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設備を作るよ!

 

 ──スカーレットリゾート・遊園地エリア。


 いかめしい顔つきをさらにシワ深くさせ、ギョロリとした目で作業に没頭するドワーフ族。

 いつも振り下ろしている金槌は今回ばかりは持たず、しかし指の一本一本が作業道具であるように打ち付けられていく。


 オープン前の準備のため集められた従業員証を腕にまきつけた魔人族たちは、畏れを含めつつ、ドワーフ族を見上げる。


 はしごの高さをものともしていない。

 作業に没頭するドワーフ族はその体躯からは想像できないほどのバランス感覚さえ身につけている。


 しだいに立ち止まる人数が増えてきた。


 遠くの土産物店の前にも、立ち止まる者が増えてきた。

 中の二人は目を合わせる。


(こりゃ、仕事が止まってしまってイカンよな〜! まさか他の種族にこうも感化される事態になるとは思いもしなかった……。レナパーティが多様な魔物で構成されていることに慣れてきたからなんかね。

 自分らもずいぶんとドワーフ族が平気になったし)


 店内の土産物並べを終えたので、手持ち無沙汰になった。

 出てきたエルフ族の双子は、あんぐりと口を開けた。


 今朝までは木製のコースターだったのだ。

 それが……


 ▽キラキラ・ジュエリー・コースター!


「「そんなことあるーー!? イケてるーー!」」


 思わず声を合わせた。


 喧嘩中で今朝から声をかけ合っていなかったのだが。

 そんなことも忘れさせるくらいのインパクトであった。


 ▽キラキラコースターって眩しそう?

 ▽通行の支障にならないのかって?


 ▽大丈夫! 反射防止を施してあるよ!

 ▽キラキラしているのは リリージュエリーの真の美しさゆえだね☆


 ▽ここだけが浮かないくらい 他も飾りつければいいじゃない。


 トトトト……と近寄ってくる気配をエルフの長耳がとらえる。


「追加納品、でーすっ」


「あ、リリーさん」

「ちわっす。また綺麗になったねー」


「うふふふっ」


 リリーはにこやかに微笑む。


 持っているかごを見せた。


「これ……研磨の最中に、割れてしまった小さな石を、紐につけたアクセサリー。魔人族がつけるには、きっと強度が足りないね。けれど、おみやげの、ぬいぐるみになら……!

 部屋に置いてもらうのが、もっと楽しみになると思うの」


「「いいんすか?」」


 リリーが差し出したのを、二人は同時に籠をつかみ、気まずそうにお互いをチラ見したり顔を逸らしたり。


「喧嘩したの?」


「「してました。でも、お互いに声をかけ合ったら喧嘩終了の決まりっすからね」」


 リリーに言質をとられたこともあり、この愛らしい微笑みに癒されたついでに、しょうがないからなー!タイミングだからなー!と二人は仲直りをする。


 リリーはこの二人がスカーレットリゾートに働きにきた時から、たまに声をかける仲だ。客船でのことを懐かしく話したりなどもした。


「弓の修行は、今はいいの?」


「まあ……調子が良くない時なんで、今から10年くらいは休憩してもいいかなって。エルフって寿命長いですからねー」


「こいつカッコつけちゃってて、すんません。手を痛めちゃってしばらく弓の練習を控えてて、そしたらその間にシュシュお嬢ちゃんが俺たちよりも上手くなっちまったから、モチベが下がっちまったんです。かっこ悪いから、ここだけの話にしてほしいっすけど」


 エルフの二人は小突き合う。


「そーいうのあるよねー。大丈夫、またやりたくなるからっ。実力が近くなってきているから、そう思うんだって。いいライバルがいる証拠なの。けれど相手が楽しそうにしているから、自分たちの方が劣っているように見えてしまって、辛い時でもあるんだって……。

 けれど……シュシュがもっと素晴らしい弓の名手に、なったらね。

 負けていられねー! ってあなたたちは奮起する。

 そのバネになるくらいの、努力や研究、してきたでしょ?

 だったら、あとは輝くときを待つだけだよ。その時間もあるんだもん」


「「!! そっすね!」」


「うんっ。応援、してるっ。シュシュはこのリゾートに、よく遊びにくるから、毎度見ててあげて。お仕事、引き受けてくれてありがとう。頑張ってね!

 私も、頑張るよっ」


 少女のリリーは魔人族姿でもまるで翅が生えているかのごとくかろやかに走る。地面に足が触れる音もゆめのように小さい。


「リリーさんって感じだったな〜」

「思わずリリーさんって呼んじまうような成長ぶりだったなあ」

「シュシュお嬢ちゃんもそうなってんのかなあ」

「勤務時間合ったら挨拶しよう」

「打ちのめされたらどうしよう」

「うわ〜。でも、俺たちにはまだ長い時間があるから」


 二人はやれやれと大弓を背負う。


「落ち込んだらばかばかしいものでもみて笑おうぜ」

「そうだな。あのジュエリーコースターとかな」

「「完成した瞬間大笑いしてハシゴから落っこちそうなドワーフとかな! 助けに行こうぜ!」」


 大弓の端をドワーフのベルトにひっかけて落下を助けたので、ズボンが脱げてしまい、二人は叱られてしまった。なんともばかばかしい時間が二人の緊張をほぐしていった。





 ──スカーレットリゾートシステム制御室。兼、迷子センター。


 キラはマシュマロを連れて、数値の流れてゆく銀の部屋と、カラフルに彩られてモムにまみれた子供部屋を、扉一つで行き来した。

 そして、銀の部屋の方にこもり、うーん、とうなる。


「モムの帰巣本能をじゅうぶん育てるためには、情報の濃いところに置いておくことが必要です……。赤の聖地の制御室に近いところや、マスター・レナのお側。

 マスター・レナは移動なさいますから、こちらに慣らすのはよくない。となると、制御室の近くに迷子センターを置くわけですが、もうちょっと場所を考慮したいところですねー」


「マロもそう思う。制御室が近いとは、ダンジョンの核が見えているようなものだからなー」


「ですねー」


 キラはウィンドウにこれからスカーレットリゾート解放日までの予定を表し、にらめっこをする。


 ▽コンコン!

 ▽はーい!

 ▽この気配はマスター・レナ! 止める理由がないですね!


 ひょっこりとレナが顔を覗かせた。


「キラ。今いい?」


「なんの問題もございませんとも☆ 設備のしたくはすべてまったく順調ですよ〜」


 ▽キラママも 自分をよく見せたくて嘘をつくことがあるんだなあ。

 ▽情報的には嘘だけど これが心ある生き物のしぐさなのかなあ。

 ▽嘘を誠にしていくのも モチベーションの一つだとか言いそうだなあ。

 ▽と、マロは思うのであった。


 キラがマシュマロをウリウリとこねくりまわし、マシュマロはペシペシと反撃をしているので、レナは、仲が良いことは何より、と片付けた。


「あのね。ドワーフ族のみなさんが作業時間延長してくれてたでしょう。支払いをどうするのかなーって思って」


「これがレナパーティから払う金額明細なのですが」


「うっ」


 キラがウィンドウに出したのは書類のコピーのようなもの。

 シヴァガン王国のマモンが作り出したものを基礎として資金の分類をしているのだが、その仕分けはすでに目がすべるほど細かく、難しく、一見しただけではとても理解できそうにないと、レナが途方に暮れるような代物だった。


 魔物は細かい作業が苦手だからと侮るなかれ。


 だからこそ、魔物の種族ごとの傾向・嗜好・歴史・それすべてを拾いあげたとてもややこしい文書が作られているのだ。


 魔物がそれぞれもつ鋭い感性を、ラナシュ公用語にていねいにていねいに当てはめていけば、これほどまでの長さになるのである。


「これをみんな理解しているのかー……! うう〜……」


「どうなさいました?」


「私も勉強しておかなきゃなあって、思ったからきたんだけども」


 ははあん、とキラは声を和らげる。


「これを記憶するのは面倒ですよ。私のようにボディにデータベースを持っていたり、計算ごとのスキルを持っている個体ならようやくできることです。生まれつきか、進化するときにことわりとして習得するかんじですね」


「ふーん。計算速度や、記憶容量が上がるとか、みたいな?」


「ええ。欲しいですか? スキルとして? あなたが他の可能性を取得する時間を潰してでも」


「うーん。いらないとは言い難いけど、要るとも言いづらくなったなあ……」


 レナにしては珍しく、弱気をあらわにしている。


「マスター・レナはこれまでにないほど、広く、大きな影響を手にしようとしているのです。スカーレットリゾートが開放されたら責任が大きくなるとあなたは思っている……しかも毎日、何年も、継続的に発生する責任です。学校のように守られながら3年ごとに異動があるわけでもなく。

 焦りが生まれたのではないでしょうか」


 穏やかに語りかけるキラは神秘を掘った彫刻のように神々しい。

 レナがすこし縋りたくなるほどに。


「キラ。ちょっと手を握ってもらってもいい?」


「もちろん。いつでもお貸しいたしますとも」


 キラははしゃぐことなく、そっと応じた。


 珍しい様子なので、マシュマロは考えを巡らせた。


 ▽そうして欲しいのはなぜなのだ?


 ▽マスター・レナは お寂しいとき お兄様と手を握って乗り越えられたのです。


 ▽キラママは お兄様ではないけど?


 ▽似た経験が 人の心を慰めることがあるのですよ。


 ▽あっ パブロフの犬。


 ▽安っぽくなるからやめなさい。あとココを内緒話に使わない!


 ▽キラと マシュマロの 内緒話 終了!


 つい会話のように漏れ出してしまいました。


「ありがとう。私、不安に思っていたみたい。そんなのかなり乗り越えてきたと思うんだけどなあ!? もしかして何か忘れている、不安になるようなことがあったりするのかな? ってこれもまた、不安を引き起こしてくるよー!」


「マロたちのことを信用してないのか?」


「信用してる! それでもー!」


 レナのこれは、愚痴だ。

 答えを求める相談ではなく、漠然と投げてしまうもの。

 キラにはそれが分かったし、マシュマロは首を傾げてひっくり返った。


「ではなぜなのだ〜」


「こーら。マシュマロ、ステイ。いずれ分かるようになりますから。

 私も最初は分からなかったのですよ。その心がまるで生きた魂のように温かさを知ったときに、ゆらゆらとする理屈のない気持ちを知ることができるでしょう」


「むう」


「理解したという体感がないものは怖いですね。理屈にできたら楽なのに、目に見えない気持ちの違和感なんて、どう理解したらいいんでしょう。そういうものに耐えて生きていくヒトたちって、とてもとても強くて綺麗なんですよ」


「私、綺麗?」


「マスター。それは怪異・口裂け女がやるやつです」


「スカーレットリゾートでお化け屋敷をやる案が出てるからさ。乗ってみた」


「また! もう! いったんこれで決定にしましょうって念を押したのに、みんながどんどんアイデアを出してくる! アイデアの枯渇よりはいいですけどね……。マスター、そういうところで、プレッシャーを溜めていたのではないですか?」


「そうかも?」


「そういうことにしておきましょう。それならば、私たちが解決することで、あなたの助けになれますもの!」


 ▽ここで ギュッと!


「なんですかその煽りは。マシュマロ、おやめなさい」


 レナは笑った。

 ほんとうにこの二人は仲が良くなった。

 安心してみていられるし、笑えば、肩の力が抜けてなんとかなるような気がしてくる。


「あっ、そうだ。リリーちゃんもね、書類が難しいって言ってたんだよね。でもキラたちに相談するつもりはないみたいで、なんとか一人でやろうとしているみたいなの……。

 それで、私が理解できたなら、リリーちゃんに助言とかしてあげられるかなって、それも理由の一つだったんだ」


「おや。最初にそれは聞けませんでしたのに」


「いきなりスゴイムズカシイ書類見たら頭が真っ白になっちゃってねえ……」


「ありますよね、そういうこと」


「ねー」


「マロはない」


「これからありますよ。あなたもきっと心の温かい存在になってゆける」


 マシュマロは二人からうりうりと指でつつかれた。


 そして、キラはレナの腰につけられた鞭に触れた。


 この世界にやってきたときには真新しい鞭をろくに扱うこともできなかった泣き虫の少女が、ずいぶんと使い慣れて馴染みの良さそうな鞭を携帯するようになった。

 その鞭がただ魔物を殴打するためのものでなく、いつも思いやりをもって振るわれていることがキラには嬉しい。


「マスター・レナ。テイムをするつもりはありますか?」


「リリーちゃんの問題を解決するために、新しい魔物をテイムしてあげようって、そういうこと?」


「さすがお話が早い!」


「長い付き合いだからね」


 レナは考えを巡らせる。


「私、テイムを制限していたんだよね。強い従魔が増えすぎてしまうと、私のレベルが足りなくなってしまって、もしかしたらキラたちが私の制御下から外れてしまうかもしれないから。

 そうするとあなたたちは、私が眠っていたときみたいに、とまどって生活すらしづらくなってしまう。それを防ぐためにもそれぞれが自立しようとしてくれているよね。

 でも、私がテイムをする、提案をしてくれた理由があるんだね?」


「はい。今なら」


 キラは不思議な微笑みを見せた。


「ラナシュ世界の情報がさらに曖昧になっている昨今だからこそ、試せることがございます。

 マスター・レナがテイムした魔物を、リリーさんの配下として、渡すことができそうなのですよね。

 その場合はリリーさんの能力の一つとみなされますから、マスターの魔物使いレベルへの影響がないはずです」


「すり抜けの作戦ってかんじだ」


「そしてこれはいざという時の、マスター・レナの保険にもなる。以前のギルドカードに表示されていたのは、チョココさんのお名前はあれど、その配下のスウィーツモムのことは表れていなかったでしょう。

 それでもモムはいざとなればマスター・レナを守ったはずです。

 おそらくジュエルモムもそのような動きをするでしょう。

 マスターの緊張の一つは、自分も狙われるのではないか、という部分」


「う。ないとは言い切れないかも……」


 ダナツェラでの誘拐未遂は乱れた世界が抱えるリスクとして、レナを恐れさせ続けている。


 実害がないのだから、ついでに警戒心を保てるならばいいことだ、とキラは見据える。


「より貴重な御身となったマスター・レナをお守りしたい。リリーさんに喜んでもらえるのも嬉しいですし。やりましょう、テイム」


「そうだね。準備のほとんどをみんなが進めてくれているから、私だってもっとやりたい!」


「よっしゃ。ゴールデンクワガタ探しの始まりですよ!」


「ゴールデンクワガタ!?!?」



 ▽経理向き・昆虫種族・目撃情報を組み合わせたベストなクエストです。


 ▽ゴールデンクワガタをテイムしよう!





読んでくれてありがとうございました!


最近レナさんたちがよく喋ってくれて、しばらくカチカチのキャラクターのようだったのが、彼女らの気持ちがいきいきとわかります。

ヒアリングしながら続きを書きますね!


今週もお疲れ様でした。

よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……そういえば学生でしたっけ……。
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