経済回復
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【赤の聖地:スカーレットリゾート】解放確定!
・癒しのゾーン 温泉とお宿ホテル
・遊びのゾーン 遊園地
・空腹のゾーン レストラン
・装いのゾーン コスプレブティック
・披露のゾーン 野外ステージ
遊んで食べて楽しもう!
ラナシュ初のここだけのアドベンチャー。
やってみたかった、あこがれだった、なつかしい、あたらしい、あなたのお楽しみがいっぱい!
サポートセンターと館内放送完備で不安もありません。
入園料は半日100リル。換金所に物を持ち込んでの交渉もできます。
とっておきの時間を過ごしましょう!
※スカーレットリゾートはダンジョンですが、建物についてはドワーフ族の監修をもらっております。安心してお立ち寄りください。
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▽チラシが 正式完成!
▽宰相の試作よりも 盛りだくさんになっております。
▽アンが 「冗談だろ」と呟きました。
▽デッドが 「新しい」と呟きました。
▽アラタが(懐かしい)と思いました。
▽シヴァガン王国へ ヒトの国からの問い合わせが 殺到しています。
▽責任を持って 影蜘蛛たちが 説明に追われているようです。
▽シヴァガン王国 経済部署室。
ぎらぎらとした調度品に囲まれて窓際にたち、背中を丸めて両手に持った紙に目を落とし、肩を振るわせている一人の男がいた。
マモンである。
ふつふつと震えていた背中からニョッキリと悪魔の翼が生えてゆき、ばさりと広がれば部屋いっぱいに影を作ったほどだった。
「ハハハハハハハハ!」
「ご乱心でしょうか」
入室した秘書の影蜘蛛女史が、両目と額の目も丸くして尋ねた。
悪魔一族とは、数多の欲望と無念の亡骸がどれだけでもあった戦場跡に生まれた魔物であると語られている。そのため、翼がイキイキとしているならば対応に気をつけよとサディスから言われていた。
「おっと」マモンは翼をしまい、
(まだ理性は手放しておられないようで)女史はホッとした。
血とザクロを混ぜたジュースをワイングラスに入れたものを差し出せば、盆ごと受けとってからマモンはそれをちびちびと飲んだ。品を保つくらいの余裕はあるようだ。
ふっくらした頬にツヤツヤと血色が増し、いかにも健康そうな優男に見える。
丸メガネがきらりと光る。
「いけない、いけない。つい、興奮のあまり書類を握りしめてしまいましたよ」
「ああ、朝一の国内経済指標ですね」
「この上がりよう!!」
ぐーーーん、と経済が上向きになっていた。
このグラフは経済部署の肝入りで、さまざまな魔人族の能力と現場との縁をたぐりようやく編み出した、魔王国内経済の成長がかなり正確にわかるもの。
(マモン様はこの部屋でだけは一喜一憂をお出しになる。最近は落ち込んでばかりでしたから、もしかしてキレてしまわれたかと心配しましたが、経済がV字回復、それはようございました)
ふふ、うふふ、とマモンはまだ口の端で小刻みに笑う。
「燃えますなあ」
「あら。そんな口調でしたっけ」
「ふふふふ。いにしえの悪魔の血がたぎるとき、我々の口調もその血の記憶を表すようなんですね。はあ、それにしても、内需の伸びるこの線の美しさよ。芸術品だ。現代アートとして枠に入れてこの部屋に飾っておこう。いずれは経済博物館でも作ってそこにもコピーを飾ろう」
「あら、あら」
女史はちらりと書類を覗き見た。
天井に張り巡らされた影蜘蛛の子飼いの蜘蛛から、視覚情報を得たのだ。
マモンの判断に狂いはなさそうであった。
それもこれも、この経済の落ち込み時期にわざわざ赤字覚悟で大きなプロジェクトをやってくれるレナパーティあってのものである。
純粋な商業家は、まちがってもこのような時期に事業などやりたがらなかった。
そして卸しの技術者は納品依頼が減って滞っているのをなんとかしてくれとせっつかれていたので、スカーレットリゾートが動きを再開するのは、棚からぼたもちならぬ湧いて出た甘露の泉ほどもありがたい。
しかも、後援にシヴァガン王国がつくかわりに、スカーレットリゾートは納税もしてくれる。
影蜘蛛たちもほくほくとしていた。
「ヒト嫌いなどと言っている場合ではありませぬな。久しぶりにやってきたこの大波に乗らずなにが金策のマモンでありましょう。ざっくざくと私腹を肥やす! おっと、本性が出過ぎました、これでは社会人でいられない。王国のためレナパーティのため、金を稼ぎましょう」
「よいのですよ。それぞれの部屋の中だけは、それぞれの魔物として本性を表しても。そうでもしないと存在が曖昧になって今のラナシュから消えてしまうかもしれませんしね。
我が国は、余剰に稼いだならばその数パーセントをボーナスにしてもよいしくみです。
金に執着する魔物が数少なく、おのおのが技量を磨いたり快適に生きようとするものばかりだから、ヒトの資本主義には馴染みませんでした。それでも国家を保つためにはマモン様はなくてはならないお人ですわ」
「そなたは仕切りたがり屋だしな」
「影蜘蛛血統ですもの。蜘蛛の巣をきっちり等分に作るが如く整えておかないと違和感がある、それだけですわ。私もまた心地よく生きようとしているにすぎません」
にっこり笑う女史、マモンは察する。
彼女が遠方の蜘蛛を通して知った情報に、またしても良いものがあったのだろう。
ほどなくして正式な書類が蜘蛛糸によって運ばれてきた。
大量のコスプレ衣装の注文が入り、糸紡ぎ・機織りの発注と、エルフィナリーメイドへのデザイン発注にヒト族製服業との提携相談がされている。
この間をうまく繋いでこそ、マモンの腕の見せ所というわけだ。
たかだか仲介業、されどもっとも結果に影響するのが仲介業。
断ることも仲介業の腕前。今回だってヒト族を拒否してより内需に回すこともできる。
しかし、
「ヒト族との提携を進めよう」
「その心は?」
「ヒト族を嫌う魔人族はけっこういるからです。この熱気にのりヒト族の作った物を手に取ることをさせられたら、抵抗感が減るでしょう。そんなわずかなところからでいい。断絶することは経済の流れを止めます。ただでさえ種族ごとに離れてしまいやすい我が国ですから、流れは縁、たくさん繋いでおいた方がいいのですよ」
「その心は?」
「あー、深入りするんですね。この大きなプロジェクトは絶対成功させたいのですが、魔物同士で揉めることも考えられます、それを避けるためにもっとも適切なのが、揉める対象というものをヒトに限定することです。ヒトと魔物はもっとも違う生き物ですからね」
「どこまで?」
「デッドラインは二つの店舗の悪評まで。それ以上に広がってしまえば悪口を言うバリエーションで燃えるようになってしまい、魔物の闘争本能が悪い働きをしてただただ喧嘩を勃発させるかもしれません。そこになったらいい噂を流します。少々このマモンが操作してでもね」
「セーフティとしては?」
「ヒトの貿易商人として紹介します。職人同士ではやり方の違いに揉めることがありますが、そもそもの業種がまったく違ってしまえば内側のしくみがわからず怒るに怒りにくいです。怒るとしても、あいつは性格が悪い、などくらいですね。
そしてここが先に燃えることで、ヒトのレナ藤堂様にまで目が行きにくくなるでしょう。こちらを怒らせるのはあまりにも損です。負けです」
「この心は?」
「絶対知られたくありません。でも」
「はい」
「知られる可能性だってありますから、このマモンが、嫌らしい悪魔であることを先に認めてもらいましょう。職人からの悪口はヒトへ、ヒトからの悪口はマモンへ、マモンの悪口は金に換えます」
また、マモンは含み笑いをした。
(この悪魔らしさが保たれている間は、唯一無二にして誰もが彼を注目せざるを得ず、彼が消えてしまうことはないだろう。消えるとしたら私たち影蜘蛛が危機だ。それを防ぐためにはたくさん書類を作成して、これまではしていなかったが、影蜘蛛ごとの名前を記載しておくことだ。
ノア様の発案らしいがよくできている)
女史はにこにこと書類を増やした。
そしてぶあついファイルをひとつ増やす。
背表紙には【赤の聖地:スカーレットリゾートー計画の推移13ー】とある。
マモンが指を鳴らした。
まったくのっぺりした板のような壁が、ぐるりと反転し、ぎっしりと詰め込まれた本棚が現れた。
文字の洪水のようにみっちりと背表紙に事情がメモされている。
そのどれもを、金に目を輝かせるマモンと、整理に余念がない女史・ヘラが一瞬で把握する。
「顧客重要度を上げる。レナパーティの資料をさらにこれらの棚に増やしたまえ。場所を空けよう。すでに取引停止になって十数年が経った大口商店の記録、あそこを変えてしまおう」
マモンが指差せば灰になる。
ヘラは少しだけ沈黙した。
もしかしたらこれが、どこかで生きながらえているかもしれない魔物の存在を消してしまう最後のスイッチだったかもしれないからだ。しかしもともと棚に置けるものの数は決まっている。そこに在るうちに成果を出すこと、弱肉強食は自然の掟。
それなのに切なくなってしまったのは、彼女らのトップたる影蜘蛛女王のノアがとても優しく成長したことに触れたからだろうか。
席は限られている。
レナパーティがそこに座る。
スカーレットリゾートがどのような魔人族も受け入れてくれるのならば、そこに遊びに来てくれたらいいと星に願うようにささやかに祈った。
これでも、棚に隠されていたただの資料になっていた頃よりは、思い出されているはずである。
「よしやりましょう。この棚のどこまでがレナパーティの割合になるのか、見ものですね」
「生きた棚になることは私も嬉しいよ。四肢が腐っていないような気分になる」
マモンはそのように言った。
それからアゴを撫でる。
「しかし面白いですね。レナパーティ一色となっていないのがとても面白いんだ。
大分類としてはレナパーティとなるものの、あそこは内側で役割がかなり別れているし、それぞれに育っていて星の放つ光のように放射的に目立つんですよ」
「トップのレナ藤堂様が大きな影響力を持っていることは事実ですが、どちらかといえばその従魔一体一体が独自性のある生活圏を形成していますものね」
棚の分類は思いがけず難しいことになった。
なにせ、赤色のファイルが、服飾店のほうに行ったり、宝飾店の方に行ったり、はたまたドワーフ建材店のほうにも刺さるのだ。
あちこちに散らばる赤色をマモンが指差して、つなぐ。
「さながら、レナ藤堂様は、従魔間を行き来する旅人のようですね」
「ふしぎな例え。でも、わかるような気がします」
ヘラはこの城に来た頃のレナを思い出す。
あの少女は柔らかく弱く臆病そうで、しかしつねに従魔を背に守ろうと意識しているようなところがあり、だから従魔の近くにしかおれなくて、ヒト特有の生きる世界の狭さを持ち合わせている様がきゅうくつそうだった。
それを解き放ってやれたのが彼女の魔物だとすれば、ヘラは影蜘蛛としてすこし気分が良いところがあった。
マモンの指がひとつのファイルに留まる。
「本日はこちらにいらしているそうですよ。宝飾店卒業予定リリー・ジュエリー。オーダーメイドジュエリーを発注、一〇〇〇個だとか」
「ん? 聞き間違いでしょうか」
「言い間違いはしないですよ。一〇〇〇個だとオズワルドが言っていたんです」
ギュルギュルとヘラの頭の中で計算が行われたが、何度やっても、オーダーメイドジュエリーの納期とスカーレットリゾート解放までの期間がつり合わなかった。
「まだ駆け出しのルーキージュエリーデザイナーながら、多くの協力者がいるようだ」
マモンには想像ができたらしい。
金のことになれば信じられない想像も可能にする。
この存在だからこそ経済部署に必要な人材であるのだな、とヘラは一歩下がってこの悪魔に頭を下げた。
「ご主人さまっ♡♡♡」
堂々とした立ち姿ながら、口から発されたその声は甘々であった。
ジュエリーデザイナーという称号を手に入れたリリーはポッと頬を赤くした。
レナと同じくらいになろうという身長の伸びに、整った顔立ちと宝石が似合うレディのキラースマイル。
自らが広告塔になるのも納得と思える姿を前に、すっかり緊張してしまったレナが、ぷはっ、と笑ってしまうのもしょうがなかった。
リリーはテヘヘと舌を出してみせる。
「焦った〜。リリーちゃんすごくレディに見えたから、知らない間にどこまで成長しちゃったの!?って身構えたけど、中身はまだまだ私の知ってるかわい子ちゃんのままだね〜」
「キャッ♡」
「レナ様。冷静なつもりなんでしょうけど、内心が全て言葉にされているうえに喉を鳴らしそうなほど甘々の声ですよ」
「私も同罪だった」
リリーがはしゃいで、レナがはしゃいで、レグルスはクールに振る舞おうとしつつも尻尾が暴れん坊になっている。
みんなはしゃぎながら[宝飾店メディチ]の店舗裏を賑わせた。
読んでくれてありがとうございました!
今回見直しする時間がありませんでしたので荒いかもしれません汗
明日、みなおしますね!(>人<;)
いつもお付き合いくださいまして感謝です₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




