モムとスカーレットリゾートの開催
▽レナは モムにまみれている。
▽しかし 話を進めるぞ!
「みーんーなー。事故がなかったのは良かったです。遊園地ゾーンの耐久試験もありがとうね。すごく忙しい中、データ取るのに協力してくれたってドワーフ族の方々からお礼が来ていめした。パチパチ! そして、今回の記録も反映させておくからね」
((わー。レナ、ご主人様のおまとめモードだー))
(よく冷静に話せるよな……口以外埋もれてるぞ……)
(うらやま、がまん、うらやま、がまん、あとでいっぱい、甘えることにするもん……押忍)
ぬいぐるみのようなモムたちは、中身の詰まっていないゼリーのように、あるいは生クリームしか詰まっていないように軽い。
レナはこれまでに従魔にもみくちゃにされることが多々あった。
スライムゼリーに覆われた一ヶ月を過ごしたことさえある。
受け入れ姿勢が1000パーセントを超えてきているレナにとって、この状況はご褒美のようなものである。
「えーと。ドワーフ族の方には紙の書類が好まれているらしいから、ルージュに手紙を作ってもらおうね。それをシュシュに届けてもらおう。天空便、お願いね。やってもらいたいのはジレが確認した床面の強化。
それから、何らかの魔道具を作ってジェットコースターに乗る際の風抵抗を減らすことを考えたい。こちらから魔人族の姿になるようお願いするんだから、そのケアをしないのは失礼だよね。
あとは魔王国武闘大会との兼ね合いか……。
たしか、まだ空の暗闇の件がおさまっていないから、先にスカーレットリゾートを開催して景気付けをしてもいいってことになっていたはず。
今もまだその認識でいいのか、尋ねたほうがいいね。もしも警戒レベルが上がっているなら大勢を集めるのを控えてほしがるのかもしれないし」
<オートに任せておくといつのまにか予定ルールを外れることもありますからね。自分で確認をする、トテモダイジ>
▽キラは マシュマロを ぐりぐりしている。
<やーめーるーのーだー>
<だーめーでーすー。一人のときでも自由にラビリンスをいじるのは許しましたが、生命をそこに入れるのは私がいるときにしましょうって言っておいたでしょ! 分かるでしょう、あなた賢いのですから>
<だってキラママはいなかったし、従魔は通りたがっていたし、褒めてもらいたかったからなのだ>
<……。あなたは持っている力が大きすぎる。さらにリカバリーがきかない。無理を申しますが、自覚なさいね。はあ、褒めてあげたいのはやまやまなんですよ>
▽みんなに キラたちのやりとりが 漏れていた。
「キーラ。館内放送的に漏れてるよ」
<イヤーーーッ!? すぱっとズバッとコミカルで頼り甲斐のあるキラ先輩の印象がっ! ママにされてしまう! 忘れてくださいお願いします>
「恥ずかしがらせるのは私の趣味ではないので、忘れてあげることにしまーす。そして、思わぬ感じで漏れていたんだろうけど、音量や響きかたがちょうどよかったよ。これをそのまま場内放送のシステムにできたりする? 迷子のお知らせなんかにもいいかも」
<いいでしょう。設備をしておきますね>
<マロもカラオケやりたい>
<もー。システム名称は[カラオケ]にします。マシュマロ、私との共通情報を学ぶのはえらいですが、口にする単語には気をつけるのですよ>
<キラママもミスしてたばかりだもんな>
<ぐはっ……ブーメラン……>
──プツン。
──音声が途切れた。
「おお~。もしかして、さっそく放送風にしてみたのかな。プツン、の音があるとこれで連絡が一区切りなんだってわかりやすいね。
迷子は出るだろうし、そのときにまた合流できるようにしておかないとね」
「はいはい!」
クーイズが手を挙げる。
「モムたちが案内をするのってどーお? だってそこらじゅうにいるもん。帰省本能があるから寝床に帰るようしつけられるよ。ルールを教えたりとか難しい全般はできなさそうなんだけどね。例えば、迷子のお知らせがあったら、迷子センターに行くために、その辺にいるモムを抱っこしてもらうとか!」
「抱っこされたらモムが帰るようにしつけて、迷子センターをに辿り着けるようにするの?」
「そうそう。あとね……スカーレットリゾート外部にモムを連れ出されることもなくなると思うよ。見た目が可愛いしたくさんいるからって、こっそりと盗む奴もいるかもしれないでしょ。でも、抱え込んだその瞬間から迷子センターに連れていかれちゃうの! 防犯になるでしょっ」
「どちらにせよ範囲外に出ちゃえばモムは消滅するんですけどね……泡と消されてしまうのは気分がいいものではありませんから。賛成です。はぐれてしまい不安になっている心には、スライムのキラキラぷにぷにやスウィーツの甘いにおいが癒しにもなるでしょう」
チョココはぷるんと語尾を弾ませながら話した。
「二人とも、ありがとう」
クーイズが肩を組んでニコッと笑い掛けると、チョココは自信を取り戻したかのように頷いた。
<あっ。……ピンポンパンポーン──。
バニラビーンズプリン味・ミルクプリン味・チョコプリン味・抹茶プリン味という可能性が開かれました。いくつもモムを作ったりするなどして創造訓練をすることで、テイストのバリエーションが開かれるでしょう。──プツン>
「ピンポンをしてくれるようになったのね!? 仕事が早い。チョココ、おめでとう」
「おかげさまですよ」
「本当になー! レーナ。レナが褒めてくれるのってやっぱり一番嬉しくなるよ。もっとほめて。もっと頑張りたくなるから。もっとなんでもできるようになっちゃう。次は何をできるようになってほしい? だって進化したいところを選べるのはレナの従魔だからなの」
忍び寄る足音がある。
「ほほーう」
凍るような声である。
「……あ、ロベルトさん。お久しぶりです。ロベルトさんというか書類の山の化身ですか?」
声にも姿にも、ちらりともビビらないいつものレナ。
「それこそおかげさまでな。ノア様が持ち帰ってきた情報の裏付けをもらいにきたのだ。君が”心当たりがある”といえばいい、本能的に。クジラなるものがあったのか、それともまったくわずかも感じられない嘘なのか? ぜひ素直に聞かせてくれ。
そして、聞き捨てならない言葉が聞こえたが」
「気のせいでは」
「「ねー? 我ら進化したてだからぁ、こんなに可愛く分裂しちゃったりまた大人っぽくなっちゃったりするしぃ、ノリだけで今を生きているのよっ」」
「こらこら、ひっつくな」
ヒョイ、とロベルトは器用に前も見えないのに避ける。
書類はぐらりとしたがなんとも奇跡的なバランスで持ち直した。
クレハとイズミが転がってケラケラしており、少々緊張したのかロベルトの尻尾はネコ科がそうなるように膨らんでいた。
「すぐに尋ねたいことがあれば、ここで俺が答えよう。白炎対策本部としてそれなりのシヴァガン王国の情報開示を認められているからな。そしてカルメン様たちにも同行してもらった。古代炎による耐久試験の支度はいいか?」
「ファイアーショーへの予定はありませんので!? 怒ってます!? 怒ってますよねえ!?」
「大人の雪豹がそうカッカするはずがないだろう。まったくもって冷静だとも。このスカーレットリゾートに入るにも許可をもらった」
<マシュマローーーーーーー!>
<てへぺろ☆>
▽レナは 報告書に目を通した。
▽覚えてはいなかった。"クジラ"そのようなものを目にした記憶はない。
▽けれど、指先がふしぎと「同意」に丸をつける。
▽つるつるとした海獣の皮膚 ゴツゴツした機械の手触り まるで従魔の手触りを忘れられないかのような そのような勘ならあった。
▽「それでいい」とロベルトは言った。
▽忘却の事例は 大陸全土に現れているのだと。
「遊園地ゾーンを開放するぞーーーー!!!!」
「父様」
「スカーレットリゾートの開催決定だーー!!!!」
「父様。おいドグマ」
「なんだ!?」
オズワルドの手が伸びかけて、ドグマが見もせず避ける。
まだまだ実力差は大きいらしい。
ここはシヴァガン王城の魔王執務室だ。
「普通に返事をするな。今はあんたのことを父様と呼び、お行儀の良い魔人族としてふるまう練習期間のはずだ。叱れ。怒れ。それでないとあんたがいてくれる理由がないのに、俺にあんたが怒られていてどうするんだ」
「よいではないか」
「よくないから言ってるんだわ」
「まあ、まあ~」
ノアが止めに入る。
魔王と息子の間に入れるようになるだなんて、と宰相サディスはそっとハンカチで目尻を押さえたい気持ちになった。
ノアは最近とても成長目覚ましい。
心の成長はもちろん、縦にも横にも大きくなった。
彼女はまた、太っている。
ロベルトと共にスカーレットリゾートに忍んでいたので、スウィートミィの洗礼を受けたのだ。
そしてオズワルドと共に帰ってきた。
シュシュが手紙を運び、リリーが魔法アクセサリーを作るなら、オズワルドはレナパーティの意志を伝達するのである。
なにかが自分にも役割がほしい。
昔はただ無気力になってしまうばかりの空虚な願いであったが、一つこなせば一つレナが受け止めてくれるのだと思うと、なんでもやってみようと思うオズワルドであった。
魔王の顔を自分のほうに向けさせた。
「だからさ。レナパーティはスカーレットリゾートを開放しようとしてるんだ。テストもそろそろ終わりそう。で、もうちょっと詳細を詰めたいわけ。どんな順番にしようかって、シヴァガン王国の方針も聞いているんだよ。
スカーレットリゾートはとくに魔人族に配慮されたエリアだ。
それぞれの施設に魔人族の店員が雇われて、すべての魔人族の耳に届くであろう館内放送をしたくしているし、水辺魔物の体が渇いてきたら噴水エリアへ、獣人がどうしても走り回りたくなったらジェットコースターと並走できるランニングコースもある。歌う魔物には時間を決めて屋外コンサートホールの貸し出しもするらしい。
で、一番影響するのはこの国だからな」
「その通りでしょうね。宰相サディスがその見解を保証します。……ではこれをふまえて、魔王ドグマ様」
「うむ……」
さすがのドグマもこの返しには真面目に返さざるを得ないと顧みたらしい。
今やオズワルドのそのまっすぐな目に既視感を覚えて、それは亡き妻のツェルガガに似た是が非でも逃さないというまなざしのようだから、腰を据えさせられた。
(はたして、我とツェルガガの子であるから迫力は受け継ぐにしろ、このとっちらかった長話をまとめるのはどこから現れた力だろうか?)
▽教育ママがいますので⭐︎
魔物遺伝子引き継ぎ論に鼻が効きすぎるドグマには、後天的な学習がここまでの影響を与えることをまだ実感できていない。
「ごほん」
「そうです。重要な話を始める前には咳払いなどして空気を整えるとよい」
(サディス宰相も甲斐甲斐しいよなあ……)
(お父様ってば声のかけ方が優しくなったよね)
子供らの生温かい目は、どちらもの両親に注がれていた。
「現在、暗闇の勢力は広がっておる」
「うん」
「空を暗闇にする、地中に眠っていた朽ちた残骸や土着の魂などを呼び起こしてしまう、生きているものを昏睡状態にしてしまう。これはたいへんな脅威である。
我の鼻もそのように感じ取っている」
部屋の空気がひりひりと引き締まる。
ドグマの勘が脅威を認めたのだ。
このとき、シヴァガン王城に勤めるだれもがその空気を感じ取り、魔王の部屋の方角を寸分の狂いなく見上げていた。
「しかしながらこれを予想することは難しい。大陸のどの辺りに現れるのか非常にランダムであるからだ。我がまだ行ったことのない土地にも現れているため、この点、鼻が効く範囲外だ。
しかし今のところわかっている傾向がある。一度暗闇が表れたところには、再度現れていないということ。騒がせて、また別の土地に行くようだ。
我が国には一度現れている」
「つまり、そこまで深刻に心配しなくてもいいかもしれないんだ」
「本質だ。我が言いたいところはその通り。
しかしここからが難しいところでな……」
ドグマがうんざりしたようにため息をつく。
集中力が途切れたようだ。
それとともに、緊張していた従業員たちはほっと肩の力を抜いた。まるで臨戦体制のように本能を刺激されていた。こんな闘気がずっと続いていたらくたびれきってしまう。
「以後、野性の本能に頼らない外交の話ですので私が引き継ぎます」
「サディス宰相。頼むよ」
「ヒト族の国々より国書が届いております。そのほとんどは、”魔王武闘大会を楽しみにしております。しかしながら混迷の情勢を考えて、延期していただけると幸いです”……とのこと。
魔人族にもこの手の話が通じるだろうと考えられているのは、初手から考えると喜ばしい進歩ですね。
建国当初は”しょせん魔物”という侮りと恐れがあったそうですから。
そして我々が出した結論は、このラナシュが曖昧なときに魔王としてまさにふさわしくなられてきたドグマ様を解任しないでおきたい。ドグマ様もそれを了承してくださっていることです」
「うそ。まじ。父様、やるじゃん」
「なんなのだその感想は……」
「えらいなって。大人な対応だなって。社会の役に立ってるよ」
「えーいうるさいうるさい。背中が痒くなる。尻尾が暴れそうだ。黙っていろ」
「うん」
オズワルドはにやりとして、父いじりを止めてあげた。
その後オズワルドがノアと雑談をしている姿を、ドグマは逸らした顔のほんの視界の端からでも見ることができる。
自分と繋がった息子がおり、その息子はシヴァガン王国と赤の聖地で暮らし、ドグマの心は広がっていた。このざわざわとする胸中のざわめきと、我慢をできてしまうところが、まさしく変化である。
ドグマは父になり、信用ある魔王となり始めている。
ふと目元をこすると、わずかにシワがみられる。
(老いた獅子にはしてしまわないように気をつけないと)と、サディスもまた鋭く魔王を見ていた。
手元の資料に加えて、指をパチンと鳴らし、小さな影蜘蛛が蜘蛛糸を伝って新たにもってきた資料を読み上げる。
「魔王武闘大会はこのたびの暗闇騒動が収まってからとなります。そのようにミレージュエ大陸各国へと返信を出しました。
そしてそれとは別に、これです」
▽ジャーン!
▽赤いチラシ!
▽スカーレットリゾート・オープン記念来場券〜☆
「同封しておきました」
「ちょっと。こんなの見てない。てかデザインやたらいいな。レナパーティの了承得てんの?」
「事後承諾ですね」
「あんたらしくないような……」
「口を慎みなさい。次期魔王舞踏大会を目指しているものであり、魔王国上級血統としての礼節を身につけようとしているものオズワルドよ」
▽オズワルドは 口をへの字に曲げた。
▽まだまだだねっ。
「スカーレットリゾートが開かれた場合、そこにヒト族がやってきたとして、どこかの国の身分あるヒトであれば、そのことが問題になる国家がございます。自国内の争いの火種をよろこび、ともすればスカーレットリゾートにも因縁をつけてきそうなところが……。
しかし、レナ藤堂様は来場者をきびしく制限したりするつもりはないのでしょう?」
「……まあ、そう……。あんたはきていい、あんたはだめ、そうする施設ではなさそうだ。魔物の種類によって差別されるのではなくて、ルールを守ってくれるなら誰でもウェルカムにするつもりみたいだよ。大富豪だけが独占する高級施設にするのではなく、一般的な層も利用できるようにって……。
えーと、そもそも、さ。
俺たちがレア魔物だから、それよりももっとさまざまな魔物がいる場所を近くにつくって、従魔がいたずらに目立たないようにしてしまおうって作戦だったんだっけ」
「計画が進めば思わぬ方向に転がることはよくありますが、初心を忘れずにおることができている、レナパーティのぶれなさは助かりますね。世情が変わったとしても、彼女らはそうそう悪意の道にゆくことはないでしょう。そこがしっかりしているから、開催をまかせられるとみました」
「実力もあるしな」
「それは、オズワルドを見ていたらその通りかと。
スカーレットリゾート開催時期について、まとめます。
まずは手紙がミレージュエ・ヒト国家に届いてから。オープニングセレモニーを行なっていただき、スカーレットリゾート正式開放となります。
客が詰めかけてくる……という心配はありますが、なんとかするのでしょう?」
「うん。スライムモムとスウィーツモムが大急ぎで研修を受けてるぜ。ホテル担当の淫魔族や整備担当のドワーフ族とか、それぞれの下でちょっとした訓練をしたりしてる。
なんとかなるだろう」
「聞き捨てならないことを言いませんでしたか」
「ロベルトから本当に聞いてなかったんだ? 正直内緒で話してるもんだと思ってた」
「彼には本部職員としての裁量権を与えてあります。トップにいるとされているのに何もかも命じられる、ではやる気がなくなるでしょう。
レナパーティもそうなんじゃないですか。現在、主人を魔物使いレナ様として、その下には各グループができてリーダーもいるのだとか」
「そうだね」
オズワルドは椅子を降りた。
モスラに滞在中習ったお辞儀を披露した。
魔王国では見られたことがないくらい優雅なものだ。
こしゃくだ、とドグマがぼやくと、ウケたようにオズワルドは腹を抱えた。
「モムのことについて、もうちょい話していいか主さんに聞いてくる。あっ、レナさんに……聞いてくる。
通信を使えばいいやとか今はやめてよね。あの人急がしいからキツキツに予定入れてやりたくなくて、俺が走っている間、休んだりできるだろ。それくらいのスピード感でいいんだよ」
「わかりました。お待ちしております。あと、走っている間に主人のことを考えている自分の楽しみもあるんじゃないですか?」
「うるさい! もしかして宰相もそういう気持ちになったことあるからそう思うんじゃないの?」
非常〜〜〜に嫌そうな顔でドグマとサディスが顔を逸らすのを面白がってから、オズワルドは窓から飛び出した。
空中で宙返りをしながら見事に獣の姿になってみせる。
その毛先をほのかに白く染めるのは白炎の熱さ。
赤の聖地に向かってかけてゆく。
「スタートさせちゃおう!」
読んでくれてありがとうございました!
久しぶりに筆軽く書けました。
イキイキとみんなが生きてくれたと思います。
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




