リリーにクワガタを預けよう
ルーカはひげも動かさないほど集中して話をまとめた。
『ゴールデンクワガタは珍しい種類だ。隠しておいて。
シヴァガン王国は魔物たちによる国だけど、だからこそというべきか、自分たちよりも生命力が弱い動物・植物・モムに対して容赦がないところが多いし、まだ魔人族になれないものに一線を引いているところがある。
というわけで、ゴールデンクワガタが見つかったら闇取引を持ちかけられるかもね。
見つからないこと!』
ルーカは、より女性らしいキサに抱えられることで、女性恐怖症と対人恐怖症を治そうともしている。
背中の毛を逆立ててはいるけれど。
レナの行動は早かった。
みんな二度見した。
『……と、さっき、言ったのは僕ですが〜。だからって、まだ噛み付くクワガタをハマルの金毛の中に入れて持ち運ぼうなんてさすがです。ハマルは噛み付いてもらえて一石二鳥?というわけか……』
『ちょっとぉー。ボクがレナ様に抱えられているのはご褒美ですけど〜、痛くされるのは誰相手でもいいわけじゃないですー。クワガタに構われたって、せいぜい背中がかゆいのがきもちよくなるなー、くらいー』
「ハーくん背中がかゆかったの?」
『拾うべきところはそこじゃないんだよレナ』
「妾はまだ知らなかったが、ルーカはこんなによく話す猫だったのじゃな」
『恐怖症を克服しようとしてるんだよキサ……』
▽前方からオズワルドがやってきた!
▽シヴァガン王国の街中だからまあいることもあるよね。
▽レナは 逃げ出した!
▽称号[逃亡者]セット!
▽駆け足で 【宝飾店メディチ】 に行こう!
「キラ、オズくんに『ごめん!諸事情あるからついてきて。追いかけるつもりでよろしく』って伝えてくれる?」
<伝えましたが『主さんが俺を避けるってなにわかんない!』と混乱状態におちいって聞き届けてもらえておりません>
「そうなの!?」
▽街中で オズワルドが本気を出さないように……。
「しょうがない。スキル[伝令]オズくんは白炎禁止」
<ばっちり効きましたよ。なぜなら、魔物使いの世界情報はもともと少なかったうえ、シンプルに再構成されましたから、よぶんな制約がなくなり、伝令はもはや[指令]並みの役割を果たしていますからね>
「強い言葉をあの子に押し付けちゃうことになるのは、いやだなー」
<マスター。ぐんぐん距離を詰められております>
「オズくんの身体能力高すぎ! 制限したのに!?」
『レナ、このままではオズワルドに追いつかれて泣きつかれてしまうよ。そうしたら、せっかく早く宝飾店に行こうとしていたのにだいなしだ。
少しの間だけ[異世界人]の称号をつけるといいよ、ほんの少しだけね。解除するのを絶対に忘れないで!
それならば、オズワルドとの追いかけっこに加えて、クワガタの便乗経験値とクワガタハンターをふりきることができるから申し分ない効果だ』
「キラっ」
<称号[異世界人]セット。こちらで調整をすれば、外し忘れも、情報の乱れもないですが、効果がすこし薄くなってしまいます。マスターの声の魔力で繋ぐのではなく、まるで昔からその称号を持っていたかのように情報に一時追加されるだけですから。
この場においてはいい塩梅といえるでしょう>
レナは加速を感じながら、キサの腰に手を伸ばす。
小柄な三つ編み少女は、背の高い美人と小さな金猫ともふもふの金羊、そして埋もれた金クワガタを抱いて、駆けぬけた。
金色の軌跡が後ろに引いてゆくほどの、華やかな集団であった──。
▽宝飾店に到着。
「まあまあ……どうなさったのですか。息を乱して駆け込んでいらして。リリー様は中にいらっしゃいますよ。今、扉を開けますね」
▽オズワルドも到着。
「「「また炎系獣人がきたーーー!?」」」
▽オズワルドが金の瞳で睨んだ。
「主さんが俺を避けるなんて納得できないんだけど!?」
▽レナは ゴールデンスマイルを浮かべた。
「避けてないよ」
「よかった!!」
▽めでたし めでたし……。
クエストをこなしていこう。
レナはリリーを誘い、キラウィンドウに現れたものを共有した。
「ふむ、ふむぅ……?
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタに 名前をつけよう。
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタに 初めての命令をしよう。
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタの レベルを一つ上げよう。
▽クエスト:従魔ゴールデンクワガタの 進化先を予想しよう。
これを、私が、やるんだねっ?」
小さな応接スペースがある。
リリーはお茶を運んできてくれて、それぞれにカップを届けた。
スペースにはリリーの肖像画がかけられて専用のギャラリーのようになっているが、妖精が暴走したのではなく、駆け出しの職人が独り立ちするときには、得意先にアピールするためだ。
場所代もリリーは払っている。
金勘定がよくわからなかったので、財布ごと預けて「いるとき、持っていって」と店主に任せきっているが……。
教育の限界であった。
向き不向きというものはあるのだ。
▽どうしてもできないなら 外部委託※身内 すればいいじゃない。
主目的である。
「ゴールデンクワガタちゃんは、リリーちゃんの部下として、経理の仕事をまかせていってほしいんだ。リリーちゃんの妹分みたいに可愛がってあげて。どうかな……会ってみてくれる?」
ハマルの金毛の中に手をつっこむ。
『ふみゃー』とハマルは心地よさげにとろけた。
「レ、レナ様、噛まれたらどうするのじゃ。野性種のクワガタだから、けっこう暴れそうなのに」
「主従として魔力のつながりがあるから、今、この子がどんな状況かわかるんだ。今は大丈夫だよ。なぜなら、酔っててヘロヘロだからです」
「人ごみをすり抜けるためにジグザグに走っておったから、か……」
「クスクスクスッ。ご主人さま、回復……してあげないんだあ……?」
「それはリリーちゃんの方がいいでしょ?」
「優しいのに、たまにひどくて。可愛いのに、大胆で。泣いちゃいそうなのに、泣かないの。今のご主人さまも、深い魅力があって、好きだよっ♡♡♡」
▽リリーの怪しい雰囲気は もたなかった。
▽主人に好きっていう時は デレちゃうよね。
「ねえ、ねえ。聞いても、いいかなっ? 今日は、どこまで、クエストクリアすれば……良さそーでしょうか? ルカニャン先生」
『すごく適当に話を振ったね? 丸投げというか。
まず回復。リリーが回復をしてあげることで、レナ以上に魔力が注がれて君が直属の上司になれる。それは魔物使いのステータス整理の助けにもなるよ。
次、レベルを一つ上げる。少々の戦闘がいい。
命名は、思いつくならばやっていい。野性産で同種の魔物であるリリーはちょうどいい名付について勘が働くだろうからね。
クエストクリアは二つまでだ。
ここまでにしておくといい』
「はーいっ」
リリーが回復を試みる。
クワガタを抱えた。
砂糖水に浸けてみる。呼吸ができなくなったのでNG。
"モスラは耐えられたのに"じゃないんだよ。
ハニーポットを差し出してみる。好物のはずだが、今これを食べる気力はないらしい。
同じ野性種同士だからこそ、容赦がないのだろうか。
リリーが手荒なので、レナが協力を申し出た。
リリーが作ったアクセサリーにレナの血を垂らし[従魔回復]をリリーが付与するという荒技に挑戦することとなった。
魔物使いと従魔という特殊な関係だからこそできるのではないか、と。やってみれば可能性が広がるし、宝石もアクセサリも素材数があるのだからと、パリンパリンと壊してはまた作る。
職人部屋の扉から顔をのぞかせた宝飾職人たちは、おののいた目で注目していた。
野生種育ちはトライアンドエラー。
挑戦の先に、ラッキーを掴む蝶々なのである。
──さて、この作業中は炎系獣人は距離をとったほうがいいそうだ。
とくに、精神がカッカしているならば。
毛並みが熱を持ち、空気の温度に影響を与えてしまう。
ぶすくれたオズワルドは窓向こうの外側のテラスでがじがじとビスケットを齧り、つきあっているレグルスは苦笑していた。
「ふん。レグルスが余裕あるのは、主さんと仕事した後だからなんだからな」
「分かるさ。今オズワルドが自分を鍛えていることは、自分のためという部分はあるが、報酬としてレナ様に微笑みかけてほしいからでもある。少し上達すれば、少し褒めてほしい。たまに会いたい。それは当然の要求ではないだろうか」
「余裕かましてる」
「それはそう」
「逃げられたら追いかけたくなるじゃん……」
「それもそう。相手にもよるが、今の俺たちにとってのレナ様は”そう”だよな。追いかけている間、狩猟する獣人としても夢中になったのではないか?」
「それはそうなんだけどさ。モヤっとする!」
「早く、自分の今の全力を見せたくなるよな。こんなに強くなったぞって」
「うん」
「オズワルドから素直な愚痴を聞く日が来るとは」
「レグルスは変にからかわないから言いやすかったりするんだよ」
「シヴァガン王城の事情も共有しているしな。オズワルド、よく頑張っていると思うよ。次期魔王様を目指してもいいくらい」
「そのつもり。でも、そんな気持ちが砕かれそうなくらい父様は凄まじくてさ」
「大変だな。俺の方は、炎獅子の家長がうんざりするほど頭が硬くてうんざりだ」
「うっわ」
ぺろりとビスケットの山を食べ尽くし、マジックバッグからローストビーフサンドと串焼き肉と串焼きイカの山盛り皿を出してきて、テーブルの上に並べたらオズワルドはまたたくまに食べていく。
レグルスも串焼き肉に手を伸ばした。
肉は、獣人にはちょうどいいおやつだ。
それに匹敵するイカの実力は、さすがであった。種族の嗜好すらもミディアム・レアのデリシャスボディは超えていく。
ときどき妖精好みなハニーティーを飲みながら、オズワルドを眺めるレグルスは(これは体格が大きくなるだろうな)と分析していた。
▽ゴールデンクワガタの 回復が 完了した!
▽クワガタに アクセサリーをつけることはできなかったので
▽クワガタに アクセサリーを貼り付けた。
▽宝飾用接着剤 を買いました。
「ウフフ。可愛く、なったねっ。それに、じわーっと、回復が続いてるでしょ?」
<湿布みたいなものですね>
「湿布」
まさか従魔回復が湿布になるとは、レナにもびっくりであった。
裂傷を治すような効果はないが、疲労や状態異常には強いらしい。
キラは(あとでリリーさんに発注しましょう……。いやー最近頭脳労働の疲労がなかなか後をひいてましてねー)とひとりで思考したつもりが、口から漏れ出ていたのでマシュマロに聞かれてしまい、なんだか落ち込んだ。
「じゃあ、一つぶんレベル上げをしようか」
「私が、この子を、支援して……あげるのね?」
「うん。それから私はルーカさんに指示をして戦ってもらうことにしよう」
『僕!?』
「だってハーくんは広域パワー型だし、キサの冷風状態異常はアクセサリーで無効化されてしまうから、器用裕福なルーカさんがもっとも適切ではないでしょうか」
『合理的です』
「ですよね」
『けれど、虫と猫かあ、ふつうなら、一方的な光景になりそうだから躊躇しそうなところだけど、レナはためらいなく決めたね』
「ルーカ先生とも長い付き合いですからね」
『まあ期待に応えましょう』
「ちなみにクワガタちゃんは女の子ですからね」
『ついでに女性恐怖症を治そうとするなんて、効率がいいってもんだ!』
レナたちは裏庭を借りることにした。
妖精たちが趣味で育てている家庭菜園の一角である。
新鮮なハーブティのためにここでハーブを育てたりなどしているのだ。
休憩用のワイドベンチの上で、小っちゃなバトルが繰り広げられた。
「いっけールカニャン! ニャーベルタイガー!」
▽牙でつつく こうげき!
「かわして、ゴルちゃんっ。二股尻尾の、先っぽをよくみて」
▽ハサミでつまむ こうげき!
ほのぼのとした戦いが続いている、午後の昼下がり──。
宝飾店メディチの扉を乱暴に開けるものがあった。
いつも優しい微笑みを浮かべている店主が、眉を顰めてしまうほどの迷惑客だ。
泥だらけの靴は足踏みのたびにぐちょぐちょと鳴り、不快なにおいがする。ぼろぼろの作業着はおしゃれなんて気にもとめていない。背中には得体の知れない何らかの道具、棒や網、曲がった金属、妙なものをたくさん背負っていた。
(あとで緑魔法が得意なクリーニング屋さんを呼びましょう!)
「どのようなご用でしょうか……? 魔法効果のあるアクセサリーをお求めですの?」
「ここにぃ! 珍しい虫っこぉ! いねえがぁ? いるだろぉ!?」
「きゃあ!」
店主が悲鳴を上げたのは、けして負けると思ったからではない。
警備員をおかずにいるのは、彼女自身が戦闘力を持っているからだ。
しかし、汚く汚れているその手で掴み掛かられかけたので、思わず声を上げたのだった。
視界が白く輝く。
”それ”は、汚い来客からは見ることもできなかった。
もっと秘められたもの、もっと高潔なもの、もっと清いもの、もっとも美しいものとして崇められた過去のある高貴な存在だったからだ。
しかし、来客は手を引いた。
来客とは呼べないかもしれないが。
昆虫のことしか頭にない昆虫狂いであっても、この白い空間には触ってはいけないと強く感じさせられたのだ。
『我が名はソレイユ。──これは必要なことだったのだろうか、オズワルド?』
「ああ、必要なことだった。この場所が汚されたらリリーが悲しむ。それに、ここで活躍しておいたらソレイユの姉上だってお喜びになるだろうさ」
『それは要る。とても重要だ』
やってきたオズワルドはその髪の毛先を白くしていた。ソレイユはオズワルドの頭の後ろに回り込むようにして隠れており、この将来有望な若い獣に力を貸してやったので、あとはまかせるつもりらしい。
ひとあし遅れて、店長の前に片腕を伸ばして守る体制をとったレグルスは(オズワルドのやつ、短期間にここまでソレイユと近づいて、白炎を制御するようになっていたのか! 宝飾品への影響もない。コツを掴んだらグンと成長するタイプだよな)と、仲間をうかがう。
オズワルドはブレスレットを光らせた。
パーティで着用するときのクラシックな正装となる。
「ドレスコードは必要だ。市民のための店であっても、敬意のある服装がいるんだよ」
▽キマった、と言えるだろう。
▽せっかくならレナたちに見てもらいたかったね。
▽動画に収めておきました。ヨッ! イケてるぅ!
▽Next! 昆虫騒ぎとゴールデンクワガタの成長
読んでくれてありがとうございました!
もうこんな時間だー汗
遅くなってしまった><
今週もお疲れ様でした₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
よい週末を!




