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港を再び発ってゆく

 


 ▽レナパーティは グレンツェ・ミレーで服を買った。

 ▽新作 マリンゴシックコスチューム!


 ▽レナ クーイズ キサ ミディ はおめかしした。


 ▽モスラはここまで。

 ▽ミレー大陸に待機となる。


 ゴシックカチューシャの耳元で通信の明かりがチカチカとしていた。


<ぜったい、ぜえーったいスチュアート商会への領収書にしてね! これくらいしか私は、レナお姉ちゃんたちにしてあげられないんだから>


<ありがとう。十分すぎるくらいだよ。貧しかった時からアリスちゃんにはずっと支えてもらってるんだから! アイテムをもらったり資金援助してくれたり、高級宝飾店でブレスレットを買うときの顔にもなってくれたでしょ。そんなにしょんぼりしないで>


<レナお姉ちゃんたちの功績が毎回大きすぎるからなんだけども?>


<それは……従魔たちが優秀なのでねえ〜>


<そのわりに表舞台に立ちたくないらしいので、私たちは火消しを頑張っているところだよ? マナリオ国王に代わろうか?>


<すみませんでした。リオ君にいつもお疲れ様って伝えて>


<気安いなあ。うん、約束するよ。きっとホッとしてくれると思う。権威が増えても、立ってる人は一日では変わらないものだからさ>


 ▽アリスとの通話を切った。


 モスラはしばらく棒立ちになり、レナの前にいた。

 公の場で可愛がられることを求めるのは気恥ずかしい年頃になったのかもしれないし、スチュアート商会の立場が上がったことで、甘えるのがむずかしく感じているのかもしれない。

 レナが馬鹿にされると瞬時に怒るという仕草は増えているので、モスラの愛情の方向性はゆるやかに変わっているのかもしれなかった。


 モスラの表情からは、申し訳なさやさみしさ、立派であろうと表情を保つ矜持をレナは読みとった。


「モスラ。このチケット渡しておくね。マリンシリーズの服をモスラの背丈に仕立て直してもらう注文をしておいた。アリスちゃんのぶんは既製品をもう少しフォーマルにするよう仕立て直しを頼んである。あとで受け取っておいて。いつかどこかで集まった時、一緒にマリンコスプレパーティをしようね。誘うから」


「はい」


 宝物を受けとるようにチケットをもらったモスラは、執事服のジャケットの内ポケットに仕舞い込んだ。

 これはそのまま愛情なのだ。

 その日まで、楽しみに生きられる。


 ▽モスラは 推しを 覚えた!

 ▽モスラは 敬愛を 増した!


「なんか聞こえた気がする!? ラナシュ世界の調子が戻ってきてたり? 進化する時に音が届いたりしていたもんね。ん? でも……やたら聞き覚えのある音だったような……」


<私で~す>


「キラかー」


 ▽マロも いるよ!


「マシュたんもいるんだね。あ、マシュマロも……」


<マロも可愛げをすくなくしたいお年頃なのだ。マシュマロでよきかな。えへん>


 逆に可愛い気がする、とほんわかするレナであった。



 ▽さて、港区冒険者ギルドへ。


「すみません。クエストの確認をしたいのですが」


「えーと……失礼ですが、商業ギルドとお間違えではないでしょうか。最近提携をしましてこっちにくる商人さんがたまにいるんですが、ああ看板は今改装中で外しているんでみなさんの落ち度ではないんですけど。

 もしよかったらこの卓上地図を見ていってください。商人さんなら地図を覚えるのは得意でしょう……販路の確認のために地図記憶のスキルを持っている人もいるそうですし……」


 レナの方をチラリと見ただけの目の下のクマが濃い受付員は、ざっくりと説明をした。レナは苦笑する。港区の建物の形はそれなりに元通りだが、だからこそ、書類仕事が山積みらしいのだ。


「おまっ、バカっ! もっと真摯にやらねえか。──すみません、こいつはまだ転属してきたばかりなんス。港区のあちこちが壊れたから応援頼んだ監査で、受付の手伝い中なので、みなさんの顔をまだ覚えていなかったんスよ。どうか穏便に」


「はあ? つまりあれか、この方々はちゃんと冒険者パーティでそれなりに知名度もある人たちだって暗に示しているのか」


「そこまで察する頭脳はあるんかい、しかしな、それをでけ~声で言うんじゃねえって学習しろや無神経監査」


 怒りにじむ笑顔。

 メガネをくいっと上げる受付員。


「はあ、こびへつらう努力はしているのだがね。ギルド現場職員は血の気が多くてそれを冒険者とのコミュニケーションにしている、合理的だが、そのせいで『冒険者らしすぎる』人を許容してしまい、商業ギルドとの連携がゆっくりとしか進まない。ここまでの連なりからくる将来の不利益まで考えて行動してもらいたいものだね。つまり、私の対応は正解だ」


「現場歴もない人がそこまででしゃばっていいもんなんですかねえ、ああん!?」


 ▽※ギリ小声。


 冒険者ギルドの受付手伝いたちをみはる、ベテランのトラブル対応ギルド員、という関係だろうか。

 小競り合いを始めてしまった。


 レナパーティがおめかししたばっかりに──。

 これくらいの私服度で訪れる冒険者はふつうにいるが、レナたちほど一見華奢で戦いなどできそうもない見た目のキャラがいるとなると、認識の錯覚くらいおこすのだろう。


 キラキラした従魔を眺めながらレナは納得した。


 さて、失敗があれば、フォローをすればいいだけなので。


「はい!! 冒険者パーティのリーダーのレナです」


 レナが名乗りをあげる。


「お二人ともそれぞれに案内してくださってありがとうございます。冒険者クエストで海に関するものがあれば教えてください。案内所に書いてある[1番:クエストを引き受けたい][4番:ランクに対して容易なクエストを望みたい][10番:結果報告は連携ギルドに行いたい]です」


「「あ、ああ」」


 要望を聞けば、トラブル対応ギルド員は奥に引っこみ、受付手伝い員はすぐさま仕事にとりかかった。

 目がふしぎな青色になる。

 スキルによりクエスト内容をその頭の中に全て記憶しているのだ。目の表面には暗号化された情報が高速で流れている。


 レナパーティ──の名前から一致する情報、過去の記録を確認。


 冷や汗をかきながらも、昂る感情は切り捨てて、ランクとそれに見合うクエストを引っ張ってくることに集中する受付員。

 立ち上がり、書類の中から的確にふさわしいものをえらんだ。


 レナたちに提示する。


「出航場所に海洋プランクトンが大量発生しています。頑丈で大きいうえ海中ですから退治が難しい、わずかに知能があるのか群れて港付近から離れず、船が出港できないタイミングがあります。クエスト依頼時刻は昨夜」


「緊急性が高そうですね」


「はい。これを除去できる冒険者の方を探しておりました。ところでレナパーティのみなさまといえば、クジラを宥めた実績があり、そのクジラが肥大プランクトンを食べたようなのですが……」


「あ、いいですね。私は魔物使いです。たとえテイムをしなくても魔物やそれに近いものを操ることが普通の人よりは上手ですし、協力者もいますから」


 やるべきことが分かれば受付手伝いの監査員はスムーズに対応をしてくれた。

 レナは後方をそっと見る。


 注意をしていたトラブル対応のベテランは、カッカと赤くしていた目を穏やかにしており、やれやれと、この監査員への溜飲を下げているようである。


<マスター。あのクジラはお腹を空かせているようですよ。依頼用紙すべての分、引き受けちゃってよいかと!>


(キラ? わかったよ)


 レナは、少しゆっくりめに会場にいる時間をとって、巨大化したプランクトンを退治していくと伝えた。


 地図がレナの前に広げられて、海洋の「ポイントごとに赤い印がしてあるでしょう。この箇所に漁に行くグループや、客船運航団体からそれぞれ依頼書が出されています。ポイントはばらけていますが、ほんとうに寄ってくださるので?」


「できると思います。クジラ以外にも、巨大なイカとか、クジラの行き先をサポートしてくれる魔王国側の白竜もいますから」


 それにキラがああ言うなら、無理ではないはずなのだ。


 キラはレナに信用されていることが当然嬉しく、しかし、申し訳ないと思うところもあった。


 はちゃめちゃな解決方法を提示されて、監査員はレナと冒険者ギルド登録書類を交互に何度も眺めた。そして「私には未知数ですが、そうおっしゃるならば。もし達成不可だった場合にギルドランクが下がってしまう可能性がありますから、リスクとしてお伝えはしておきますね」と言った。


 ランクダウン。それはレナにとってナイスなのだが。

 まあ、多くの親しい人たちを困らせるだろうし、クエストに手を抜いたりはしないタイプである。


 レナは椅子から立ち上がり、


「このようにシステムが整理されていると間違いがなさそうですよね。人が多いギルドほど助けになる方針だと思います。この港区ギルドでお世話になれてよかったです。またご縁がありましたらよろしくお願いします」


 にこりと言って、去った。




 道中歩いていると、駆け出し商人のミッツィが手を振ってくれていた。少し世間話をして、あのかっこいい人は今はいないのね、とぽつりとこぼしていた。どうやらモスラとも共にいる姿を見ていたらしい。モテル従魔に「このこの~」としたい衝動にかられたレナであった。

 つまり、近くにいてくれたら嬉しいのに、とはレナもいつでも感じている。

 あっけなく離れたようでいて、従魔が主人を慕うように、主人だっていつでも従魔を気にかけるものである。


「かっこいいとは!! 言われなくてもわかっている!!」


 ▽白竜が魔人族姿で 現れた!

 ▽ばさあ! と広げたドラゴンの翼!(ジャマ)

 ▽腰のスリットから伸びたドラゴンの尻尾!(ジャマ)

 ▽声量!!!!(※魔王のようにレナパーティと仲良くなるつもりのようだ)(ジャマ)


「呼ばれたのでな! ほほう、手一杯に花ではないか。は、ははははは」


 ▽白竜は キャラ作りを頑張っている!

 ▽しかし 魔王と かぶっている!


 可愛いマリンコスチュームガールのど真ん中に陣取ったので、翼と尻尾はジャマだしうるさいし、礼儀がなっていないとしてクーイズの飛び蹴りがとんだ。


 ▽スライムの膝だがダイヤモンドのように硬いぜ☆


 何事かとギルドから飛び出してきたアイマー・ミンミンとササンタ・ギフティに対して、レナは、


「そうだなあーーっ! この港町では魔人族の姿が多いほうだとはいえ、白竜のあの姿はヒトを怖がらせてしまうと思いますから、魔王国から派遣された新人のドラゴンということもありますし、私たちが面倒を見ておきますねーーっ!

 具体的にはスライム触手でぐるぐる縛って港の方につれていきます。ワイバーンが到着するところを借りますから、大丈夫です。それではみなさんお元気でーーっ!」


 ──逃げた。


 ▽レナの称号 [逃亡者]を 改めて取得できそうだ。



 *



「もがもが、もがもがもが」


 ▽白竜の口は スライム触手で塞がれている。


「手荒な真似をしてごめんなさいねー。でも港のマナーというものがありますから、ちょっと晒されてくださいね。えーと名前……名前なんだっけ」


 怖くない魔人族ですよー大丈夫ですよーとアピールするために、スライム触手で繋ぎながら、白竜には歩いてもらっている。


 口を大きく開いて何か言おうとしていたが、やがて諦めたのか、小さな口の開きになっていった。


 どちらかといえば、虚勢を張っていたのだ。魔王のように懲りないのではなく、レナパーティにおられた鼻っ柱を復活させている最中の「再登場時の調整ミスった黒歴史」である。


 レナはぶっちゃけ、この白竜のことを扱いかねている。


 ふとした勘違いのようなところからドラゴンの求婚事案(※事件というほどでもない)があったり、ギルド長が反省も兼ねてと言ったものではあるがレナパーティのアッシーくんとして使いすぎていると、負い目が生まれてきたのだ。


 それに、久しぶりに見たらなんだかまともになっているようでもある。


 登場当時アレをやらかした相手にすぐこう思うのだから、レナのまともセンサーは、もうほとんど機能していないといえよう。


(どーしよう。名前忘れたなんてすっごく気まずい……。……名前忘れるようなことってある? 私、けっこう覚えていられるほうだけど)


 レナはハッとした。


「すみません。ご自身でもう一度名乗ってもらっても? クーイズ、口のあたりの縛り解いてあげて」


「えーやだやだー。このドラゴンの鱗綺麗だから触れてるときもちいーんだもんー」


「セクハラになっちゃうよ。くすぐらないように気をつけてね。その辺りコンプライアンスが最近厳しいんだから。はい、口のあたりを離して」


「はーい」


 白竜は口を開き、そして閉じて、唖然としたように喉の辺りを触り、首をかしげて、きびしく眉根を寄せた。


「大体わかりました」


 レナはクーイズに指示をして、再び口を塞がせた。


「超特急でノアちゃんのところにゴーだ!」


「んぐぐぐぐぐーーー!」


 今回のはマリンパレードかあ、と道ゆく誰かがつぶやいた。

 赤の信者だったのかもしれない。



 *



「ノアちゃん!」


「おかえりなさいませ。どうなさったんですか。……まあ……楽しそうですね」


「そうかなあ!? サディスティックな感性が育ってきちゃってないかな、大丈夫? それよりもね。この竜の巣の白竜さんが、自分の名前を忘れちゃってるみたいなの。それって世界が曖昧なことと関係あると思う?」


「それを私に聞くということは、シヴァガン王国の調べている成果を提供しろと示すこと、わかっているのでしょうね」


「うん。ごめん。ノアちゃんに厳しいこと迫ってるかもしれない。でもこの白竜さんにも私たちは助けられているからさ」


「ええ……魔王国の利にもなってくれていますよ。竜の巣はシヴァガン王国の統治範囲外ですが、提携先として重要視されています。そちらのご子息のため、また、冒険者ギルドグループのギルド長にも恩をおけるためであれば、ノアが話しましょう」


 ノアは、背後にいるであろう影蜘蛛たちに「口出ししないように」と告げた。


 レナはそのような影に潜むものたちがまるで見えない。だから状況から推測してみると、ノアが罰を受けるかもしれないことを、影蜘蛛の配下が止めにくるかもしれない、という不安を防いでくれたのだろう。ありがたく、申し訳ない。


「そちらの白竜様はほとんど"交友"がないのではないでしょうか。誰かに認識されることが少なくて、じかに触れ合う握手のようなこともしない。会話少なく、一匹狼。強く想ってくれる親族がいたならば、亡くなってしまったとか……」


 レナは驚いて白竜を見た。

 顔を見られたくないのか、白竜は顔を逸らしていた。


「でしたら、"存在が曖昧になってしまっている"ことが考えられます。とくに希少種類の魔物ですとね。とりあえずニックネームをつけることがよいでしょう」


「ニックネーム?」


「冒険者ギルドカードがあるならそこに、ニックネームをつける欄が最近設けられました。ミレージュエ大陸ではどうかわかりませんが、ジーニアレス大陸だったら制度が広まっていますよ。

 そうしないといけない、という魔人族の野生の本能がきっかけですが……。ここにきて、なるほど、という気持ちです」


 ノアは言葉を慎重に選んでいた。


「聞きたいことは聞けたと思う。ありがとう。もしノアちゃんが責められてしまったら私たちの名前を出して。献金、説得、頑張るから」


「まあ! レナさんからそのような言葉を聞くことがあるなんて……」


「できるだけやらないでおこうと思って生きているけどね。でもやらなきゃいけない時はあったし、自分が潔癖になりすぎないようにはしてるんだ。

 というか、ラナシュの環境と従魔の自由さにそうさせてもらえるようになった。受け入れて、やることやって、やらないなら罰を受けるだろうけど、抗ったりもするだろうな。その時、納得できるように選んでいくしかないのかも」


「いい笑顔ですよ」


 レナは、ローズとマリンが離れて行ったときの爽やかさを思った。あの自由な生命を。

 そしてアンの持つ決意の強さも思い出す。


 ▽ニックネームを決めよう!


 ▽そしたら 出向だよ!クジラで!





おまちどうです!

読んでくれてありがとうございました!

ここからレナパサイドです〜!


今週も暑かったですね……熱中症に気をつけましょう。


よい週末になりますよう₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませていただきました。 ……レナさんは、目を離すと直ぐに変な(?)称号を……。 つ[称号コレクター(新称号)]
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