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海洋プランクトン

 



 レナたちはクジラの背に乗り込んだ。


 意外にもでこぼことしていてアルマジロの背中のよう。

 甲羅というほど硬くはないが、けしてイカのように柔らかくもない。


 このクジラが現れたところをレナは思い出した。研究施設のようなところが関係していたではないか。

(機械的なものが内部にあったりするのかなあ。鎧みたいに……今、痛くないならそれでいいけど。よく頑張ったね)

 レナはクジラの背中の真上にいくと、そっと背中を撫でた。


 転んだりしない。先に乗り込んだクーイズが、しっかりと足を踏ん張ってレナの手を引っ張ってくれる。

 その後は赤と青の双子に分かれて、レナの両隣に座ると、髪の毛の一部をスライムロープにしてレナの腰に結んだ。その反対側にもスライムロープを生成し、キサとミディにそれぞれ結んだ。


 安全ベルトだ。キサは海上に流氷を出現させられるし、ミディは海に流されたりしない、万が一のことがあっても必ず助かるように。


 白竜シロノアールはどれくらい頼れるのかという点がまだ未知数。もし、海水は苦手で助けに来れないならばレナが溺れた時に困らせられてしまう。


 ノア達は自分達のことくらいはなんとかできるだろうが、はたしてヒトのレナをどれくらい守れるのかはやはり未知数だ。


 レナ自信が[異世界人]として猛烈に泳ぐ──という想定もできなくはない。しかしまあ、体力がある魔物の力を借りるのが、まずは、現実的である。


 クジラの体にはぐるりとロープが巻かれていて、それは馬を繋ぐときのように口にも引っ掛けられていた。

「海洋魚類の魔物で大型のものはこうして後悔することがありますから」とのことだ。準備がよろしいことで。


 しなやかな蜘蛛糸をふんわりと太めに編んだもので、窮屈でもなさそうである。


 クジラから伸びたロープは白竜が掴み、悠然と空を飛んでいった。


 方向を変えたら、そちらの方にクジラも泳ぐ。


 なかなか息があった動きだ。


 ノアが音楽を奏でる。


 しばらくは波も穏やかで、優雅な時間が流れていった。



 ▽ジャーーーン!!!!

 ▽海がうねり始めたよ!

 ▽クエスト 海洋プランクトンの増殖を止めよう!


「あれが海洋プランクトン……」


 レナは首を長くするようにして、前方を見た。


「まるでふっくらしたスライムみたいだ。そう思うと可愛いかも」


 従魔達が顔を見合わせる。

 そして、眉をハの字にした。


「えーっそうカナ……?」

『『レーナ。我らの方が可愛いよー?』』


 従魔の様子がおかしいのはレナも気づいた。

 ぱちくりとして、けれどその理由を尋ねるよりも前に、自分で気づいた。


 前方で、海洋プランクトンが跳ねたのだ。

 その動きを例えるなら「ブヨヨンブヨン」で……海に叩きつけられたらあっけなく割れてしまい、その一つ一つがまた体積を増した。山のようになっていく。一つ一つが蠢いている。


「おあああああ……!? 近くで見たらうぞうぞしてて結構その……鳥肌が立つ感じ! そういうことね……私の目視の解像度がおぼろげなうちはよかったけど、うう、正直、き、きも……言わないようにしよう……」


 レナの腕を、キサがそっとさする。

 間に挟まれたクレハが「いやーん♡」と言った。


「レナ様はお優しいことじゃ。魔物にも魂があることをよくわかってくれている。しかしあれはまだ至高まで到底至らぬ、モムのようではないか?」


 気にしすぎるなと言いたいようだ。

 レナが心を込めすぎたら、攻撃をしにくくなるという事情もある。


 ノアが鋭い音を鳴らした。


「気をつけて下さい。モムですと知能がほぼ無いですが、その代わり変質しやすいんです。今さらに膨らんでいるのはまさに、体積を際限なく増やすという『変質』の最中。単細胞分裂もしていますから、もし”これ”が増えて認知されてしまえばさらに知性も得るかも……。

 この場合においてはそれは望ましい変化ではありません。私たちだってラナシュで生き残っていくために。さあ、倒してしまうのがいいでしょう」


「”これ”ね……そういうことか。港で噂が有名になりすぎちゃう前に、倒してしまいましょう! 小さなうちに飲み込んでしまおう」


「ええ。モムについてはミレージュエ大陸にほとんどおらず、ヒト族の認知がありませんでしたね。これまではそれが幸いしてモムは弱くありましたが、ラナシュが乱れている今、ヒト族は知らぬ間にモムを増長させてしまうこともありえます。しかたありませんけどね」


 ノアは苦笑していた。

 クジラはぐんぐん進む。

 これくらいなんとかできるとシロノアールが張り切っているのだ。これくらいなんとかできるから!!と去勢を張っているとも言える。秘境育ちの彼にとってはキモチワルイ魔物未満だと逃げ去りたいが、それでも挑む根性があるのだとレナたちに示したい。


 海風を浴びながら、レナは鞭に手をやり、ノアを振り返った。


「それ、しかたないですませちゃってもいいもの?」


「レナ様はヒト族ですから気になさっているんですね。ええ、これまで幸いしていた部分もあるのですもの。今まずい事態だからといって、これまでの功績を軽視して責めきってしまってはなりません。互いに上手くやれる未来が欲しいのですから。ヒト族には、これから気をつけていただけばいいのです」


「やり手だ。ノアちゃん、お父様に似てきたね」


「まあ! 光栄ですわ!」


 ノアは目を輝かせた。

 今回の航海で学んだことは多いようだ。


 レナは(私も成長できただろうか。そうしていかないとな)と思った。


 鞭をしならせる。新体操のリボンをそうするように空中に掲げるだけでも種族由来の魔法は発動できる。すなわち魔物をよくしつけること。レナの意を受けとって、従魔たちは瞳の瞳孔の細いのをさらに細くした。


 従魔達の成長は早い。

 それに追いつかれないように、魔物使いとして追い越されないようにしないと、レナはいつ従魔たちを暴走させてしまうのかわからないところに常にいる。

 意識と感覚を研ぎ澄ませることだ。

 精神を剛健にしていくことだ。

 包むような──オカンを加速させる!


 ▽はい、クレハとイズミ、ぷいっと横を向かないの。


「みんな、待機」


「「えーーーーっ」」


 どうどう、とレナは自分の腰を支えるスライムベルトを引っ張った。がっしりと首をホールドする。ろくろ首のようにクレハとイズミは首を伸ばして抗議した。ちょっとしたホラーである。


「やる気があるのは元気でよろしい。けれどあなた達はあれを捕食する魔物種族ではない以上、向いてはいないんだよ。見てたでしょう、波に当たっただけで分裂しているところ。切っても流してもいけないだろうし、凍らせたらクジラが進めなくなりそうだよね」


『『分解できちゃうもんー』』


 ぬるぬると逃げようとするスライムボディを、鞭でつんつん、静止させた。


「わかってるでしょ? それこそ胃袋での分解、消化をできるクジラが”最適”」


『『ブーーーー!』』


「赤ちゃん返りかな? これからよく揺れるだろうから、私たちの体を支えるのをお願いしたいなあ。ミディ、空気中の湿気を体にとりこんで[アクアボディ]。キサ、空気をひんやりと冷やして、音が通りやすくなるように」


 ▽レナパーティの 支援!


「まあ、ありがとうございます。まずは最善を模索してくださり、自分達が後方にいることも作戦のうちとするレナ様の方針、影に潜む影蜘蛛のひとりとして、ノアは美しく思いますわ」


 ノアは不思議なハープを取り出した。

 それは胴の部分が光を吸収してしまう漆黒の蜘蛛糸をからめて作られており、糸の部分にはノアの髪色のような朱色の糸が張られている。楽器に触れて魔力を流すと全体が生きているように鼓動した。

 ノアは自分の手足の延長かのように自在にそのハープを鳴らした。


 ▽ノアの 蜘蛛糸のハープ。


 ▽クジラの目の色が かわった。


 ノアが望んだ海洋プランクトンの個体を飲み込んでいく。


 それは海洋プランクトンの中でもとくに成長した個体ばかりで、よく膨らんでまさに分裂する寸前のものを優先していた。


 みるみる数を減らしていった。


 表面のものを食べる時には薄く口を開いて上澄みを流し込む。


 深度の深いところにいる海洋プランクトンを呑み込むなら、大口を開いた。


 クジラはけして暴走しなかった。


(やることがない……)とシロノアールは空中で静止していたくらいだ。


 おおよそ一箇所、海洋プランクトンは食べ尽くされた。


 ▽クエスト一箇所 クリア!


 レナ達が座っているところの少し後ろの辺りで「ウィーン」と機械音がしたと思ったら、大砲の口のようなものが現れて、海水を放出した。クジラの潮吐きだ。もうプランクトンを消化・分解してしまったようだ。ゲーミングライトのようにクジラの全体がチカチカとして、すぐに収まった。海の魔力の色だった。海洋プランクトンからは魔力を吸い取り、それが半生半機械のクジラを動かす原動力になっているらしい。


「いかがでしょうか。芸のように港で練習をしたんですよ」


 ノアの誇らしい笑顔。えへん。


「いい感じ。──あっ!」



 ▽レナのメモ帳は 海に沈んで行った……。


 海の上ではやめておいた方がよかったかな、と反省した。

 ルーティーンにしたかったのだが。


 ついてきていた影蜘蛛の一人が蜘蛛糸をターザンロープのように伸ばしながら海の中まで行こうとしたので、レナは慌てて「大丈夫なので!」と声を上げた。

 小柄で仮面をつけた蜘蛛部員はこくりと頷き、クジラの尾の付け根のあたりで気配を消した。


「騒がせちゃってごめんね。あのメモは港で買ったばかりのものだし、書いた内容も覚えてるからいいんだ。また新しいメモ帳に書くよ。だから悲しそうにしないで、クジラちゃん、揺れてもいいんだ。安全走行してくれてるのは伝わっているからね。大丈夫、やり直すことはできるんだから」


(レナさん、やっぱりすごい……どうしてこんなにも異種族の気持ちがわかるのかしら。私たちは、異種族といえば感覚が違うものとみて生態を理解することから始める。ヒト族は魔物相手ならば動物として見るし、魔人族ならばヒトのように見て失敗することも多い。レナさんは……メモしていたのはクジラの動きの特徴だったな。異種族だから以前に、その個体がどのように動いてどのように思っているのか、心がある一個体として見ることから始めている)


 ノアは肩をすくめた。

 もっとクジラを学ぶためにレナを参考にできるかと思ったが、そのやり方をするならばコストが大きすぎる。大勢を束ねてゆくポジションに就いたノアは、コストパフォーマンスの良い指導方法を取得していかなくてはならず、今回はその対象ではなかった。


 だが、レナの考え方は好きだ。自分もそれに救われた。

 いつかもっと立派になったそのときには、余裕のある影蜘蛛の女王になれたならば……レナのような生き方をしてみたいと……そんなことは無理かもしれないけど、と……ノアはしばらく思考で遊んで、すぐに現実を見据えた。


 同じように海洋プランクトンを駆除していく。


 ▽三地点、クエストクリア。



「この先、ミレージュエ大陸領域と、ジーニアレス大陸領域の境目を抜けます。船よりもはるかに揺れるでしょう。お気をつけを」



 ▽霧が濃くなってきた。

 ▽霧の境目を突破した。






読んでくださってありがとうございました!


ここまで書いてきて感慨深く思うのは、戦闘中に軽口とばすのもしっとりしているな〜ってことです。

序盤のキレバトルは弱者が立ち向かっていく姿だったからあのように現れたんでしょうね。

もし、強者が強いテンションでしていればただの蹂躙みたいだし、いくら見た目が可愛いとしても恐ろしい感じがしてしまいます。


地の文=未来のキラからの実況のつもりで書いておりますから(時々横槍もありますが)せっかくなら快活に語ってあげたいのではないでしょうか。あの子ならば。


<かんたんなところを茶化して騒がしく、混み合ったところは粛々とくぐり抜けて>

としていそうです。はい。



また来週も更新頑張りま…………すね!

お盆か!!んーーーーー出来たらやります!!出来るだけやりますね(`・ω・´)ゞ


今週もお疲れ様でした。

よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 クジラ、地球では最大級の大きさですが、 異世界(ラナシュ)では果たして……?
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