫からさらに進化しようとして、脱皮を思い出して決行するなんて、死なせてしまう危険があった。
それほどにリリーの彫像が魅力的だったのだろうけど。
『レナ、急いで!』
「了解ですっ。あった、ギルドカード。情報はほとんど書かれていなくてシンプルになってる。ええと、これならすぐに見つけられるでしょっ。
リリーちゃんの項目を押して、ゴールデンクワガタが現れる。
そしてゴールデンクワガタを押せば、進化可能の点滅。
進化先を指先で確定、させてもいいよねキラ?」
<ええ、こちらでも情報整理しますから。指に魔力を込めて押しちゃってくださいませ!>
「進化先[クワガタフェアリー]いってみよー!」
「おー!」リリーが笑う。
そしてリリーは職人着から、プリンセスフェアリー・ダークの正装に着替えてあげて、スカートの花びらのようなヒダに埋めるようにして、ゴールデンクワガタを抱きしめた。
「きっと綺麗な妖精になる。私が、あなたを、従えてあげる。
もう捕まえようとする誰かの手に怯えなくていい。
もう食べものが無くて飢えることを心配しなくていい。
私はリリー。あなたのため君臨してあげましょう。
だから、安心して、咲き誇って──」
リリーの声はふしぎな響きとなり(あ、これ、晶文とやらの原型なのでは)とレナに確信させた。
レナは、リリーの成長が嬉しかった。
そして、どのようなことに苦労してきた野生時代だったのか思いを馳せた。誰かに同じことを背負い込ませまいとする、リリーの選んだ言葉にあたたかさを感じていた。
(きっといい関係の、姫様と従者になれるね)
ゴールデンクワガタは溶けるようにサラサラと砂になり、ひとまわり小さくなった。
そして生まれたてのクワガタフェアリーの女の子が、まさにリリーが想像したような姿で、あどけない顔をして現れたのだった。
▽従魔[ゴールデンクワガタ]は進化した!
▽[ゴールデンクワガタ]→[クワガタフェアリー]
「ステータスは後で?」
<これから随時記録していきます。以前のようにオートではなく、よりその従魔に合う表記をします。マスター・レナの大事なものたちを守ってみせますとも>
「ありがとう」
レナは、新従魔に一番に声をかけたいところをグッと堪える。
一番最初にかけられた声は、とても特別なものになる。
だからリリーに譲った。
彼女らがこれから共に歩みやすいように、と、祈りを込めた沈黙であった。
「おはよう。あなたにとっての、プリンセス・リリーが、見えているかな……? 私の指の動きに合わせて動いて、みぎ、ひだり、ダンスが上手ねっ。あらあら、翅はあまり使わないんだね。その代わり、頑丈な脚と手があるの。素敵ね」
「ごきげんようでちゅ。プリンセス・リリー」
ルルルル、と音楽みたいな可愛らしい声がした。
「あ! おしゃべり、上手。というか、すごいねっ。さっそく……魔人族の、共通語?」
「そうでちゅ。あたちはよく追われまちたから、危険を回避するため、どのような作戦を立てていやがるのか、学習をしていまちた。
あんまり動かなくても、今まで生き延びることができたのは、そのためでちゅ。あちらの女王の作戦は、イレギュラーすぎてわかんなかったでちけど……」
「そうだね。ご主人さま、そういうところが素敵だよねっ」
(リリーちゃん絶妙に噛み合ってない! ていうか、私のこと女王って呼ぶんだねクワガタフェアリーちゃん!?)
(うーむ。言葉を独自学習していたぶん、なまりがあるんだな)
特大サイズのお人形のようなプリンセスフェアリー・リリーの手のひらで、クワガタフェアリーは、さらに小さなお人形のよう。
ぺこりとした。
この宝飾店に入ってきた時に、店主がそうするのを見たところから、学習をしたらしい。
(整った環境にさえおいてあげたら、この子はぐんぐん成長していきそうだなあ。ここなら常識的な宝飾職人さんや宝飾事務が整っているし、クワガタフェアリーちゃんとの相性がよさそうだ。うん、よかった)
「プリンセス・リリー。あたちに名前をくれまちぇんか」
「私が、名付けを?」
リリーはキラを探すように視線を彷徨わせた。
「クワガタフェアリーって長いでち。効率が悪いでち」
<いいですよ。これほど自己主張する知能があるなら、嫌なら嫌だと言いそうですもの>
「わかった」
リリーはニコリとした。
「ゴルゴ」
「それにしまちゅ」
<しまったー! リリーさんに某漫画を貸したら気に入っていたのを忘れてしました。そして、ゴールデンクワガタさんが気に入ったならそれに決まってしまうという法則を、失念していました! まさかこうなるとは思わなくて>
「イレギュラーを自ら持ってくる……。うちの子らしくていいかもしれない」
「女王。誰と話しているのでち?」
「キラっていうサポート係の従魔がいるんだよ。あなたの世界情報を整えるために頑張ってくれているから、私と周りだけに聞こえる音で話しているの。自分のことを長々と語られるなんて好きじゃない子もいるし、あなたがそうかもしれないので念の為、気を使っているんだと思う」
「女王、長話が好きでちよね。でもあたちはそうではありまちぇん」
「あらら」
「虫は脳みそが小さいので記憶力が悪いでち!!!」
「そっち!?」
「あたちはギフト[図書空間]があるので聞いたことを頭の中に片付けておけるでち。けれど、周りの虫ってばそうではなかったので、森や林での意思疎通に苦労しまちた。そのころの名残でちね」
「自分を客観的に見る能力も高いんだ」
「あたちは身長=ペン長」ゴルゴはペンを持つ。
「あたちの体重=花びら一枚」ゴルゴはリリーの頭の花飾りを指した。
「あたちの装甲=10キロ。一度だけ捕まりかけて測られたことがありまちた。その時と変わっていまちぇん」ゴルゴは青くなって震える。
「そしてこれがあたちの防御姿勢。クワガタフェアリーは体色にあたる部分でぐるりとボディを包み、大きな弾丸のようになって、そして己の身を守るのみならず、いざとなればこのまま爆進して攻撃することもっできるのでちゅ!」
(鉄砲玉スタイルだーーーー!)
<ゴルゴさん。ベストオブベストでしたね。リリーさんは運がいい方ですし>
「わあ、頼もしい。私の幻覚魔法と合わせて、いろんな作戦ができそうっ」
「それもいいでちけど、ここに呼ばれたのは、姫様の書類整理とやらのためなんでちよね?」
「え、えへっ」
「間違いではないでちね」
「う、うん。私がここで働いている間、書類とか、して欲しいの」
「わかりまちた。ではあたちに造形水晶ゴルゴをいただけまちゅか?」
リリーはゴルゴに本人そっくりの造形水晶を渡してやる。
「これにて、姫様のご依頼を承りまちた」
「あっ。お給料ってこと?」
「そして、こちらの店主様。あたちのことをここで雇ってくだちゃい。この造形水晶が雇用支度金でちゅ」
「ええ〜?」
リリーは頭上にハテナを飛ばしている。
ちょうど戻ってきたばかりの店主は、リリーとゴルゴのやり取りを興味深く眺めていて、まさか自分が話しかけられるとは思ってもおらず、青ざめていた顔から、商売人らしい営業用の顔つきに変わった。
頬に興奮の赤みがさす。
「よろしいの? いただいちゃっても」
ゴルゴの真意を探るような声音だ。
「かまいまちぇん。プリンセスリリーはすでに技術をお持ちの妖精で、有用としてここで働き始めたのかなって思うんでちけど、あたちは、まだ何もわからずこれから学んでゆく未熟者でちゅ。
宝飾店の事務について教えて欲しいと乞うのでちから、手土産は必要でち。どうか受け取ってくだちゃい。ゴルゴが今持つ唯一の財産でちゅ。そしてこれからのゴルゴの働きに期待してくだちゃい。雇って欲しいでち!」
「合格です〜」
店主は涙をにじませるほどの感動を見せた。
「えらいわ〜!こんなにしっかりした見習い志願者、久しぶりに現れたわ。きっと一角の妖精になられるわよ。これからどうぞよろしくね」
「こちらこそでち」
「本当にもらっちゃうわよ」
「かまいまちぇん。姫様が望んでいるのはゴルゴが立派にお役に立つことでち。あたちはその造形水晶を気に入っているけれど、気に入ったものすべてを持ちたいとは思っていまちぇん。気に入った姿に進化ができた。そのことでじゅうぶん満足でち」
「野生産の子って感じがするわ。ミニマリストなのよね。リリー様も作って壊してを繰り返して、一つのものに執着はなさらないし…………」
「えへっ」
リリーが人型になる。
そして小さなゴルゴを作業服の胸のポケットに入れた。
ゴルゴは持っていたペンを、リリーに返した。
「あなたが成長するなら、私も、主人として、立派にならないとね。一緒にいこうかな。あのね……ゴルちゃんはこれから、私が教えてもらっていた事務学習を受けることになるんだよね。でも、密室で数人だけで過ごすなんて、知り合いがいないところにやってきたあなたは、まだ不安だよね……。
私が使う時間は、無駄じゃないよ。
ゴルちゃんと仲良くなるための、大事な時間にするからねっ」
「姫様!」
「造形水晶、使ってくれて……ありがとう!」
「もちろんでち。でもあたち、言ったあと、もし姫様が売らないで欲しかったらどうしようかなって、遅れて不安になりまちた。姫様のためにも前進しまちょうって気持ちでちたけど、伝わるかしらって……。虫たちには、お前は訳のわからないやつだって、いじめられまちたもん……。
姫様は真意をわかってくださった。
あたちたち、きっと相性がいいでちゅ」
「そりゃあ、ご主人さまが、繋いでくれた縁だもの♡」
リリーとゴルゴが同時に振り返ったら、レナはへにゃりとする。
それはそれは可愛いのだ。
「ところでいじめていた虫ってどんな感じか教えてくれないかな?」
『レーナ。従魔になる前のことは、自然な環境であるならばノーカウントするんだよ。揉めるからね。君なら一致する虫くらい探せるだろうけど。
愛情深さを闇堕ちさせてしまってはいけない。これはマジでやめて』
「は、はい。すみませんでした。ガチトーン勘弁してください」
『いいでしょう』
ゴルゴは不思議そうにするかと思いきや、フッ、とニヒルな笑みを浮かべた。
「そういう関係性もあるでち」
「なんか不本意なんですが!」
『虫の世界は業が深そうだからなあ』
▽リリーと ゴルゴは 事務室に向かった。
▽妖精族の先輩が 書類仕事を教えてくれるそうだ。
▽店長は名残惜しそうに 扉を見ている。
▽レナに 向き直った。
「さっき、訪問者がありまして。ゴールデンクワガタを追うハンターだったようなんです」
「そうなんですか!?」
「今のゴルゴを、失礼、従業員になりましたから身内のように呼ばせてもらっております。あのクワガタフェアリーの姿であればハンターが手を出してくることもないでしょう。
けれど共有をと思いまして」
「対応させてしまってすみませんでした」
「とんでもない。それに、オズワルドさんとレグルスさんが対処してくださいました。
捕まえて、シヴァガン城に連れて行ってくれたんです」
「うちの子たちがお手伝いできたならよかったです。それにしても、街の警備隊に渡すのではなく、シヴァガン城と言ったんですか?」
「おそらく教育するつもりなのでしょう。ゴールデンクワガタを追ってくるだなんて嗅覚や隠密能力、情報収集力や機動力が高いはずです。シヴァガン政府は優秀な人を集めたがっているんですよ、最近世界は不安定ですもの。そこで、オズワルドさんはそのように判断したんでしょう」
「オズくんがそうしたんだ」
「レグルスさんは気乗りしないようでした。しかし権限としてオズワルドさんが決めたので、彼女もつきそいに。うちでの作業は終わっておりましたからね。行ってしまうのは寂しかったですが……。
ハンターは礼儀知らずでしたが、礼儀を『まだ知らない』ということでもあります。教え込んでみれば、すっかりできるようにもなるかもしれない」
「たしかに」
「うちの職人は凄腕ばかり、それは原石のうちに目をつけて、磨いてきたからなんですよ。そうなるといいですね──あの人も」
店主は息を吐き、肩の力を抜いた。
疲れたようでもあり、安心したようでもあった。
レナは彼女を気遣う。
「本日はお店のスペースを貸してくださりありがとうございました。もしよろしければ、昼下がりの軽食にしませんか。おいしい惣菜パンセットをマジックバッグに入れてあるんです。私たち、とっても疲れちゃって、でもリリーちゃんたちの近くにもうちょっといてあげたくて」
「うふふ。お上手ですこと。それでは、お言葉に甘えて」
「紅茶のボトルもありますよ」
「まあ。では、さっそく席についちゃおうかしら。こんな時間からティーブレイクだなんて贅沢だわ」
▽レナたちは 一息ついた。
▽従魔[クワガタフェアリー]ゴルゴが 仲間になった!
▽昆虫ハンターが シヴァガン城に 放り込まれた!
▽シヴァガン王国の会議室を覗いてみよう!
読んでくれてありがとうございました!
リリーちゃんの経理とお守り、ゴルちゃんが進化しました。
おしゃべりたくさんしてくれるので、活躍を楽しみにしてください♫
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




