駆け出しジュエリーデザイナー
「注文書、確かに、受け取って……おりますっ」
リリーはレディのように綺麗に指先を揃えて、注文書を掲げる。
白銀の鱗粉が端につけられた立派な紙。
そこには、スカーレットリゾートという施設名称、赤の聖地という土地の名称、レナパーティという冒険者ギルド登録名称に、代表者のレナの名前。
保証者としてシヴァガン王国法務部・経済部の名称が書かれている。
▽【納品:空調のアクセサリー 魔道具 ×1000】
「もうすぐ出来上がるよっ」
▽すごーい!
「早いねえ」
「そうなの。とっても、頑張ったよ? いっぱい……私のこと、好きになって。頼りにしてね」
リリーは蠱惑的に微笑んだ。
「それでは、技術室に、案内……しまーすっ」
「お邪魔します。あっ、邪魔はしませんけど。入室させてもらいますね。私たちが入ってもいいですか?」
「もちろんです。レグルス様の炎で仕上げを手伝ってもらうことも聞いておりますから」
レグルスは少し緊張しているようで、こほんと咳をした。
マントの下の尻尾の先はほんの僅かに白くなっており、炎を使う心構えはできている。
(俺よりもオズワルドの方が白炎の威力は高いが、細かい火力調整ならば火炎獅子の方が得意らしいからな。あいつ、悔しそうにしていたが、だからって気を遣ってまかせて、この宝石店を丸ごと燃やしてしまってはいけないし)
「ひええ、赤毛の獣人……」
赤毛の獣人は赤い炎を扱うことが多い。
よく知るレグルスは職人たちに礼をした。
「心配をかけてすみません。みなさんの宝飾品に影響を与えないように、靴もマントも防火性、頭にはヴェールをつけて火の粉一つ散らせたりしませんとも。
防火手袋もしています。作業時のみこれを外すという予定です」
ほっとした気配があった。
「すみませんレグルスさん。店主としてお詫び申し上げますわ。そのような服装をお願いしてしまって……体調が悪くなったりはしていませんか。獣人の方は締め付けるような服装がお嫌いですから……」
レグルスはハマルのことを思い出した。獣人であるのに縛られるのが好きな曲者である。まあそれはさておき。
ロベルトに言われていた(獣人・妖精族は相性が悪くなかなか相互理解が進まない。これは長年の課題なんだ。もしレナパーティに妖精もいることを活用して認識を緩和できそうならば、対処してくれ)ということを思い出す。
「獣人で締め付けるようなものを嫌うのは野生寄りの者はそうですね。しかし最近では、ファッションとしていいものを身につけたくて窮屈な服を着るものもおりますし、血統種は魔王国の制服も身につけます。窮屈さが獣への拘束でも服従でもないことを理解しているからです。
ですので、こちらの宝飾店の商品も魅力的に見えますよ」
(まあ、まあ~……)
職人たちに頬を染めた。
レグルスの対応はモスラの指導のもと磨かれており、このシヴァガン周辺ではなかなか見られないくらいスマートであった。
面食いたちにエレガントは効く。
「ねえ、ご主人さま。私……レグルスに新しい可能性、見えてきたかも?」
「私もだよリリーちゃん。これは新しい広告塔になりそうというか……ちょっも考えてみよっか。
リリーちゃんとシュシュのペアは可愛さ無敵の女の子たちでしょ。リリーちゃんとクーイズのペアはキラキラでしょ。リリーちゃんとレグルスは宝飾界のクール&ビューティーなのでは?」
「クスクスクスッ。それ、いーね♡ たしかに……」
▽リリーの 選定!
▽宝飾品を眺めて磨かれたセンスが レグルスを測定する!
▽合格! 当然ですね。
「レグルス、とってもいいねっ。あっ……私の隣で……宝飾ブランドも背負って……立ってくれるような存在。妖精王にもそれくらい望まないとだなあ……」
▽リリーの要望が ワンランクアップ!
▽お隣の妖精王になりたくば レグルスを超える必要があるかもしれません。
▽二回目の入り口トラップ。和気藹々としていて先に進めない。
▽宝飾品作り 行ってみよー!
一枚板の大きな木のテーブルが、リリーの作業スペースだという。
テーブルの上は黒から白みの肌色のグラデーションになっていて、木にあえて後塗りした色だそうだ。
魔人族になった魔物たちは、ヒトのように肌色に近い素肌なので、その時につけるアクセサリーの色をチェックするためなのだとか。
他の職人たちもそれぞれ自分の机がある。
「私は……既製品を作って、欲しがった人に売るつもりだから、今は、この机は必要ないんだけどね。いずれ、誰かにオーダーメイドも……するかもしれないでしょ?
ご主人さまにも。他の誰かにも。商業をするんだもん。まだ、よくわからないけど」
リリーは舌を出して小首をかしげた。
レナは置かれていた大量のアクセサリーの一つを注視する。
丸い宝石の周りをぐるりと流線型の金属が囲んでおり、一つだけ見ても魅力的なアクセサリーなので、これにあわせて自分の方を磨こうかと思ってしまいたくなるほどだ。
だからこそ、レナは申し訳なさそうに言う。
「今回のこれ、ジェットコースターのレーンにつけちゃうの。誰か用じゃなくて、ごめんね?」
周りにいた妖精たちがいっせいに見てきたので、レナは「ひいい」と小さくなりながらも、その視線を受け止めるべきなのだろうと震える膝で立った。
「うん、聞いてるよー。私が、練習、したかっただけなの。ちょっとした事でも、誰かに届ける物に、手を抜いたり、しなかったでしょ……ご主人さまは。
続けられるように手間暇を分散させることは、あったけど、それもまた……いいものが完成するように! そういうとこ、私は、好きなの。
キラキラのアクセサリーだよ。
だから……キラキラにデコってね」
「デコレーション・コースター!?」
「いっぱいあるから、レーンにも、乗るところにも、つけられるよ! あっ。盗難防止は、これからね」
「レグルスの協力のしどころだね」
「承知しました」
レグルスが手袋を外す。
大きな手。けれど繊細さのある雌の指。
爪はあえて赤色に塗られていた。赤色である方が、レグルスの精神が落ち着いて、白炎のカルメンとソレイユの古代パワーを扱いやすくなるらしいのだ。
爪先は尖っている。
肉食獣の爪だ。
店主は目を細める。
(この宝飾店の技術室にまさか肉食獣が入ってくる日が来るなんてね。……。獣人の望むアクセサリーって大ぶりで野蛮なものが多いし、喧嘩をしてはすぐに壊してしまうのが嫌だったわ。そう、お金を積まれて売ることがあった、でも、嫌だと思ってしまっていたの。
……。でもレグルス様は綺麗。リリー様が彼女を信用していることがわかる。レナ様が彼女たちの手綱を握っていることがわかる。
だから、従業員が大切に作ったアクセサリーの仕上げをまかせてもいいかなって。そんな気持ちにさせてくれたわ。こんな日がわたくしたちにやってくるなんて)
レグルスの背にかけられる視線は、厳しくも包むようであった。
レグルスの爪のほんのひと突きで壊れてしまいそうなくらい、アクセサリーは繊細な作りだ。これがリリージュエリーの特徴である。
それを壊したくないという思いがあれば、隣にいるレナがきっと叶えてくれる。
「スキル[従魔回復]呼吸を整えて、落ち着いてね〜レグルス」
「そんな使い方聞いたこともありませんよ。でも、それ、いいですね」
レグルスは肩を動かさないスムーズな呼吸をして、宝石に爪先をソッと触れさせていった。
金属部分が白く染まり、それから煌々と輝いた。
「きれーい! そして、成功?」
「[フェアリー・アイ]におまかせっ。……成功だよ!」
「そ、そうか。自分ではわからないものだからな……。こんなに繊細なものを工作できたのは初めてだ」
「毎日魔道具アクセサリーに触れてたら、わかるようになるよ、ちゃんと、いいものにできてる。ウフフ。
えっとねー。まず丸い宝石に、付与魔法を、かける。
金属には、持ち主固定の魔法をかけるの。それが今。
えーと……磁石のはねっかえしみたいに……仲間じゃないものははじいちゃうようになるんだって。知らない悪意に盗まれたら、バチってするんだよ。"カルメンたちの威力で"。
レナパーティなら、触ったり取ったりできるけどね」
「白炎で、それが可能になる?」
「うんっ。もともとは、金属に名前を細く彫るんだけど……。キラ先輩がね、ラナシュの情報がぴったり一致すること、って言ってて。
レグルスたちの炎はとても強力な情報だから、触れただけで、できちゃうの」
(たしかに)
レナたちは、得意げなカルメンとあっかんべーをしてくるソレイユの二人の表情を思い浮かべた。この時代まで自我が残っていた古代聖霊だという自信に溢れていた。
「たくさんあるから、お願い、ねっ」
リリーが箱を持ってくる。
うんしょ、よいしょ、と運んでいる細腕には、わずかではあるが筋力がついていた。少女らしいしなやかな細さにレディの色香を纏い始めている。
「つついて。さっき成功したから、安心していいよー。レグルスの指先は、アクセサリーを壊さないよ。また私と、オーダーメイドアクセサリー、作ろうっ」
よしよし、とレグルスの喉を撫でるリリー。
こんなはずでは、と我慢しつつも、ゴロゴロとした喉の音が出てしまうレグルスなのであった。
▽撮影しておきますね。
▽尊いので。
レグルスが作業に集中をしているので、リリーはある程度箱を運び終わると、レナの手を引いて後ろに誘った。
(ご褒美の血が必要かな? でもここでやることではないのかも。ダークフェアリーのリリーちゃんだから血を欲しがるけど、通常の妖精族の方々はそうでもないって聞いたし、むしろ血や炎を怖がるところがありそうで……。
でもロベルトさんはそういう隔絶を緩和してほしいんだっけ。
あえてやるのもアリか?)
<ゴーゴー! あっ>
(みーてーたーなー? もう〜)
▽レナは 首筋にリリーを誘った。
▽おやつタイムです。
▽上手にこっそり吸えました!
▽妖精族たちが 新たな扉を開きました。
リリーは上機嫌にうっとりとして、工房内の近頃の仕事についてレナに紹介していく。
ふわふわ、飛び方がたゆたっているのでレナが手を貸して支える。リリーの翅は赤紫色にきらきらとした。
「見てみて。虫たちがね、丸い水晶玉を、さらに磨いてくれてるんだよっ。蝿の近種は……手をこすり合わせるのが上手、だから、繊維の細いワタを渡して磨いてもらうの」
「ちょ、あれ、ハーくんの金毛」
「ウフフフ〜。もらったから、消耗品として、活用中。キラッと磨けるんだよ♡ スライムジュエルは使っていないの。盗まれやすくなるから。安価なミニ水晶玉に、こっそりと高級感、なの」
リリーは虫の一つに指示をして、自分の周りを一周くるりとさせてから、元の磨きの作業に戻した。
レナは気づいた。
「鱗粉をつけた虫たちが、リリーちゃんの部下のように働いてくれているんだね」
「ピンポーン。そーいうこと。私も、血をもらって、ご主人さまのために働く、でしょ? そういう喜びの形があるもん」
生涯ただ一匹で生きて死ぬ虫もいる。
それよりも群れになり女王に傅く虫のほうが、満足度が高いそうだ。
虫たちの感情を聞かされたレナは、へーえ、と頷いた。
種族によって様々な幸せの形があるが、それぞれにとっての豊かな一生になるのがいいだろう、とレナは思う。
「あとね、みなさんも、協力して……くれてるよっ」
「こちらの作業にかかりきりになってくれているそうで。どうもありがとうございます。協力企業として店名を紹介していきますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします」
▽ぺこり!
▽ガタッ!
▽この時を待っていた。というように 職人たちが立った。
「えっ、ちょ、圧が、すごい圧がっ」
ベテランの職人が代表して口を開いた。
「リリー様ってばすごいんです! すごすぎて、気前が良すぎて心配だったのに、もっとすごいんです! すごい!」
目の下にはくまがある。
睡眠時間を削って作業をしているのだろう。語彙力が溶けてしまっている。
レナは「この作業量であればこなせる」と言われたので、宝飾店メディチにまとめて納品依頼をかけたのだが(まさか、ブラック労働をさせていませんよね!?)おそるおそる店主を見た。
「みんな、ハイになっていて。楽しいんです」と苦笑している。
「手伝いは技術者にとって技の習得の助けになりますわ。
通常ならば本当に肝心なところは秘匿されているものなんです……だからこそブランドデザインが存在している。
けれど、リリー様はお隠しになりません! 個性的なやり方を直に教えて、やらせてくださる。末端の虫を使い捨てになさいません。
おかげでジュエリーデザイナーみなのセンスが底上げされているのです!!」
(まさしく、みんなハイテンション)
レナはマジックバッグを漁り、エナジードリンクの詰め合わせを渡しておいた。
レナパーティが飲むためにストックされていたモスラブレンドの高品質高級品だが、リリーの協力者へのお礼にするならば、許してもらえるだろう。
リリーは眩しく翅を輝かせる。
「だって、私は、私の気持ちを……形にしているんだもの。ずっと同じではなくて、変わりゆくものを。みんなだって、形にしたい気持ちがあって……それを形にできた方がいいよねっ? 形にしたいものは、同じではないんだから、やり方がわかったほうが、いいじゃない!」
▽慈愛!
「おかげで風通しが良くなり、リリー様を頂点に、それぞれの職人が自らの技を教えあうというどの工房にもない良い環境が整いました。ぐんと成長速度が上がっています」
「よかった。これからも駆け出しジュエリーデザイナーのリリーちゃんをよろしくお願いします」
レナは頭を下げた。
祈りを込めて。
「これがリリーちゃんの育んだ居場所なんだね」
「うんっ。どう、かな?」
「また来たいなあって思う気持ちのいいところだね」
「また、ぜひ、来て!」
抱きつきながら、レナの首筋をくんくん。
吸い付いたので、赤い跡がつきました。
読んでくれてありがとうございました!
納品は頭数でなんとかしているようです!
今日は満月ですね。
グッドスリープデーにしましょう。
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




